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第33話 ギルド設立のススメ

 

「夏休みかぁ……」


 季節は夏。窓の外ではセミの鳴き声が響いている。

 シークレットクエスト【第六天魔王】をクリア後はへし切長谷部の扱いに慣れる為に色んなフィールドボスを狩ったりしていた。

 レオルは、ギルドをいつまでも留守にできないと2日ほど一緒にクエストをこなした後、円卓に戻っていった。

 そこがアデルとの違いなんだろうな。アデルならカスミからのお怒りの通話が来るまで俺達と一緒にいる。


「どうせWSOばっかりやるんでしょ?」


「そりゃな。ギルドイベントあるし」


「ギルドないのに?」


「うぐっ……」


 問題はそこだ。レオルにギルド設立条件を聞いたところ。【最低人数5人、設立金300ゴールド】が条件だそうだ。

 お金に関しては全く問題ない。俺、スミレ、ハル、の所持金を合わせると300は軽く超える。1番の問題は最低人数が5人という所だ。1人だけ心当たりはあるが……。


「とりあえず、1人だけ誘ってみよう」


「誰?」


「アリシア。あいつ無所属だったよな」


 マスタースミスなのになぜか始まりの街で鍛冶屋をしている変人……変わったプレイヤーだ。なにか理由でもあるのだろうか。とりあえず聞いてみよう。

 俺はWSOのアプリを開き、アリシアにメッセージした。


 〈俺ギルド作るけど入る?〉


 しばらくして


 〈入る!〉


 ……。1人ゲット。


「アリシアって変わってるわよね」


「なんで始まりの街に居るんだろうな。しかも、無所属で」


 メッセージで理由を聞くと、アリシアは移店するのがめんどくさいらしくそのままらしい。無所属なのは始まりの街の鍛冶師は大体が見習いでスカウトされることはほぼ無いそうだ。


「路地裏の薄暗い店にマスタースミスがいるなんて誰も思わないよな」


「やっぱり変わってる」


 アリシアは戦闘要員じゃないし、あと1人は前線を張れるプレイヤーがいいな。


「できればタンクがいい」


「確かに、今まではパーティーにレオルやアデルがいたから安定してたけど、3人じゃハイセの負担が大きいわ」


 1人でできないことも無いが、やっぱりハルが魔法を使った時にヘイトが向いてしまう。ハルも俊敏な方だから躱すことは可能だが、次の攻撃が遅れてしまう。


「んー。まぁ、それはWSOに入った時に考えよう」


「そうね。飲み物持ってくるわ」


 そう言ってスミレは俺の部屋から出ていった。


「タンクかぁ」


 俺達は火力だけで言ったらトップクラスのパーティーだ。だから、火力要員はいらない。とにかく頑丈な前衛がほしい。


「やっぱ大盾使えるやつかな」


 WSOの世界にはもちろん盾は存在する。ロングソードを扱うプレイヤーは大体片手にバックラーとか小盾を装備している。ハロルドがいい例だ。レオルの場合ベネクト流剣術は盾を使わない剣術な為、盾は装備していないのだ。

 盾の中でも特に頑丈かつ大きいのが大盾だ。大盾で守りながらロングソードで攻撃する戦い方。だが、装備重量と動きにくさからあまり人気はない。


「どうしたものか」


「なにブツブツ言ってるの?はい、お茶」


 スミレが戻ってきた。


「えー、なんでお茶なんだよ。冷蔵庫に炭酸あっただろ」


「あんた今日で2L丸々飲み干したのわかってる?ダメよ。お茶飲んで」


「冷凍庫のシューアイスは」


「持ってきてるから、ジュースは我慢してね」


 さすがスミレだ俺の考えている事がわかってるな。まぁ、ここ俺の家なんだけどな。

 スミレは基本的に俺の家を自由に出入りできる。じじいが許可してるってのもあるが、1番はじじいが留守の時に俺が偏食しない為に管理に来てるのだ。故に、俺の家の冷蔵庫の中身はほとんどスミレが管理している。たまに桜子さんも来る。

 じじいと2人暮らしの俺にとってはありがたい。


「ハイセは放っといたら1日何も食べなかったり、お菓子だけで済まそうとするから、気が気じゃないわ」


「腹一杯になるんだからいいだろ」


「そういう問題じゃないの!もう!」


 スミレは呆れたようにため息をついた。確かに、お菓子ばっかじゃ飽きるよな。たまにはアイスとか、スイーツとかで……って言ったら怒られるだろうな。


「今日の晩御飯は?」


「オムライスよ。好きでしょ?」


「おお!いいね!楽しみだ」


 晩御飯が用意されるってのはいいな。オムライスは大好きだ。

 晩の楽しみができたところで、俺はサングラス型のハードを取り出した。


「よし、やるぞー」


「え?ここで?」


「どうせ持ってきてんだろ?」


「まぁ、…と、隣の部屋使うわね」


 何を慌ててんだか。スミレが隣の部屋に行ったのを確認し、俺はWSOの世界に入った。


 ◇◇◇


 ◇SA【ワコク:城下町オワリ】


「おお!プレイヤー増えてるなぁ」


 クエストクリア後にメキアのショップスペースに行くと、本当にワコクの入国手形が売られていた。その噂は瞬く間に広がり、現在ワコクは多くのプレイヤーでごった返している。

 ちなみに、まだ【第六天魔王】のシークレットクエストは誰も受けてないみたいだ。


「お待たせ、どうするの?」


「んー、とりあえず1人入ればいいからなぁ。でも変なやつ入れたくないし。ここは便利屋さんに電話してみよう」


 俺はとあるプレイヤーに電話した。


 〔プルルル……ガチャ〕


 出るのはや。


『ハイセ、どうしたんだい?』


「おー、レオル。ちょっと聞きたいことあってな」


 便利な情報屋さん兼No.1ギルドのリーダーレオルさんだ。


『聞きたいこと?』


「おー、強いプレイヤー紹介してくれよ」


『……』


 〔ガチャ〕


 切られた。


 〔プルルル……ガチャ〕


「最後まで話聞けよー」


『あのね!ギルドイベントでは敵同士なんだよ!?なんで、敵に塩を送らなきゃいけないのさ!』


「塩を送る前にその敵すら居なくなるかもしれないんだぞ?俺とギルドイベントで戦いたいっていっていたよな?」


『まさか、人数集まってないの……?』


「その通り」


 電話の先からは盛大なため息が聞こえた。


『なら、アルガンに行って適当な初心者1人入れたらいいんじゃないかな』


「やだ。強いやつがいい。変なやつが来るのも嫌だし、それに、俺と戦う以前に俺達が負けちまうかもしれないだろ?」


『……はぁ、今回だけだよ。次は怒るからね』


「十分怒ってんじゃねぇか」


『なんか言ったかい?』


「ナンデモナイヨ」


『どんな人がいいの?』


「タンク。できれば大盾がいい」


『大盾か。そうだね、ハイセのパーティーだとそれがベストだろうね』


 レオルは考え込んでいるようだ。


『大盾を使えるプレイヤーは日本刀ほどじゃないけど、少ないからね…ちょっとまってて』


 レオルはそう言い残しどこかに行ったようだ。保留音が聞こえる。


「レオルはなんて?」


「人紹介してくれるって」


「お人好しすぎない?」


「そこがレオルのいい所だ」


 怒られたことは黙っておこう。しばらくして、レオルが戻ってきた。


『お待たせ。ちょうど1人だけ紹介できそうな人が居たよ』


「おー、そりゃよかった。どんな奴だ?」


『前にスカウトした事があるんだ。大盾の扱いも上手くて、1度パーティー組んでダンジョンに潜ったことがあるんだけど、パーティーの壁として完璧以上の立ち回りをしていてね。それで、スカウトしたんだけど、あっさり断られたんだ』


「No.1ギルドからの誘いなのに。勿体ないな」


『それで言ったらハイセ達もそうだろ?僕が誘っても入らないだろうし、アデルが誘った時も断ってたじゃん』


「それもそうだな」


『断られた理由は「あんたらじゃない」って』


 あんたらじゃない?なにか見定める基準でもあるのだろうか。


『同じように断られるかもしれないけど、一応掛け合ってみたら?』


「そうだな。名前は?どこにいるんだ?」


『名前は"キッド"。背の高い男性プレイヤーだよ。漆黒の大盾を背負ってて、大盾を鞘代わりにロングソードを挿してる、結構目立つはず。キッドは色んなパーティーを転々としてるみたいだけど、最近はメキアの街での目撃情報があるから、ワコクに居るんじゃないかな?』


 ワコク。ちょうどいい、このまま探してみよう。


「サンキューなレオル。この礼はいずれ」


『気にしないでいいよ。ハイセにはたくさん貰ってるから』


「そうか?なら、日本に来ることがあればウチに寄れよ。"鷹神"、鷹見家の宝刀見せてやるから」


『ほ、ほんとに!?いいの!?うわあ!やったぁ!早く日本に行きたいよ!楽しみにしてる!』


 適当に言ったんだが、ここまで喜ぶとは思わなかったな。


「じゃ、キッド探してみるよ」


『うん!ギルドイベントで会おう』


 レオルとの通話を終えた。

 さて、人探しか。


「人探しだスミレ」


「ハルがもう少ししたら来るみたいよ?それまで待つ?」


「探しながら待とう。名前はキッド、背が高くて黒の大盾を鞘代わりにロングソードを挿した男性プレイヤーだ」


 すぐ見つかるといいが、今のワコクはプレイヤーでごった返している。見つけるのは至難か……。


「すまない、そこの刀の人」


 急に背後から話しかけられた。さっきから視線は感じていたけど、なんだ?


「俺か?どうし……っ!?」


 俺に話しかけてきた男は俺よりも10cmほど背が高く、背中には漆黒の大盾、そしてその大盾を鞘代わりにロングソードが挿してある。髪型は黒髪のツーブロックで前髪をあげている。


「見つけた……」


「ん?見つけた?」


「あ、いやすまん。こっちの話だ。どうした?」


 ビックリしたぁ。こんだけのプレイヤーがいる中でまさかドンピシャで俺に話しかけてくるなんてな……。


「デュエル・コロッセオ優勝者のハイセで間違いないか?」


 あ、俺だってわかって話しかけてきたのか。


「そうだけど」


「急な申し出で申し訳ないが、俺とパーティーを組んでくれないか?」


「パーティーメンバーは俺だけじゃないけど」


「知っている。3位入賞のスミレとドクロ狩りのハルだろ?皆、有名なプレイヤーだ」


「知ってるならいい。良いか?スミレ」


「問題ないわ。ハイセに任せる」


「だそうだ。ハルが来たらちょうどダンジョンに行こうと思っていたんだ。一緒に来てくれ」


「もちろんだ。急な申し出だったがありがたい。俺の名前はキッド、武器種は西洋剣だが主にこの大盾で壁の役割を担う」


「ああ、よろしくな」


 俺とキッドは握手を交わし、ハルが合流するのを待った。


 ◇◇◇


 ◆BA【ダンジョン:キヨスの城】


「立派なお城ですね!」


「清洲城がモデルになってるんだろうな」


 煌びやかな城ではなく、なぜかズンと暗い雰囲気が溢れている。


「キッド、このダンジョンの経験は?」


「無い。ワコクに来たのもハイセ達がいると思ってついさっき来たばっかりだ」


「なるほど、キッドも俺達を探していたのか」


「も?」


「ああ、俺達もキッドを探してたんだ」


「俺はデュエル・コロッセオにも出てないし、そこまで有名なプレイヤーではないが、どうして?」


「お前とパーティー組んだことあるやつから聞いてんだよ。俺達のパーティー編成の関係でどうしても壁役が欲しくてな。それで良い奴いないか聞いたらキッドの名前が出てきたんだ」


「そうか……。確かに、配信で3人の戦いは何度も見たが、ハイセの負担が大きいように見えたな」


 配信を見てるのか。そういえば俺達の配信ってどのくらい有名になったんだろうか。

 ハルの撮影bot(課金アイテム)のグレードが日に日に良くなってきてるってことはそれなりに人気なのだろう。


「ま、とりあえずよろしくな。キッド。頼りにしてる」


「……おう、よろしくな」


 なんだ?歯切れが悪いな。

 俺達はダンジョンの攻略を開始した。


 ◇◇◇


 ~キッド視点~


 …はぁ…はぁ………やばい…やばいよ……すげ……本物…すげ……オーラが……ちがう。ご、語彙力が……やべ。


「ま、とりあえずよろしくな。キッド。頼りにしてる」


 うわあああああ!!!!!頼りにしてる!?うわあああああ!マジかよ!!俺の事知ってただけでも倒れそうだったのにぃぃ!!


「おう、よろしくな」


 よろしくなってなんだよ!!よろしくなってぇ!!あのハイセさんが!!おい!頼りにしてるって!!頑張れよ俺ぇえ!!


「どうした?キッド、大丈夫か?ボーッとしてるが」


「だ、大丈夫だ。ここは落ち武者のモンスターが多いな」


「そうだな。やっぱり、戦国時代を背景にしてるだけあってそういったモンスターも多いんだろうな」


「ていうことはボスも戦国時代の類か」


「どうだろうな」


 ……話してる!話せてるよな!?うわあ!!明日死んでも悔いはない!!


 俺がなぜここまでハイセさんに心酔しているのか。

 それは数ヶ月前のとある配信でハイセさんのことを知ったからだ。めちゃくちゃ強い日本刀使いがいると聞いて。

 最初は人気になりたいだけの目立ちたがり屋だと思って半笑いで配信を見ていた。

 しかし、俺の目に映ったのは刀1本で自分の何倍ものあるモンスターを圧倒しているハイセさんだった。


 過去にも人気者になりたいと日本刀を使って配信している人がいた。でも、ボスとの戦いで5本以上の刀を折りながら戦っている姿は、見るに耐えなかった。でも、ハイセさんは違う!素人目でも分かるほどの圧倒的な刀さばき、なぜか死角からの攻撃も見切ったように容易に躱す姿は正に芸術だ。


 色んなパーティーを転々としているのは、たくさんのパーティーパターンを研究してあらゆる局面に対応する為だ。いつか、ハイセさん達とパーティーを組んだ時に俺という存在を心に残したかったから。


 今日がその日だ。

 もうパーティーを組めなくてもいい。俺はハイセさん、スミレさん、ハルさんと共に戦ったこの瞬間を心に刻もう。


「キッド」


「ん?なんだ?」


 ビックリしたぁ。俺何かしたかな……!?


「単刀直入に言うが」


 俺はゴクリと息を飲む。


「お前、俺のギルドに入らないか?」


「………え…え?」


 い、い、い、い、今……なんて……?


「いや、だから、俺のギルドに入らないかって。嫌か?」


「…………ひぇ」


 フラフラと足元がふらつき、俺はその場に倒れてしまった。


「お、おい!!どうした!?キッド!!……ぶか!?………ぃ…!!」


 ああ、ハイセさんの声が遠のいていく。ああ……。


 ◇


「はっ!!!」


 俺は目覚めた。そこはよく見慣れた自分の現実の部屋。


「そうか……夢か……そうだよな。あのハイセさんが俺をギルドに誘うなんて……」


 〔ピロンッ〕


 携帯の通知が鳴る。この音はWSOのアプリだ。メッセージだろうか。


「ギルドの勧誘かな……。俺はハイセさんに認められるまでどこにも入ら………」


 〈キッド、大丈夫か?心拍数過度上昇の警告が出てお前そのままログアウトしたぞ〉


 送り主の名前を見る。


「ハ…イ…セ……ハイセさん!?」


 夢じゃない!?夢じゃなかったのか!?心拍数過度上昇……そうか、ハイセさんにギルドに誘われて心臓が跳ね上がったんだった。


「う、嘘だろ……ハイセさんが、俺を……うぅ……」


 思わず涙が零れる。

 推し配信者からこんなこと言われたら限界化してしまうのも仕方ないだろう……。


「あ、へ、返信しないと!」


 〈大丈夫です!ご心配ありがとうございます。ギルド加入の件ですが、後ほどログインしますので、その時でよろしいですか?〉


 よし、これでいいだろう。


 〈おう。なんかお前キャラ違うけど大丈夫か?〉


「あ、素で送ってしまった……」


 仕方ない、ファンである事を明かそう。それでもしギルドの件が白紙になれば、俺はそこまでのプレイヤーだったって事だ。


 俺は少し憂鬱になりながら、再びWSOにログインした。

ご閲覧ありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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