第41話 火力こそジャスティス
私の不手際で、ネログリムとの戦闘シーンが1部抜けてしまっていました。
改稿しましたので、ごゆっくりご覧下さい。
申し訳ございませんでした。
◇SA【麓の街:レディア】
「ア、アデルに手伝って貰えるってラッキーだな」
「……」
「スミレ、無視しないでくれよ……」
「知らない」
さっきの一件で怒らせてしまったようだ。
「待たせたなぁ……って。どしたお前ら」
「なんでもねぇよ馬鹿野郎」
「ひでぇな……」
合流したアデルが俺の元に来てコソコソと耳打ちする。
「や、やっぱまずかったか……?」
「いや、まぁなんだ。俺もよくわからん」
泣きそうな顔でアデルを見ると何かを察したように苦笑いした。
「あー……なんだ。気にするこたねぇよ、初めての時は緊張して上手くいかない事もある。大丈夫だ、次する時は……」
「おい、なんの話ししてんだよ」
「え?ハイセが不能に……」
「ちげぇよバカ!!」
「バカバカ言うなよ!じゃあどうしたんだよ!」
「いや……まぁ……」
俺は事の顛末をアデルに話した。
「なるほどなぁ、お前が鈍感馬鹿ってことは分かったよ」
「おい!鈍感馬鹿はやめろよ!」
「かー!女性の気持ちを理解できない可哀想な男だぜはいせは!」
「てめ!」
「ちょっと、早く行きましょうよ」
痺れを切らしたスミレが圧を強めて言ってきた。ここは大人しく着いて行った方がいいな。
俺とアデルはスミレの後に続く。
「そういうアデルはどうなんだよ」
「どうって?」
「その……彼女とか」
「あ?いるに決まってんだろ。思春期真っ盛りの高3男子だぞ」
まじか……。まぁ、アデルはイケメンな部類だ。モテるだろうし彼女もいるか。
「誰?地元の人だろ?」
「いや、遠距離だ。同い年で東京に住んでる。確かお前らの住んでる所ら辺だったと思うぞ?」
「おいおい誰だよー。紹介しろよ」
「はぁ?誰でもいいだろ」
意外と知ってる人かもしれないな。
「あれ?ハイセにスミレ、アデルまで……どうしたの?」
他愛もない話をしていると目の前に見慣れた人物が2人立っていた。
「よーリオ……レオル。この間ぶりか?」
レオルとデイルだ。
「そうだね……まだ黒龍狩りしてたんだ。それに、アデル、君もなんで一緒いるんだい?」
レオルとデイルはジト目でアデルを見る。ギルドイベント前にトップギルドのギルマスが他ギルドの連中としかも完全武装した状態で歩いていれば何事かと思うよな。
「ハイセに負けたから黒龍狩りに付き合わされんだよ。やましい事はねぇ」
「ハイセに負けた?決闘したのかい?」
「いや、リアルの話だ」
「リアル……ああ、なるほどね」
「今こいつら俺ん家に遊びに来ててな。せっかくだから手合わせしてもらったら案の定ボコられたよ」
「まぁ、そうだろうね!」
なぜかレオルが胸を張り自慢げな顔をしている。
「なんの話をしてるんだ?」
デイルが話についていけず首を傾げている。継承者だって知らないもんな。
「なんでもないよ。……いいなぁ、俺もハイセ達にリアルで会いたいよ」
「なら遊びに来ればいいだろ?今は俺達は丁度夏休みだ。いつでも来いよ」
「うん!ギルドイベント終わったらすぐ行くよ!!」
レオルも可愛い所があるな。すると、レオルは何かを考え始め思いついたように顔を上げた。
「そうだ!!俺も黒龍狩りに付き合うよ!!」
「え!?おいレオル!?」
「なんだいデイル?」
「流石にまずいだろ……。お前はリーダーって立場なんだ。イベント目前で他ギルドのリーダー達と遊ぶってのは他のメンバーに示しがつかない」
「トップギルドのリーダーのアデルもいるし、傍から見たらイベント前の親睦会にしか見えないよ」
「いや、そういう問題じゃ……」
「じゃ、メンバーへの説明は任せたよデイル」
「お、おい!!レオル!!」
レオルが段々身勝手になっていってる気がする。まぁ、レオルがどんなリーダーだったかはあまり知らないが、デイルの反応を見る限りレオルも俺やアデルの悪い所の影響を受けてしまっているみたいだ。
「すまんな、チップ。おたくのリーダー借りてくぞ」
「デイルだ!!わかってやってるだろ!……はぁ、もう好きにしろよ……」
デイルはそう言いトボトボとギルドハウスの方向へ歩いて行った。
「サブマスって大変だな」
「「そうだな」」
「はぁ……そうだな。じゃなくてもっとあんた達がしっかりしてたら良いのよ」
ようやくスミレの口が開いた。
「ははは……そうだね。ていうか、なんでスミレはそんなに不機嫌なの?」
馬鹿野郎。わざわざ聞かなくてもいいだろ……!!
「そこにいるバカがいけないのよ。まぁ、別に期待してなかったけど」
「ま、まぁ、何があったか知らないけど、ハイセしっかりね」
「おう?」
なんだかよくわからないが、そんなに言わなくてもいいじゃないか。
俺は肩を落とし、フィールドボスが待つ五龍山へ向かった。
◇◇◇
◆BA【五龍山】
「この4人で狩りいくのは初めてだな」
アデルが唐突にそんなことを言う。
「そういえばそうだな。アデルとレオルは一緒にクエスト行ったりするのか?」
「たまに行くよ!でも、大体ギルド合同とかパーティ合同とかだからこうやってプライベートで行くのは初めてかも?」
確かに、この2人で何かしてるってイメージはないな。
「お、おい……あれどうなってんだ……?」
「レオル、アデル、ハイセ、スミレ……。豪華メンバー過ぎないか?」
道行くプレイヤーが俺達に気付いたようだ。
そういえばこのメンバー結構凄いよな。No.1ギルド円卓のギルマスとトップギルドオーディンのギルマス、D.Cでの優勝者と3位入賞者。
期せずしてWSOのトッププレイヤーが集まった豪華パーティーになった訳だ。
「そういえば、ハイセのギルドのサブマスって誰なんだ?」
アデルはそんな当たり前のことを聞いてくる。そんなの決まってる。
「スミレだ」
「え?私なの?アリシアじゃないの?」
「アリシアはあくまでギルド運営の先生みたいなもんだ。頼むぞサブマス」
「わかったわ」
やっぱり頼りにされるのは嬉しいのかな?これで少しは機嫌が治ってくれればいいけど。
「よし、そろそろだな」
「頑張ろう!!」
レオルは気合が入ってるみたいだ。継承者同士楽しそうにしてるのが羨ましかったのだろう。
◆SBA【フィールドボス:龍王ネログリム】
いつも通り、ネログリムは落雷と共に舞い降りてきた。
毎度毎度ビックリするんだよなこの演出。いきなりドカーン!!って。心臓に悪い。
「レオル、こいつの狩り方はお前の方が詳しいだろ」
「うん、ネログリムとはもう何回も戦ってる。良い素材ドロップするし、戦闘経験にも持ってこいだね」
「円卓がレディアにギルドハウスを構えるのも納得だ」
さて、俺もいい加減こいつの顔見飽きたからさっさと終わらせたいものだ。
「ネログリムの弱点は顎の下にある逆さに生えた鱗だよ。レアドロップの元になってる龍の逆鱗」
ファンタジーとかによくある有名なやつだよな。まんま弱点だとは思わなかった。
「やるぞ」
『『神速』』
『『覇剣』』
俺とレオルは同時に同じスキルを発動する。
『魔滅の刃』
『豪炎天魔』
燃え盛る炎はへし切長谷部を覆い、眩い白光はエクスカリバーとレオルを覆った。
「なるほどなー。それがハイセが新しく手に入れたって言うへし切長谷部か。レオルと同じスキル構成、覚えとかねぇとな」
どうせ情報は出回ってる。バレたって別に問題ないだろう。たぶん。
「くるよ」
「おう」
初手はネログリムの突進攻撃。俺とレオルは余裕を持って躱す。
『風氷の矢』
スミレが放つ氷の矢と無数の氷柱は全てネログリムに直撃する。
〔ガァァァァ!!!〕
ヘイトがスミレに向いてしまう。
ネログリムの周囲に浮いている5色の球体がスミレに向かって放たれた。
「よっ」
〔パパパパパンッ!!!〕
「別に躱せたのに」
「一応だよ」
アデルがすぐさまカバーに入り迫る球体を全て弾き壊した。
『必中』
『絶撃』
『嵐絶の矛』
アデルも全てのスキルを発動する。
「よいしょ!!!!」
アデルはグングニルを思いっきり投げた。暴風を纏ったグングニルはネログリムに向かって一直線に飛んでいく。そして、綺麗に逆鱗直撃した。大ダメージだ。
「鷹見流『驟雨』」
「ベネクト流『クレシェンテ・フリア』」
左右から燃える連撃と光る連撃がネログリムを襲う。
前衛3人後衛1人。しかも、剣に刀に槍、とんだ脳筋構成だ。
「だが、火力こそ正義!!!」
『火神一文字』
瞬時にネログリムの正面に回り、技を繰り出す。
燃え盛る横薙ぎの一閃は弱点である逆鱗に炸裂した。
〔ガァァアアア!!〕
「やべっ」
ネログリムは大きく口を開け俺に噛みつき攻撃を繰り出した。攻撃範囲が広い。躱せないか。
「とりゃ!!」
「ぐっ……」
レオルに蹴飛ばされた。おかげで回避出来たが……釈然としないな。
「いつぞやのお返しだよ」
レオルはベッと舌を出して言ってきた。生意気な。
「ほら、喋ってないでどんどんいくよ」
『風氷の矢』
スミレは再び氷の矢を放つ。もうそろそろ凍るかな?
そう思っていたら案の定、ネログリムの尾からカチカチと凍り始めた。
「お先!!」
「鴇亜流『覇貫』」
アデルの強力な1突きが逆鱗に直撃する。
「「俺も!!」」
俺とレオルは同時に肉薄し、技を放つ。
「鷹見流『鳴神一文字』」
「ベネクト流『フルミネ・ブル』」
「どいて」
スミレは矢を番え、力強く弓を引く。
「鶴矢流『業風剛穿』」
とてつもない勢いの矢がネログリムの逆鱗に直撃した。4人の攻撃で相当なダメージが入ったようだ。
『小賢しい……!!』
ネログリムは空中に浮かび上がる。またあれか。
フィールドから5色のオーラの様なものが溢れ、空に浮かび上がっていく。そして、それらは球体となり各属性を纏った。
「来るぞ」
空から無数の球体が降り注ぐ。
もう何回も見てきた。今なら容易に躱せ……ない!?
〔ドドドドンッ〕
「ぐあっ……!!」
「ハイセ!?」
「スピードが出ねぇ……」
そうか。今回は敏捷の丸薬を飲んでない。ハルのバフも無いからいつもよりAGIが低いんだ。
「しっかりしてよ」
「すまん」
俺に迫る球体は全てレオルが弾いてくれた。
「いいね。2人共オリジンは使うのか?」
「ギャラリーが多いね。どうしようか」
気付けばSBAの周囲には大勢のプレイヤー達が俺達の戦いを見守っている。
どこからか俺達がパーティーを組んでるって情報が出回ったのだろう。
「エクスカリバーのオリジンは去年のギルドイベントで散々見られてるから。俺は気にせず使えるよ。アデルはどうする?」
「えー……。まぁどうせ1回戦で見られるしなぁ……。いいよ、使ってやるよ」
オリジンを使ってくれるみたいだ。こりゃ一瞬で終わりそうだな。
「ハイセ、どうするの?」
「……。2人が使うなら使うしかないだろ。俺達だけ使わないってのも卑怯かもな」
「あー、合技の話?」
「合技!?」
いや、普通にレオル言っちゃってるし。アデルは驚いてるようだ。折角神経質になって隠してたのに。
「あ、ごめん……」
「いいよ、使うつもりだし」
それじゃ、時間も遅いしちゃちゃっと終わらせますか。
『聖剣:エクスカリバー』
エクスカリバーからは眩い白光が放出する。光はレオルを包み込み、シルバーのフルプレートメイルは黄金に輝く。光のマントを翻し、エクスカリバーを構える。
『神槍:グングニル』
グングニルからは荒れ狂う嵐が放出される。暴嵐はアデルを包み込み、アデルは深緑のロングコートを羽織り、深緑のハットを被った。暴嵐の化身となったグングニルからは神槍を思わせる圧倒的な覇気が放出されていた。
「レオル、同時に行くぞ」
「うん」
"神格化"の効果で大幅に強化されたステータスで2人は目にも止まらぬ速さで肉薄する。
『騎士王の覇光』
『神撃の槍」
とてつもない威力の2つの攻撃がネログリムに直撃する。
これで終わったんじゃないか?
『ぐおぉ……』
そんな甘くないか。HPはあと3分の1程残っている。
「いけるか?」
「バッチリ」
『大鷹の暴嵐』
スミレは矢を番え、ネログリムに向けて狙いを定める。ネログリムの攻撃はレオルとアデルが引き付けてくれている。俺達は思う存分合技に集中出来る。
暴風を纏ったスミレの矢は、大鷹に姿を変えネログリムに迫る。
『轟炎』
炎を纏った真っ向斬りの斬撃は次第に大きくなり、ネログリムに迫る。
そして、暴嵐の大鷹と轟炎は混ざり合い、1つの攻撃となる。
『『合技:豪炎鳥』』
巨大な炎の鳥はネログリムに直撃し、巨大な火柱を立てる。
『ぐぉぉぉおお!!!』
継続的に大ダメージを与え、残りのHPを全て削りきった。
【DEFEAT THE ENEMY】
「あれ、何も言わないんだな。そのまま消し炭になって消えた」
「ふぅ……。特殊演出だよ。一定以上のHPを一気に削って倒すと何も言わずに消えるんだ」
神格化を解除したレオルがそう言ってきた。
「合技ハンパねぇな。俺が今まで見てきた合技の中でも特に攻撃に特化した技だ。ギルドイベント前に見れてよかったよ」
「そりゃどーも。俺はお前らのオリジンをどうにかできる気がまったくしないけどな」
ただ、オリジンを使用するのは毎回終盤だ。恐らく消費MPがバカ多いのと神格化の効果時間の影響だろうな。最後の一押し、決定打を与えるための奥の手なんだろう。
「あ……出たわよ。逆鱗」
「まじか!!やっと終わったぁ……」
このままダラダラ2人を手伝わすのも気が引けるし、キリのいい感じに終わってくれてよかった。
「防具はどうするの?今から作る?」
「今はアリシアが居ないからまた今度だな」
新しいSR防具。楽しみだ。
「んじゃ、レオル、アデル。ありがとな。次会うときはギルドイベントだ。手加減しねぇからな」
「こっちのセリフだ。新参ギルドに負ける訳にもいかないんでな」
「そうだね!じゃ、俺はデイルに怒られに戻るよ!またね!」
そう言ってレオルは手を振りながらワープした。
ギルドハウスに戻るためのアイテムらしい。便利だな。
「俺もログアウトしたらそのまま寝るから。また明日な」
「おう」
アデルもそのままワープしていった。俺達は徒歩でレディアの宿まで帰らなければいけない。早くギルドハウス立ててワープアイテム作らないとな。
「ハイセ」
「ん?」
「話があるの。ログアウトしたらそのまま待ってて」
「お、おう……」
話ってなんだ……?なんか怖いな。今はさほど機嫌が悪い訳じゃ無さそうだ。まさか怒りを通り越してとか……?
俺は一抹の不安を抱えながらログアウトした。
ご閲覧ありがとうございます!
次回をお楽しみに!