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第45話 笑うピエロが1番怖い

 

 ~スミレ視点~


 〔ズガァァァァン!!!!〕


「うわぁ!?ビックリした……」


 何今の。森林エリアの方からよね。


「あれ……?ハルの反応が消えた……」


 つまり、ハルが負けたってこと。それに、ハルの『電磁砲』は奥の手、その奥の手を使っても尚勝てなかったって言うこと……。相当の手練がいるみたい。


「ハルが居なくなったなら森林エリアに向かう必要はないわね」


 私は踵を返し、雪原の崖上に登る。ここからなら森林エリア一帯を見渡せる。


「あそこで煙が上がってる……」


 マップと見比べてもハルがいた位置と合致する。


「ハルが電磁砲を使っても勝てない相手……。たぶん、レオルでしょうね」


 私が1人で森林エリアに突っ込んで行ったとしても勝てない。でも、このままレオルが生存し続けていれば、最後には必ずレオルと戦わないといけない。

 もどかしいわね。


「一か八か……」


 矢を番え、弓を引く。私を中心として骨の芯まで凍りつきそうな冷気が溢れ出る。


『風氷の矢』


 このスキルはMPを消費すればするほど氷柱の本数を増やせるのよね。

 MPはポーションで回復すればいい。


「MP全消費よ」


 溢れ出る冷気の勢いが増した。私を中心とした冷気の範囲は更に大きくなり、大量の氷柱が生成される。


「ざっと、30本ってとこかしら」


 弓を更に強く引く。


「飛距離は……ギリギリ…」


 狙うのはハルがいた場所周囲10mの範囲。冷気が広がれば効果範囲は20mほどまで広がる。

 十分効果はあるはず。


「……ここっ!!」


「鶴矢流『霧時雨』」


『霧時雨』は遠距離の射撃を目的とした弓術の型。練習できる機会が少ないから、他の型に比べて練度は低い……。


 氷を纏った矢を中心に無数の氷柱が放たれる。

 氷矢と氷柱は綺麗な放物線を描き、ハルがいた場所に向かって飛んでいく。そして、大量の氷柱は雨のように降り注いだ。


「ふぅ……なんとか飛距離は足りたみたいね」


 これで倒せるとは思わないけど……。


「まぁ、これだけ目立てば他のプレイヤーが漁夫の利を得ようとするでしょうね。あとは他のプレイヤーに任せましょう」


 私はハイセと合流して、最終安置にいるキッドと合流ね。ハイセもこっちに向かってきてるみたい。


 私はそのままハイセの元に向かった。


 ◇


 その頃、レオルは。


 〔カチカチカチッ……〕


 凍りついていた。


 ~レオル視点~


「突然氷が降ってきたって思ったら……すげぇ冷気だなここ」


「だな。……お、おい、あれ……」


 2人のプレイヤーが僕がいる場所にやってきた。これだけの激戦だと、勝った方もそれなりに消耗してるはずだと漁夫の利を狙ってきたのだろう。

 そして、1人のプレイヤーが僕が凍りついている氷の結晶に指をさす。


「あれは、レオル……?円卓のギルマスだ」


 恥ずかしい……できるなら見ないでほしいな……。


「今なら殺れるんじゃないか!?」


 1人のプレイヤーが飛び出してきた。あれ、やばくない?


 〔ピキピキッ……〕


「ちょ、ちょっと待て!!!」


「え……?」


 〔パキンッ!!!〕


 氷の結晶が砕け散った。ギリギリだった……。


「ふぅ……。知ってるかい?凍結状態の間も視界は開けてるんだ」


「ぐあっ……」


 僕のエクスカリバーは肉薄してきたプレイヤーの胸を貫いていた。貫かれたプレイヤーは粒子となって消える。

 思ったよりも拘束時間が短かったな。これも【対状態異常・中】のお陰だね。


「左腕の肘から先が無い……。お前も瀕死のようだが」


「まあね。まさかバトルロイヤルでこれを使うとは思わなかったな」


 インベントリから1つのアイテムを取り出した。


「それは……!!」


「【秘薬】。滅多に手に入らない超激レアアイテムだね」


【名称:秘薬 UR 説明:どんな傷も状態異常もたちまち回復させる回復アイテムの最高級品。部位欠損も修復し、万全の状態に戻る】


 ギルド倉庫にも残り5つしかないからあんまり使いたくないんだけど、まぁ仕方ないよね。


「させるか……!!」


 もう1人のプレイヤーは手に持つナイフを投げた。

 その程度の攻撃なら凍結の副作用でAGIが低下している今でも容易に躱せる。


 〔ガリッ!!〕


 秘薬を口に運び噛み砕いた。

 俺の身体が薄緑色に光り始める。失った左腕は再生し、僅かだったHPも満タンに戻った。


「覚悟はできてるよね」


「チッ!やってやる!」


 プレイヤーは短剣を構える。でも、もう君の目の前に俺はいない。


「は……?」


「遅いよ」


『覇光閃』


 眩い光と共に目の前のプレイヤーを襲う。光を纏った鋭い剣筋はプレイヤーの身体を斬り裂いた。


「く……そ……」


 プレイヤーは粒子となって消えた。


「…………はぁぁぁあ、危なかったぁ!!」


 ドサッと地面に腰を落とす。だって疲れたもん、こんな立て続けに。


「急に大量の氷柱が降ってくるんだもんな……」


 顎に手を当て考える。

 あれって『風氷の矢』だよね……。矢が飛んできた角度と僅かに残った冷気の残穢から見るに……。


「雪原エリアから……?嘘でしょ……。どんだけ距離あると思ってるんだよ……」


 スミレ……ハイセの影に隠れがちだけど、彼女も異常だ。あれだけの力を持ったスミレでも百花繚乱ではNo.2。その上にはハイセという更に化け物が存在するのだから世の中不平等だよね。


「とんだ化け物カップルだよ……。とはいえ、このままいけばその2人と戦わないといけないんだよなぁ」


 俺がこの場面で秘薬を使った理由は、順位が中途半端だからだ。初戦のポイントくらいいいじゃないかって思うかもしれないけど、こういうのが後々響いてきたりするものだ。


「はぁ……。まぁ、上位に入れば棄権でもいいか……。ここでオリジン使う訳にもいかないし……」


 重い腰を上げようとしたその時だった。

 ゾクリと背中に悪寒が走る。すると、首筋にヒヤリとした物が当たった。短剣だ。


 〔キンッ!!!〕


「誰だ!!」


 後を振り向く。

 そこに立っていたのはピエロだった。あ、いや、冗談じゃないよ。本当にピエロが目の前に立ってるんだ。


「さあっすが!!レオルさぁん!!アハハ!!すぅっごいなぁ!!完全に背後を取ったはずなのんにっ♪」


 な、なんだろうか。この鼻につく喋り方は……。


「君とは……初めましてだね。そんな姿をしている人を忘れるはずがない」


 見るからにピエロの格好をした男は仰々しくそれでいて大袈裟に頭を下げた。


「アハハ!!初めましてぇ!!私、オーリャと申します。ピエロでぇす!!以後お見知り置きを!!」


 ピエロなのは見ればわかるよ……。

 でも、この人……只者じゃない。ふざけているように見える一挙一動には隙がない。それに、俺の背後を取るのに、恐らくスキルを使用していない。プレイヤースキルのみで背後を取ったんだ。


 オーリャは2つの短剣をお手玉しながら近付いてくる。


「アハハ!!さぁ!始めましょう!!」


 オーリャは俺に向かって短剣を投げてきた。速いが警戒する程のスピードじゃない。

 飛んできた短剣を躱す。しかし、


「うおっ……」


 急に短剣の軌道が変わり、避けた俺に向かって飛んでくる。

 ホーミングのスキルかな?


「ほぉらこっちもですよぉ!!」


「なっ……」


 反対方向からはもう1つの短剣が迫っていた。


「危ない……」


 飛んで躱す。左右から迫ってきていた短剣は互いにぶつかり合い地面に落ちた。


「ンフフ、頭上にご注意をっ!!」


「しまった……!!」


 脳天目掛けて短剣が落下している。いつの間に……。


「ぐっ……」


 身体を捻り、肩に短剣が突き刺さる。なんとか脳天直撃は免れた。


「そうか。仰々しくお辞儀をしたのは目を引くためか」


「ご名答!!アハハ!!さすがですねい!!でも、それだけじゃないんですよ?」


 カタカタと地面に落ちた短剣が動き始める。すると、勢いよく飛び上がり凄い勢いで俺に迫る。


「なっ!?ぐっ……」


 2つの短剣は俺の両肩に深い切り傷を負わす。そして、その勢いのまま短剣はオーリャの元に戻っていった。


「んっんっー、両腕を斬り落とすつもりだったのですがぁ、さすがの反射神経と言うべきですねい」


『神速』


「おっとぉ!!速い速い!!」


 瞬時に肉薄し、剣を振り下ろす。


「んー!凄まじい剣技だぁ!!凌ぐので精一杯ですかねい!?」


「黙って戦えないのか!!」


 〔キンッ!!!〕


 オーリャの右手の短剣を弾く。しかし、弾いたはずの短剣はすぐさまオーリャの手元に戻ってきた。


「まるで手品だね」


「ピエロですから?」


「そうかい?なら、種は隠すべきだろう」


 僕の剣は空を斬る。


「ほほう。斬られちゃいましたかぁ」


「その糸で短剣を操っていたのか」


「その通りっ!!このゲームって凄いですよね〜。自由度が高いのでこの様な小細工もできてしまいます」


 自分でも、自分の顔が険しくなっていくのが分かる。

 今の攻防の間、このピエロは1度もスキルを使わなかった。それどころか、見た感じステータス補正もそこまで大きくない。

 糸を使った短剣術……。知っている。中国にある文化遺産の短剣術。

 こいつは……この男は……。


「イェン・リャオ……!!」


「アッハ!!!気付いちゃいます!?気付いちゃいますよね!?だって分かるように立ち回ったんだからねい!!」


 イェン・リャオ。中国にあるイェン家の長男。イェン家は中国の文化遺産『イェン流短剣術』の継承家系であり、中国では古い歴史を持つ家だ。噂によればイェン家の権力は国家にも影響を及ぼすとか……。そして、その長男であるイェン・リャオはイェン流短剣術の次代継承者だった。


「おいおい〜そんな目で睨まないでくれよォ〜」


「お前……!!」


「んっんー、その怒りに満ちた目、どうやら色々話は聞いてるみたいだねい。リオン・ベネクト君」


「黙れ。何のために接触してきた?たまたまじゃないだろ」


「当たり前だろう?僕が聞きたいことなんてぇ〜、分かってる、く・せ・に」


 エクスカリバーを構える。しかし、一瞬でリャオは肉薄してきた。速い……!!

 そして、俺の耳元で呟く。


「ハイセ君についてに決まってるだろ?」


「……」


 〔ザンッ!!〕


「お?……ほほう。恐ろしい速さの斬撃だぁ」


 リャオの右腕を斬り落とした。


「お前に話すことなんかない。失せろ」


「ひっどいなぁ……そんなツンケンしないでよん。な〜ら〜……本人から直接聞くよ。【百花繚乱】のハイセに」


「行かせるわけないだろ。お前とハイセを会わせる訳にはいかない」


「ほほーう。かっくいい!!なら、力尽くで通るまでだねい」


 剣と短剣がぶつかり合う。激しい戦闘が始まった。


 ◇◇◇


 戦いは熾烈を極めた。

 リャオの攻撃は変幻自在、思わぬ所からの攻撃や独特な駆け引きに苦戦した。そして、


「ぐっ……」


「僕の勝ちだよん。リオン君」


「くそっ!!」


 地面に抑え込まれ、首筋に短剣を当てられた。


「リオン君も中々やるねい!でもさぁ〜、その程度じゃハイセ君には勝てないんじゃないかなん?」


「黙れ……」


 くそっ……今一番聞きたくない言葉だ。


「それじゃあ〜、僕はハイセ君に会いに行こうかな」


「待て……!!」


「なんだい?敗者に口なしだよ」


「くっ……。ハイセに何かしてみろ……、僕はお前を殺しに行くからな……!!」


 リャオを睨みつけた。


「……へぇ、そんな目できたんだ」

(眠れる獅子とは正にこの子の事を言うんだろうね。おぉ、怖い怖い。情けなくもブルっちゃった)


 リャオは僕に近づき、耳打ちした。


「安心しなよ。"まだ"なにもしないから」


 その言葉を残すと、リャオは僕にトドメをさした。


【HPが0になりました。蘇生ポイントに転移します】


 ◇


「「「リーダー!!」」」


「レオル!!お前が負けるなんて」


「デイル……皆……」


「どうした?顔色が悪いぞ」


 負けた。負けてしまった。


「なんでスキルを使わなかったんだ?」


「俺にも色々あるんだよ」


「色々って言ってもお前、今はギルドの……」


「デイル、ちょっと黙ってくれ」


「っ!?す、すまん……」


 はぁ、今のは八つ当たりだ。後で謝ろう。コンペの最中に私情を挟んだ僕が悪い。

 イェン・リャオ……強かった。途中までは押していたはずなのに、段々あいつのペースになっていった。


「俺は……弱いな……」


「そ、そんなことねぇよ!お前はWSOのナンバーワンプレイヤーだ!」


「そうですよ!」

「元気だして!!」


 WSOではじゃダメなんだ。もっと、もっと強くならないと。守るべき人を守るために。


 ハイセは、何も知らない。イェン家についても、過去に何があったかも、鷹見家の人間も鶴矢家の人間もハイセには何も教えなかった。たぶん、ハイセに1番近いスミレも知らない。

 俺が"この事"について知ったのもベネクト流を正式に継承してからだ。


 あいつは、リャオはまだ何もしないと言っていた。その言葉を鵜呑みにするのは良くないが、あの感じからして欠片くらいは信じてみるか。

 いや、負けた僕には信じるしかないんだ。


 ◇◇◇


 ~ハイセ視点~


「一気に人減ったな」


「パルスが迫ってきて密集したからでしょ」


 俺はスミレと合流し、最終安置である市街地に着いた。すぐ後ろにはパルスが迫っている。


「残りは……10人切ったな」


「初戦にしては上手くやった方よね。円卓と一緒になったのに」


「そだな。レオルを見かけないってことはあいつもしかして負けたのか?」


「その方が気が楽だけど、どうかしらね」


 その後も1人また1人とプレイヤーが減っている。


「あ、ハイセさん!!スミレさん!!」


「おーキッド。ちゃんとキル稼いだか?」


「はい!バッチリですよ!」


 キッドも上手いことやったみたいだ。あとは順位を伸ばすだけって、言ってもあと5人か……。


「俺、スミレ、キッド……の他に2人か」


 〔ギャー!!!!〕


 叫び声だ。声のタイミングで1人減ったってことは、残りの1人が声の場所にいる。


「お前らは安置でゆっくりしてろ」


「私も手伝うわよ」

「俺も!」


「大丈夫、俺だけで十分だ」


 俺は2人を残し、声の出処に向かった。


 ◇


「ここら辺だよな……」


 確かに争った形跡がある。


「……おい、バレバレだぞ。出てこい」


 俺の背後から気配がビンビン感じる。


「アハハ!!バレちった!凄いねきぃみぃ!!」


「うわっ……マジかよ……」


 ピ、ピ、ピエロだ……やめてくれよ……俺ピエロ苦手なんだよ……なんか怖いじゃん……。

 スミレ呼ぼう……無理だ。


 俺がウィンドウを開いた瞬間だった。


「ダーメ!!!」


 ピエロは一瞬で肉薄し、短剣を振り下ろしてきた。


「チッ……近寄るなよ!!怖いなぁ!!」


「アッハ!!話題の侍の意外な弱点はっけーん!!ピエロが怖いなんてぇ、お子ちゃまだねい!」


 ぐっ……腹立つなこいつ畜生。怖くて悪いかよ。俺はホラーが苦手なんだ。ジャパニーズホラーもアメリカンホラーももれなく大嫌いだ。


「でもさぁ〜、怖いなんて言ってられるのカナ?」


 ピエロは手に持っていた短剣を投げてきた。俺は左に避けて躱す。しかし、ホーミングするように短剣が俺を追ってくる。


「……くだらねぇ小細工だ」


 短剣に巻きついていた糸を切った。

 上手いこと操ってたな。リアルは大道芸人かなんかか?


「っ!?……まさか初手で気付かれるなんてね」


「それだけか?」


「うおっとっとっ!!速いねい!!」


「鷹見流『驟雨』」


 納めていた刀を抜刀した。目にも止まらぬ速さの斬撃がピエロを襲う。


 〔キンキンキンッ!!〕


 全部弾かれた!?驟雨は最速の抜刀術だぞ……?それを初見で防ぐとかどんな動体視力してんだ。


「凄い技だねい……」


 俺の型を見たピエロは口角を大きく釣り上げ狂気じみた笑みを浮かべていた。

 ……怖い怖い怖い怖い!!!無理!!笑うなよ!怖い!!やだ!!助けて……スミレ……キッド……。


 もう無理だ……さっさと終わらそう……。


「ふぅ……」


 精神を落ち着かせ、覚めた瞳でピエロを見据える。……怖い。


「はあっ!!」


 一瞬でピエロに肉薄し、刀を振り抜く。


「鷹見流『鳴神一文字』」


「うおっ!」


 ピエロは短剣でガードの体勢を取る。


「鷹見流『陽炎』」


(すり抜けた……!?)


「鷹見流『冴ゆ時雨』」


 切り返した逆一文字がピエロに炸裂する。


(型の連携をこの完成度で……)

「すごいねい!じゃ、こんなのはどうかな!?」


 ピエロはそう言うと俺の左右に短剣を投げた。


「どこ狙ってんだ」


「よいしょお!!」


 そういう事か。ここは市街地エリアの道路のど真ん中。ピエロが投げた2つの短剣の先には鉄柱が設置されていた。

 短剣に括り付けられていた糸はピエロがグッと引っ張ると綺麗に鉄柱に巻きついた。そして、短剣は軌道を変え、俺に一直線に飛んでくる。


「大した大道芸だ」


 バク宙でその短剣を躱す。その時、ニヤリと笑うピエロの顔が視界に入った。……だから、怖いって……。


「これで終わりだよん」


 そうか。なるほど、そういや最初の短剣の糸って切ったんだったな。左右に投げた短剣には糸が付いていた、ピエロはいつの間にか3本目の短剣を用意していたんだ。


「よっ。危ねぇなぁ」


 空から短剣が降ってきた。糸が付いていないってことは、これが俺が最初に糸を切った短剣だろう。いつの間に上空に投げたんだ?


「どういう事かなぁ?完全に死角だったはずなんだけどねい」


「あ?えーっと、勘?」


「アハハ!!勘か!!そうか!!」


 何がおもろいんだ……。怖いな……。


「噂は本当みたいだねん……」


「え?なんて?」


「なんでもないよん。今回は君の勝ちでいいよんハイセ君。じゃ、またどこかで会えるといいねい!!」


「え?あ、おい!!」


 ピエロはこっちを向いたままバックステップでそのまま建物の影に消えていった。笑いながら。そして、最後にはじゅるりと舌なめずりをして。


 ア……オレ……モウムリ……。

 俺の中で何かがプツンと切れた。


【オーリャが棄権しました】

【生存者が同一ギルドであるため、試合を終了します】


 バトルロイヤルが終了し、上空に花弁が舞う。

 俺はこれ以上にないくらいの全力ダッシュでスミレの元に戻った。


「あ、ハイセ!!勝ったみたいね……?うわっ!?」


 俺は勢いそのままにスミレに抱きついた。

 キッドは顔を逸らす。


「ど、ど、どうしたのハイセ?ちょっと……まだ公式チャンネルの配信がついてる……」


「ピ、ピエロ……無理……怖い……」


 身体中がブルブルと震える。


「ピエロ?何言ってるのよ……あー、そう、なるほどね……」


 スミレは苦笑いしながら俺の背中を擦る。


「もう……ホラーになった途端これなんだから……」


 スミレに宥められながら俺達はアリシアのお店に転移した。


 俺がスミレに抱きついたシーンがトレンド入りしてしまうのはまた後の話である。


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