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第34話 推しのためなら死ねる

 

 ~ハイセ視点~


「俺のファン?」


 キッドはぶっ倒れてからしばらくして戻ってきた。倒れる前は硬派なイメージだったが、さっきのメッセージのやり取りで素が露見してしまった。


「はい……ずっと配信見てて、それで……」


 ていうか、別に白状しなくてもなりきりプレイしてるやつなんていくらでもいるんだから、貫き通せばよかったのに。

 俺のファンか……、そんなに配信見られてるのかな。


「俺にファンなんているんだな」


「あ、当たり前ですよ!!チャンネル設立して僅か数ヶ月で登録者数10万人を突破!不遇武器ながら圧倒的な強さを見せつけるハイセさんにはたくさんのファンがいるんですから!」


「そ、そうか……」


「もちろん!スミレさんやハルさんにもたくさんのファンがいますよ!お2人はアイドル的存在ですから!」


「ア、アイドル……?私が?」


「はい!スミレさんの美貌と美しい射型は見る人を魅了しています!」


「そう……」


 ちょっと嬉しそうだな。ハルはドヤ顔をしている。まぁ、チャンネルの運営はハルに任せてるし、そこら辺は知ってるんだろ。


「ハイセさんのソロ討伐配信は毎回同接1万人を超えてますし、トレンド入りもしてます!そんな方にファンが居ないはずがないです!!」


「わかったから、落ち着けって」


 キッドは鼻息を荒くしながら説明してくれた。まさかそこまで人気が出てたなんて。別に歩いてても声掛けられないし、そこまでなのかと思ってた。

 レオルやアデルなんかは街歩けば色んな人に声掛けられてたし。


 自分のチャンネルを見てみる。

 登録者数62万人。直近の討伐配信の再生回数は100万再生を超えてる。ワコクのフィールドボスだからみんな気になってるのか。


「あ、あの……ギルド加入の件はまだ有効ですか……?」


 恐る恐るといった感じでキッドが話しかけてきた。そういや、その話をしてたんだっけ。すっかり話が逸れた。


「ああ、キッドが良ければだが」


「まだ皆さんの前で実力示せていませんけど……」


「確かにな。だが、信用してる奴からの紹介だから実力は疑ってない。ギルドイベントの締切も近いから決断はなるべく早い方がいい」


「そうですか…」


 キッドは俺達のファンだ。いきなり好きな配信者のギルドに入ってくれって言われたら動揺するよな。やっぱり難しいか?


 ぎゅっと唇を噛み締め、キッドは俺を見た。


「俺は推しのためなら死ねます!よろしくお願いします……!!」


「死なない為に入ってもらうんだよ。ありがとな。よろしく頼む」


 俺とキッドは握手を交わした。この手は洗えないとかなんとか言っていたがそれはスルーでいこう。


「信用してる奴からの紹介って言っても、とりあえず実力は見ときたいな」


「キヨスの城に行くんですか?」


「いや、あそこはお前が倒れたあと俺達で攻略してきた。フィールドボスにしよう」


 俺達は場所を変えて、フィールドボスがいる場所に向かった。


 ◆BA【ムツノクニ:ダテ山道】


「師匠、ムツノクニってなんですか?」


「陸奥国ってのは昔存在した令制国の1つだ。今で言う福島、宮城、岩手、青森だな」


 ワコクはどれだけ区分されてるんだろうか。ノブナガの話の中でチュウゴクは出てきたな。


「……」


「キッド」


「は、はい!?」


 キッドは緊張からかガチガチに固まってしまっている。


「そうガチガチになるな。失敗したからってギルドから追い出したりしないから」


「はい……!が、頑張ります!!」


 そしてまたガチガチになった。ダメだこりゃ。


 ◆SBA【フィールドボス:独眼竜】


「おー、やっぱドラゴンってのはかっこいいなー」


「強そうね」


「冒険者ランクでいえばS級のモンスターですね」


 俺達が見上げているのは体長5mを超えるドラゴン【独眼竜】だ。片目は閉じ、大きな傷がついていて、額には三日月のような角が生えている


「キッド、ドラゴンとは戦ったことあるか?」


「はい、何度か。ドラゴンはブレスと上空に上がってからの突進攻撃が強力です。今まで戦ったどのドラゴンもそうだったので間違いないと思いますよ」


 なるほどな。おそらくWSOの歴で言えばキッドが1番長い。その上、色んなパーティーを渡り歩き、数多のモンスターと戦ってきた。その経験値は大きな武器となる。


「やっぱりキッドを誘って正解だった」


「まだ戦ってませんけど……?」


「こっちの話だ。気にすんな」


 すると、俺達の背後から5人組のパーティーが現れた。どうやら、独眼竜を狩りにきたらしい。


「あちゃー、先着が居たか……って、おい!キッドじゃねぇか!」


「んんっ……ナイルか、久しぶりだな」


 キッドの知り合いか。転々としてると顔も広くなるよな。てか、ずっとそのキャラでやってたんだ。


「久しぶりだな!またどっかのパーティーに入れてもらってんのか!?」


 ナイルと呼ばれた男はキッドの背中をバンバンと叩き、俺達を見た。


「……お?どっかで見たことあるって思ったら、かの有名な日本刀使いじゃないか!生では初めて見るなぁ」


「どーも」


 俺が有名っていうのもあながち大袈裟じゃないみたいだ。


「レオルの次はハイセか!贅沢だなぁキッド!どうせギルドにも入らねぇんだろ?」


「いや、俺はハイセのギルドに入ることにした」


「まじか!!お前がとうとう!!キッドのお眼鏡にかなうなんてやるなぁ」


「ま、まぁな。ハイセ達は俺が認めるだけの力がある。俺が支えるに値するだろう」


 キッドはそんなこと言ってるが内心相当焦ってるだろうな。さっきのキッドの態度からは考えられない言動だ。


「そっか!じゃあお前達の戦い見物させてもらうぞぉ」


 そう言ってナイルは下がっていった。


「ふぅ……」


 俺達3人はキッドをジト目で見る。


「支えるに値するかぁ。ありがたい話だ。キッド様様だぜ」

「ほんとね、キッドが居なければ私達どうなってたかしら」

「キャラ作りって大変ですね。僕は素のままで良かったです」


「や、やめてくださいよぉ……」


 冗談はさておき、まずはこいつの攻略だ。俺達はSBAに足を踏み入れる。


「俺達はドラゴン狩りは初めてだ。セオリーとかあるか?」


「そうですね、特にはありませんけど、ゴリ押しで勝てるモンスターではありません」


「そうか。俺は普段必要最低限のことしか指示を出さない。バフくれとかカバーしてくれくらいだ」


「はい、知ってます」


 そっか、配信見てるんだよな。


「俺達にIGL※は存在しない。お前のその経験を活かして、自由に戦ってみろ」※IGL(In Game Leaderの略。主にゲームの司令塔となる人物のこと)


「はい!!」


 キッドは大盾からロングソードを抜き、独眼竜の前に立った。


 〔ギャオオオオオオ!!!!〕


 独眼竜が吠える。放たれた音圧は木々を揺らし、俺達を圧倒する。さすがドラゴンだ。


「ハル、バフ頼む」


「了解です!」


『ステータス上昇』『オートヒール』


「ん?」


 バフを掛けたのに、ヘイトがハルに向かない……?まだキッドはなにもしてない。

 すると、独眼竜は大きく息を吸い込んだ。


「ブレスが来ます!!」


「タゲが誰にも向いていない……!範囲攻撃だ!」


 初見だからどの範囲まで攻撃が来るのかわからない。勘で躱すか?いや、防御を捨てて走り回るのは危ない。防御に徹するか。


「俺がやります」


 キッドは大きく跳び、俺達の目の前に着地し、大盾を構える。


「その為の"盾"ですから」


 キッドは頼もしく笑う。さっきの緊張はどこへ行ったのやら、頼もしい限りだ。


黒翼壁(こくよくへき)


【スキル:黒翼壁 UR 説明:盾を中心に硬度等級:超級の大きな黒翼の壁を展開する。展開された壁に攻撃が当たると範囲内にいるパーティーのDEFを+2する】


 盾のアクティブスキルにはカウンター系と防御系がある。その防御系のスキルの硬度等級としてランクが分かれている。下から下級、中級、上級、超級、超越級。

 キッドのURスキルは最高硬度の超越級だ。突破するのは至難の業だ。


 URスキルか。てことは、キッドが使うこの大盾もURなのかな。強力なスキルだが、ドラゴンのブレスを耐えきれるのか?


 〔ゴォォォォォォオ!!!!〕


 独眼竜はブレスを吐く。やっぱり走らなくて良かった。SBAを埋め尽くすほどのブレスだ。どうやら、特定の岩陰に隠れてやり過ごすみたいだな。


「これは初見殺しだな。キッド、大丈夫か?」


「はい……!!大丈夫です!!」


 そう言っているが、黒翼壁の半透明の黒い翼は相当なダメージを受けている。


「ん……?」


 なんだ?段々炎が大盾の中心に収束している。


「【ダメージ吸収】この大盾の特殊効果です」


 吸収されたブレスは大盾の中央にある黒い水晶玉に吸い込まれる。すると、キッドの体からはバフがかかったエフェクトが溢れる。


「吸収したダメージは自分のステータスを強化したり、属性を付与する為に貯めたりできます。もちろん上限はありますけど」


「えげつないな」


 つまり、攻撃を受ければ受けるほどステータスが上がるってことか。属性の付与……貯めれば貯めるほどその威力も上がるのか?上限はあるらしいが、めちゃくちゃ強力な大盾だな。


 独眼竜はブレスを吐き終える。

 ハルが掛けたバフはまだ継続している。


「スミレ、人目がある。合技は温存だ」


「そうね。切り札は取っておきましょう」


 ギルドイベント、まだ何をやるか詳しくは知らないが情報の漏洩は命取りだ。


『覇剣』

『豪炎天魔』


「ゴリ押しは通用しない……か」


 俺の得意分野なのになぁ、ゴリ押し。ちょっとは考えるか。

 ドラゴンは基本的にHPが多く、攻撃の手数が多いらしい。なにより、空中に飛んでからの攻撃が1番厄介で弓や銃みたいな遠距離武器主体となるらしい。

 レオルにたまには自分で調べろって怒られてから俺も攻略サイトや配信とか見て勉強してきたのだ。


「飛ばれる前に殺る」


「ちょ……ハイセさん!?」


 俺は独眼竜に肉薄する。


「鷹見流(WSO.ver)『火神一文字』」


 猛々しく燃え上がる一閃は独眼竜の胴体を捉える。


「むっ……思ったよりダメージが入らん」


「ハイセ!!」


 スミレの声が耳に入る。


「やべっ」


 独眼竜の爪が俺に迫っていた。思ったよりも速いな。

 これは躱せないか。


 〔ガンッ!!!〕


「おぉ……」


「それをゴリ押しって言うんですよ!!」


 キッドの大盾が飛んできて、俺に迫る爪を防いだ。そして、大盾はキッドの元に戻っていく。


「なるほど、アデルと同じ【必中】か」


 防いだと言うより、爪を狙って大盾で弾いたって感じだな。大盾を投げるって……すごい筋力だな。


「これは……思ったよりも大変だ……」


 ボソッとキッドが呟く。

 何を今更。俺のギルドに入った時点でキッドみたいな常識人は苦労するのが目に見えている。

 これからも頑張って欲しいものだ。


「スミレ」


「うん」


 俺は再度独眼竜に肉薄する。スミレは矢を番え、弓を引く。スミレの周囲からは冷気が溢れ、矢じりは氷と化した。


『風氷の矢』


 まずは動きを封じよう。だが、属性耐性が高ければ一撃では凍らない。

 風氷の矢は独眼竜に直撃したが、凍結状態にはならない。


「3発くらいか?」


「ついでに弱点も探すわ」


 スミレは風氷を纏った状態の矢を独眼竜に浴びせていき、いい感じに冷気が溜まった。


「弱点は額の三日月型の角みたい」


「了解。キッド、注意引けるか?」


「はい!」


『ヘイトコレクト』『アイアンボディ』


【スキル:ヘイトコレクト R 説明:モンスターからのヘイトを一身に集める。効果時間20秒。プレイヤーに対しては効果はない】


【スキル:アイアンボディ SR 説明:自身の身体を鋼鉄の如く頑強にする。身動きを取ることができなくなるが、物理攻撃は一切ダメージを通さなくなる。効果時間20秒】


 物理ダメージ無効か。でも、ブレスとか属性ダメージは無効ってわけじゃないのか。


 独眼竜はタゲを完全にキッドに向けた。

 爪攻撃や噛みつき、尻尾の薙ぎ払いなど強力な攻撃を放つが、『アイアンボディ』の効果で一切ダメージを受け付けない。


「いいね。そのまま夢中になってもらおう」


 俺は漆黒のマントで身体を包み込み【隠密】を発動させた。


「もうすぐ凍るわ!」


 スミレがそう言うと独眼竜の足元からカチカチと凍り始める。次第にそれは全身を包み込み、完全に"凍結"した。


「一気にいくぞ」


「「「了解」」」


『大鷹の暴嵐』

電磁砲(レールガン)


 スミレとハルは各々の最大攻撃を放つ。


「よし、全開放だ」


 キッドは特殊効果【ダメージ吸収】で貯め込んだダメージを一気に解放した。

 大盾からは大量の闇が溢れ、キッドのロングソードに付与されていく。


「闇属性なのか」


 確か、独眼竜は光属性だ。光は闇に強く、闇は光に強い。


『黒刃覇閃』


【スキル:黒刃覇閃 UR 説明:スキル【黒翼壁】で蓄積したダメージを解放して発動可能。蓄積量によりダメージが変動する】


 キッドはロングソードを2回振り抜く。大きな闇の十文字は5mを超える独眼竜の巨躯を容易に包み込んだ。


「まじか。火力も出せるタンクってなんでもありだな」


 こんな超優秀な人材を紹介してくれたレオルには感謝だな。ギルドイベントでボコボコにして悔しがらせてやろう。


「よし」


『豪炎天魔』


 再度炎を纏い直し、独眼竜の背後に回り、大きく跳躍する。


「鷹見流『嵐牙』」


 大きく刀を引き、強力な突きを放つ。猛々しい炎は背中から貫通し、独眼竜の胸からは貫通した豪炎が溢れる。

 パッシブスキル【バックスタブ】が発動し、大ダメージが入る。

 そして、それと同時にパーティー全員の最大火力が直撃した。


 〔パァァァン!!!!〕


 パーティークリティカルだ。


「キッド、最高だよお前。お前と出会えて本当に良かった」


 痒いところに手が届いた気分だ。1人壁役がいるだけでこんなにも戦闘が楽になるんだな。


「ありがとうございます!」


「これからもよろしくな」


「はい!!」


 これでギルドメンバーは揃った。打倒トップギルド。初のギルドイベント、楽しめそうだ。


「盛り上がってるとこ悪いけど、まだ終わってないわよ?」


「「え?」」


 俺とキッドに独眼竜の噛みつき攻撃が迫っていた。


『黒翼壁』


「ナイス。ちゃちゃっと終わらせるぞ」


 その後、俺達は独眼竜を相手にほぼノーダメージで攻略を果たした。


キッドが黒翼壁を発動する時のイメージは、A〇EXのニュー〇ャッスルのウルトみたいなイメージです。


ご閲覧ありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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