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第48話 度が過ぎる

 

 ◆限定エリア【紛争地帯】


「おぉ、これが拠点か。意外とデカイな」


 大きさ的には3階建ての一軒家くらいの大きさだろうか。簡素な四角い造りの拠点を囲むように石壁が設置されている。


「戦闘ボット呼び出す?」


「そうだな。えっと、コマンドは……」


 拠点内にあるコンソールから呼び出せるんだよな。分かりやすく"戦闘ボット呼び出し"って書いてある。


 ポチッとな。


 ボタンを押すと拠点前に30体の戦闘ボットが出現した。見た目は完全にロボットだな。武器は銃や剣、槍などを装備している。


「決まった行動しかできないんだよな。まぁ、こいつらはキルを狙うと言うより防衛に使うのが定石だろう」


「そうね。キッドはどう思う?」


 キッドは顎に手を当て考える。


「そうですね……。ギルドウォーズ自体は去年もコンペでやってました。俺は参戦してませんが、どのギルドも拠点周辺に固めたり、中には拠点の中に数体入れてトラップの代わりに使ったりしてました」


「ほう。トラップの代わりか」


 面白い使い方だな。拠点の死角に配置して、目の前を敵が通ったら攻撃と行動を決めていれば簡易トラップの完成だ。

 だが、この手のゲーム、二番煎じはあまり良くないよな。恐らく多くのギルドが対策してきているはずだ。


「まぁ、俺達には関係ないか。作戦通り行くぞ」


「「「「了解」」」」


 気合十分に戦闘準備を進めていると、いつの間にか戦場中央に敵ギルドのリーダーらしき人物が立っていた。


「なにやってんだあいつ。あと5分で始まるってのに」


 すると、インベントリから拡声器らしき物を取り出し、勢いよく息を吸い込んだ。


『シオリィィイ!!!』


 何だいきなり。ビックリしたな。

 無駄にキラキラしている敵ギルドのリーダーらしき男は拡声器を使ってシオリの名前を呼んだ。

 こいつもあれか?ハルの時と同じで自称彼氏か?


『俺達が弱いからって一方的に見限ってぇ!!!強いギルドに鞍替えとはなぁぁぁあ!!!』


 違ったみたいだ。

 一方的に見限って?何言ってんだこいつ。そもそもこいつらがシオリを客寄せパンダとしか思ってなかったのが原因だろ。それに、それだけじゃない。シオリからこいつらの所業は色々聞いてる。


『ギルドのリーダーが俺みたいにイケメンだっからかぁあ!?ケツの軽い女だなぁあ!?』


「……なるほど」


 あいつの周囲には撮影Botが配置されてる。配信してるらしい。

 あくまで自分達はシオリに捨てられた悲劇の主人公って設定にしたいようだ。


 俺みたいにイケメンだったから……。確かに、敵ギルドのリーダーはイケメンだな。でも、あれだ、やり過ぎ。整いすぎて逆に気持ち悪い。それにあのキラッキラの装備やめてくれ。目が痛い。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。


「おい」


 敵ギルドのリーダーを睨みつける。


『な、なんだよ……』


「ちょっと黙れ」


 あいつが何を喚こうが関係ないが、仲間をバカにされて黙ってられるほど俺は優しくないぞ。


『はっ!!お前もシオリに誑かされたくちか!?やめとけやめとけ!!あいつは用済みになったら捨てる女だぜ!?俺達みたいになぁ!!』


「てめぇ…!!」


「ハイセ!やめて」


 俺が身を乗り出そうとするとそれをシオリが手で制して止めた。


「はぁ……なんなんだあいつ」


「流石にこんなことまでしてくる人だとは思わなかった」


「配信してるけど、大丈夫なのか?」


 偏向報道にも程がある。あることないこと喚きやがって。


「あー、それは大丈夫」


「なんでだ?」


「これ見て」


 シオリが見せてきたのはI streamingだった。このチャンネルは……あいつらのか。やっぱり生配信してるな。人数はそこそこ見てるみたいだ。


「ん?これって」


「そういうこと」


 視聴者もそこそこ居るが、このコメント欄は…なんて言うか…酷いな。


 《は?シオリが出ていったのは自分達のせいでしょw》

 《この人の顔なんか気持ち悪い》

 《どの口が言ってんだよww百花繚乱に謝れ》

 《これは流石に酷い》


 コメント欄は批判コメで埋め尽くされていた。


「批判コメばっかじゃねぇか。あいつら余計何がしたいんだ?」


「あの人達はモデレーターを数人雇ってるの。だから、自分達に不都合なコメントは片っ端から消してブロックしてるから、都合のいいコメントしか残ってないんだよ」


「えげつないな……」


 モデレーターってのは配信主に代わってコメント欄等を管理する人の事だ。本当は理不尽なコメントや煽り、明らかなアンチコメ等を管理して配信主や視聴者の目に入らないようにする事が主な仕事だ。


 こいつらの場合はモデレーターを都合のいいように使ってるんだろうな。なんて奴らだ。


「あの人達にとって内容はどうでもいいの。必要なのは視聴者数と再生回数。こんなやり取りをして得をするのはあいつらだけだから、ハイセがそんなに怒る必要は無いよ」


「そうか。言いたいことは分かったよ」


 許すとは言ってないがな。


『お前が捨てた俺達の力見せてやる!!どこからでもかかってこい!!キングは俺だ!!』


 そう言うとリーダーの男の頭上に王冠が出現した。


「目立ちたがり屋なんだろうな」


「はぁ……あんなギルドに所属してたなんて恥だよ……」


「登録者数も減ってやけになってんだろ」


 こういうのを炎上商法って言うんだっけ?


「be coolの人気は殆どシオリさん人気だったんですね!」


「そうなるのかな?」


「そうですよ!シオリさんが加入したって情報が出てから僕達の登録者数グッと増えたんですから!」


 そんな事を言いながらハルは撮影Botを取り出した。


「今更だが配信していいのか?独占配信とかあるんじゃ」


「それはD.Cだけですよー。今回みたいなイベントは各ギルドの動きに注目が集まりますから、ギルドの配信も許されてるんです」


「なるほどなー」


「始まるわよ。準備して」


 スミレの声を聞き、俺達は配置についた。


 ◇


「ゴロー。君はどういう作戦だと思う?」


 ここは円卓のギルドハウス。大きなモニターの前には円卓の精鋭達が集合している。

 モニターに映し出されているのはギルド【百花繚乱】の配信だ。

 レオルは吾郎に話しかける。だが、吾郎は何故か不機嫌に返事をする。


「ふん、今更考えたって」


「ははっ……こればっかりは運だよゴロー。総指揮を任せたのに残念だったね」


「はぁ」


 ゴローは手元にあるギルドウォーズの対戦表に目を通す。円卓が戦うギルドに百花繚乱は居なかった。


「どういう作戦かだったっけ」


「うん。君はどう見る?」


「そうだな。あいつの事だ『特攻』だな」


「なるほど。まぁ、そうだろうね」


「だが、単純な特攻ではないはず。あいつもいい加減WSOにも慣れてきただろう。スキルとステータスを駆使して来るはずだ」


「そうだね」


 レオルとゴローは百花繚乱の配信を見守る。


 ◇


『コンペ夏の陣第二部!!!記念すべき第1試合はぁぁあ!!??【百花繚乱】VS【be cool】!!!!!今大注目のギルド【百花繚乱】!!バトルロイヤルでは1人欠けているにも関わらず第4位という好成績を残しているぞ!!そして、シオリという新たな仲間を加えギルドウォーズに臨む!!』


 レイナの実況が限定エリアにも響き渡る。

 俺達の紹介しかしてないぞ?be coolも紹介してやってくれ。


「ぐっ……!!」


 ほら、目立ちたがり屋のリーダーが歯ぎしりさせながら俺達を睨んでる。


『対する【be cool】はぁ!?』


 よかった。ちゃんと紹介してくれるのか。


『えっと……バ、バランスの良いチームだぁあ!!頑張れ!!!』


 おいおい、実況者大丈夫か?プロでも紹介に困るほど特徴が無いのか?


『さぁ!!お互いどんな戦闘を見せてくられるのか!!それじゃ、ギルドウォーズゥゥゥウウ!!!』


『開始!!!!』


 レイナの掛け声と共に、戦場の上空にある20分のタイマーがカウントダウンを始める。


「俺達の力を見せ……は!?」


 敵ギルドのリーダーが驚愕する。

 そりゃそうだよな。


「なんで戦闘ボットまで突っ込んで来るんだよ!?」


 まさか、戦闘ボットが全力で特攻してくるなんて思いもよらないだろう。


「リ、リーダー!!どうしますか!?」


「戦闘ボットは放っておけ!!特攻だけの命令なら突っ込んでくるしかできないはずだ!!」


 リーダーの男の言うことは正解だ。決められる行動を全て前方への全力ダッシュにしている。放っておいたら外壁にぶつかり、その場に留まるだけ。


「それよりも、百花繚乱のメンバーを倒せ!!まずは前衛を迎え撃て!!」


 敵ギルドの戦闘ボットがゆっくり前進を始める。その先頭には2人のプレイヤー。西洋剣と双剣だ。


「キッド。1人で大丈夫か?」


「あの程度余裕ですよ」


「頼もしいな。なるべく"ド派手"に頼むぞ」


「はい!」


 俺の指示を聞きキッドは前に出る。


「おいおい、1人で俺達を止められるのか!?このギャバン兄弟を!!」


「ギャバン兄弟?聞いたことないな。有象無象を覚えられるほど、俺の脳は優秀では無いんだ。許せ」


 おぉ。キッドが渋いモードに入った。外向け用の顔だな。


「てめぇ!!」


 ギャバン兄弟が同時に飛び出し、キッドに肉薄する。


『火刃』

『水刃』


 2人は剣に火と水を纏わし、剣を振り下ろした。


『黒翼壁』


 キッドの大盾を中心に漆黒の大きな翼の形をした壁が出現した。


 〔ガンッガンッ!!!!〕


「「硬ぇ……!!」」


「その程度で破れると思うなよ」


「チッ……もう1回!!」


 ギャバン兄弟が剣を振り上げたその瞬間。


 〔バァァァン!!!〕


 大きな発砲音が戦場に響く。シオリの狙撃だ。しかし、


 〔パキッ……パリン……〕


 弾丸はギャバン兄弟に到達する前に見えない壁に阻まれた。そして、空間にヒビが入り、割れた。


「まぁ、対策するよね」


「あれはなに?」


 後方で援護に徹しているスミレは隣で同じく援護に徹しているシオリに聞いた。


「あれは『エアバリア』。狙撃や銃弾から身を守る為の対銃使いの必須アイテム」


【名称:エアバリア 説明:自分から最大5cmまでの距離に張れる空気の壁。張る場所は任意で決めることができる。硬度等級:下級】


 硬度等級:下級は狙撃を1発防ぐだけで壊れてしまうくらいの硬度だ。

 だが、不意打ちを防ぐには十分だろう。


「へへっ、シオリ対策は万全だぜぇ?」


「俺達のギルドはお前らみたいにシオリだけに頼ってるわけじゃないのでな」


 キッドがそう言うと後方からハルが走ってきた。


「なるべく派手にですよね!!」


 ハルは腰のホルスターから二丁のリボルバーを抜き取り、ギャバン兄弟に向ける。


『紫電』


 ハルのリボルバーは紫電を纏う。


「てや!!」


 〔バンバンバンバンバンバン!!!!!〕


 全弾を撃ち尽くす勢いで発砲した。そして、


『弾速制御』


 放った弾丸はギャバン兄弟の周囲で停止する。


「ちょっと痺れますよ!」


『紫電』×『弾速制御』


 放った合計12発の弾丸の周囲からは紫電が迸る。そして、紫電は勢いよく周囲に拡散した。


『パラライズボルト』


 〔バチバチバチッ!!!!〕


「「ギャァァア!!!!」」


 ギャバン兄弟は拡散した紫電を受け、雷属性の大ダメージを受けた。


「結構派手でしたよね!」


「バッチリですよ!ハルさん!」


 キッドとハルはハイタッチする。


「ギャバン兄弟が……」


 敵ギルドのリーダーは後退りながら戦場を拠点の屋上から見下ろす。

 無傷でギャバン兄弟を倒し、そして、その後ろにはシオリとスミレがまだ控えているのだ。戦慄するのも頷ける。


「お、おい!!カーダ!!ラミアン!!お前らも前線に出ろ!!」


 リーダーの男はそう叫ぶが、誰も返事をしない。

 そして、男はとあることに気が付いた。


「い、いない!!あいつはどこだ!!敵のリーダーは!!」


 そう、戦場のどこにもハイセの姿が見当たらないのだ。どこを見ても。


「ここだよ」


「がっ……!!」


 男の背後、右肩から日本刀が貫通した。


「いつ……の間に……」


「俺から目を離した時点でお前らは負けてんだよ」


 戦闘ボットが勢いよく特攻した中に俺が混じってたんだ。そして、キッドやハルの派手な攻撃で気を引き、【隠密】を発動。ハルとシオリにAGIを限界まで上げて貰ってたから、なんとか隠密の効果時間内に拠点内に潜入することが出来たのだ。


「ぐっ……!!」


 俺は勢いよく刀を抜き、背中を蹴り飛ばした。男はそのまま勢いよく顔面をぶつける。


「は、ははっ…甘ちゃんが!!!背後をとった時点で殺すべきだったな!!」


 男は直ぐに立ち上がり、ロングソードを俺に向けて振り下ろした。


「はぁ……」


 俺は軽く剣を受け流し、男の鳩尾を殴る。痛みは無いが、不快感が襲ってくるだろう。


「ぐぇ……」


 男は鳩尾を抑え蹲る。

 俺はその髪の毛を掴み、無理矢理顔を上げさせた。


「何をする気だ……」


「あ?お前が適当なことばっか言ってっから、真実を知ってもらうんだよ」


 そう言って俺は敵ギルドの撮影Botに指をさす。


「話はシオリから聞いてるぜ?」


「や、やめろ!!」


「黙れ。お前のやる事は度が過ぎてんだよ。腐れ外道が」


 俺は撮影Botに男の顔を叩きつけた。


「はい、まず1つ。こいつは色んな配信者の配信に入り浸っては暴言や不快な発言を繰り返してきましたー。しかも、タチが悪いのは複数人で一気にそんな事をしてたことでーす。メンバーの中にもいるよなー?」


「や、やめ……」


「はい、2つ。シオリの名前を借りて色んな場所で横柄な態度をとってましたー。このギルドが中央都市の有名なプレイヤー経営のレストラン出禁になったのはこいつのせいでーす」


「おい!リーダー聞いてないぞ!!」

「ふ、ふざけるな!!」


 この話はメンバーも知らなかったのか。


「はい、3つ。シオリの愛武器を修理に出すと嘘ついて、勝手にオークションに出してましたー。売れる前にシオリが気付いたけど、売れてたらバックれる気だったと後から聞いたそうでーす」


 配信のコメント欄を見てみる。


「あーあ。モデレーターでも、処理が追いつかないみたいだな」


 《うわっ……》

 《普通にヤバい。ドン引き》

 《垢BANされるべき》

 《ろくでなしなのは気付いてたけど、ここまでとは》

 《登録解除しました》


「あ、ああ……」


 心が折れちまったみたいだ。


「あのな、このゲームは自由が売りだ。だが、物事には限度ってものがあんだよ。お前がやってきたことはその限度を超えてる。『ゲームだから大丈夫』『所詮は仮想だ』そう思うかもしれないが、お前の一言一句一挙一動で心を痛め、配信やゲームが嫌になる奴だっているんだよ」


 男の胸ぐらを掴み、グイッと顔に寄せる。


「お前は、その行動に責任を取れるのか?ここは電脳世界。お前の行動は全てログに残る。お前が吐いた暴言、不快な発言は聞いた人の中でも残り続ける」


 俺は日本刀を振り上げた。


「ゲームってのは、楽しくやってなんぼだろ?」


 そのまま男の首を切り落とした。


【WINNER:百花繚乱】


 俺は皆の元に戻った。ちょっとやり過ぎたか?運営から注意とか受けないといいけど……。


「ハイセ、ありがと」


「何がだ?」


「しっかり怒ってくれて。これで少しは変わってくれるといいけど」


「どうだかな」


 人の性根ってのはそう簡単には変わらない。まぁ、これからどうするかは当人しだいだな。


「私、なんにもしてないんだけど」


「拗ねるなよスミレ。後で活躍の場なんていくらでもあるさ」


「ならいいけど」


 頬を膨らますスミレをからかいながら俺達はアリシアの店にワープした。

ご閲覧ありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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