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第50話 もう1人の日本刀使い

 

 ◇SA【始まりの街:アルガン】


「はい、お待たせー」


 スミレは両手に豪華な料理を持ち、机に並べていく。コンペ全勝の祝勝会だ。


「他のギルドもコンペ終わったの?」


「いや、まだ1試合残ってるみたいだ。公式が配信してる」


 俺は店にあるスクリーンに公式チャンネルの配信を映す。


『コンペ夏の陣も残り1試合となったぁ!!!残るこの最終試合!!最も注目と言える試合だぁぁあ!!!』


 レイナの元気な実況がアリシアの店に響く。昨日と合わせてもそこそこ長い時間配信してるけどこの実況の人の体力凄いな。疲れないのか?プロ根性ってやつだな。


『暫定1位!!!ナイツ・オブ・ラウンドVS暫定3位!!!サイユウキ!!!トップ3に入る2つのギルド!!勝つのはどっちだぁぁぁあ!?』


「ハイセはどう思う?」


 配信を見ながらスミレの料理を頬張っているとアリシアが聞いてきた。


「どう思うも何も、サイユウキについては知らないことが多すぎる」


「まぁ、そうだね。じゃ、これ見て。今回の出場メンバーだよ」


 俺の目の前にウィンドウが表示される。


【ナイツ・オブ・ラウンド】出場者


 ・デイル【西洋剣】

 ・ギース【銃 (スナイパー)】

 ・マティ【西洋剣】

 ・ロイズ【銃 (アサルトライフル)】

 ・ゴロー【日本刀】


「あ?なんだこれ。レオルのやついねぇ……っ!?」


「そう。レオルが出て……どうしたの?」


 ちょっと待て。このゴローってやつは俺の知ってる吾郎なのか……?いや、でも……【日本刀】……?


「なんでもない……試合を見よう」


 俺はスクリーンに目を向ける。

 映されているのは準備中の円卓の様子。

 そして映し出されたのは、この世界に初めて来た時嫌という程見た懐かしい顔だった。


「吾郎!?」


 スミレは思わず声を上げた。


「あいつ、円卓に入ってたのか……」


「レオルは何も言ってなかったじゃない」


「俺達と吾郎の関係を知らないか、黙っていたのか」


 おそらく後者だろう。良い性格してやがる。思わず苦笑いが零れる。


「円卓のゴローと知り合いなの?」


 アリシアが首を傾げながら聞いてきた。


「まあな。吾郎のやつ有名なのか?」


「最近よく聞くよ。入団して数ヶ月で幹部まで登り詰めた実力者だって。あとは……」


「日本刀か」


「うん。巷ではハイセにも対抗できるんじゃないかって言われてるよ」


 吾郎が俺に対抗か。それなりに刀を扱えるってことだ。剣術を覚えたか。


 吾郎が本家に連れ戻された理由を俺は考えていた。鷲土のじいさんもなんで息子の勘当を解いてまで孫である吾郎を迎えたがったのか、大体予想はしていた。

 昔、護身のために俺が使っていた木刀を持たせて一般的な剣術を教えた事があった。吾郎は、恐るべき早さでその剣術を習得したのだ。"天才"正にそれだ。


「ハイセにも対抗できるだなんて。思い上がりすぎじゃない?」


「周りが勝手に言ってるだけだろ。あいつ自身はそんな事思ってねぇよ」


「そうね」


 さて、吾郎が使うのはなんの剣術だ?

 俺が教えた一般的な剣術か、俺も知らない剣術か。鷲土流剣術も一家相伝の秘剣術だ。鷲土流に関しては俺は何も知らない。


「始まるみたいね」


『コンペ夏の陣第二部最終試合!!!ギルドウォーズゥゥウウ!!!!』


『始め!!!!』


 レイナの掛け声と共に試合が始まった。

 吾郎は真顔のまま抜刀する。


「ほぇー。良い刀持ってんなぁ」


「綺麗な刀ですね!なんて刀なんですか?」


「あれは『三日月宗近』。数ある日本刀の中でも特に名刀と言われている"天下五剣"の中の1振りだ。名前の由来は刀身にいくつも浮かび上がる三日月形の打除け(刃の模様)だ。天下五剣の中でも最も美しいと言われている」


 そんな名刀どこで手に入れたんだ?ここ最近円卓はワコクの攻略に力を入れてたらしいからその過程で見つけたのだろう。羨ましい。


 そして、戦闘が始まる。

 吾郎を警戒してか、目の前には2人のプレイヤーが立ち塞がっている。


「へへっ!!ゴローだな?簡単には通さねぇぞ!」

「ゴクウからは油断するなって言われてる。加減はしないぞ」


「勝手に言ってろ」


 吾郎は刀を中段に構える。


「「うぉぉお!!!」」


 2人のプレイヤーが同時に吾郎に襲いかかった。


「チッ……耐久値が10も減った」


「「ぐあぁ……」」


 吾郎は一瞬で2人のプレイヤーを斬り伏せた。


「速いわね」


「そうだな」


 僅かな連携の乱れを突いたな。左の男が僅かに早く飛び出していた。吾郎はそいつの剣を先に受け流し、すかさず首に一太刀。僅かに遅れて飛び出してきた右の男の短剣を弾き、体に袈裟斬り。真っ二つだな。流石の斬れ味だ。


「ゴロー!!お前はそのまま突っ走れ!!」


 デイルは吾郎に向かって叫ぶ。


「デイル。司令塔は俺だ。言われなくてもわかってるよ」


「可愛くねぇルーキーだな!?」


 吾郎はそのまま敵陣に突っ走っていく。戦闘ボットの妨害に会いながらも敵拠点に潜入し、1分後蘇生してきたプレイヤーも再度斬り伏せ、敵陣を掻き乱す。


 そのまま、キングを討ち取り……と言いたい所だが、現実はそう甘くはなかった。

 問題はゴクウという棍棒使い。サイユウキのギルドマスターだ。


「くそっ……」


 吾郎はゴクウの怒涛の攻撃に晒され、HPは残りわずかとなってしまった。


「はっ!!面白ぇ剣術を使いやがる」


 ゴクウは豪快に笑いながらその場に座る。


「だが、まぁそうだなぁ。言うなれば……まだ浅い」


「浅い……?」


「そうだ。浅ぇ、何もかも。剣技も、体技も、駆け引きも。てめぇの剣術からは研鑽を感じねぇ」


 その言葉を聞き、吾郎はグッと唇を噛み締めた。


「同じ日本刀使いならぁ、あのハイセっつー男の剣術は惚れ惚れするぜ?棍棒使いだが、あの武の極地とも言える剣術には……素直に憧れるぜ」


「たぁぁぁあ!!!!!」


 吾郎は抜刀し、刀を振り上げゴクウに肉薄した。


「それが、浅ぇってんだよ」


 ゴクウは刃を寝転がって躱し、大きく振り回した棍棒は吾郎の脇腹に直撃した。


「座ってるからって隙があると思ったか?」


「がはっ……」


「まぁ、期待してるぜぇ」


 ゴクウは吾郎にトドメをさした。


「野郎共!!!!攻め時だぁぁぁあ!!!!」


「「「「うぉぉおおおおお!!!!」」」」


 ゴクウの号令と共にメンバーの雄叫びが上がる。

 そこからは怒涛の反撃だ。ゴクウを中心として戦場を暴れ回り、最終的に円卓のキングであるギースをゴクウが討ち取った。


 コンペ夏の陣第二部最終試合はサイユウキの勝利で幕を閉じた。


 ◇


「サイユウキ強いですねぇ」


 ハルがふむふむと配信を見返しながら呟く。


「そうだな。あのゴクウってやつはヤバい」


「師匠でも勝てませんか?」


「馬鹿言ってんじゃねぇよ。俺が負けると思うか?」


「思いません!!」


 ハルはそう言い机に並べられている料理を美味しそうにかき込む。


 ハルにはそう言ったが、実際どうだろうな。あの強さはレオルやアデルと同等だ。さすがはトップギルドのギルマスだ。だが、オリジンを持ってるレオルとアデルにはまだ敵わないだろうな。

 それは俺も同じか。


「吾郎の剣術はどうだった?」


 スミレがコソッと耳打ちしてきた。


「たぶん、鷲土流だろうな。俺が教えた剣術じゃなかった。俺が見てもわからないってことは、つまりそういう事だろう」


「なるほどね。じゃあ、吾郎が本家に帰ったのって……」


「それは向こうに戻ってから話そう。今は祝勝会を楽しもう」


「ええ、そうね」


「夏の陣の総合順位が出たよ!!」


 さて、俺達は……。


 ◆


 1位【ナイツ・オブ・ラウンド】

 2位【サイユウキ】

 3位【オーディン】

 4位【百花繚乱】

 5位【漆黒の翼】

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 ◆


「ん?サイユウキとオーディンが入れ替わっただけか」


「うん。でも、漆黒の翼との点差は大きく開いたよ。オーディンも射程圏内だね」


「次は秋か」


「1位も狙えるんじゃない?」


「かもな」


 しっかり強くならないとな。


 こうして俺達のコンペデビュー戦は暫定4位という好成績で幕を閉じた。


 ◇◇◇


「くぅー!!ちょっと情報の多いイベントだったなぁ……」


 WSOからログアウトすると時刻はもう夜中だった。だが、考えることが多い。


「そろそろスミレが来るか」


 いつも通り飯を作りに来るはずだ。


 〔ガチャ〕


 来たな。合鍵持ってるから入り放題だ。


「今日の飯はなんだーって。じじいも帰ってきたのか」


 玄関から入ってきたのはスミレとじじい。家前でバッタリ出くわしたのかな?


「おお、ハイセよ。ちと話がある」


「おう」


「あ、あの……じじ様、私は?」


「スミレもじゃ」


「はい」


 いつになく真剣な表情だ。確か、武術連に俺が参加しないように話をつけに行ったんだよな。

 俺達はリビングの食卓に座る。


「で?どうだったんだ?」


「うむ。強制参加は変えられなんだな。ハイセも参加じゃ」


「そうか。着物仕立てといてよかった。それは良いが、なんで俺を不参加にしようとしたんだ?」


「……」


 だんまりか。


「イェン・リャオ」


 俺がその名前を出すとじじいがピクリと反応した。


「なぁ、こいつがなんなんだ。なぜ俺やスミレは何も知らない」


「それは……」


「じじ様。お父さんもこの人の名前を顔を顰めていました。一体何者なんですか?」


「……」


 これもだんまりか。


「はぁ……なるほどな。どうしても喋りたくないってか」


「ぬぅ……。すまん……」


「いいよ別に。俺達の為なんだろ?」


「まぁ、そうじゃな……」


 釈然としねぇな。


「他になにかあるのか?」


「ハイセ、今回の集会絶対にイェン家の人間に近付くな」


「そこまでする必要があるのか?」


「ある」


 ハッキリ言ったな。余程のことがあるのか。気になるが、ここは我慢だな。必要となったら話してくれるはずだ。


「なぜ私にも話さないのですか?」


「スミレに話したらハイセにチクるじゃろ」


「うっ……」


 図星なのかよ。まぁ、俺が懇願したら喋っちゃうだろうな。


「話はそれだけか?腹減ったんだ」


「お、おう。終わりじゃが、今回の集会はいつもと違う気がする。2人共何かと用心するように」


「おう」

「はい」


 集会は夏休み最終日だったよな。じじいが言う通りなんとなくきな臭い気がするが、リオンやテルトに会えるのは楽しみだな。


「あ、そうだ。鷲土流って文化遺産再認定されるのか?」


「お?武術の文化遺産に再認定はないぞ。例外無くな」


「そうなのか?ならなんで……」


「なんじゃ、また我楽の馬鹿はなんかやりよるのか」


 我楽。鷲土のじいさんの名前だな。鷲土我楽、鷲土流最後の継承者だ。


「あやつは鷲土流の再建に必死じゃからのう」


「金の為だろ。あのじいさんは嫌いだ」

「私も」


 鷲土我楽は俺やスミレが1番嫌いなタイプだ。誇るべき日本の武術を金稼ぎの道具としか思ってない。

 鷲土流の再建に必死なのも多額の援助を得るためだ。


「まぁ、どうせ会うこともねぇし。会ったとしても無視だ。問題ない」


 だが、やっぱり気になるのは吾郎が鷲土流を使ってたことだ。再認定は例外なく通らないはずなのに。


 集会と鷲土流。それに、イェン家。これは何か一波乱ありそうだな。


ご閲覧ありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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