第37話 龍の名は伊達じゃない
『わ、我が……羽虫……ごときに……』
赤龍は粒子となって消えた。
【DEFEAT THE ENEMY】
「ふぅ……さすがに強いな」
「強さ的にはフロストギガンテスより少し強いくらいかしら」
俺達2人なのに意外と勝てるもんだ。俺達も成長してるってことかな。
「他にプレイヤーは居ないみたいだから、このまま周回しよう。ポーションに余裕はあるか?」
「ええ、念の為に多めに持ってきてるわ」
「よし、5分後リポップだ。準備しとこう」
「次は何色かしらね」
黒であってほしいな。
だが、やっぱ2人だと時間がかかるな。ハルとキッド呼び戻すか?いや、ダメだ。 あの2人もやるべき事がある。本当ならレオルやアデルに頼みたいところだがギルドイベントもあるし、頼れないよなぁ。
「やっぱギルドメンバーもっと増やした方がいいよな」
「そうね。円卓で確か80人らしいわ、オーディンが52人で、漆黒の翼が89人…」
円卓よりも漆黒の翼の方が多いんだな。まぁ、初心者勧誘とかしてるから所属人数は多いんだろう。
「俺達は5人、そのうちアリシアは非戦闘員だから戦えるのは4人……フルパすら組めないな」
MAX5人までパーティーを組めるのだが、それすらできない。
「こればっかりは仕方ないわ。ギリギリ参加出来だけでも良しとしましょ」
「そうだなぁ、メンバーは追々集めるとしよう」
周囲を見渡すとチラホラとプレイヤーが見える。五色龍を狩りに来た訳じゃなく、その周囲のリザード達を狩っているみたいだ。
「おい、あの人って」
「ああ、ハイセだ……」
チラチラ見てくるって思ったら、なんだ、俺の話してんのか。
「すっかり有名人ね」
「それはスミレもだろ」
デュエル・コロッセオを経て俺達の名は広まった。正直スキルなしでの大会で優勝したからと言って俺が最強という訳では無いのだが。
「まだ"あの論争"続いてるの?」
「みたいだなー。俺はしっかり"最強じゃない"って明言したのにな」
スミレが言う"あの論争"とは、簡単に言えば『WSOにおいてハイセは実際最強なのか?』というものだ。
俺は大会後の表彰式の場でしっかり『スキルを使って戦ってないから最強ではない』と言ったにも関わらずあらゆる掲示板やSNSでそんな論争が起きているのだ。
とあるSNSの投稿内容。
『D.Cでハイセって日本刀使いが優勝したけど、スキルありだったら俺でも勝ててた説』
それに対するリプ。
《ただの妬みで草wwwww別にハイセ信者じゃないけど、プレイヤースキル重視のこのゲームであれだけの技術持ってたら並のプレイヤーじゃ勝てないでしょwww》
『別に妬みではないですけど……。純粋にスキルありだったら勝てる可能性があるって話ですけど?』
《いや、無理でしょwwwそもそも1次予選で負けてる人が何言ってんの?w》
『僕じゃ無理かもしれませんね。でも、レオルが使ってたら勝ててたかも知れませんよ』
《論点ズレてるからww"お前"でも勝てるって言ってたよね?ww》
◇
「見るに堪えないな……。皆暇なのかな?」
「そういうもんでしょ?揚げ足の取り合い、マウントを取って愉悦に浸りたいのよ」
「辛辣だな」
最終的にはレオルとハイセどちらが強いのかという話になる。
オリジン武器を持ちWSOリリース当初から第一線で活躍しているレオル、剣術を扱い猛者を諸共しない突如現れた日本刀使いの新生の俺。
「レオルの方が強いだろ」
「どうでしょうね。私はハイセの方が強いと思うわ」
「なんで?」
オリジン武器とか防具の性能なんか天と地ほどの差があると思うけど。
「理屈じゃないの。ただ、ハイセが負ける姿を想像できない。それだけ」
「ふーん」
負ける姿を想像できないか……。それは俺が"そう見せてきた"からだろうな。鷹見家の人間は決して人に弱みを見せない。スミレ達に見せる日常のちょっとした弱点は見せたりするが、それとは違う戦闘においての圧倒的風格だ。
「ん?リポップしたみたいね」
「よし、やるか!」
俺達は意気揚々とSBAに足を踏み入れたが、黒龍ではなく白龍だった。
◇
【白龍:ブライト】
『わ、我が……羽虫……ごときに……』
「はい次!」
【青龍:レイン】
『わ、我が……羽虫……ごときに……』
「はい次!!」
【緑龍:アニマ】
『わ、我が……羽虫……ごときに……』
「はい次!!!」
【黄龍:ワット】
『わ、我が……羽虫……ごときに……』
【DEFEAT THE ENEMY】
「ぜんっぜん来ないな」
「やっぱり特殊個体みたいね。一応5色の龍は倒したけど」
もし黒龍が特殊個体なら黒龍の逆鱗も確定ドロップなのかな?フロストギガンテスの魔氷の時は確定だったけど。
「……。スミレ半歩前に出ろ」
「え?うん」
俺がそう言うとスミレは半歩前に出た。
〔パァァァン!!!〕
すると、銃声と共にスミレが元いた位置にライフル弾が放たれた。
「狙撃!?」
「ああ、俺達が青龍を倒した辺りからずっと様子を伺ってたみたいだ」
ずっと様子を見ているだけだったのに、最後の黄龍を倒してから明確な殺意を向けてきた。
タイミングを見計らっていたのか。
「おーい何外してんだよ、モッブ!」
「すまねぇお頭!どうやらこいつら運が良いみたいで!」
ゾロゾロとプレイヤーが出てきた。10人くらいか?
「全員ドクロ付き、盗賊か?」
「はっは!ノコノコの2人で来たってことはやっぱり俺様の事を知らないみたいだなぁ!!」
「知らねぇよ。忙しいんだ、早くしてくれ」
「生意気なガキだぁ。この俺様、盗賊ギルド【荒猿】のリーダー"ダックス"を前にしてそんな口を聞くとはなぁ」
猿なのか犬なのかはっきりしてほしいな。こいつの頭の中には犬猿の仲って言葉は無さそうだ。
「はいはい、マントヒヒだかシベリアンハスキーだか知らねぇがなんでこのタイミングで狙ってきたんだ? ずっと見てたろ」
「"荒猿"の"ダックス"だ!!よく気づいていたなぁ……。そう何を隠そうお前達が5色の龍を倒すのを待っていたのだ!!」
「5色の龍を?なんで?」
「ふっ、冥土の土産に教えてやろう。お前達は黒龍を求めてきたのだろう。黒龍の出現条件……それは!!5色の龍を倒すことだ!!!!!」
ほう。そんな条件があるのか。ということは黒龍は別に特殊個体ではないのか。一定条件で出現するレアモンスター的立ち位置みたいだ。
「情報提供ありがとう。帰っていいぞ」
「おい!舐めるのもいい加減にしろよ!?」
「はぁ、あんたらが漁夫してるから五色龍に挑むやつが少ないんだろ?盗賊を生業にするのは良いがやりすぎはダメだぞ」
「うるせぇ。黒龍の素材は良い稼ぎになるんだ。大人しく帰れば殺しはしない」
大体のプレイヤーはこの人数に萎縮して黒龍を渡してきたんだろうなぁ。
お?てことはこいつら黒龍の素材持ってんじゃ……。
「俺様は寛大だ。見逃してやるからとっとと帰れ」
「いや……俺はお前達を見逃さない。正義の鉄槌を味合わせてやる」
「あ、なるほど。そうね、正義の名にかけてあなた達を見逃す訳にはいかないわ」
どうやらスミレも理解したようだ。俺とスミレはニヤリと笑い刀を抜き、矢を番える。
「この人数を相手にお前達正気か?不遇武器の分際で。こっちとしては好都合だ、現実を教えてやろう。お前ら!!やるぞぉ!!!」
〔うぉおおおお!!!!〕
荒猿のメンバー達は雄叫びを挙げ、一斉に飛びかかってきた。
「黒龍素材いただきっ!」
『豪炎天魔』
『覇剣』
「鷹見流(WSO.ver)『火神一文字』」
へし切長谷部の特殊効果で燃え上がる一閃は大きく拡張され、襲いかかってきたプレイヤー数名を巻き込んだ。
〔ぐぁぁああ!!!!〕
巻き込まれたプレイヤーのうち2人ほど一撃必殺を食らい粒子となって消えた。
「んー、全員一気には無理かぁ」
「コツコツいきましょ」
「鶴矢流『光風三閃』」
スミレは速射で3発の矢を放つ。矢は的確にプレイヤーの額を貫き、粒子に変えていく。
「な、なんだこいつら!強ぇ!!」
「お手本のような負け役のセリフだな」
「ぐあぁ!!」
プレイヤーの首を落としていく。一人一人は大したことないな。
〔パァァァン!!!〕
〔キンッ!!〕
「っぶね!!」
「なんでそれを弾けるんだよ!!」
狙撃手がいるんだったな……。危ない。
狙撃で加州清光を折られてから銃には少し敏感なんだよな。
「スミレ、狙撃手頼む」
「もう終わらしてるわ」
そう言いスミレは上空を指さした。
もう終わらしてる?あ、そういう事か。
「なんだ?あいつら急に動きが止まった。これはチャン……え…?」
狙撃手の脳天に矢が突き刺さった。
「鶴矢流『五月雨』」
「んな馬鹿な……」
狙撃手は粒子となって消えた。一撃必殺だ。
「さて、後はお前だけだぞ。ポメラニアン」
「くっ……まさかこんな化け物が。あとダックスだ」
「これは正義の鉄槌だ。決して邪な思いがある訳じゃない。いいな。これは正義だ。ちなみにお前って賞金首?」
「ふっ……俺様には50ゴールドの賞金が…
「正義執行!!!」
【懸賞金付きのプレイヤーの討伐に成功しました】
儲け儲け。こいつ倒すだけで50ゴールドはデカイな。ギルドハウスも建てなきゃだし貯金だな。
「あ、ハイセ。いいものあげるわ」
「いいもの?」
スミレからアイテムが贈られてきた。
【黒龍の逆鱗】
「お!!やっぱあいつら持ってたかぁ。黒龍ばっか狩ってるみたいだったから持ってると思ったんだよ」
【名称:黒龍の逆鱗 SR 説明:龍王と呼ばれる黒龍の逆鱗。防具を作成する際、繊維と織り交ぜる事で繊維の強度を最大限高めることができる。一定確率で特殊効果を得ることが出来る】
「これで1枚ゲットだな。あと2枚だ」
「黒龍の出現条件まで教えてくれるなんて親切な人達ね」
「そうだなー。盗賊して何が楽しいんだか」
楽しみ方は人それぞれか。盗賊もWSO公認だし、節度守ってたらそれでいいか。
「さて、残り2枚ちゃちゃっと集めようぜ」
俺とスミレは準備を整え、再びSBAに足を踏み入れた。
◆SBA【フィールドボス:龍王ネログリム】
『我が残片を破りし者よ。我が直々に手を下してやろう』
フィールドから赤、青、緑、黄、白、5色のオーラが浮かび上がり、ネログリムに集約していく。
「これは……一筋縄じゃいかなそうだ」
「慎重にいきましょう」
5色の龍と比べて明らかに雰囲気が違う。独眼竜と同レベルかそれ以上だ。2人じゃキツいか……?
『かかってこい人間。龍王の恐ろしさを教えてやろう』
ネログリムの周囲には5色の球体が浮かび上がる。それぞれその色の属性を宿しているようだ。
「スミレ、弱点探せるか?」
「やってみるけど、あんまり余裕はないかも」
「わかった。後はいつも通りだ。幸い周りの目はない、合技も使っていこう」
「了解」
『豪炎天魔』
『覇剣』
『神速』
全てのスキルを解放する。
2人だから【隠密】は使えないだろうな。背後を取るのは無理だ。真正面からの殴り合い。
「俺の得意分野だ」
俺はネログリムに肉薄し、刀を振り下ろす。
「おらぁあ!!」
〔ガンッ!!!〕
なんだ?手応えがほとんどない。
「これは……」
ネログリムの体と俺の刀の間に水属性のバリアが張られていた。
俺の刀が火属性だから水属性で防いできたのか。手強い。
『風氷の矢』
スミレは氷の矢と生成された無数の氷柱をネログリムに向けて放つ。しかし、
〔ジュッ…〕
「火属性のバリア」
氷の矢と数本の氷柱はネログリムの周囲に展開された火属性のバリアによって相殺された。
「鬱陶しいわね……」
各属性を使いこなすモンスターか。
スミレの攻撃を全て防がなかったってことはそれなりに隙はあるみたいだな。
「今はハルがいない。MPの管理に気をつけろよ」
「わかってる」
全ての攻撃を防げる訳じゃないなら、手数とスピード勝負だ。手数はスミレに任せよう。
俺は再度ネログリムに肉薄する。
「鷹見流『驟雨』」
繰り出された6つの炎の斬撃はネログリムを襲う。
『ぐおぉ……』
俺の眼前には水属性のバリアが展開されている。しかし、防がれたのは3つの斬撃、残り3つはしっかりネログリムに命中したようだ。
「よし、いける」
パッシブスキル【心眼】の効果で会心を出す度に俺のAGIが上昇する。
ハルのバフ分はこれで補えそうだ。だが、ネログリムに全ての攻撃を当てるにはもっとスピードが必要だ。
「これ使っとくか」
【敏捷の丸薬】
実は出発前にアリシアに貰ったステータス強化のアイテムだ。龍王は手強いからと念の為にくれたのだ。
「ありがたい」
〔ガリッ……!!〕
「うぇ……苦ぇ……」
【名称:敏捷の丸薬 R 説明:AGI+5。効果時間120秒】
効果時間は通常のバフよりも1分長い優れ物だ。だが、希少な物だから値が張る。あまりドカ食いは出来ないな。
「私も」
スミレは俺とは違う色の丸薬を取り出した。
【名称:巧妙の丸薬 R 説明:DEX+5。効果時間120秒】
「うっ……酷い味……」
これでステータスは十分だ。
「鷹見流『轟雷』」
『ぐあぁ!!』
「やっぱりな、俺のスピードにバリアの展開が追いついていない」
『大鷹の暴嵐』
「鶴矢流『業風剛穿」
暴風を纏った矢は勢いを増してネログリムに飛んでいく。そして、その直線上に雷属性のバリアが展開された。
〔バチッ…パァァン!!〕
『ぐおぉ…!!』
雷属性のバリアは容易く暴風の矢によって破られ、暴風はネログリムを襲った。
「一気に行くぞ」
「ええ」
丸薬の効果は120秒。この時間内に終わらせてやる。
ご閲覧ありがとうございます!
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