第36話 初期装備でも愛着は湧く
ギルド設立も完了し、互いの顔合わせも済んだ。
「んで、なにしたらいいんだ?」
俺の一言にメンバーはガクッと肩を落とす。
「しっかりしてよ、リーダー」
「ギルドなんて初めてなんだ。なにしたらいいかわかんねぇよ」
今までやってきたゲームも基本ソロだった。イベントの度にギルドに入ることはあったけどあくまで傭兵のような一時的な加入くらいだ。リーダーでギルドの運営経験なんてない。
「アリシアはギルドには入ってなかったのか?」
「まだ戦闘員だった頃は入ってたよ!一応サブマス!」
「そうか、ならアリシア先生。よろしく」
「丸投げしないでよぉ。サポートはしてあげるから、リーダーが頑張って」
「はいよ。んー、そうだなぁ……」
ギルドイベントが始まるのは2週間後だ。しばらく時間はある。やるべき事は個々の強化とパーティー連携の練習だ。
チラッとメンバーを見る。
うん、やっぱりこれだな。
「よし、装備整えるぞ」
「うん!いいと思う!でも、割と整ってると思うけど?キッドなんか特に完璧に近い装備だし」
ここでメンバーの装備を紹介しよう。
【キッド】武器:夕闇の盾剣 UR 防具:黒鋼装備一式 SR アクセサリー:鋼鉄の腕輪 R 黒鋼の釘 R 万能の指輪 SR
【ハル】武器:ピースメーカー SR 防具:ホークスマント SR 幽鰐 (ホロウアリゲイツ) 装備一式 SR アクセサリー:チャージリング R 巧妙の指輪 SR
【アリシア】武器:水龍小槌 UR 防具:匠鍛冶師装備一式 UR アクセサリー:匠の指輪 SR 匠の指輪 SR 匠の指輪 SR
【スミレ】武器:大鷹和弓 SR 防具:巫女装備一式 R アクセサリー:巧妙の指輪 SR
【ハイセ】武器:へし切長谷部 UR 防具:宵闇のロングマント SR 初期装備一式 C アクセサリー:なし
「「「「「…………」」」」」」
圧倒的に俺が弱い。
「未だに初期装備……」
「師匠……さすがにこれは……」
メンバーから痛い目で見られる。やめてくれ。
「俺だって良い装備ほしいさ。でも、中々しっくりくるのがないんだよ」
「じゃ、そこにあるフルプレートメイルでいいじゃない。値段はするけどSRよ?」
「刀とフルプレートメイルは合わん」
かっこよさも大切だ。
「はぁ…あそこに半着と袴があるわ…」
「あれは性能が悪い。レア度も低い」
性能とレアリティも大切だ。
「もう!初期装備よりはマシでしょ!黙って着なさいよ!」
「やだ」
こだわる所はこだわりたい性分なんでな。
「本当にわがままばっかり……。嫌って言ってもどうしようもないでしょ?どうするの?ギルドイベントあるのにリーダーが初期装備じゃカッコつかないわ」
「スミレさんの言う通りですよ師匠!ていうか、デュエル・コロッセオも初期装備で出てたのも驚きですよ」
「まぁ、デュエル・コロッセオは一撃も受けてないからな」
「装備によってはステータスが大幅に強化されますから。当然ですけど今よりももっと強くなれます」
「て、言われてるけどどうするの?」
俺だって好きで初期装備でいる訳じゃないさ。でも、防御よりも火力を先に求めてしまうのってあるあるじゃない?え?俺だけ?
「別に初期装備にこだわってる訳じゃない。ただ中途半端が嫌なんだ」
「SR以上の防具もそう簡単にある訳じゃないからねぇ……」
こういう時は便利な情報屋さんであるレオルに…って言いたいとこだが、さすがにブチギレられるな。
「攻略サイトでも見て探してみるよ」
「私も手伝うわ」
俺とスミレはウィンドウを開いて攻略サイトにアクセスした。
「僕は欲しいアクセサリーあるんで!ちょっとダンジョン行ってきます!」
「ソロで大丈夫か?」
「どうですかねぇ……。一応SRのアクセサリーがあるみたいなんで、難易度はそこそこです」
ハルは元々ソロでやってたようなものだし、心配はないと思うが。
「キッドついて行ってやってくれ。俺達は欲しい装備見つけたらそのまま行くから。キッドも何かいる物あればハルと一緒に回ってくれ」
「「了解です!!」」
ハルとキッドはそのままアリシアの武具店を出ていった。
「さて、どこかにいい装備ないかなぁ」
「ドロップ品から探すの?素材集めてくれれば私が作るけど」
「それもいいな。できるなら和装がいいんだけど」
「そうだねぇ……ちょっと待って」
アリシアはウィンドウを開いて作成可能な装備を探し始めた。マスタースミスであるアリシアなら限定ドロップ品以外ならほとんどの装備を作れるだろう。
ただ、素材の入手難易度が高かったり、確率が低かったりする。
ちなみに"へし切長谷部"が限定ドロップ品になる。
「限定ドロップ品の方が性能は上だろ?」
「大体はね。でも、鍛冶師の腕と運次第では限定を凌ぐ強さになることもあるよ。スミレの弓が良い例だね」
確かにスミレの弓は限定のSR弓よりも遥かに性能がいいな。
「お、あったあった。和装。『龍王装備』だね」
「龍王?」
めちゃくちゃ強そうな名前だな。
「うん、五龍山ってエリアのフィールドボス:五色龍を討伐するとドロップする素材で作れるみたい」
「どうせレアドロップなんだろ?」
「まあね。確率で言えば魔氷並かなぁ、2週間で間に合えばいいけど」
「やるだけやってみるさ」
俺とスミレは準備を始める。
「五龍山ってどこにあるんだ?ワコク?」
「違うよ。シアレストから北西に進んだ先にある【レディア】って街の隣にある大きな山だよ」
五龍山なんて和風な名前なのにワコクじゃないのか。とりあえず行ってみるか。
「わかった。飛龍で行けばあっという間だな」
「行ってらっしゃい!!あ、そうだハイセ、忘れてるようだから言っておくけど」
「なんだ?」
「ギルドハウス建てるのもちゃんと考えといてね」
「えぇ……」
ギルマスって大変なんだな。やることが山積みだ。ギルドハウスを建てるのもギルマスの権限が必要だから結局俺がやらないといけない。
「建てる街さえ決めてくれれば私で土地探しておくけど?」
「頼むアリシア。ギルドハウス建てる時は最高の鍛冶場用意するからな」
「そう来なくっちゃ!!どこに建てるの?」
それは訪れた時から決めてる。
「"ワコク"。"城下町オワリ"で探してくれ」
「おっけー!じゃ、ワコク行ってくるから、戸締りしといてね!」
アリシアも急いで店を出ていった。戸締りって言ったってこんな路地裏来る人いるのか?
「せっかくだからスミレの装備も探そうぜ」
「そうね、いつまでもRの装備じゃダメだし」
俺達は【レディア】へ旅立った。
◇
「あ!!」
ワコクにワープしたアリシアはとあることを思い出した。
「そう言えば【レディア】って【円卓】のギルドハウスがあったっけ。トラブルにならなきゃいいけど……。ま、大丈夫でしょ。わぁ、ここのお団子美味しそぉ」
アリシアは一抹の不安を抱えながらワコク観光に励むのだった。
◇◇◇
◇SA【麓の街:レディア】
「意外と大きい街なんだな」
麓の街って言うくらいだから、ゼナルド山脈の麓にあるロザルドをイメージしていたが、ロザルドの倍はあるな。
ロザルドは村みたいな感じだったけど、ここは街って感じだ。
「良い街だな。ここにギルドハウス建ててもいいかもなぁ」
「そうね。ショップも豊富みたいだし、いいと思う」
「だよなー……ん?」
街を進んだ一番奥に一際大きな建物が現れた。まるで役所だ。
「なんだろうな。あれ」
「なんかキラキラしてるし、趣味が良いとは言えな……あれ?あのマークって……」
「あれって」
あのマーク。見たことあるな……。どこで見たっけ。
「「あ……」」
「「レオルのギルドマーク」」
レオルの鎧の左胸に同じマークがある。この趣味の悪……個性的なギルドハウスは円卓の物だったのか。
「レオルのセンスって変わってるわね」
「そう言ってやるな。てか、ギルドイベント前にこんなとこいたら勘違いされないか?偵察とか」
「そうね、早く五龍山に行きましょう」
俺とスミレは踵を返して、帰ろうとするが目の前には見た事のあるプレイヤーが居た。
「ん?お前達は……」
「あ、デュエル・コロッセオの時の……えっと……チップ!!」
「デイルだ!!」
「そうそうデイル!レイピアの!じゃあな、またどこかで会おう!」
俺とスミレはその場を立ち去ろうとするが、ガシッとデイルに肩を掴まれた。まずい。
「せっかくだから寄ってけよ。"うち"のギルドハウス」
「いやいや、No.1ギルドのギルドハウスにお邪魔するなんて恐れ多い」
こいつ……俺達から情報を扮だるく気だな。
「何言ってんだ。俺もレオルもボコボコにしたやつが。遠慮はいらねぇよ」
「あれ?ハイセにスミレ?」
1番聞き覚えのある声が聞こえた。
「よ、よぉ、レオル……」
「なんで2人が?……ああ、なるほどね。まぁ、上がりなよ」
レオルがニヤニヤしながら言ってきた。
「警戒しないでよ。別になにかしようって訳じゃないから」
「信用できるかよ!敵ギルドだろ!」
「その敵ギルドから人材斡旋希望したの誰だよ……」
それを言われちゃなにも言い返せないな。
「だが、ギルド作ったばっかで俺達も忙しいんだ」
「そうだよね、足止めして悪かったね!」
「ああ、ギルドイベントが終わったら遊びに来るよ」
俺達はレオルとデイルに手を振りその場を後にした。
「いいのか、レオル。あいつらは強敵だ。引き出せるだけ引き出してもよかったんじゃ」
「んー、いや、ハイセのギルドの情報はある程度掴んでるし、あの2人がここに来た理由もだいたいわかる」
「あー、なるほど、あの人まだ初期装備だったな」
「うん、ここからは技術面でもゲーム面でも手強くなってくる。気をつけよう」
◆BA【五龍山】
五龍山、木々が枯れている所もあれば生い茂っている所もある。焼け野原になっている所もある。
「変な場所ね」
「お、赤いモンスターだ」
【名称:フレアリザード 弱点:?? 討伐P獲得条件:水属性攻撃でとどめを刺す】
水属性攻撃か。スミレは氷と風だから討伐Pは稼げそうにないな。
「あっちにもいるわね」
「なんかカラフルだな」
【名称:アクアリザード 弱点:?? 討伐P獲得条件:雷属性攻撃でとどめを刺す】
「五龍ってだけあって、5つの各属性のモンスターが生息してるのか」
「チラホラ円卓のギルドメンバーが見えるわね」
「狩場になってんだろ。このリザード達は良い討伐P稼ぎになるんだろうな」
「ほんと良い場所ね」
最高の環境ってのも円卓が最強たる所以なのかもな。
「お、ここか」
「何もいないけど」
SBA指定なのに、フィールドボスの姿が見えない。普通ならSBAの奥で突っ立ってるのに。
「入ってみりゃわかるだろ」
俺とスミレはSBAに足を踏み入れた。
◆SBA【フィールドボス:五色龍(赤)】
『また羽虫が我の寝床に入り込んだか』
「喋った!ってか何処だ?」
どこからともなく声が聞こえてきた。
『鬱陶しいのぉ…。早いところ追っ払うか』
急に空が暗くなった。SBAの上空には分厚い黒雲が立ち込めゴロゴロと稲光が黒雲を中心に渦巻いた。
〔ドォォォォン!!!!!〕
「うわぁ!!ビックリした!!」
『我に挑みし愚かな羽虫よ。龍の力を受けてみるがよい』
落雷と共に大きな龍が降りてきた。
【赤龍イグニス】
「なるほど、五色龍ってのは5色の龍の総称なのか」
「どの色の龍が出てくるかはランダムってことみたい。それでSBAに入るまではわからないようになってるのね」
一種のガチャ要素か。
「んで、俺が必要な素材って何色なんだ?」
「"黒龍の逆鱗"が3つよ。だから、黒色の龍」
黒かぁ。ん?待てよ……。ここに来るまでに出会ったモンスターの色をまとめてみよう。
「赤、青、黄、緑、白………」
黒無くない?
「まさか、特殊個体とか、そんな事ないよな……」
「嫌な予感がするわね……」
特殊個体は本当に稀にしか出現しない。フロストギガンテスの時も2日ぶっつけで周回してやっと1体出ただけだ。
「長い戦いになりそうだ」
とりあえず、目の前の赤龍だな。デカいし強そうだ。今回はスミレと2人だし、気を抜かずにいこうか。
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