第46話 6人目
「それで?なんでハイセはそんなにビクついてるの?」
アリシアのお店に戻ってきた俺達を見てアリシアは苦笑いしながら聞いてきた。
「ハイセはホラーがダメなの。配信は見てたでしょ?」
「あー、ピエロ?ハイセって意外と可愛いね」
アリシアがニヤニヤしながら言ってきた。他人事だと思いやがって。こちとらもう限界だってのに。
小さい頃じじいにピエロのホラー映画を見せられてからトラウマなんだよ。
「師匠、そういうのって道化恐怖症って言うらしいですよ」
「そんな事どうでもいいよ……あいつとは二度と会いたくねぇ」
でも、あのピエロ中々強かったな。なによりまだ本気を出していなかった……。レオルが負ける可能性があるとすればあのピエロくらいか。
「ほら、しっかりして!まだあと4試合あるんだから!」
「そ、そうだな。よし、気合い入れるか」
残り4試合。ギルポ上限も上がってくる。俺達は1人少ない分、気合い入れないとな。
気合いを入れ直し、残りの4試合に臨む。
◇◇◇
とあるギルドの仮宿。
「いやー、あっさり負けちまったぜ俺」
「なぁ、リーダー、この後どうするんだ?どういう方針で行く?」
1人の男がリーダーに話しかけた。その男はピエロの格好をしている。オーリャだ。
「そうだねん。このギルド、解散で」
「「「は!?」」」
オーリャの思わぬ一言にメンバーは驚愕する。
「な、なんでだよ!!設立したばっかだろ!」
「んんー……僕の目的は達成したし、他にやる事もないからねい」
「目的はコンペで勝つことだろ!?」
「あ、そうですねい。そんな事言いましたねい。でも、もうどうでもいいので、あなた達でがんばって」
そして、そのままオーリャは去っていった。ギルドの解散と共に。
「僕の目的は、ハイセ君と接触することっ!リアルでは、"公式の場"以外での接触は禁止されてるからねい。ゲームなら関係ないよねい」
ハイセとの戦闘を思い出し、オーリャの口角が釣り上がっていく。
「リアルで会うのも楽しみだなぁ……。"公式の場以外での接触禁止"なら、"公式の場"なら会えるって事だもんねい……」
イェン・リャオの狂気じみた笑みが、建物の影へと消えていった。
◇◇◇
コンペ夏の陣第一部が終了した。
残りの4試合は特に強敵と当たることはなかった為、俺は5試合連続1位という結果を出した。
スミレ、ハル、キッドに関してはバトルロイヤルという特性上、漁夫の利や不意打ちに対応しきれず上位に食い込むもトップ5に入ることは無かった。
「あ、第一部の順位が出たみたいだよ」
WSOの公式サイトに中間順位が貼りだされていた。
「どれどれ……俺達は……」
◆
1位【ナイツ・オブ・ラウンド】
2位【オーディン】
3位【サイユウキ】
4位【百花繚乱】
5位【漆黒の翼】
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「俺達は4位か」
「ごめんなさい。私達が足を引っ張ったわ……。もっとバトルロイヤルについて勉強するべきだった」
「いや、気にするな。初めての試みだ、こんなもんだろ」
寧ろ、4位に食い込めたのは凄い方だろう。
「んー、やっぱり1人少ないのが上3チームとの差だよね。第二部も5人が基本での戦闘になるはずだから」
アリシアはそう言うが、今更どうやって……。
「あ……」
「どうしたの?」
「なぁ、アリシア。他ギルドから引き抜きって出来るのか?」
「うん!大丈夫だよ!登録メンバーはその都度変更すればいいだけだから」
「よし、ちょっと出掛けてくる」
俺はそのままアリシアの店を飛び出した。
◇◇◇
あ、どうも。皆さん私のこと覚えてます?
はい、そうです。さっきのバトロワの1試合目、ハイセとかいう反則じみた化け物にボコられたスナイパーのシオリです。
~シオリ視点~
私は今、途方に暮れている。
なぜなら、コンペが終わったあとすぐにギルドを辞めてきたから。
◆
「は!?辞めるってどういう事だよ!」
「どうもこうもない!!私はもう限界!!」
「今までの事は本当に悪かったから!お前がいないとこのギルドは成り立たねぇよ!!」
「ッ……」
私はリーダーのこの言葉に弱い。リアルでは頼られることの無い私だから、この世界でこんなに頼ってくれる人がいるんだって思ってしまう。
リーダーも頼られることが嬉しいんだと分かってるからこんな事を言ってくる。
「でも……もう、決めた事だから……」
私は踵を返し、ギルドハウスの扉に手をかけた。
「お前はうちのエースなんだ!!頼む!!」
そう言ってリーダーは私の肩を掴んだ。
"うちのエース"……?
ギリッと歯を噛み締める。
「私はエースじゃない!!後方支援のサポーター!!他の力が無いと成り立たないの!!なのになんでソロのバトロワなんかに出して、負けたら溜息吐かれて!!結局何も分かってないじゃん!!」
「それは……」
「さようなら」
私はそのままギルドを辞めた。
◆
「はぁ……」
分かってる。リーダーが欲しかったのは私の"力"じゃなくて、"影の狙撃手"という看板。
あまり自覚は無いけど、私はそれなりに有名らしい。最初に入ったギルドで名を上げて、その2つ名を得た。そして、そのギルドが解散して私がフリーだった時に今のリーダーに声をかけられた。
"影の狙撃手"をメンバーに入れたギルドとして、I streamingの登録者数はうなぎ登り。
「良い見世物パンダだったってことね……」
しばらくして、登録者数は激減し始めた。理由は単純明快、リーダー達の戦闘や立ち回りのレベルが良くも悪くも普通だったから。
そしたらリーダーは、私に前線に出ろと言い始める始末。もっと早く見切りをつけても良かったけど、根は悪い人じゃないと言う感情が邪魔して今まで来てしまった。
「無駄な時間を過ごしたわ……」
これからどうしよ。WSO辞めてリアルのサバゲープレイヤーに戻る?いや、この銃の重みも硝煙の香りもここでしか体験できない。辞めるのは勿体ない。
「はぁ……」
〔ドンッ〕
誰かにぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
「何ため息ついてんだ?俺に負けたのがそんな悔しかったか?」
「あ……」
私は、生まれて初めて直感というものを感じたかも知れない。
「シオリだっけ?ちょっと話がある」
この人なら、私が求める物を……。
「う、うん……」
銀髪で金色の瞳の眉目秀麗な少年。着崩した朱色の着物に黒の羽織、如何にも侍と言わんばかりの日本刀を腰に挿した彼の後を私は着いて行った。
◇
◇SA【始まりの街:アルガン】
アルガンの中央に位置する公園のベンチに腰をかける。
話ってなんだろう。
私はゴクッと息を飲む。彼の纏うオーラというか覇気というか、バトロワで対峙した時も感じたけど、この圧倒的な強者の空気。対峙しただけで勝てないと思ってしまう。
「ほら、これ食えよ」
そう言って彼が渡してきたのはサンドイッチだった。
「?」
「毒なんか入ってねぇよ」
まぁ、SAだから毒盛られてても分からないけど。
「いただきます……」
1口食べる。
「ッ!?」
何これ……美味しすぎる。
フワフワのパンにシャキシャキのレタス。厚めのハムとチーズがマッチしてる。具材は普通なのに、何でこんなに美味しいの!?
「それはうちのサブマスが作ったサンドイッチなんだ」
「サブマス?」
「ああ、弓使い兼料理人だ。ソロでもめちゃくちゃ強いぞ。うちのNo.2だ」
(料理人は今適当に考えたけど)
弓使い……。聞いた事ある。弓なのにソロでもめちゃくちゃ強い人が居るって。確か、日本刀の男とデュオで不遇武器コンビって言われてて……。
日本刀……。
「あ……あなたがそうだったの」
「ん?なんだ?」
「なんでもない……」
それは分かったけど、なんでわざわざサンドイッチ食べさせてくれたんだろ?どういう意図なのか全く分からない。
すると、彼が口を開いた。
「その……なんだ。うちに来ればその美味いサンドイッチ食い放題だぞ?」
「え?」
「あ、いや……だから、うちに……」
もしかして、この人私をギルドに誘ってるの?サンドイッチを使って?食べ物で釣ろうとしてるの?
「…………ぷっ」
「あ!?なんで笑うんだよ!」
「あっはっはっはっ!!あなた面白いね!素直にギルド入らないかって言えばいいのに、それをサンドイッチ食べさせて、うち来れば食い放題だぞ?って…………ぶふっ!!」
彼は顔を赤くして俯いている。
怖い人かと思ってたけど、意外と可愛い人なのかも?
「んで、どうするんだよ」
「え?ああ、ギルド……」
正直、前回のギルドがあんなんだったから、怖いってのはある。でも、私の直感が告げるの。
「入る!!」
このギルドなら大丈夫って。
こうして私は、ギルド【百花繚乱】の6人目のメンバーとなった。
◇◇◇
~ハイセ視点~
ふっ、やっぱりサンドイッチが効いたな。スミレの作る料理は食う者を魅了する魔の食物だ。俺の作戦勝ちだ。うん、そうに違いない。
「ここだ」
アリシアの店に着いた。
「あれ?ここって……」
「知ってるのか?」
「まぁ……」
アリシアの知り合いだったのか?
俺は店の扉を開ける。
「ただいまー」
「あ、師匠帰ってきましたよ!」
「はぁ……どうせ失敗でしょ、だいたい食べ物で釣られるなんてハイセくら……い……」
スミレは俺の背後にいるシオリを見つけた。
「「釣られてる!?」」
スミレとハルは驚愕の声を上げる。
当たり前だ。俺の計画に狂いはない。
「あ、いや、違いますよ!サンドイッチは美味しかったですけど、ギルド加入は自分の意思で」
「え?そうなの?」
「はい、サンドイッチで釣られる人は居ないと思いますよ?」
そっか……。まぁ、いいよ。結果オーライだし……。
「勧誘してきたー?って」
「やっぱり!アリシアさん!!!」
シオリはアリシアを見つけると走って抱きついた。どうやら知り合いだったみたいだ。
「ハイセが勧誘したのってシオリだったんだね」
「ああ、2人はどういう関係?」
「元ギルドメンバーかな」
なるほどな。アリシアがサブマスしてたっていうギルドか。
「アリシアさんもこのギルドに入ってたんですね!」
「う、うん。結構大々的に紹介されてたけど……」
「うちのメンバー、自分達が出てない配信は見ない人達だったので……」
なんじゃそりゃ。とんだナルシストだな。
「とりあえず、これで戦闘員は5人になったな。これで上3チームにも対抗できるだろ」
「え?4人でやってたんですか……?」
「まあな。あと敬語じゃなくていい」
「はい、あ、うん。4人で今4位なの?凄いね……」
「だろ?あと1人優秀なやつが欲しかったんだ」
「あの……師匠……。銃使い被りますけど、僕はどうしたら……」
ハルがオロオロしながら恐る恐るといった感じで聞いてきた。なにをそんなにビビってんだ?
「銃使いだが、役割は全く違うぞ。ハルは中衛で冷気や電気でのエリアコントロールと俺とキッドのカバー。つまり、攻めガンナーだな。シオリは後方でスナイパーを用いて俺やキッド、スミレでも手が回らない奴を仕留めてもらう守りガンナーだ。どっちも重要な役割だぞ」
「は、はい!そうですよね!頑張ります!」
ハルは元気よく返事をした。オロオロも無くなったみたいで良かった。
「シオリ、パーティー戦闘の場合お前は何が出来る?」
「えっと……サポート魔法は全部覚えてるよ」
「全部!?」
「うん。私はあくまで後方支援だから、サポート魔法も使えればいいかなって」
十分だ。十分すぎる。ハルはサポート特化ではないから、キッドに対するヒールや、バフのタイミングが難しかったんだ。
「これでハルは戦闘に集中できるな。だが、ハルのバフも必要だ。気は抜くなよ」
「はい!」
思わぬ収穫だ。まさかサポート魔法特化だったとは。あのスナイパーの腕前はプレイヤースキルによる物が大きいのだろう。
「明日ぶっつけ本番になってしまうが、大丈夫そうか?」
「うん、百花繚乱の配信でも見て勉強しとく」
「よし、今日のとこは解散しとくか。明日の第二部も頑張るぞ」
「「「「「おー!!!」」」」」
俺達はそのままWSOからログアウトした。
◇◇◇
「もう真夜中だな」
じじいは明日帰ってくるっけ。長い旅行だこと。
流石に腹が空いたな。
「スミレが作り置きしてた煮卵があったっけ」
確か、明日の晩御飯に使うから絶対食べるなって言ってたよな。
「まぁいいや」
玄関の戸締りをすると、ポストに何かが入っているのがわかった。
今日1日外に出てなかったから気付かなかったのか。
ポストに入っていた手紙を手にリビングで煮卵を頬張る。
「ん?武術連盟から?」
どうやら武術連からの手紙みたいだ。武術連からの手紙は珍しい。大体手紙じゃなくて直接訪ねてくるからだ。
「てことは招待状系だな」
封を開け、内容を確認する。
『世界武術連盟集会を開催します。今回は次代継承者も強制参加となりますので、ご注意ください』
そう書かれた紙の後ろには招待状が2枚入っていた。じじいと俺の分だ。
「めんどくせぇ……。なんだって強制参加なんだよ」
世界武術連盟集会は毎年開催される世界の武術の文化遺産を継承する家系が一堂に会するビッグイベントだ。
集会と言ってもただ親交を深めようっていうものだが。
「リオンとテルトも参加するんだよなぁ」
だったら、悪いことばっかじゃないな。リオンと会うのは4年振りだ。そう思うとちょっと楽しみ?
いや、大人の"俺達が最強だ"論争を聞くのは普通に嫌だな。昔参加した時にそんなことを言い争っていた。そして、一騎打ちとか言い出す始末になったのを今でも覚えている。くだらない。
《ピロン》
スマホの通知が鳴った。スミレからだ。
《明日、10時に駅前集合》
《なんで》
《デートよ》
「んッ!?」
デ、デ、デ、デ、デート……?
《わかったら10時に駅前ね》
《はい》
どうやら、世界武術連盟集会よりもビッグイベントが明日の10時から行われてしまうようだ……。
ご閲覧ありがとうございます!
次回をお楽しみに!