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第28話 ワコクの主

 

 ◇SA【ワコク:アヅチの城】


 言われた時間になった為、俺達はノブナガが待つアヅチの城に来た。立派な城だ。


「凄い凄い……。侍がこんなにいっぱい……」


「レオル、いい加減落ち着け。クエスト失敗で終わりなんて嫌だぞ」


「う、うん、ごめん」


 レオルは1つ息を吐き、落ち着きを取り戻した。真剣な顔になり、目の前の襖を見る。


『ノブナガ様!例のお客人がお見になりました!』


『通せ』


 ドスの聞いた声が襖の奥から聞こえる。これがノブナガか。

 俺達を案内してくれた人は襖を開ける。俺達は部屋に入る。左右に分かれるように家臣達が座っている。目の前の一段上がった上座にはノブナガと呼ばれるNPCが座っている。


 クエストタスクは『ノブナガの機嫌を取る』だな。


『貴様らが例の入国手形を持って来た奴らか』


 ノブナガは怪訝な表情を浮かべ俺達を舐め回すように見た。


『ふむ。弓に奇妙な筒……火縄銃に似ているな、貴様のそれは西の剣か?そして、貴様は刀か……。黒髪の女と金髪の男は残って良い。その他に用はない。帰れ』


「「は?」」


 ハルとレオルだけ残れって?

 ノブナガは何を言っているんだ?そういうイベント?いや、クエストの受注主は俺だ、俺が省かれることってあんのか?


「なんで帰らなきゃいけないんだよ。こっちは呼ばれて来てんだ」


 NPCに言っても無駄か。


『理由は明白だ。貴様とその女の持つ武器は見飽きている。俺の目的は目新しい得物だ』


「えっと……」


 こいつってNPCだよな?普通に受け答えしてるけど。すると、レオルが俺に耳打ちした。


「ノブナガは独立型AIみたいだ。システムで行動範囲と思考は制限されてるみたいだけど、ある程度の受け答えはできるみたいだ」


「独立型AIねぇ……」


 独立型AI。科学が進歩した今の時代では、AIが独立して行動する事が可能になった。いい例がこのノブナガだろう。

 ノブナガの人格は、残っている文献から再現された疑似人格で第六天魔王と恐れられた織田信長の人格がそのまま再現されているらしい。


『俺の言葉が聞こえなかったか?帰れと言っている』


「そう言われてもなぁ」


 船乗りじいさんが言うには第六天魔王の怒りには触れるなだったよな。でも、このまま帰ってもなんにもなんないよな。だったら、


「まぁ、いいじゃねぇか。ケチケチすんなよ。かの第六天魔王は器が小さいな」


 挑発してやろう。


『な、なんと無礼な!!』

『ノブナガ様!このような奴らは斬り捨ててやりましょう!!』


 俺の挑発を聞いて家臣達が騒ぎ立てている。もうやる所までやってやろう。


「外野がうるさいなぁ。俺はお前らで言う西で1番になった男だぞ?斬り捨てられるのは自分だと考えられないのか?」


『なんだと!?』


『ほう。西で1番か。俺が出した条件は貴様が達成しているという訳か』


「条件?」


『そうだ。この入国手形を手にする条件は、"西で1番強い者"だ。貴様がなんらかの形で1番になり手に入れたのだろう?』


「まあな」


 なるほどな、それでデュエル・コロッセオの賞品だったのか。


「それでも帰れってか?」


『西で名を馳せているとは言え、貴様のその不遜な態度はなんだ?』


「不遜だ?この国では偉いらしいが、俺はお前の家来になった覚えはねぇよ」


 俺とノブナガは睨み合い、ただならぬ空気が場に充満する。さて、どうなるか。


『貴様……余程死にたいらしいな』


 ダメだったみたい。そりゃそうだよな、織田信長の疑似人格だもんな。


『このうつけ共を捕えよ』


「えぇ!?僕達まで!?」

「すまんな」


 ◆SBA【アヅチの城】


 おぉ、SBAになった。ストーリーイベントだとよくあるらしい。


『この者共を捕えよ!!!』


 〔うぉおおおお!!!!〕


「わらわらと出てきたな。いけるか?」


「余裕だね」

「余裕よ」


「ハル、バフは大丈夫そうだから、応戦してくれ」


「了解です!!」


 さて、相手は全員刀だ。なんか新鮮だなぁ。さて、久々にスキルも思っきり使うぞ。


【第六天魔王の怒り】

【特殊条件により、能力を一部制限されます】


「は?ちょ……」


【スキル、ステータスが制限されます】


「えぇ……」


 まぁいいか、折角だし鷹見流剣術が侍達にどれだけ通用するかやってみるか。


 俺、スミレ、レオルはプレイヤースキルのみでも問題ないが、ハルはちょっと厳しいんじゃないかな。リボルバー現実で撃ちまくってるなんてことないだろうし。


「ハル、大丈夫か?」


「流石に二丁は厳しいですね……。一丁で応戦します」


「わかった、よしやるか」


 侍達はグルっと俺達を取り囲むように構えている。


「ざっと20人くらいか?」


 痺れを切らした侍が襲いかかってきた所で、戦闘が開始した。


 ◇◇◇


「こんなもんか」


 呆気なかった。侍とはいえ、ゲームで設定された難易度の敵だから勝てない程じゃないのか。


「日本の侍はみんな猛者だって聞いてたけど、大したこと無かったね」


「ゲームだからじゃない?」


「そうですね」


 ノブナガは俺達の戦闘を見て何かを深く考え込んでいる。


『ほう。この局面を乗り越えるか』


 すると、周囲に避難していた家臣達を見回す。


『そうだな……おい、カツイエ。あの銀髪の男と戦ってみろ』


『御意』


 一際ガタイの良い男、カツイエと呼ばれる男が俺の目の前に立った。

 カツイエ、柴田勝家の事か。"鬼柴田"や"かかれ柴田"の異名を持ち、信長の家臣の中で最強の武将と呼ばれていたそうだ。


 ◆SBA【アヅチの城:カツイエ】


 フィールドボス扱いなのか。


「ハイセ、頑張って!」


「おう。戦国時代の武将はどこまで出来るんだろうな」


 武術とかも再現されてるのかな?

 カツイエは腰に挿してある刀を抜いた。


「おぉ……あの刀は」


「『にっかり青江』だね!!凄い!!この世界の刀って精巧に再現されてるんだよね!?すごいなぁ」


「お、おう……」


 大興奮のレオルが解説してくれた。

『にっかり青江』変わった名前だが、幽霊を切った事があると言われる刀だ。名前の由来は子供を抱いて欲しいという女性が"にっかり"と笑い、不気味に感じた当時の所有者が斬った事から名付けられた。翌朝、女性が居た場所に行くと真っ二つに斬られた灯篭があったそうだ。


「俺ホラー苦手なんだよ……不気味な刀だ」


『我が名はカツイエ!!推して参る!!』


「ハイセ、よろしく」


 俺も腰から加州清光を抜き取り、構えた。

 まだ、スキルとステータスは使えないみたいだ。どうやらアヅチの城での戦闘はノブナガのせいでデバフが乗ってしまうらしい。


『てやぁあ!!!』


 カツイエは豪快に刀を振るう。躱せないスピードじゃない。

 俺は容易にカツイエの刀を躱す。しかし、なぜか俺の身体には切り傷が付いた。


「なんだ……?」


 しかも、HPが結構削れた。


【スキル:鎌鼬 SR 説明:自身の武器に風の刃を付与する。武器が当たっていなくてもダメージを与える】


「お前らはスキル使えんのかよ……」


 それはちょっとずるい気がするけど、まぁアウェイゲームだと思えばなんのこたないか。


『まだまだぁあ!!!』


「うおっ」


 恐ろしい連撃だ。鎌鼬の効果で大きく躱さないといけない。意外と厄介だな……。それにこの動き、どうやらステータスはSTR多めに振ってるようだ。


「戦うフィールドが狭いからスピードの有利も半減か……」


 考えられているな。自分はスキル、ステータスオフに、相手はSRスキル、そしてこのフィールド。本来なら負けイベって言われるやつか。


「でも、たまにあるよな。負けイベに勝ったらボーナスステージみたいなイベント」


 ここは負けられないな。


「ハイセは何をブツブツ言ってるんだろ?」


「余裕がある証拠よ。ふざけてるように見えるけど、意外と対策は考えてるから」


 聞こえてるぞ。ふざけてないよ、色々考えてるだけだ。


「よしっ。レオル、この前決勝で言ったこと覚えてるか?」


「え?あ、えっと型の連携だっけ」


「そう、それだ。あの時も手本見してやったけど、また見してやるからしっかり見てろ」


 型の連携は簡単な事じゃない。型毎に力の入れ方、体の使い方が変わってくる。


『だぁぁああ!!!』


「鷹見流居合『幽冥一閃』」


『なんの!!……なに!?』


「鷹見流『陽炎』」


 カツイエの刀をすり抜けダメージを与える。


「俺にもやったやつだ」


「これが一番わかりやすい。陽炎は相手が防御の体勢になった時のみ発動できる。居合は読まれやすいからこうやって対策するんだよ」


「なるほど……」


 レオルはふむふむとメモをしている。どっから出したんだよ。ほんとなんでも持ってるな。


「次は攻めの型だ」


 俺は納刀し、カツイエに肉薄した。


「鷹見流『驟雨』」


『ぬぉっ』


 高速の太刀筋がカツイエを襲う。

 カツイエのHPは順調に減っている。


「鷹見流『天つ風』」


 ここからもう1つ繋げられる。


「鷹見流『轟雷』」


 天つ風で斬り上げた流れから切り返しの真っ向斬り。全ての型が完璧にカツイエに炸裂した。


『ぐおぉ……』


「凄い……」


 いずれレオルもこのくらい出来るようになるはずだ。


 カツイエの残りHPは3割程か、一気に……!!

 カツイエに肉薄し、刀を振り下ろす。


『それまで!!!』


 ノブナガの号令で刀を止める。俺の刀はカツイエの首に少し触れた程度で止まった。


『見事だ!!貴様、名を名乗れ!!』


「ハイセ」


『ハイセ!!見事な剣術であった!!褒めて遣わす』


「そりゃどうも」


 どうやらノブナガの機嫌は治ったようだ。これでクエストを継続できる。


『カツイエよ、お前もまだまだ鍛錬が必要だな』


『仰る通りです、ノブナガ様。ハイセ殿、見事な剣技であった』


「どうも」


 カツイエと握手を交わす。カツイエも独立型AIっぽいな。辺りを見回すと表情がコロコロ変わる家臣と一定の動きしか繰り返さない家臣がいる。どうやら、クエストに関わってくるNPCは独立型AIのようだ。


『ハイセ、お前の見事な剣術免じてさっきの非礼は許そう』


「あざす」


 よし、なんとかクエストタスクはクリア出来たようだ。次はなんだろうか。


【ノブナガと友好関係を結び、命を救え】


 は?命を救え……?ちょっとまて、ノブナガ死ぬの?

 信長の死。つまり、『本能寺の変』が起こるってことだ。


「俺達で歴史を変えろってか……」


 さすが、シークレットクエスト、難易度が桁違いに高いな。


ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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