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第32話 必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ

更新遅れて申し訳ありません!

おやすみいただきありがとうございました!


上手いこと区切れずこの話も長めです…。

文章量バラバラで申し訳ないです。ゆっくり呼んでくださいね。

 

 へし切長谷部。

 織田信長の愛刀の1つで、粗相をした茶坊主を手討ちにする時に、茶坊主が隠れた御前棚ごと斬ったという逸話から付いた名前だ。

 驚くほどの切れ味で、日本刀の流派である長谷部一派の作品の中でも傑作と言われている名刀の中の名刀だ。


【名称:へし切長谷部 UR スキル:神速 R 覇剣 SR 豪炎天魔 UR】


【スキル:豪炎天魔 UR 自身の武器に火属性を付与、攻撃を命中する毎に多くのダウン値を蓄積する。STR.AGI.DEF+5。効果時間30秒】


 おお、スキル強いな。【神速】に【覇剣】か。URのスキルも属性付与系、レオルのスキル構成と同じだ。


 ◆SBA【ストーリーボス:ヒデヨシ】


「よし、やるか」


 俺は抜刀し、構える。

 美しい刀だ。刃文は互の目、小のたれを基調とした皆焼(ひたつら)。ある人はこの刃文を見て『雪が降っているようだ』と表現したらしい。


「まずは……!!」


『神速』


 俺はヒデヨシに一気に肉薄し、力いっぱい刀を振り抜く。


「鷹見流『鳴神一文字』」


『ぐおぉ……』


「ちょ、まじか」


 俺が放った横薙ぎの一閃はヒデヨシの胴体を捉え、真っ二つに斬り裂いた。それだけではなく、ヒデヨシの後方に生えている木々をも斬り裂いたのだ。


「斬れすぎだろ……!!」


【特殊効果:攻撃範囲拡張】


「攻撃範囲拡張?」


「へし切長谷部の特殊効果みたいだね!SR以上の武器に確率でついてくるレア効果だよ!」


「なんだよそれー!聞いてないぞ!」


「あはは……プレイヤーが武器を厳選する時の指標の1つだね。スキルのレア度、空きスロットの有無、特殊効果の有無。皆これらを目標にして何回もダンジョンやイベントを周回するんだよ」


 えー。初めて知ったんだが。


「人から聞くばっかりじゃなくて、たまには自分で調べなよ、ハイセ」


「はい、ごめんなさい」


 怒られちゃった。


「ヒデヨシ真っ二つにしちゃったじゃない。もう終わり?」


 スミレがそう言った矢先、ヒデヨシの斬られた断面がぐじゅぐじゅと音を立ててうねり始めた。


「き、気持ち悪いです……」


 ハルはドン引きしてるみたいだ。

 ヒデヨシはうねる断面を結合させ、起き上がった。


「まじかぁ、そういう感じね」


 これは厄介だ。


「大してHPも減ってないみたいだね」


「減ってないっていうより。HPがめちゃくちゃ多いんだ。さすが、"木綿藤吉"だな」


 木綿藤吉とはかかれ柴田や米五郎左と同じように、家臣である秀吉を表した言葉だ。

 木綿のように頑丈で、打たれ強いという意味合いがある。


「パーティークリティカルを中心に、ダメージ稼ぐぞ」


「「「了解!!」」」


 スミレは矢を番え弓を引く。そして、冷気が溢れ出る。


『風氷の矢』


「まずは、"凍結"させちゃいましょ」


 凍結させて一気にか。

 スミレの氷の矢はヒデヨシに命中する。ヒデヨシの足からカチカチと凍り始めている。


「いくぞ!!」


 俺とレオルはヒデヨシに肉薄する。


『があぁぁぁあ!!!!』


「なに……!?」


 ヒデヨシは氷を振り払う。凍結が効かない?

 俺とレオルにヒデヨシの拳が迫る。


「師匠!レオルさん!!」


『チャージショット』


 ハルが放ったチャージショットはヒデヨシの腕を捉え、軌道を逸らした。お陰で間一髪躱すことができた。


【スキル:チャージショット R 説明:弾丸をチャージして放つ。チャージする時間が長いほど威力が増す】


「あっぶね」

「ありがとう!ハル!」


 どういうことだ?凍結しない。


「ハイセ、ヒデヨシはたぶん状態異常無効を持ってる」


「えー、ずるくね?HPめちゃ多いのに状態異常も無効って」


「まぁ、シークレットクエストだからね。難易度は高いよ」


 スキルガンガン使っていくしかないな。


「ハル、バフ頼む」


「はい!」


『ステータス上昇』『MP自動回復』


「効果時間は1分です!」


「十分だ、さんきゅー」


 俺とレオルはスキルを使用する。


『『神速』』

『『覇剣』』


「同じスキルなんだね!」


「ああ、立ち回り参考にさせてもらうぞ」


『魔滅の刃』


 エクスカリバーは光を放ち、レオルも光を纏った。


『豪炎天魔』


 へし切長谷部からは黒色の混じった通常の炎よりも更に深い赤色の炎が溢れ出る。


 ヒデヨシは俺達からハルへとターゲットを変えた。魔法を発動したハルにヘイトが集まってしまう。

 ヒデヨシの周囲からは木の根が地面から現れる。その木の根はハルに向けて飛び出して行った。


「このくらい!!」


 ハルは華麗に木の根を躱し、迎撃した。撃ち抜かれた木の根は力なくその場に倒れる。しかし、


「ハル!!」


 ハルの背後からはヒデヨシの拳が迫っていた。

 俺みたいに第六感がある訳じゃない。躱すのはほぼ不可能のコンボ攻撃だ。


 〔ガンッ!!!〕

「くっ……重ぇ……」


「師匠!!」


 ヒデヨシの攻撃力は高い。一撃食らうだけでも致命傷になり得る。

 ヒデヨシの拳の軌道を何とかズラすことが出来た。


「くそ、やっぱり俺じゃ壁にはなれないか……」


 受け流しきれずダメージを負ってしまう。体力と防御力の高いタンクがこういった役目を担うんだが、如何せん、人がいない。


 〔ピロンッ〕

「ん?」


 すると、俺の目の前にウィンドウが表示された。


【仲間とのスキルの互換性を確認しました。特殊攻撃【合技】の発動条件を満たしています】


 なんだこれ、合技?


「なぁ、レオル。合技ってなんだ?」


「え?合技使えるの?合技は、パーティーメンバーのスキルと自分のスキルが合わさった時に発動する大技の事だよ。発動条件は決まったスキル同士の組み合わせ、まだどの組み合わせで発動するかは明らかになってないから、珍しいケースだよ!」


 確かに、WSOには何百ものスキルが存在するはずだ。その中からピッタリの組み合わせを選ぶなんて。


【合技対象者:スミレ】


 スミレのスキルとの組み合わせだったのか。


「このまま攻めるぞ」


「うん!」


 俺とレオルはヒデヨシの攻撃を掻い潜りながら、絶えず攻撃を与えていく。

 合技は最後の一押しに取っておこう。


「長期戦になりそうだ」


 ヒデヨシの打たれ強さに気圧されながらも俺達は立ち向かって行った。


 ◇◇◇


 戦闘開始してからどのくらいだっただろうか。ざっと5分くらいか?


「やっと半分……」


「僕もこんなボスは初めてだよ」


 5分もひたすら戦い続けたのにまだHPは半分残っている。通常のボスで大体3分ほど。強力なボスで5分討伐が基本的なタイムだ。


 すると、ヒデヨシの様子がおかしくなる。頭を抱え苦しんでいるようだ。


「ここからは第2形態か」


 〔ガアアアアアアア!!!!!!〕


 ヒデヨシの身体中から闇の炎が溢れ出る。


「そうか、悪鬼羅刹の血を取り込んでるんだもんな」


「触れないようにね」


「ああ」


 ヒデヨシは腰に挿してある一振の刀を抜いた。そして、その刀に闇の炎を纏わせる。


「余計戦いづらくなったな」


「来るよ!!」


 ヒデヨシは物凄いスピードで肉薄し、刀を振り下ろしてきた。


「はやっ」


「悪鬼羅刹の数倍は速いね」


 第2形態でステータスも大幅に強化されてるみたいだ。


『豪炎天魔』


 俺は再度刀に炎を纏わせる。


「もう少しでダウンするはずだ!一気に行くぞ!」


『神速』


 一気に肉薄し、刀を振り下ろす。


「鷹見流(WSO.ver)『轟炎』」


 燃え盛る炎の真っ向斬りがヒデヨシに炸裂する。

 思ったよりもダメージが入ったな。


「ダメージが通りやすくなってるぞ」


 ハルはリボルバーを構え、最大までチャージする。

 レオルは少し離れて光り輝くエクスカリバーを構えた。


『チャージショット』

「ベネクト流『クレシェンテ・フリア』」


 最大までチャージされた弾丸と、三日月型の斬撃がヒデヨシを襲う。


 〔グガガァ……〕


 良い調子だ。


「離れて!!」


 スミレの声に合わせて俺は大きく後退した。

 スミレは弓を引く。すると、スミレを中心に強風が吹き荒れる。番えた矢から風が溢れだしている。


『大鷹の暴嵐』


 矢を放つ。風を纏った矢は一直線にヒデヨシへ飛んでいく。次第に風は矢を中心に巨大な大鷹へと姿を変え、ヒデヨシに直撃した。


 〔グオォ……〕


 風はヒデヨシを中心に吹き荒れ、四方に巨大な竜巻を生成した。そして、竜巻は中心のヒデヨシに収束し、1つの巨大な竜巻となってヒデヨシを襲った。


「すげ」


 アリシアが当たりスキルだとはしゃいでいたのも頷ける性能だ。


 これでヒデヨシのHPはさらに半分になった。


「攻めるしかない……!!」


 レオルは肉薄し、技を放つ。


「ベネクト流『フルミネ・ブル』」

 〔ガキンッ!!!〕


「なっ!?」


 しかし、ヒデヨシの体は鋼鉄のように硬くなっていた。

 剣を弾かれ体勢を崩したレオルにヒデヨシの刀が襲いかかる。


「おらぁあ!!!」

「ぐっ……!!」


 俺はレオルを思いっきり蹴飛ばした。

 ハルとスミレにジト目で見られるが、あの闇の炎で斬られるよりはマシだろ。


「大丈夫か?」


「う、うん。タスカッタヨ」


 本当に思ってんのか?心がこもってないな。


「しかし、なんでこんなカチコチになったんだ?」


 丁度HPが4分の1ピッタリになってからだ。


「こういったゲームで急にダメージが通らなくなる時ってどんな時だと思う?」


 俺の経験からすると……。


「一定以上のダメージを与えないといけない時」


「その通り。この場合は、たぶん残りのHPを全部削りきる程のダメージじゃないとダメみたいだ」


「まじかよ」


 俺達の手段と言えば、ハルのSRスキル、俺とスミレの合技、そして……。

 俺とスミレとハルはレオルを見る。


「……」


 レオルは考え込んでいる。そして、諦めたようにため息をついた。


「はぁ、ギルドイベント前だから、特にハイセには見せたくなかったんだけど、仕方ない」


 エクスカリバーを地面に突き刺した。


「いいよ、見せてあげるよ。俺のオリジン」


「助かる」


 アデルのオリジンも凄まじかった。レオルのオリジンはどんなんだろうか。

 まさか、レオルのオリジンまで見れるなんてな。期待はしてたけど。


「高火力で一気に削り切るしかないよ。ハイセ達も自分が出せる最大限の技で攻撃しよう」


「おう」


 レオルが突き刺したエクスカリバーからは光が溢れる。


『聖剣:エクスカリバー』


 レオルはオリジンスキルを発動する。

 銀色のフルプレートメイルは金色へと変貌し、レオルの青い瞳は黄金に輝く。光で生成されたマントを翻し、白く輝く聖剣を構えた。


【スキル:聖剣エクスカリバー オリジン 説明エクスカリバーの真の力を解放し、使用者を『神格化』させる。使用中のエクスカリバーの属性は聖滅へ変化する。EXスキル【騎士王の覇光(エクスカリバー)】が使用可能。効果時間60秒】


 スキルの内容はグングニルとほぼ一緒だ。

 アデルが言ってたっけ「オリジンは万能ではなく、使い手次第だ」って。


「なるほどな。オリジンはプレイヤー自身の技術とスキルの組み合わせでどこまでも強化されるスキルなんだな」


 それを知ったところで対策できるかどうかは別だけど。


 〔グガガァ〕


 ヒデヨシは体を硬化させた。


「防御の体勢だ。今なら俺達のダメージを蓄積させられる」


「僕からいきます!!」


 ハルは二丁のリボルバーを構える。すると、そのリボルバーからバチバチと紫の雷電が迸る。


『紫電』


【スキル:紫電 SR 説明:自身の武器に雷属性を付与し、攻撃範囲を拡張する。スキルと組み合わせることで様々な効果を発揮する。STR.DEX+5。効果時間30秒】


 ハルのSRスキルだ。


『チャージショット』


 ハルがチャージショットを発動すると、迸る紫電の猛々しさは更に増し、ハルの周囲は雷電で埋め尽くされた。


【紫電】×【チャージショット】の組み合わせ、これで発動する攻撃。


電磁砲(レールガン)


 二丁のリボルバーからはとてつもない電磁砲が発射された。【紫電】のスキル効果で攻撃範囲も拡張され、3倍ほど大きくなった紫電の弾丸はヒデヨシの両肩を貫いた。


「うわっ……」


「ハル、大丈夫か?」


 最大チャージのレールガンはデメリットもあるみたいだ。少しノックバックし、尻もちをついた。ハルの体からはビリビリとまだ少し紫電が走っている。


「大丈夫です、5秒位なので……」


「まだ、ダメージは入ってないな」


「じゃ、次は俺だね」


 そう言うとレオルは高々とエクスカリバーを振り上げた。


「ハイセ、スミレ、このまま倒しちゃったらごめんね?」


「気にするな。そっちの方が楽だ」

「そうね。倒しちゃっていいわよ」


 これで倒せなかったらからかってやろう。

 俺とスミレはイタズラな笑みを浮かべながらレオルを見る。


 高々と振り上げたエクスカリバーからは白い光が増していく。

 聖をもって、魔を滅する。天高く登る魔滅の白い光は暗闇を照らし、辺り一帯を光で覆う。


「これが、僕のオリジンだ」


騎士王の覇光(エクスカリバー)


 レオルはエクスカリバーを振り下ろす。振り下ろされた魔滅の光は辺り一帯を埋め尽くし、木々をも薙ぎ払い、周囲を更地にしてしまった。


「や、やったかな……?」


 あー、それは盛大な"フラグ"だな。


 〔グオォ……〕


 案の定、ヒデヨシは倒れなかった。


「え!?オリジンだよ!?おかしいよ!バグだよ!」


「ぷっ……あ、悪い」

「倒しちゃったらごめんね?まだ倒れてないわよ?」


 言ってやったぜ。ギルドイベント前に少しでも精神的ダメージを与えられたか?

 レオルは顔を赤くしている。


「も、もう1回だけ!お願い!」


「ダメだ、次は俺とスミレの番だからな」


 肩を落とすレオルの背中をポンポンと叩き、俺とスミレはヒデヨシを見る。

 やっぱり相当なダメージが蓄積されてるみたいだな。ヒデヨシの硬化した皮膚に亀裂が入ってる。


「美味しいところいただきましょ」


「そうだな。やるぞ」


「うん」


『豪炎天魔』

『覇剣』


 激しく燃え上がる炎が刀に付与される。


 俺に続き、スミレは弓を引く。スミレの周囲からは風が吹き荒れる。

 俺とスミレの【合技】。これで終わりだ。


『大鷹の暴嵐』


 スミレは矢を放つ。大鷹の姿をした半透明の風はヒデヨシに向かって一直線に飛んでいく。


「鷹見流(WSO.ver)『轟炎』」


 俺は炎の斬撃を放った。

 特殊効果の攻撃範囲拡張と覇剣による斬撃の放出、これだけでも十分な威力だ。

 だが、これだけじゃない。


「うわ!すごいですね!」


 ハルはそれを見て感心していた。


 俺が放った炎の斬撃とスミレが放った大鷹の風が混ざり合い、一際大きな炎となってヒデヨシに飛んでいく。風の大鷹は炎の大鷹へと変貌し、その姿は数倍大きくなった。


『『合技:豪炎鳥』』


 〔グオオォォ……!!〕


 炎の大鷹はヒデヨシに直撃する。そして、直撃すると同時に炎の大鷹は巨大な炎の渦へと姿を変え、ヒデヨシに継続的な大ダメージを与えていく。


 もうあと一押し。


 俺は、飛び出し、炎の渦に呑まれるヒデヨシに肉薄した。


「お前の首は、この刀で取ってやらないとな」


 ギラリとへし切長谷部の刃が妖しく光る。


 〔ノ、ノブナガァァァァァ!!!!!〕


「本来の歴史ならお前の勝利だ。残念ながら、この世界には"俺達"がいた。自分の運命を恨め」


「鷹見流『鳴神一文字』」


 〔グアアアアアア!!!!〕


 ヒデヨシの首に一筋の刃が通る。頑強だった皮膚もダメージの蓄積により、豆腐のように柔らかかった。


『わ…たし…は…天下人……に……』


 ヒデヨシはそう言い残し、粒子となって消えた。


【DEFEAT THE BOSS】


「ふぅ、長かった」


 ヒデヨシがストーリーボスだから、もうこれ以上は無いはずだ。


『ハイセ……勝ったか』


「ああ、大丈夫か?」


 信用する家臣2人に裏切られたんだ。ショックだろうな。


『心配無用だ。この乱世、こんな事は度々ある』


「そうか。ほら、これ返すよ」


 俺はへし切長谷部をノブナガに差し出す。これは借り物だ。正式に貰った訳では無い。


『ふむ……。いや、これはハイセにやろう。大事に使ってくれ』


「いいのか?」


『ああ、正直お前の方がその刀を使いこなせるだろう。それに、今のお前には得物が無いはずだ』


 加州清光。俺の愛刀は刀身からポッキリ折れてしまった。


【修復不可】


 もうダメみたいだ。


「有難く受け取っておくよ。ありがとうノブナガ」


『礼を述べたいのは俺の方だ。感謝する。ハイセ、スミレ、ハル、レオル。お前達に生かされたこの命、国の繁栄の為に使おう』


「これからどうするんだ?」


 俺が聞くとノブナガは顎に手を当て、深く考え込んだ。


『そうだな……。実は、入国手形はお前が持つそれのみなのだ』


「え?そうなのか?どっかで出回ってるのかと思った」


 だから誰も入国出来なかったのか。


『お前の入国手形はとある西の商人に一つだけ渡しておいてな。西で最も強い者に渡せと言っておいたのだ。その入国手形は特別でな、右下を見てみろ』


 これは、家紋だ。木瓜の家紋、織田家の織田木瓜だ。


『その家紋が付いた入国手形を持ってきた者のみ俺と謁見が可能となる』


「なるほどな」


 この入国手形がクエスト開始のアイテムなのか。


『これとは違う通常の手形をメキアの街に置こうと思う。完全に開国とはいかないが、西の良い所を存分に取り入れていこうと思う』


「そうか。それがいいと思う」


 ノブナガの夢の果てを見てみたかったな。織田信長が生きた世界線。きっと、俺達が生きてるこの世とはまた違った世界になってるんだろうな。


『『理想を持ち、信念に生きよ。理想や信念を見失った者は、戦う前から負けているといえよう。そのような者は廃人と同じだ。』……お前達にこの言葉を贈る。言葉の意味を噛み締め、この先の生を存分に謳歌しろ』


 かつて織田信長が言った言葉と同じだな。疑似人格とはいえ、やっぱりノブナガなんだな。


『ハイセ、スミレ、ハル、レオル。お前達の事は決して忘れない。どうか、この国の行く末を見守っていてくれ』


「……ああ」


 まぁ、ノブナガは全部忘れちまうんだけどな。

 クエストクリアすると、独立型AIはリセットが入る。俺達とのやり取りも全て忘れて、また【第六天魔王】のクエストを受けに来るプレイヤーを待つのだ。


「入国手形はどうなるの?」


 スミレがこそっと耳打ちしてきた。


「それはたぶん、本当にメキアの街に置くだろうな。全てのプレイヤーがワコクに入国できるように」


「【第六天魔王】用の特別な入国手形は?」


「それは、後で説明してやるよ」


 ノブナガは夜明けの太陽を眩しく眺めながら笑った。


『必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ。ハイセ、俺は天下人となり、ノブナガが生きた証をこの国に刻もうぞ』


 ノブナガはそう言い、俺達に満面の笑みを見せた。

 この人が第六天魔王?恐れられた武将?俺にはただの夢見るおっさんにしか見えない。


【QUEST CLEAR】


 俺の目の前にいたノブナガは粒子となって消えた。おそらく、全てリセットされ、アヅチの城に戻ったのだろう。


「ん?へし切長谷部が……」


 手に持つへし切長谷部は光を放つ。


(これは俺からの餞別だ。有効に使え)


 俺の頭の中にノブナガの声が響いた。


「餞別?」


 俺はへし切長谷部のウィンドウを開く。


【名称:へし切長谷部 UR 特殊効果:攻撃範囲拡張 スキル:神速 R 覇剣 SR 豪炎天魔 UR 空きスロット 空きスロット】


「空きスロット2つ!?」


「わぁ、すごいね!URで特殊効果もあって空きスロットも2つって完璧だよ!」


 どうやら周回しなくていいみたいだ。ノブナガとの出会いと別れは1回で十分だな。

 とりあえず、ワコクでの目的は達成したか。


「レオル、付き合ってくれてありがとう」


「いやいや!ワコクに一緒に来れたんだ!礼を言うべきは僕の方だよ!」


 レオルが居てくれて助かったことも多い。


「ほら、レオル。これやるよ」


「わっ……え?これって」


【特別な入国手形】


「あれ?これハイセのやつじゃないよね?」


「ああ、1回限定らしい。使ったら消えた」


「じゃ、これって」


「フィールドボス:悪鬼羅刹のドロップアイテムだ。どうやら、シークレットクエストを受けるにはあいつを周回しないといけないみたいだな」


「も、も、貰っていいの!?お、俺もへし切長谷部貰っちゃうんだけど!?」


「いいよ別に。お前どうせコレクションしてんだろ?その1つに入れてやれよ」


「ありがとうハイセ!!」


 そう言ってレオルは俺に抱きついてきた。余程嬉しいんだな。


「やめろよ、俺は男に抱かれる趣味はねぇよ……」


 こうして、シークレットクエスト【第六天魔王】は無事、クエストクリアすることが出来たのだった。


ご閲覧ありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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