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第31話 心、燃ゆ

 

 ゲーム内時間、翌日の夕方。


 ◇SA【アヅチの城】


 俺達はノブナガとホンノウジに向かうべく、集合場所であるアヅチの城に来ている。


「ノブナガ、ヒデヨシは今どこにいるんだ?」


『サルか?サルならチュウゴクの平定に行かせている。あいつなら直ぐに済ませてくるだろう』


 これも歴史通りか。チュウゴクとはこのオワリから北西に進んだ場所にあるエリア一帯の事だ。


 ノブナガは兵士数名を連れている。


「こんだけの人数で大丈夫なのか?」


『別に戦に行くわけではないからな。これで十分だ』


 まぁ、ここで俺が何を言っても無駄なんだろうけど。ホンノウジで戦うことはもうほぼ決定している。


『準備は良いか?ホンノウジへ向かうぞ』


 え、まさかここから2時間歩くの?


【ホンノウジへ向かいます。準備はよろしいですか?】


 あ、良かった。ちゃんとワープしてくれるみたいだ。


「準備はいいか?」


「大丈夫」

「俺も!」

「僕もです!」


 みんな準備は万端のようだ。

 さぁ、向かうとしよう、決戦の場へ。


【ワープを開始します】


 俺達はホンノウジへワープした。


 ◇◇◇


 ◆SBA【ホンノウジ】


「SBAなんだな」


 ホンノウジに着くと夕方だった時刻がいつの間にか夜になっていた。実際のゲーム内時間はまだ夕方のはず。どうやらストーリークエスト限定の演出らしい。


「ストーリークエストだとよくあるよ。ハイセもたまにはこういうクエストもやってみたら?意外とレアなアイテムとか貰えるし」


「そうだなぁ」


 俺はクエストっていうより、ただひたすらモンスター狩りたいんだよな。でも、確かに今回このクエストやってみると意外と面白い。独立型AIとのやり取りも新鮮だ。


『寝泊まりの準備を始めろ』


「はっ!!」


 ノブナガがそう言うと兵の1人がせっせと準備を始める。ノブナガはラフな着物に着替えていた。


『お前達も楽にしてもいいぞ?』


「いや、俺達はこのままでいい」


『そうか?明日は武器商人から火縄銃を仕入れる予定でな、今日のところはもう特にすることがない』


「そうか」


 実際に信長が本能寺に来た理由、それは銃の仕入れだったと言われている。


『どうだ、時間もある事だ話をしよう』


「おう」


『お前達は西から来たと言っていたな。西ではレオルの様な格好が主流なのか?』


 レオルは兜だけ外した、シルバーのフルプレートメイルを装備している。確かに、主流っていったら主流なのかな?


「まあね!扱う武器によって格好を変えてるんだ。僕の西洋剣だとこんな格好が多いと思う」


『ハイセは刀だが、具足は身につけていないぞ?』


「俺の場合は動きやすさ重視だ。できるなら、和装が動きやすいんだが、まだ手に入ってない」


『なるほどな、スミレは袴と近いが……先鋭的な設計をしているな。ハルも変わった格好をしている』


 ハルは変わらず皮のベストを身につけている。収納ポケットも多いから便利らしい。


『そのキツそうな皮の服で胸を押さえつけているのか?キツくないか?』


「ちょっと黙って貰えます?」


 ノブナガ、それは地雷だ。踏んではダメだ。


『やはり、西は面白いな。まだ見ぬ物で溢れている』


 ノブナガは目を輝かせながら語る。


『俺は天下統一を果たしたら、西へ赴こうと思う。その為に今は港町であるメキアとの友好関係を築いているのだ』


 友好関係……?メキアは今戦争寸前みたいな空気だったけど。とてもじゃないが友好関係を築ける状態じゃない。


「それは誰が進めているんだ?」


『サルに任せている。あいつは器用だからな』


「そうか……」


 なるほどな、メキアとの関係悪化は、ヒデヨシの仕業だったのか。自分が天下を取ったらメキアを攻めるのだろう。用意周到だな。


『西をしばらく旅をして、見聞を広める。いいものは積極的に取り入れ、ワコクをもっと強力かつ不自由ない国にしたいのだ』


 ノブナガの夢物語は壮大だった。だが、必ず実現出来ると信じてやまない、そんな顔をしている。

 本物の信長もこんな顔をして語っていたのだろうか。


「ああ、ノブナガならできる。いや、やってのけるだろうな。そんな気がする」


『ははっ!当たり前だ!』


「だから、生きろよ。ノブナガ」


『どうし……』


 〔タタッタタッタタッ!!〕


 ホンノウジの周囲からは沢山の馬の足音が聞こえる。どうやら来たようだ。


『敵はホンノウジにあり!!!!!!』


 ミツヒデの声が聞こえた。


『ノブナガ様!!』


『何事だ!!』


 兵の1人が俺達の元にやってきた。


『謀反でございます!! ミツヒデ殿が反旗を翻しました!!!』


『なんだと……ミツヒデにはサルの援軍に行くよう指令を出した。まさかその兵ごとここへ……』


 その数、1万と700余り。対する俺達は10数名。数字だけ見れば撃退する事は不可能だ。


『くっ……退避だ……!!裏から脱出するぞ!!』


『できません!!囲まれています!!』


 逃げ道は完全に絶たれた。応戦するしかない。


『ハイセ、こんな事になってすまない。お前達だけでも逃がす!!俺が隙を作る!!その隙に逃げろ!!』


「おい!まて!」


 ノブナガはそのまま弓を取り走っていった。人の話を聞きやしない。


『ミツヒデ!!!』


『これはこれはノブナガ様、これまでの雪辱晴らさせて頂きます』


『貴様……!!』


 ノブナガは弓を引き、次々に矢を放つ。残る数名の兵も懸命に応戦しようとするが、それも意味が無い。


 〔ブチッ!!〕

『チッ…!!』


 ノブナガの弓の弦が切れる。背後にある槍を取り、迫り来る兵を薙ぎ倒し始めた。


 〔ノブナガを討ち取れぇぇえ!!!!〕


 大量の兵がノブナガに迫る。そして、1人の兵士の槍がノブナガの腕に傷を負わした。手に持つ槍を落としてしまう。


『くそっ……!!』


 ノブナガはホンノウジに戻る。


『あいつ達を巻き込んでしまった……。ミツヒデの目的は俺だ。なんとかあいつ達が逃げる時間を稼がねば』


「おい」


『お前達!!なぜ逃げていない!!ここはもう無理だ!!時期にミツヒデが攻め入ってくる!!』


「見りゃわかるよ」


『なら、なぜ!!』


 なぜ、そりゃクエストクリアの為だ。と、言いたい所だが。


「ノブナガが生きた先の歴史を見たくなった。それだけだ」


『生きた歴史……?』


 まぁ、ここでノブナガを生かしたとしてもクエストクリアで終わりだ。何かある訳じゃない。


「はぁ、AIに同情するなんてな」


 俺は刀を抜いた。


「なんで戻ってきたんだ?ノブナガ」


『相手は1万の軍勢だ。勝てる見込みがない。彼奴に首をくれてやるくらいなら、自ら死して業火に呑まれよう』


「はぁ、おい、ノブナガ」


 俺はノブナガの胸ぐらを掴んだ。


「勝手に諦めてんじゃねぇよ。あの時は兵士数名しか居なかった、自刃も仕方ないだろう。だが、今ここには誰がいる?西で1番の男とそれに続く奴らだ。1万の軍勢なんてどってことないんだよ」


 俺の言葉にレオル、スミレ、ハルは驚いたような顔をする。みんな心の中で同じ事おもってるだろうな。それはさすがに無理って。


『虚勢を張るな。無理があるぞ』


「うるせぇ!!やるったらやるんだよ!!刀を握れ!!立て!!自分が武人である自覚があるなら死ぬ最後の時まで戦い続けろよ!!」


 我ながらめちゃくちゃだ。

 俺は戦国時代の命の価値に疑問を抱いていた。なぜ、簡単に命を捨てるのか、誉ある死?敵に首をくれてやるくらいなら?馬鹿言ってんじゃねぇよ。生きてなんぼだろって。


「今お前の目の前には可能性がある。それを切り捨て自害を選ぶか?そこまで俺達を見くびってるなら心外だな」


 〔ノブナガを探せぇ!!!〕


 ミツヒデの兵がホンノウジに入ってきたようだ。


「どうする、ノブナガ」


 すると、ノブナガは俯き


『ぷっ!!はっはっはっ!!!よもや年端もいかん子供に胸ぐらを掴まれ説教されるとはな!!!』


 大爆笑した。


『俺以外にもこのような人間が居るとは愉快だ!!良いだろう!!ならばその僅かな可能性に賭けるとしよう!!』


 ノブナガは立ち上がり、刀を取る。ノブナガからは天魔を思わせる圧倒的なオーラが溢れていた。


『ハイセよ。お前には異名はあるか?』


 俺の異名……。


「"修羅"」


『俺は天魔だ。修羅、共に行こうぞ友よ』


「おう」


 俺とノブナガは拳を合わせた。


「俺達もいるんだけどね……」

「完全に2人の世界だわ」

「師匠かっこいい!」


 忘れてないって。すると、ノブナガは懐から扇を出した。


『戦の前には"敦盛"が無くてはな。俺の舞、見ていくか?』


 そう言うとノブナガは敦盛を舞い始める。

 敦盛は幸若舞(こうわかまい)の演目の1つ。織田信長は戦前に敦盛を舞っていたと言われている。そして、数々の逆境を乗り越え、勝利してきた。勝利へのルーティーンと言えるだろう。


『人間五十年 下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり。一度生を得て滅せぬ者のあるべきか』

『螺ふけ、具足よこせ』


 そばに居た兵の1人が具足を用意し、ノブナガが身につける。そして、刀を抜いた。


『出陣だ!!!!』


 ノブナガの号令を聞き、兵は螺を勢いよく吹いた。その音はホンノウジとその周囲へ響き渡った。


『ふっ、何を考えているのか知らないが、1万の軍勢を相手に……ん?』


 ミツヒデは勝ちを確信していた。しかし、ホンノウジの中から何かが聞こえてくる。


 〔……ぉぉぉおお!!〕


「『うぉらぁぁあああ!!!!!』」


 ホンノウジの扉を蹴破り、雄叫びを上げながら出てきたのは2人の男。そして、それに続くように3人の男女が出てきた。


「うわぁ……所狭しといるわね」


「この数、オリジンダンジョン思い出すなぁ」


「え!?オリジンダンジョンってこんなんなんですか!?」


 とりあえず、ホンノウジの中にいた兵は全員倒したか。


『ミツヒデェエ!!!!』


 ノブナガはミツヒデに向かって叫ぶ。


『貴様には俺の髪の1本すらくれてやるつもりは無い!!!』


『ふん。減らず口を』


 ミツヒデは余裕の表情で馬に乗ったままから見下ろしている。


「1万……本当に大丈夫かしら。ハイセは何をもって勝てるって言ってるの?」


 スミレは不安そうな顔をしている。だが、絶対に勝てる。

 なぜなら、俺達には"第六天魔王"がついているからだ。


『"第六天魔王"ノブナガ!!!推して参る!!!』


 ノブナガが叫ぶと。ノブナガから覇気が放出された。そして、それを受けた敵軍はガタガタと足を震わす。


「ほらな、勝てるんだよ」


【第六天魔王の覇気】


 俺達の体にはバフが掛かったエフェクトが溢れ出てくる。しかも、とんでもない上昇量だ。1万だろうが負ける気がしないほどに。


「これ、悪鬼羅刹の時の?」


「いや、それよりもずっと強い効果だ」


【第六天魔王の覇気:パーティー全体の全ステータス+20、武器に爆破属性を付与、攻撃範囲の大幅拡張、覇気を受けた敵は"恐慌"状態になる】


 えぇ……ドン引き性能だ。まぁ、相手1万だし、このくらいが妥当なんだろうけども。とんでもないな。


「ステータス+20って…」


「負ける気がしませんね!!」


 そう言ってハルはリボルバーを構えて1発放った。


 〔ドガァァァアン!!!!〕


「「「「えぇ……」」」」


 着弾と同時に大爆発した。これが爆破属性か。

 今ので20人くらいは減ったか?


「いける!やるぞ!!!」


「「「おう!!!」」」


 1万人VS5人の激戦が幕を開けた。


 ◇◇◇


 ミツヒデは腰を抜かし、落馬した。なぜなら、そこは正に地獄だったからだ。

 四方八方からは爆煙が上がり、氷の矢が降り、巨大な火の斬撃が飛び交う。時々現れる光は救済の兆しかと思いきや、あの世へ誘う魔の光。


『な、なぜ!!なぜ、1万の軍勢が……たった5人に!?』


「それは、まぁ、あれだ。ノブナガが凄かったって事だな」


『はぁ……はぁ……これだけやって……なぜお前達は息が上がらん……?』


 このゲーム、スタミナの概念ないからな。

 さて、残りはミツヒデはだけだ。もう詰みだな。


『なぜ……私は……天下人に……なぜ……』


 ミツヒデはガタガタと震え、うわ言のように同じ事を繰り返し言っている。


『ミツヒデよ。この局面を乗り切れなかったお前には天下人たる器が無かったという事だ』


 ノブナガの言葉にミツヒデはショックを受けたようにたじろぐ。


『そ、そんなはずはない!!天下人になれる器だと!!ヒデヨシ殿に……!!』


『ヒデヨシだと……?』


 ミツヒデがそう言った瞬間だった。

 僅かな殺気。距離は少し離れている。俺に向けたものでは無い。


「ノブナガ!!!」

 〔バァァン!!!〕


 発砲音がこだまする。殺気はノブナガに向けられたものだった。


 〔ガンッ!!!〕

「チッ……大丈夫か?」


 間一髪だった。殺気に気づいた瞬間、俺は抜刀し銃弾を遮ることに成功した。


『ああ、だが……ハイセ』


「……仕方ないさ」


 もっと早く殺気に気付いていれば銃弾を簡単に弾くことができた。気を抜いていた俺が悪い。


 〔パキンッ〕


 銃弾を刀身でモロに受けてしまった加州清光は、衝撃に耐えきれず刀身が折れてしまった。

 刀は縦の力には強いが、横の力には弱い。耐久値が低い理由もこれだ。


『いやはや!!まさか不意打ちの銃弾をも弾くとは!流石はノブナガ様に認められた刀神様!!』


 場の空気に似つかわしくない脳天気な声が戦場に響く。


「ヒデヨシ……」


『ですが!さすがの刀神様も刀を失ってはただの木偶ですな!!』


 ヒデヨシはニヤニヤしながらミツヒデの隣に立つ。


『ヒ、ヒデヨシ殿!!いい所へ!どうかご助力を!』


 ミツヒデは藁にすがる思いでヒデヨシに泣きついた。しかし。


 〔ズバッ〕

『ヒデヨシ……殿……?』


 ヒデヨシはミツヒデを容赦なく斬りつけた。


『サル……貴様が』


『さすがはノブナガ様!!理解が早くて助かります!』


 ヒデヨシはヘコヘコしながら舐め回すように俺達を見た。


『予定が狂ってしまいましたなぁ。ノブナガ様をミツヒデ殿が討ったあと、私がミツヒデ殿を討伐し天下人となる予定だったのですが』


『洗いざらい吐いたということは死ぬ覚悟はできているという事か?』


『いえいえ!滅相もございません!!これは、貴方達への冥土の土産に話しただけです!』


 ヒデヨシはそう言うが、もう周囲に人の気配はない。ヒデヨシ1人だけだ。俺達相手にヒデヨシが1人で勝てるはずがない。なにを企んでいるんだ?


『西の方達はこれを知っていますか?』


 ヒデヨシは懐から1本の注射器を取り出した。


「なんだそれ」


『おかしいですなぁ。これは西の商人から仕入れたものなので、有名なものだと思っていました』


 注射器の中には赤黒い液体が入っている。


『なんでも、これを使えば鬼神がごとき力を得られるとか』


「そんなものがあってたまるか。そんなんで強くなれたら苦労しねぇよ」


『ところがどっこい!!少し使ってみたところ本当に強くなりましてな?ミツヒデ殿と研究した結果、"悪鬼羅刹"の血を取り込むと性能が大幅に強化されたのですよ!』


 はぁ……なるほどな。


『では、貴方達を葬り去り、オワリへ凱旋といきましょう!!』


 ヒデヨシは自分の首に注射器を刺した。


「そういう感じか」


 ヒデヨシの体格は大きくなり2.5m程までおおきくなった。肌は若干赤黒くなり。牙と角が生えてきた。


「くそ……初期の日本刀使うしかないか」


『ハイセよ』


 俺がインベントリから刀を取り出そうとすると、ノブナガが呼び止めた。


『これを使え。俺はもう体力の限界で動けん。情けない話だが、サルの討伐はお前達に頼んで良いか?』


 ノブナガはそう言うと俺に一振の日本刀を渡してきた。

 この刀は……。


『"へし切長谷部"。我が愛刀だ』


「……ああ、ありがたく使わせてもらう。この刀でアイツの首を取ってやるよ」


『頼む』


 伝説の名刀を手に、俺達は最終決戦に挑む。

今日で連載1ヶ月になります!!

お陰様でたくさんの人に読んでいただき感謝です!


毎日投稿は今日までです!


更新時間、更新頻度については活動報告にて!

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