第5話 オリジン武器
「ふあぁ…」
俺は今欠伸をしながらアルガンの街を歩いている。フルダイブと言えど眠気とか空腹はしっかり感じる。一体どういう仕組みなんだろうか。
「早くやりたくて朝5時に起きてしまった……」
こんな時間でもアルガンの街は賑やかだ。活気のある街を散歩するのも悪くない。
特になにかやる訳じゃないが、金もないしモンスターを適当に狩ろう。
「あ、そういや昨日のクエスト完了報告してないや」
昨日は外野がうるさくて緊急クエストは未報告のままで終わってしまった。
報告と言ってもわざわざ冒険者協会に行かなくてもいい。受注クエスト一覧から目標達成のマークが付いている物を開けて完了ボタンを押すだけ。
「報酬は50シルバーとランダムボックスか」
50シルバーってことは0.5ゴールドだよな?ならこのクエストをあと3回やればあの装備を買えるのか。
ランダムボックスはなんだろうか。
【ランダムボックス:C~SRまでのアイテムをランダムで1つゲットできます。(期間限定アイテムを除く)】
「へー、でもこういうのって大概低レアリティの物しかでないよな」
開封のボタンを押す。すると、ボックスの隙間から金色の光が神々しく放たれる。
「うおっ!?なんか凄い演出だ!」
そして、ランダムボックスからは1枚の紙が出現し、俺の手元に置かれた。
【名称:宝の地図 SR 消耗品 説明:宝の在り処が記された地図。そこに眠るのは武器か、防具か、アイテムか。知る権利を得たのはこの地図を手にした貴方だ】
「おぉ……!!」
こりゃ大当たりだ。吾郎とスミレに自慢してやろう。
テンション爆上がりのまま適当にモンスターを狩り、時間が来たのでログアウトした。
◇◇◇
「ふあぁ……」
「眠たそうだな。どうせ早起きしてWSOやってたんだろ」
「ご名答……」
朝から机に突っ伏し項垂れる。そんな俺を見て吾郎は苦笑いしている。
「リアルとの区別はちゃんとつけろよ」
「当たり前だ。俺が区別つかなくなったらそれこそ大事件だろ」
現実で刀を振り回してたら周りの目がやばい。帯刀を許されているとはいえ人は傷付けたくない。そこら辺は大丈夫そうだ。
眠気と戦いながら、午前の授業を乗り切る。
「た、耐えたぞ……!!」
「耐えてねぇよ。爆睡してたわ。先生キレてたぞ」
そういえば意識のない時間があったな。寝てたのか、俺。あっという間に授業が終わる訳だ。
「さ、昼飯食おうぜ」
バックから弁当を取り出し机の上に広げる。先輩が勧誘に来ても今日は直ぐにお断りだ。絶対に着いていかないぞ。
すると、いつもと全く同じ時間に教室の扉が開いた。
来た!!
「ハイ…」
「剣道部には入らん!!」
言い切ったぞ……。これに懲りてもう勧誘に来ないでほしいな。
「おい、ハイセ」
「ん?」
吾郎が後ろを見ろとクイクイと顎を動かす。振り向いて見ると、そこにはモヒカン先輩ではなく、黒髪の女性が立っていた。
「なんだ、スミレか」
「なんだじゃないわよ。いきなり何言ってんの?」
「こっちにはこっちの事情があんだよ。気にすんな」
俺と吾郎は1組。スミレは5組だ。教室もそこそこ離れている為、昼休みと放課後以外顔を合わすことは少ない。
「お、おい、あれ」
「鶴矢さんだ……相変わらず綺麗だ……」
「つい先日も3年の先輩に告られたらしいぞ」
「マジかよ!もう5人には告られてるぞ……」
スミレはその美貌と神がかったスタイルから絶大な人気を誇っている。入学して1ヶ月、顔に自信のあるカースト上位勢の先輩から告白されることもしばしば。
「んで、どうした?」
「ちょ、ちょっと付き合いなさいよ……」
顔を赤くするスミレの手には弁当がある。つまりは、一緒に弁当を食べましょうってことか。
すると、教室がざわつき始める。
「鶴矢さんが鷹見を……?」
「嘘だろ……」
「鶴矢さんがこの教室に来たってだけで嬉しかったのに……」
残念なことにスミレは自分の人気を理解していない。告白されて断った後も俺に「物好きな人がいるものね」と愚痴を零しツンケンしているのだ。
「いいぞ。だが周囲の目が痛い、場所を変えよう」
「そうね」
「いってらっしゃーい」
吾郎は呑気に手を振っている。
「何言ってんだ。お前も来るんだよ」
「早くしなさいよ」
「えー……」
吾郎も着いてきたことで教室にはホッとした空気が流れる。
「鷲土も一緒ってことはそういう関係ではないってことだよな」
「鶴矢さんと鷹見じゃ釣り合わねぇよ」
「それもそうだな!」
教室には笑いが溢れる。
「何こいつら。なんでハイセの事笑うのよ」
「やめろ、スミレ。相手にするだけ無駄だ」
「でも……」
「いいんだよ」
いつもの事だ。普段は恐れている癖に、群がると強気になる。俺が手を出さないとわかっているのもあるだろうが。
「確かに釣り合わないわね、私じゃハイセには……」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない!」
俺達は教室を出て屋上に向かった。
「お前友達多いだろ。わざわざ俺達のとこに来なくても」
「みんな私に近付く男とお近付きになりたいだけよ。それに、教室に居ると息が詰まりそうなの、舐め回すような男からの目線も、わざわざ他の学年から会いに来る先輩も、中には彼氏面するやつもいるんだからたまったもんじゃないわ」
「それで逃げてきたのか」
「そういうこと」
スミレも色々大変なんだなぁ。
「その紙はなんだ?」
吾郎はスミレが持っている紙を見て言った。
「退部届けよ」
「「退部!?」」
スミレは弓道部期待の星だ。中学の時も全国大会準優勝の成績を残している。そんなスミレがなぜ。
ちなみに、なぜ準優勝かと言うと前日に食べた大好物のプリンの消費期限が2週間前で、腹を下していたからだ。
「そもそも私は弓術を活かしたくて弓道を始めたのよ。弓道よりも活かせる場があるんだから、辞めたって問題ないわ」
WSOの事か。確かに、俺達からしたらこれ以上にない場所ではあるな。
「なら早く提出してこいよ」
「行ったわよ。でも、顧問の中村先生が辞めないでくれって泣きついてきてね。面倒臭いから校長に直談判してくるの」
「大変だな」
まぁWSOの世界に拘ってしまうのも仕方ない。今まで持て余していた技術を思う存分振るえるのだから。
「あ、そうだ!お前らランダムボックス開けたか?」
「ええ、開けたわよ」
「俺もー」
「聴いて驚け?俺、SR当たりました」
さぁ、羨望の眼差しを…。ん?吾郎とスミレは生暖かい目で俺を見ている。なんか変なこと言ったか?
「はぁ……これ見ろ」
「ん?」
吾郎はスマホを俺に見せてきた。WSOの攻略サイトのようだ。
【ビギナー限定!期間中にアカウントを作成したプレイヤーはランダムボックス初回SR確定!】
「俺もSRだ」
「私も」
ぬか喜びかよ……。俺の歓喜を返してくれ。
「私は【天使の涙】っていうアイテムよ。基礎HP500アップだって」
「おお、SRの中でも大当たりだな」
「吾郎は?」
「俺は【山賊のコイン】だ。ドロップ率を上げるアイテムだな」
うわぁ、なんかみんな良さげな物だ。どうせ俺のは大したことないんだろ……。
「ハイセは?」
「【宝の地図】」
「え……?」
ほらみろ、吾郎が固まっちまった。やっぱ大したことないんだ。
「まじかよ!!すげぇな!!大当たりどころじゃないぞ!!」
「え?そうなの?」
吾郎のテンションの上がりように俺とスミレは首を傾げる。
「宝の地図はSRの中でも特に珍しい!宝の地図にある宝はSR確定に加えて運がよけりゃR以上の複数のアイテムが眠ってる場合があるんだ!」
そりゃすごい。この宝の地図1枚で強力なアイテムを複数ゲットできるってことか。SRの中でも特に珍しいってのも頷ける。
「帰ったらさっそく行かないとな」
「そうね!情報掲示板前集合よ!」
「おー!」
スミレはその前に校長とのバトルを頑張って欲しいものだ。
◇◇◇
学校も終わり、俺は帰宅した。校長室の前を通った時にスミレと校長の激しいバトルが繰り広げられていたが、あの勢い的におそらくスミレが勝つだろう。
「ちょっと体動かしとくか」
制服のまま木刀を手に取り、家と隣接する道場へと向かった。
「ゲームではステータスが強化されてえげつないことになったが、ここは現実だ。正確に、確実に」
「鷹見流『驟雨』」
繰り出された3つの太刀筋は空を斬る。
「ほう。型の精度が上がっておるの。僅かな間に何があった?」
「じじい」
木刀を振る俺の背後にはいつの間にか祖父である"鷹見灰青"が居た。
「いい加減じじいはやめい。おじいちゃんと可愛く言えんもんかのぉ」
「うるせーよ」
俺はじじいの横を通り過ぎ、道場を出ようとする。すると、僅かな空気の揺らぎを感じた。
「…」
〔カンッ!!〕
「流石じゃの"鷹見家の神童"は伊達じゃないわい」
じじいは音もなく俺の背後から木刀を振り下ろしていた。首に当たる寸前で木刀で防ぐ事に成功した。
「いつもいつも音もなく奇襲してくるなじじい。心臓に悪い」
「音を無くさんと奇襲にならんぞ?」
「なら奇襲してくるな!ここ数年間1度も成功してないだろ!」
「それはハイセが成長しとる証じゃ。儂は嬉しいぞ?それに、今もギリギリで防いだが当に気付いておったじゃろ?」
そこにも気付いてたか。流石鷹見流の現継承者だ、侮れない。
「それよりもなぜ短期間で型の精度を上げたんじゃ?」
「関係ないだろ」
「関係あるわい!弟子の成長は気になるじゃろ!」
「あーあー、うるせぇなぁ……」
「教えて欲しいのぉ。可愛い孫の成長、気になるのぉ……」
年甲斐もなくクネクネと気持ち悪い動きをしながらじじいが迫ってくる。呑気なじじいだ。
「ゲームだよ。ゲーム」
「ほう!ゲームとな!最近流行りのフルダイブとか言うやつか?」
「流石元ヘビーゲーマーだな」
「フルダイブのぉ……。儂がハイセぐらいの頃は漫画やアニメの話しじゃったからのぉ。それが今や現実とな、若返りたいもんじゃ」
「ゲームの中じゃ歳は関係ねぇよ。なんならじじいも始めりゃいいだろ」
「なんて言うゲームじゃ?」
じじいはワクワクと字幕がでそうな勢いで迫ってきた。
「ワールド・シーク・オンライン」
その名前を聞くとじじいは少し固まった。と思ったら直ぐにいつもの調子に戻る。
「まぁ、儂は最近のゲームの使い方はさっぱりわからんでの。やめておくわい」
そう言い残しトボトボと道場から去っていった。
「なんだったんだ……」
じじいの奇行に疑問を覚えながらも俺は部屋に戻り、サングラス型のハードを身につけた。
「よし、やるか」
俺の意識はWSOの世界へと吸い込まれていく。
◇◇◇
◇SA【始まりの街:アルガン】
「情報掲示板前だったよな」
丁度目の前がそうみたいだ。少し掲示板を覗いてみる。
情報掲示板には公式からのイベント情報やプレイヤーによるダンジョンの攻略情報、隠されたアイテムのタレコミなどが掲載されている。
「どれどれ……」
【槍のオリジン!ギルド:オーディンのリーダー、アデルが獲得!!】
「オリジン?」
発端や起源って意味だよな。どういうことだ?
「オリジンは武器のレア度だよ」
「あんたは……ハロルド」
「覚えてもらえて光栄だ」
この人まだアルガンで初心者の勧誘をしてるのか。
「武器の最高レアリティはURじゃないのか?」
「一般的にはね。オリジン武器はレア度で括るにはちょっと方向性が違うんだよね」
「方向性?」
「オリジン武器はこのWSOの世界で各武器種にたった1つしかない武器のことだよ」
「たった1つ?」
「そのままさ。正真正銘たったの1つ。つまり、手にできるのはその武器種を扱うたった1人のプレイヤーだけ」
つまり、全ての武器種を合わせればこのWSOの世界にオリジン武器は9つしか存在しないってことか。
凄い競争率だ。すぐに誰かがゲットしそうだが。
「オーディンのアデルは長いことオリジン武器が眠るダンジョンに挑戦しててね。やっと手に入れたようだ」
「長いこと?数週間くらいか?」
「いや、丸1年だよ」
「は!?1年!?1年間誰もクリア出来なかったってことか……?」
「世界で9つしか存在しない武器の1つだよ?そりゃ攻略難易度も有り得ないくらい高い。挑戦する人はことごとく心を折られて「運営はクリア不可のダンジョンを作った」って騒いだ事もあったね」
実際にアデルってやつがクリアして見せた。100%無理って訳じゃないんだろうが、1年間誰もクリア出来ないってのは、やばいな。
「現状、オリジン武器の存在が確認されているのは、今の【オーディン】のリーダー、アデルが手に入れた"神槍:グングニル"と【ナイツ・オブ・ラウンド】通称【円卓】のリーダー、レオルが手に入れた"聖剣:エクスカリバー"だけだね」
このゲームが発売されて1年で9つの内のまだ2つしか出てきてないのか。アプデで追加されるのか、もう既に存在しているが発見されてないのどっちかだな。
「色々教えてくれてありがとな」
「困った時はお互い様さ、良ければフレンド登録しないかい?」
「いいぞ」
俺のフレンド欄にハロルドが追加された。
【プレイヤー名:ハロルド 総獲得討伐P283 使用武器:西洋剣 所属ギルド:漆黒の翼団 (ギルドマスター)】
「お互いこのゲームを全力で楽しもう!」
「ああ」
俺とハロルドは握手を交わし、ハロルドはその場を後にした。
ギルド勧誘に来たわけじゃなかったのか。困った時はお互い様か、根っからの善人だな。
「なにしてんだスミレ」
「いや、加わるタイミング逃しちゃって」
オリジン武器の話をしだした辺りからずっと掲示板の陰に隠れていた。普通に話に入ればいいのに。
「しかし、オリジン武器なんて物があるのね!弓はどこにあるの?」
「知らねぇよ。それを探すのも楽しみの一つだろ?」
「それもそうね!」
「おーい、早く行こうぜ」
吾郎も合流した。
「よし!行くか、宝探し!!」
ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!