第43話 Guild Competitive
ギルドイベント。正式名称は『Guild Competitive』(ギルドコンペティティブ)と言うらしい。略称で『ギルコン』や『コンペ』と呼ぶのが一般的だ。
「開会式とかないんだな」
「うん、参加ギルドも多いからね。『I streaming』のWSO公式チャンネルから実況解説の人がルールとか説明してくれるの」
今はアリシアの店に集合している。ギルドハウスをまだ決めてないから、基本的にはアリシアの店に集まることになってる。
早く決めないとなぁ。
「始まるみたいよ」
店にあるスクリーンにはWSOの公式チャンネルが映し出された。
『Hello Everyone!!!!見えてるかな? 始まってるかな?よしよし、見えてるね!皆待ちに待ったギルドイベント『Guild Competitive』が始まるぞぉぉぉお!!!』
コメント欄は盛り上がってるみたいだ。この人ってD.Cの時の実況解説の人だよな?人気なのかな。
『実況解説は毎度おなじみレイナが務めさせて貰うよ!さっそくだが!簡単に今大会について色々説明するぞ!!!』
モニターには表が映し出される。
『まず『Guild Competitive』略して『コンペ』は、ご存知の通り、ギルドの頂点を決める大会だ!!開催期間は3ヶ月に1度!春夏秋冬各シーズンで開催され、シーズン毎の順位やポイントを合わせた総合順位によって優勝ギルドが決まるぞ!各シーズンの大会は2日かけて行われる!!今日の第1部と明日の第2部だ!!』
なるほど、今回で決まる訳じゃないのか。各シーズンの総合順位……ここで1位をとっても残りのシーズンがボロボロだと意味無いって事だな。それに、明日もあるのか。戦う内容も変わるみたいだな。
『戦う内容についてはシーズン毎に変わるので注意だ!!そして、今回第2回コンペ夏の陣第1部は!?』
レイナは大きく息を吸い込み、カッと目を見開く。
『チキチキ!!最後まで生き残れ!!ギルド対抗バトルロイヤルゥゥゥゥウウ!!!!』
ギルド対抗バトルロイヤル?
『ルールを説明するぞ!!』
レイナによるルール説明が始まる。
ギルド対抗バトルロイヤル。
その名の通り、ギルド対抗のバトルロイヤル。エリアはコンペの為に用意された限定エリアだ。そこそこの広さらしい。そして、時間経過と共にパルスと呼ばれる円がエリアの外側から縮小し、活動可能エリアを制限していく。
10のギルドが集まり、ギルド毎に代表者5名を選出する。つまり、総勢50人のプレイヤーによるバトルロイヤルが始まる訳だ。試合回数は計5試合行われる。
「俺達は戦闘員が4人しかいない。人数不利だが、4人でやるしかない」
「まぁ、急造のギルドだから仕方ないわよね」
人数不利くらいどうって事ない。こちとら一人一人のプレイヤーの質が高い。1人足りなくても負ける気はしないな。
詳しい大会ルールだ。
開始時間と同時にエリアに転移する。ギルド対抗とあるが、転移させられる場所に関しては個人でランダムらしい。合流するか、各個撃破するか、そこから選択肢が出てくる。
そして、キルポイントと順位についてだ。キルポイントは1試合目~3試合目まで3ポイント上限、4試合目は6ポイント上限、最後の5試合目に関してはキルポイント上限はないらしい。
順位ポイントについては、1位12P、2位9P、3位7P、4位5P、5位4P、6位~8位3P、9位~15位2P、それ以下1Pとなる。
「ほぇー、5試合目はキルポ上限無しか。俺ら以外の45人倒せば45Pか」
「そんな上手くいくわけないでしょ。上手くいっても10Pくらいが関の山じゃないかしら?」
「そうだねぇ、前回のコンペにもバトルロイヤルはあったけど、個人の最高キル数は15だね」
ほう。すごいな、レオルかアデル辺りがやったのだろう。
『以上が今回のコンペ『ギルド対抗バトルロイヤル』のルールだ!!』
バトルロイヤルか……。この手のゲーム形式に関してはあまりやってこなかった。じじいが学生の時には一世を風靡してたらしい。世界大会なんかも開かれて賞金総額が億を超える大会もあったとか。今もあるにはあるが、昔ほどの盛り上がりはないらしい。
『次に!今回の注目選手、注目ギルドを紹介していこう!!事前にWSO公式チャンネルリスナー100人からアンケートを取ってきたので発表していこう!!』
モニターに、ギルド名が映し出される。
最初はやっぱりこいつらだな。
『まず最初の注目ギルドは、ギルド【ナイツ・オブ・ラウンド】!!前回大会で優勝している彼らに注目が集まるのは当然だろう!コンペ以外のイベントでも好成績を収めている【ナイツ・オブ・ラウンド】は今回も優勝を収めることはできるのか!?』
「コンペ以外にもギルドイベントってあるんだな」
「そうだよ!でも、今回みたいなガチガチな大会じゃなくて、ラフなカジュアル大会みたいな感じ。クリスマスイベントとかWSOリリース周年イベントとかかな」
「ふーん」
カジュアルイベントにも賞品や賞金はあるらしい。開催される時は積極的に参加しよう。
『次の注目ギルドはリーダー、ゴクウ率いるギルド【サイユウキ】!!前回大会は2位の成績を収めているぞ!!【円卓】とは惜しくも僅差での2位!!WSOにおける4大ギルドと呼ばれるギルドの1つだ!!』
初めて聞くギルドだ。
「ゴクウって名前も初めて聞くな。D.Cの本戦にもいなかった」
「ゴクウって人はレオルさんに2次予選で負けてたはずですよ!棍棒を使ってます」
ゴクウで棍棒か。まんまだな。
「ハルは戦ったことあるか?」
「無いですよー。でもレオルさんも結構苦戦してたみたいですから警戒するに越したことはありませんね」
レオルでも苦戦するほどの相手なのか……。棍棒使いのゴクウ、覚えておこう。
『そしてそして!!紹介する最後の注目ギルドは!!期待の超新星!!D.C優勝者ハイセ率いる【百花繚乱】!!』
「おぉ、俺らか」
『ギルド設立僅か数週間の彼らだが、所属するメンバーが只者じゃ無さすぎる!!サブマスはD.C3位入賞の『スミレ』!PVPの申し子『ドクロ狩りのハル』!どこのギルドにも所属しなかった『孤高の黒騎士キッド』!そして、サポートには"あの"『アリシア』が所属している!!』
「孤高の黒騎士だってよ。カッコイイな」
「笑わないでください……」
「まぁ、出会う前は渋いキャラでやってたものね」
「スミレさんまで……恥ずかしい……」
2つ名や通称なんてのは見てるリスナーやプレイヤーが勝手に付けるもんだ。自分の好みになるかどうかはわからないよな。俺やスミレにはどんな2つ名が付くのだろうか。
「"あの"アリシア?」
「はは……まぁ、気にしないでよ。あんまり凄いことでもないから」
「そうか?」
気にしないでと言われてもめちゃくちゃ気になるな。聞いて欲しく無さそうだし、気にしないでおくか。
『アンケートで注目選手の大半を占めていたのは【百花繚乱】のギルドマスターハイセ!!次に、レオル!!次に、アデルという結果だ!!オリジン武器所持者と肩を並べるハイセにはより一層の注目が集まるぞ!!』
「さすが師匠ですね!!」
「D.Cで優勝したのがデカかったんだろ。今回はスキルもステータスもある。D.Cの時のようにはいかないだろうな」
俺にはレオルやアデルのようにWSOに対する知識が豊富な訳じゃない。その分プレイヤースキルでカバーしないとな。
『試合開始は10分後!!諸君の健闘を祈る!!!!』
さて、やっと始まるのか。
「作戦は?合流するの?」
正直、マッチするギルドにもよる。もし、レオルやアデルがいるのであれば合流した方がいいだろう。
マッチするギルドは完全ランダムだ。
「いや、各個撃破だ。俺達にはそれだけの技量がある。キッドも大丈夫か?」
「はい、攻撃スキルも持ってますし、ソロの立ち回りもそれなりに確立してます」
頼もしい言葉だ。これなら、いけるだろう。これで円卓やオーディンと被ったのなら運がなかったってことだ。
「最近は運もいいし大丈夫だ。勝とうぜ」
その後は詳しい立ち回りを相談しながら過ごした。限定エリアに関してはルール説明が終わったあとに地図が配られている。
荒野に森林、雪原に火山。説明にもあったがそこそこ広い。
そして、試合開始時刻を迎える。
「私はここから応援してるね!頑張って!」
「おう。じゃ、行ってくる」
俺達4人は限定エリアに転移した。
◇◇◇
ワープして視界が明るくなる。
「暑っつい……火山エリアか……」
最悪だ……。暑いのが1番嫌いなのに。
「まずは、確認だな」
俺はウィンドウを開き現状を確認する。
試合が始まればマッチしたギルドと仲間の位置を確認できる。
「スミレは雪原か。あいつ寒いの苦手なのに大丈夫か?ハルは森林、キッドは市街地か」
距離は俺だけ離れてる。まぁ、各個撃破って指示出してるし気にしなくてもいいか。
「ギルドは……まじか……」
マッチギルドの中に見覚えのある名前があった。
「円卓……くそっ。ここで運に見放されるか……。一筋縄にはいかないな」
こればっかりは仕方ない。キルポ稼いだら生存重視の立ち回りでもいいな。
「さて、まずはこいつをどうするかだな」
「マジか。ハイセじゃねぇか」
「よう、デイル。この間ぶりだな」
火山エリア。障害物が少なく遮蔽がない。ここに転送されたならすぐに見つかるだろうな。って思ってたら案の定だ。
「D.Cでのリベンジさせてもらうぞ」
「やれるもんならやってみろ」
俺は刀を抜き、デイルはレイピアを構える。
『『神速』』
俺とデイルは同時に肉薄し、激突する。神速持ちか。
「……っ!?」
速いし重い……。俺が押されている……?
「STRとAGIのバランス振りか」
俺もバランス振りだが、ステータスに関してはデイルの下位互換になってしまう。こればっかりは仕方ない、デイルは古参だ。歴が違う。
「ステータスの差を埋めるための、プレイヤースキルだ……!!」
「鷹見流『鳴神一文字』」
レイピアを受け流し、技を放つ。しかし、俺の型は容易に躱された。素早いな。
「さすがの剣技だ。レオルと通ずる何かを感じる」
「そうか」
『覇剣』
『豪炎天魔』
なるべく早く決着を着けたいところだ。バトルロイヤルは決闘みたいに乱入ができない訳じゃない。早く決着を着けて漁夫の利に対応しないと。
『二ノ太刀』
アリシアに貰ったスキル。さっそく使うか。
俺は再度肉薄する。
『轟炎』
燃え盛る真っ向斬りはデイルを襲う。
「なっ……」
しかし、捉えたはずのデイルの姿が煙のように消える。
「幻覚……?」
「分身だ」
「っ!?」
〔ガンッ!!!!〕
デイルはすぐ背後に迫っていた。いつの間に……。第六感のお陰で間一髪でレイピアの突きを防ぐことが出来た。
「完全に取ったと思ったのに、背中に目でもあるのか?」
「その言葉も聞き飽きた」
俺の背後にいつの間に入ったんだ?いつから分身と入れ替わった?これがWSO最古参でナンバーワンギルドのサブマスの立ち回りか……。強い。
「どんどん行くぞ」
『縮地』
デイルは再度俺の背後を取る。
縮地……!?それってレア度Cの雑魚スキルじゃ。
俺は反応し、カウンターの構えを取る。
「鷹見流『幽冥一閃』」
しかし、デイルはまた煙のように消える。分身だ。
「チッ………こっちか!!」
俺はさっきよりワンテンポ早めに背後に斬撃を放つ。
「ぐっ……」
「くっ……」
デイルの剣先が俺の肩に突き刺さる。だが、俺の刀もしっかりデイルを捉えた。
「くそ、対応力半端ないな。大体の奴らは対応出来ずに殺られるんだが」
「"大体の奴ら"と一緒にすんなよ」
「それもそうだな。だが、俺が勝つ」
「俺も1つのギルドを率いるリーダーだ。負ける訳にはいかない」
デイル……正直舐めていた。だが、さすがはレオルに次ぐ実力者だ。これが、スキルとステータスを使ったデイルの本気か。
「ふぅ……」
簡単にはいかない。目の前に集中しよう。
1つ息を吐き、俺は感覚を最大限研ぎ澄ました。
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