第49話 漆黒に染まりし翼の猛撃
アリシアの店にワープした俺達は次の試合までに時間があるため、他のギルドの配信を見ている。
「スミレ?」
なんだかスミレがびったり横に引っ付いてくる。拗ねてたスミレをからかいすぎたか?
「スミレさん?」
「珍しく怒ってたわね」
「あー、あいつらに?そりゃ怒るだろ」
「そうね。私も怒ってたわ」
「だろ?それがどうしたんだよ」
「べつにー」
なんだ?拗ねてる?いや、これは……。
「嫉妬か?」
「ばっ、違うわよ!自意識過剰!キモイ!!」
スミレは顔を赤くさせ慌てふためいている。どうやら図星だったみたいだ。
「可愛いなお前」
「違うって言ってるでしょ!」
「安心しろよ。スミレが侮辱されたらあんなもんじゃ済まない」
「そ、そう?ならいいけど……」
そう言いながらスミレは機嫌を治した。
「シオリ、バタバタして自己紹介出来てなかっただろ。簡潔で良いから頼む」
「はーい!」
シオリは自己紹介を始めた。
【プレイヤー名:シオリ 討伐P:302 使用武器:銃(L96A1(スナイパーライフル)、AK-47(アサルトライフル)) 戦闘スタイル:狙撃、サポート】
「おぉ、討伐P300超えに武器はどっちもURなのか」
「最初は※エルクロだけだったんだけどね。何かと便利なAKも持つようになったの」(※エルクロ:L96A1の愛称)
「距離詰められたらスナイパーだけじゃキツイだろうしな」
まぁ、アサルトライフルでもキツいと思うけど、それをカバーできるのがシオリの実力なんだろう。
「その武器をあいつらオークション出そうとしてたのか」
「そうだよ。ほんの数日前の出来事だけどね。修理出すからギルド倉庫に入れとってくれーって。しばらくしたらWSOの掲示板がざわつき始めたんだよ」
「そりゃそうだよ!エルクロとAKは超激レア武器だし、市場にも滅多に出回らない」
「どうせあの馬鹿リーダーが値段吊りあげようとして落札が遅れたんだろ?馬鹿だなぁ」
「売れてたらWSOやめてたけどね」
改めて考えるとえげつないことやってたんだな。今回で改心してくれることを願うばかりだ。
◇
ギルドウォーズは5戦ある。
俺達百花繚乱は快進撃を続け現在4戦4勝、無敗で最終試合を迎える。
「上3つのギルドも無敗だね」
「だな。でも、最終戦は円卓VSサイユウキだ。どちらかが落ちてくるかもな」
「私達も油断出来ないわよ」
「まあな」
5戦目の俺達の相手は【漆黒の翼】。ハロルド率いる現在5位のギルドだ。こいつらも無敗らしい。ポイント的にも競っている為、俺達が負ければ順位が入れ替わってしまう。
「初心者だった頃が懐かしいな」
「そうね。まだ初心者勧誘やってるのかしら?」
アルガンにいるけど漆黒の翼やハロルドの話はあまり聞かなくなったな。前までよく耳に入ってきてたのに。ギルド強化に本腰を入れ始めたのかもしれないな。
「始まるみたいだよ!みんな頑張って!!」
「おう。行ってくる」
俺達は限定エリアにワープした。
◇
◆限定エリア【紛争地帯】
「この光景も見慣れたな」
「5戦目ですからねー」
拠点の位置や紛争地帯の景色は変わらない。変わるとすれば敵ギルドの戦闘ボットの位置くらいだな。
漆黒の翼の場合は拠点周辺にバランス良く戦闘ボットを配置している。そして、拠点の屋上にいるスナイパーがスコープ越しに俺をずっと見ている。
「ムズムズするな。気持ち悪い」
「ハイセが隠密で暴れるからでしょ」
「作戦なんだから仕方ないだろって言っても、最初の2試合しか通用しなかったけどな」
後の2試合は完全に対策されて1人または2人でずっと監視されていた。まぁ、そういう時は力でねじ伏せるがな。
「ハイセさん。今回はゴリ押しでいける相手じゃないですよ」
「キッド、ハロルドとはパーティー組んだことあるか?」
「え、あぁ……まぁ……」
なんか苦笑いしてるな。
「俺のスキルの『黒翼壁』って、黒い翼が壁になるじゃないですか。あのスキル見た瞬間えげつないほどの勧誘を受けまして」
「あー、『漆黒の翼』だもんな」
「ギルドのシンボルになるって、1ヶ月くらい熱烈な勧誘を受けたんですよ」
1ヶ月……えげつないな。
「えっと、ハロルド達がどんな戦い方をするかですよね?」
「ああ、配信で確認はしてるが実際一緒に戦ったことのあるキッドからの言葉はありがたい」
キッドの経験は本当にありがたい。顔が広い上、トップギルドとは1度はパーティーを組んだことがあるらしい。
「そうですね。ハロルドさんは良くも悪くも普通に強い剣士です。自ら戦場の前線に立ち仲間を鼓舞しながら戦ってるイメージですね」
「だろうな」
「ですけど、今回のギルドウォーズでは1度も前線に出てないんですよね。戦闘方法も1人のプレイヤーを中心として、それをサポートするような形になりました。考えられるとすれば……」
「ハロルド以外にエースがいるのか」
「はい、見た感じだと、あの双剣使いの女性プレイヤーがエースのようです」
確かに、今回のギルドウォーズであの双剣使いは凄く活躍している。
「ハイセ、あれって双剣になるの?」
スミレはその女性プレイヤーを見て言った。
そいつのが持っている武器は左手に短剣、右手に片手直剣だ。
「ああ、れっきとした双剣だ。戦ってみればどういう武術かわかるかもな」
「師匠って武術に詳しいですよね」
あんまり語りすぎるのは良くないか。身バレの危機だ。
「まあな。趣味みたいなもんだ」
「それで?作戦はなに?」
「そうだなぁ……たぶん、あのスナイパーと双剣使いが俺を抑えに来るはずだ。敵のキングはハロルド、俺も突破出来次第向かうが、突破できなかった場合はハルが前線に出てくれ」
「僕で大丈夫ですかね……」
「ああ、機動力に長けてるハルなら大丈夫だ」
「でも、ハイセが突破できないなんて事あるの?イメージ湧かないけど」
キョトンとした顔でシオリが言ってきたが、俺だって複数人に抑えられれば思うように動けなくなる。なるべく突破したいが……あの双剣使いはなんか妙な感じだ。
「まぁ、できるだけ頑張るよ。さ、始まるぞ」
「頑張りましょう!!」
「あ、そうだ。ハル、これ使え」
「なるほどです」
俺はハルにとあるアイテムと装備を渡した。とっておきだ。これがあれば相手の意表を突ける。
作戦会議を終え、戦場に立つ。拠点の屋上からはスナイパーとハロルドが俺を見ている。
「ハイセ君!!久しぶりだね!!」
「ああ、久しぶり」
「もう、俺は君を侮ったりしないよ。不遇武器だとしてもね」
「侮ってもらった方が楽なんだがな。まぁいい、勝つのは俺達だ」
『百花繚乱VS漆黒の翼!!!それじゃ、ギルドウォーズゥゥゥウウ!!!』
『開始!!!!』
レイナの声が戦場に響き渡り、空に浮かぶタイマーが20分のカウントダウンを始めた。
俺達の戦闘ボットは毎度の如く前方へ特攻を始める。俺はその中に混じり共に前線に走る。
「……っ!!」
〔キンッ!!!!〕
「お前か」
「初めまして。ハイセ」
短剣と片手直剣の二刀流。茶髪のボブヘアーに赤い瞳の女性プレイヤー。漆黒の翼のエースと思われるプレイヤーだ。
「しっかり見てくれてたか?」
「ええ、バッチリ。あなた程の剣術使いを見逃せばその時点で負けだから」
剣術使い……か。
「結構バフ乗ってるんだが。よく追いつけたな」
「こっちにも優秀なバッファーがいるわ」
チラッと拠点の屋上を見るとスナイパーが親指を立ててグッとしている。なんか腹立つな。
「悪いが、時間をかけるつもりは無い」
「それは私もよ。あなたの所のキングを取らないと」
百花繚乱のキングはスミレ。俺を倒したところで待ってるのは化け物ばっかりだ。倒されるつもりは毛頭ないが。
『神速』『ニノ太刀』『豪炎天魔』
一気に終わらせる。
相手もスキルを発動させる。
『神速』『波撃』『雷鳴鬼』
【スキル:波撃 SR 説明:攻撃が当たると同時に前方に衝撃波を発生させダメージを与える。微量のスタン値を蓄積させる】
【スキル:雷鳴鬼 UR 説明:自身に雷属性を付与。会心攻撃を命中させる毎に自身のAGIを上昇させる。STR.AGI.DEF+5】
「名前は?」
「リエラ」
「そうか。よろしくな」
その言葉を皮切りに、雷鳴と豪炎が激しく衝突した。
◇
~スミレ視点~
「ハイセが足止めされてる……」
シオリが私の隣でボソッと呟いた。
「まぁ、そんな事もあるわね」
ハイセを足止めするなんて、このゲームについて理解が深いのか、余程のプレイヤースキルを持っているのかのどっちかね。見た感じ、後者である可能性が高い。
「シオリ、私にSTR上昇のバフかけてくれる?」
「STRでいいの?」
「ええ、私はキングの首を狙うわ」
「この距離で!?流石にスナイパーじゃないと弾速的な意味で無意味よ?」
シオリの言うことは正しい。この距離だと曲射の遠距離射撃になる。躱す事は容易ね。
「私も馬鹿じゃないわ。準備はしてる」
インベントリを開け、弓の弦を変えた。
「それって」
「『ワイヤーストリング』。金属の弦よ」
【名称:ワイヤーストリング 説明:金属でできた弓の弦。矢速と威力を大幅に上昇させるが、弦を引くのに高いSTRを必要とする。そして、DEXが大幅に低下する】
STRバフは弦を引くため。DEXの大幅低下は私のプレイヤースキルで補うしかないわね。
「スキルを組み合わせて強襲するわ。MPの上限は解放できる?」
「うん!任せて!!」
シオリはサポート魔法を発動する。
『MP限界突破』『STR上昇:高』『MP自動回復』
「ありがと」
私もスキルを発動させる。
『風氷の矢』
使用するMPはもうひとつのスキル分以外全て消費。氷柱の本数は20本程まで増えた。
『ミラーアロー』
ミラーアローの効果で氷柱は20本から40本へ倍増した。
「うわぁ……まるで、人間兵器ね」
「ふふっ、言い得て妙ね」
レオルに放った時は曲射だったけど、今回は相手の拠点まで一直線。破壊力は比じゃないわ。
「ナンバーツーの力見せてあげるわ……!!」
弓は大きくしなり、金属の弦はギチギチと音を立てる。
限界まで弦を引く。
「鶴矢流『業風剛穿』」
勢いよく矢を放つ。とてつもない勢いの矢と氷柱が風切り音を立てて、相手の拠点まで一直線に飛んでいく。
〔ドォォォォォン!!!!!〕
思わず耳を覆いたくなるような轟音が戦場に鳴り響く。
「ふぅ……」
敵の拠点だけ冬のように氷の膜が張り、所々凍りついている。
「まぁ、そう上手くはいかないわよね」
ハロルドは剣を抜き、自身に迫っていた氷柱と矢を全て弾き落としていた。ハロルドは強いって話は本当だったみたいね。全て弾き落とすだなんて。でも……。
「ごめんなさい……ハロルドさん……」
隣に居たスナイパーは粒子となって消えた。間に合わなかったみたいね。1分後に蘇生するだろうけど、その間はハイセも動きやすくなったでしょ。
「あー、スッキリした!さ、防衛に力入れましょ!」
「あはは……色々溜まってたのね……」
ハイセが負けるなんて有り得ない。私達は敵将を討ち取ったという報せを待つだけ。
◇
~ハイセ視点~
「さすがスミレだ」
「なるほど、化け物はあなただけじゃないってことね」
「そゆこと」
しかし、とてつもない射撃だったな。なにか隠し持ってたのか。
スナイパーからの視線が外れた。ありがたい。
「ふぅ……」
集中するか。
俺は刀を鞘に納める。
ここぞとばかりにリエラは俺に肉薄してきた。
「鷹見流『驟雨』」
ステータスで強化された驟雨は6つの斬撃を繰り出し、ニノ太刀の効果で12の斬撃へと変化する。
斬撃が眼前を埋めつくし、躱す隙はない……はずなんだが。
〔キンキンキンッ!!!!〕
「なんだそれ……」
リエラは無理矢理斬撃を弾き、躱す隙を作った。
〔キンッ!!〕
しかも、しっかり反撃までしてくる。強い。
「なるほど、エスパーダ・イ・ダガか」
「詳しいのね」
「まあな」
フィリピン武術エスクリマという武術の中の短剣と片手剣の二刀流のことをエスパーダ・イ・ダガと言う。
フィリピンの武術、エスクリマか……。
「こっから激熱な戦いが幕を開け……たいところだが。もう終わりのようだ」
「え?」
「これはチーム戦だぜ?ハロルドは俺とキッドの動きを注視してたよな。スナイパーの男はスミレが殺った。残りの2人はキッドとシオリが牽制してた」
「それがどうしたのよ」
「うちのおてんば娘を忘れてないか?」
「っ!?」
リエラは驚いたようにハロルドがいる場所を見た。
「チェックメイト……。んー!1度は言ってみたかったんですよね!」
ハルはハロルドの後頭部にリボルバーを突きつけた。
「……参考までに、どうやってここに来たのか聞いてもいいかい?」
「んふふー、答えはこれです!」
ハルはニヤリと笑うと指をパチンと鳴らした。すると、ハルが身につけていたマントが段々その姿を変えていく。そして、マントは漆黒で背中に花弁が舞っている刺繍があしらわれた羽織に変化した。
「それは……ハイセ君の……!!」
そして、俺の羽織はハルのマントに変化した。
俺の羽織についているアクティブスキル【隠密】をハルが使用し、拠点に潜入したってことだ。
「ミラージュパウダー。一時的に装備の見た目を変えることができるアイテムだ。ハルには隠密が無いと思ってたから監視することはなかったんだろ?」
恐らく、スナイパーの男が俺とハルを監視する役目だったんだろう。スミレのファインプレーだな。
「これは……完敗だね……」
〔バァン!!!〕
ハルはハロルドの頭を撃ち抜いた。
【WINNER:百花繚乱】
これで5戦5勝。僅差だった漆黒の翼とも差を付けることができた。
「リエラ。今度はサシでやろう」
「ふっ、そうね。でも、できるならあなたとは戦いたくないわ。自信無くしそう」
「そういうな。お前も中々強かったぞ?」
リエラは手を振りながら拠点に戻っていった。そして、リエラはギリッと歯を食いしばり、悔しそうな表情を浮かべた。
(あの人……本気じゃなかった……!!あくまで私を引き付ける為に、私と同じレベルに合わせて……。くそっ……悔しい。鷹見家の神童……修羅……歴代最強の剣士……こんなに遠いだなんて。WSOのスキルやステータスが無くても私じゃまだ……)
そんな事を思いながら、リエラは仲間の元へ戻っていった。
◇
「おつかれ」
「おー、おつかれ。スミレ、ナイスだったな」
「でしょ?」
スッキリした顔してやがる。攻めたいのに攻めれなかった鬱憤を晴らしたようだな。まぁ、結果オーライか。
「ねぇ、あの双剣の子って」
「ああ、たぶん俺達と同類だ」
フィリピン武術エスクリマ。確か、『武術の文化遺産』にもエスクリマの継承家系があったな。
「なら、近いうち会うことになりそうね」
「だな」
俺は参加できるかはわからないが。
「とりあえず、コンペお疲れ様だな。アリシアの店で祝勝会でもしよう」
仲間と勝利の喜びを分かち合い、俺達はアリシアの店に戻った。
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