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第29話 暗躍せしは、かの英傑

本編で語られる歴史については史実を元に書いています。中には諸説ある物も含まれますのでご理解の程よろしくお願いします。


後書きに作者からのメッセージがあります。

 

 ◆BA【ナガシノ】


「命を救えって言ったってなぁ……」


「信長が死ぬのは有名な本能寺の変よね、このワコクに本能寺ってあるのかしら」


 次のクエストタスクである【ノブナガと友好関係を結び、命を救え】を達成するためにはどうしたら良いだろうか。

 あの後、ノブナガから「ワコクに滞在する間、何かあったら俺を頼れ!!」と言われた。


「なんか、イメージと違うよな」


「そうだね。第六天魔王と恐れられる程の悪意を感じなかった」


 最初は理不尽な所もあったけど、話してみるとそこまで悪い人ではなかった。

 なんというか、不良と恐れられてるけど実は優しい地元の先輩みたいな感じだ。


「師匠ー、終わりましたよー」


「おう」


 今はワコク限定のクエストを幾つか終わらしている。ハルが今倒したモンスターは『悪鬼』体長2m程の鬼のモンスターだ。


「さて、どうやって命を救うか」


 WSOのクエスト、特にストーリークエストの攻略法は1つでは無い。クエストタスクの内容と同じならどんな方法でもクエストクリアとなる。プレイヤーによって攻略法は千差万別だ。


「はいはーい!!」


「はい、ハル」


「ノブナガ抱えて国外逃亡!!!」


 確かに、国外に逃げれば命は助かるだろうな。


「それはシステムが許してくれないな」


 おそらくノブナガの行動範囲はワコク限定だ。国外に連れていこうものならシステムがその移動を妨げるだろう。


「いっその事ノブナガ以外全員倒す?」


「物騒だなぁ、敵が居なければ関係ないか……でも、それもダメだ。ノブナガと友好関係を結び、だぞ」


 ノブナガが気に入っている家臣まで手にかけると友好関係どころの話じゃない。


「んー、皆の刀奪っちゃうとか……」


「それはレオルが欲しいだけだろ」


 レオルに至っては論外だな。そもそもNPCの所有物は奪えないし。


「先に、明智光秀を倒すか……」


「いいんじゃないですか?本能寺の変は明智光秀が謀反を起こした結果ですし」


「どうだろうな。ノブナガに説明しても聞いてくれない気がする。ハゲだなんだと言っていてもなんだかんだ信用する家臣の1人だしな」


「とりあえず、本能寺がこの世界にもあるのか聞いてみましょう」


「そうだな」


 本能寺の所在、誰に聞くか。

 ノブナガと一部の家臣以外は通常のNPCだ。聞いても決まった答えしか返ってこない。家臣で独立型AIなのは、カツイエ、ヒデヨシ、カズマス、ナガヒデ、そして、ミツヒデ。織田五大将が独立型AIだ。


「僕はカツイエとヒデヨシとミツヒデくらいしか知りませんねぇ」


「カズマスは滝川一益(たきがわかずます)の事だろう。槍使いの猛者で、国よりも茶器を欲しがった変わり者として有名だ。ナガヒデは丹羽長秀(にわながひで)だと思う。柴田勝家と並ぶ織田家の二大宿老で、工作や補給とかの指揮に長けていた。柴田勝家は"かかれ柴田"と呼ばれているのに対して丹羽長秀は"米五郎左(こめごろうざ)"って呼ばれてたんだ」


「"米五郎左"ですか?」


「ああ、米のように無くてはならないって意味らしい」


 この中で信用できそうなのは、ミツヒデ以外の4人だ。


「選択を間違えてクエスト失敗は避けたい。慎重にいこう」


 そう話しつつ俺達はいつの間にか、城下町まで戻ってきていた。すると、丁度アヅチの城の前にヒデヨシが立っていた。


「師匠!ちょうどいいんでヒデヨシに聞きましょうよ!明智光秀を討ち取ったのは豊臣秀吉でしたよね?」


「当時は羽柴秀吉だ」


 ヒデヨシ。確かに、討ち取ったと言われる張本人だが……。なにか、嫌な感じがする。


「おーい!」


「待て!ハル!」


「ヒデ……んぐっ!?」


「待てって……!!」


 俺の静止を聞かずヒデヨシに話しかけようとしたハルを抑え口を塞いだ。


「んっ……んー!!」


「なんだよ……静かにしろ!」


 ハルは顔と耳を真っ赤にしている。どうしたんだ?

 そんなことをしていると、ヒデヨシは俺達に気付いたようだ。


『お!!これはこれは!!カツイエ殿を破りノブナガ様に認められた刀神様ではございませんかぁ!!』


 すごいよいしょしてくるな。


「お世辞は良い。聞きたいことがある」


『聞きたいことですか?何なりと!』


「カツイエは今どこにいる?」


 俺がそう聞くとヒデヨシは目を細め怪訝な顔で俺を見る。


『どうしてカツイエ殿を?』


「戦った剣術について色々聞きたいことがあるんだ。ダメなのか?」


 ヒデヨシはしばらく黙り、何かを考えている。何か疑われているのか?


『そういうことでしたかぁ!!カツイエ殿はアヅチの城の道場に居ますよ!』


「すまんな」


『いえいえ!ごゆっくり〜』


 ヒデヨシは手を振りながらどこかに歩いていった。


「ハル、慎重にって言っただろ」


「もう!師匠ったら……まぁでも、秀吉は信長の仇を討った張本人ですよ?疑う余地あります?」


「いや、本来ならないんだが……」


 歴史では信長の訃報を聞き、中国地方から猛スピードで京へ戻ったそうだ。かの有名な"中国大返し"だ。

 そこまでして信長を慕っていた秀吉……確かに疑う余地はないんだが。


「何か理由が?」


「いや、"勘"だ」


 何か嫌な感じがする。勘としか言いようがないが、ヒデヨシは止めといた方が良さそうだ。


「ハイセが勘って言うなら間違いないわね」


「そうだね。ハイセの勘は当たるから」


 スミレとレオルは第六感の事を言ってるんだろうな。こればっかりは本当に勘としか言えないんだけど。


「そうですか。まぁ、そういう事ならどさくさに紛れて僕の胸鷲掴みしたことは許してあげます」


「え!?ちょっとハイセ!!」


 ハルのやつ何言ってんだ…。

 ハルの言葉を聞いたスミレが突っかかってきた。


「胸なんか触ってねぇよ……」


「それは僕には触る程の胸は無いって言いたいんですか!?」


「違う!!あーもう!!とりあえずカツイエに聞くのが無難だ!行くぞ!」


「師匠!逃げないでください!」


「ハイセ!待ちなさいよ!」


「このパーティーは賑やかだなぁ」


 ギャーギャー騒ぎながら俺達はカツイエがいる道場へ向かった。


 ◇SA【アヅチの城:道場】


 道場からはブンブンと木刀を振る音が聞こえる。


「カツイエ」


『おお!ハイセ殿にその御一行!こんな場所へどうした?』


「カツイエに聞きたいことがあるんだ」


『聞きたいこと?』


「ああ、ワコクに本能寺って建物はあるか?」


 俺がそう聞くとカツイエは考える間もなく答えた。


『ホンノウジならここより北に進んだ場所にある。馬で一刻程走れば着くはずだが』


「そうか、ありがとう」


『ワコクの観光か?』


「そんな所だ」


『楽しんでこいよ!』


 カツイエに手を振りながら俺達はアヅチの城を出た。


 やっぱりカツイエに聞いて正解だったな。


「なんでカツイエにしたの?それも勘?」


 スミレは不思議そうに聞いてくる。


「勘もあるけど。勝家は物凄い秀吉嫌いだったと言われてるんだ。俺はヒデヨシに対して嫌悪感を覚えている。だったら、そのヒデヨシ嫌いのカツイエに聞くのが確実だ」


「なるほどね」


「師匠の行動原理って基本的に"勘"なんですね!」


 それは褒めてるのか嫌味なのか……ギリ嫌味だな。ハルには強烈なデコピンをお見舞いしといた。


「ハイセは歴史に詳しいんだね。僕も日本や戦国時代は好きだけど、まだまだ知識不足でね。色々助かるよ」


「ついでに色々勉強するといいさ」


「うん!」


 さて、北に向かうのに馬で一刻……約2時間か。そいや、飛龍って使えるのかな。ワコクの外では不法入国を防ぐ為に飛龍は使えなかったけど、内側なら使えるんじゃないか?

 そう思い俺は笛を取り出した。


「ひ、飛龍で移動するの……?流石に使えないんじゃない……?」


 スミレは震えながら笛を取り出した俺の腕を握る。


 〔ピーーーーー!!!!!〕


「あっ……」


 お構い無しに笛を吹くとスミレは絶望的な表情を浮かべて膝を着く。こういう所がからかいがいがあって楽しいんだよな。


「どうやら使えるみたいだね!」


「よし、これならあっという間だ」


 俺達は飛龍に乗ってホンノウジへ向かった。


 ◆BA【ホンノウジ近郊】


「あれがホンノウジか」


「みたいね……やっと着いた……」


 ホンノウジの手前で降りる。辺りは狼型のモンスターが彷徨いているみたいだ。


「とりあえず、ホンノウジに入るか……ん?」


 ホンノウジに入る為に足を進めるが、見えない壁に阻まれる。


「なんだこれ、入れない」


【侵入不可エリア。特定の条件を満たした時のみ入れます】


 まじか、クエスト終盤でしか来れないタイプのエリアみたいだな。


「ノブナガとここに来るしかないのか」


 信長が本能寺に泊まった時は数人の兵のみだった。実際の歴史通りに事が進むなら、ミツヒデは1万と700余の兵を引き連れてホンノウジに攻めてくるはずだ。

 流石に、俺達だけで1万はキツいよな。歴史通りならだが。


「実際の歴史と違う所を考えないとなぁ……」


 俺がそう呟くとスミレは思いついたように口を開く。


「ねぇ、このワコクの大名ってノブナガしかいないの?」


「え?あ、そういえば、どうだろうか」


 そこまで調べてなかったな。確かに、ワコクは地味に広い、ノブナガ以外に土地を治める大名が居てもおかしくない。


「飛龍で飛び回ってみるか」


「え、いや、ほら、聞けるんじゃない……?カズマスとか、ナガヒデとかから……ね?聞けるでしょ?」


 もう懇願に近いな。そんなに飛龍が嫌なら待ってたら良いのに、頑なについてくるんだもんな。


「わかった、じゃあ聞いてみよう。そうだなぁ、じゃあ次はカズマスに聞こう」


「なんでカズマスなんだい?」


「勝家と一益は仲が良かったことで有名だ。一益は何かと勝家の味方をしていたらしいしな。この世界でもその関係は同じだろう」


「なるほど!」


 俺達が何かと調査を進めていることで多少クエストも進行しているはずだ。ノブナガがホンノウジに行く前に色々準備しとかないと。


 ◇SA【アヅチの城】


 今日はあっち行ったりこっち行ったり大変だ。それもこれもこのクエストが原因だ。これでURの1つでも無けりゃ割に合わないぞ。


「ん?あれは」


 アヅチの城内を歩いていると、カツイエとカズマスを連れたノブナガの姿があった。なにやら楽しそうに話している。


『おお!お前達か!ちょうど良かった!』


 ちょうど良かった?


『今からナガシノにデカい悪鬼を狩りに行こうと思ってな!!一緒に行くか?』


 でかい悪鬼?なんだろう。フィールドボスだろうか。だが、こっちとしてもちょうど良かった。


「ああ、行くよ」


『よし!決まりだ!』


 すると、クエストタスクの下に項目が追加された。


【サブタスク:悪鬼羅刹の討伐】


 サブタスクが出てくるって事は、どうやらクエストはしっかり進行しているようだ。

 サブタスクとはやってもやらなくてもいいタスクの事だが、やっておいた方が何かといい事が多い。


『現地で落ち合おう』


 そう言うとノブナガ達は歩いていった。


「何か情報得られるでしょうか」


「さあな。だが、相手は独立型AIだ、出方によったら色々話してくれるかもしれない」


 他の大名の有無、どのタイミングでホンノウジに向かうのか、それさえ分かれば攻略の道筋は見えてくる。


 俺達はノブナガ達が待つナガシノへと向かった。


 ◇◇◇


 アヅチの城、とある茶室。ここには2人の家臣が居た。


『ほ、本当に上手くいくのでしょうか、大体私なんかが……』


 弱気になりながら愚痴を零すのはミツヒデ。


『なぁに、ドンと構えといてくださいよ!ミツヒデ殿!あなたにはこのヒデヨシがいるではないですかぁ!』


 そんなミツヒデを必死に鼓舞し、ゴマをするのはヒデヨシ。


『しかしですなぁ……1つ不安要素がありましてぇ』


『ふ、不安要素!?や、やめ、やめましょう!この計画は!』


『ちょいちょい慌てんといてください!!その不安要素を取り除くのが私の役目ですから!それで、1つミツヒデ殿の力を借りたいのですが……』


 ヒソヒソとヒデヨシはミツヒデに耳打ちをした。


『な、なるほど……わかりました……やるだけやってみます……』


 ミツヒデの返答にヒデヨシはニヤリと笑う。


『さぁっすがミツヒデ殿!!私は予定通り行動しますので、計画通りに!!』


『はい』


 不安そうな表情をするミツヒデを見て、ヒデヨシはその手を取った。


『安心してくださいな!!必ずやこのヒデヨシがミツヒデ殿を天下人へと導きましょうぞ!!』


『うん……うん!!よろしく頼む!!ヒデヨシ殿!!』


 活気を取り戻したミツヒデは茶室から出ていった。


 1人残る茶室の暗がりには、サルと呼ばれる男の狂気じみた笑みが零れていた。


ご閲覧いただきありがとうございます!


誤字報告むちゃくちゃ助かってます…!!なるべく誤字らないように気をつけます!!


感想で「これおかしくない?」という意見をいただいております。作者のおつむが弱い故、ご都合展開などもあると思いますが生暖かい目で見守っていただけるとありがたいです。


あまりにも「この設定大丈夫?」というものがあれば、優しく言ってください。

キツい言い方されると(´・ω・`)となります。


お陰様で沢山の方にブックマーク登録、評価、いいねしてもらっており、"面白い"その一言で心が浄化されています。


この小説を普段から読んで頂いている皆様、ちょっとでも目を通した事がある皆様、この小説の存在を認知してくれている皆様に心からの感謝を。


今後とも「不遇武器でも最強です」と紅咲をよろしくお願いします。

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