第3話 WSOというゲームについて
スライム…RPGビギナーが最初に通るであろう鬼門だ。ってほど鬼門でもないが。大体最初のモンスターはスライムだよな。
「よっ」
〔パーン!!〕
「おぉ、一撃」
俺は刀を振り抜き、一撃でスライムを仕留めた。
「さすがだなぁ、今のが会心だ。ベストな場所、ベストなタイミング、耐久値の減少を抑えるベストな一撃により会心は発生する」
「なんだ、簡単じゃねぇか」
「簡単って言えるのはお前だけだ……」
スミレはどうだろうか。
〔パーン!!〕
「余裕ね」
心配はいらないな。見事な会心でスライムを一撃で仕留めている。
「5体狩ったけど、スキルとステータスどっちを上げた方がいいの?」
「スミレはその弓をずっと使い続けるか?」
「え?使わないわよ。もっと良い弓あるんでしょ?」
「だったらステータスだな。武器スキルにPを使った場合、その武器を使用しなくなった時返ってくるPは半分になるんだ。つまり、その弓に6P使ったとしてそれを使わないからと売却、または分解すると半分の3Pになって返ってくるんだ」
「ふーん。討伐Pの使い道も色々考えなくちゃダメね」
これといった武器が手に入るまでは討伐Pは温存した方が良さそうだ。
周りを見てみると嬉々として初期武器に討伐Pを振っている。気持ちはわかるよ。俺もスキル使いたい。
「俺はとりあえずAGIに入れとく」
「私はDEXね」
「うむ、いい判断だ」
吾郎は教官のように立っているが、一応こいつも初心者だよな?
「吾郎も初心者だろ?」
「ん?俺は1度このゲームをやった事があるからお前らの先輩だぞ?」
「そのデータは?」
「消した!お前らと一緒に始める方が楽しいからな!」
「「もったいな」」
「おい!そこは感動するとこだろ!変なとこで息ぴったりだなお前らは!」
ギャーギャー吾郎が騒いでるが気にしない。なんせ刀を振れるんだ、ただ振れるだけじゃない、刀を振り下ろしていい相手もいる。スライム倒しただけでテンション爆上がりだ。
ここら辺にいるプレイヤーはみんなビギナーだよな。どんな武器使ってるんだろ…。
「あれ?なぁ、吾郎」
「お、気付いたか?」
「日本刀使ってる奴多くね?」
「ほんとね、3人に1人は日本刀使ってるわ」
そんなに人気の武器だったのか。日本最後の剣術使いとして鼻が高いな。
「まぁ、日本刀はロマンだからな。外人からしても日本刀はCool!!!な武器だし、日本人からしてもやっぱ憧れる武器だよな」
吾郎はそう言うが俺はイマイチわからん。常に日本刀を持ち歩いているから俺の感覚は普通とは違うんだろうな。
「だが、現実は厳しい」
「え?」
「あのビギナー見てみろ」
吾郎の指さす方向には真っ赤なヘルメットみたいな髪型と髪色をしたビギナーが日本刀でスライムと戦っている。
「ふっふっふっ…くらえ…俺の必殺抜刀術!!!」
赤ヘルビギナーは鞘から抜刀し、刀を振り抜いた。
「てや!!てやてや!!!はぁああ!!てや!!」
そして、闇雲に刀を振るう。
「あー、あー、あー、ダメだダメだ。そんなんじゃ刀が可哀想だ……」
「そういう事だよ」
赤ヘルビギナーはめちゃくちゃな攻撃を放ち、5撃目でやっとスライムを倒した。
「ふぅ……俺はこいつでトップに立つ……」
そう呟き、刀のウィンドウを見る。
「は!?なんだこれ!?」
それを見て赤ヘルビギナーは思わず声を荒らげた。
「耐久値が残り10!?ふざけんなよ!!スライム1体しか倒してないのに!!バグだろ!!」
そう、刀の耐久値が著しく減っていたのだ。50あった耐久値は10へ減少、スライム1体倒すのに40消費したのだ。
俺は自分の刀の耐久値を見る。
【耐久値:50】
「なるほどな。リアルでの武器のメリットデメリットもこの世界では作用する訳だ」
「そゆこと」
日本刀は世界で最も斬れる刃物として有名だ。しかし、その扱いは非常に難しく、素人が闇雲に刀を振るえば簡単に刃毀れし、使い物にならなくなる。一流の使い手は刃毀れさせずに使い続ける事も可能だ。(定期的なメンテナンスは必要)
プレイヤースキルを重視し、リアルに近付けた結果、武器のメリットデメリットも影響を与えることになったのか。
「武器が破損すれば直すのに金が掛かる。スライム1体倒すのにいちいち金掛けるのも馬鹿らしくなってくるんだよ」
「そりゃそうだな」
「今では日本刀はコレクションされてる事が多い。実際に日本刀を使っているプレイヤーはほとんど居ない」
吾郎の言い方だと、破損した武器を直すのに結構な額が必要なのだろう。
「リリース当初は日本刀をもっと扱いやすくしてくれーってクレームで溢れてたみたいだが、運営は頑なに修正しなかった。だから、WSOで日本刀は『不遇武器』って呼ばれてんだ」
不遇武器か…。
すると、赤ヘルビギナーがロビーから戻ってきた。その背にはロングソードがある。
「あいつは西洋剣にしたのか」
「みたいだな。実際、【始まりの街:アルガン】に着く頃にはみんな日本刀は辞めてる」
「ふーん」
まぁ、現代社会でまともに日本刀扱える方が異常だ。別におかしい事じゃないな。
「ぷっ、不遇武器だって!残念ね!ハイセ!」
「俺はまともに扱えるんだから関係ねぇよ」
他人事だからってケタケタ笑いやがって。
「何言ってんだスミレ、お前の弓も不遇武器だぞ」
「なんで!?」
「遠距離武器には銃もあるだろ。1発の火力は弓の方がデカいが、連射速度は圧倒的に銃の方が上だ。DPS※が良い方を使うのは普通だ」(※1秒間に与えるダメージの総量)
確かに銃の方が使い勝手も良いよな。
「速射くらいできるでしょ!!」
「それはお前が実践向けの弓術を使ってるからだ。一般的な弓道で速射なんかしないだろ」
「でも、それだけで不遇って言われるのか?」
「それだけじゃねぇよ。銃は種類が豊富なんだ。ハンドガンのリボルバーやオートマチック、アサルトライフル、スナイパーライフル色々あるんだよ。だが、弓はショートボウ、ロングボウ、んでスミレが使っている和弓だけだ」
おぉ…種類の暴力。
「これも問題になってなぁ、同じように速射系のスキルがほしいとクレームが殺到したんだが、これまた運営は頑なに修正しない。だから、弓も『不遇武器』なんだよ」
リアルを求めるが為に色んな苦労してんだな、運営。その執念は賞賛に値する。あっぱれ。
「あとは、やっぱ弓自体の扱いにくさだよな。弓道習ってるならともかく全くの素人が扱うにはハードルが高い」
「まともに扱えないプレイヤーがいけないのよ!ハイセ!頑張りましょ!」
「当たり前だ、日本刀を使うのは俺だけでいい、刀が可哀想だ」
俺とスミレは半べそかきながら決意を固めた。
「さて、そろそろアルガンに向かうか」
「「おー」」
俺達は始まりの平原を後にした。
◇◇◇
◇SA(安全区域)【始まりの街:アルガン】
「なぁ、SAとかBAってなんなんだ?」
「SAは「safety area」の略だ。安全区域って事だな。BAは「battle area」の略、そのまんま戦闘区域って意味だ」
「そうなの?なら運営は鬼畜ね、目覚めてすぐBAにビギナー放り出すなんて」
今思えばそうだな。右も左も分からない状態でスライムと戦わないといけなかったのか。
「あそこはBAだが、チュートリアルエリアだ。スライムから攻撃してくることはない。つまり、死ぬことも無い。実質SAだが、プレイヤーからの攻撃は通る」
確かに、スミレに殴られた時にダメージが入ったな。
「今日は居なかったがあそこで初心者狩りしてるクズもたまにいるぞ」
「えー、サイテー」
「初心者狩りしてなんかいいことあんのか?」
「なんもないよ。初心者だから金も落とさないし、大して経験値も得られない。ただのストレス解消だ。ただ、通報されるとBAN※対象になるから最近は減ったな」(※運営からアカウント停止処分を下されること)
そんな事を話しながら街を見渡す。大きな壁に囲われた西洋風の街並みだ。いかにも始まりの街って感じだ。
プレイヤーを見るがやはり日本刀を使っているプレイヤーは居ない。同様に弓も。
ちなみにロングボウと和弓は2つ折りにした状態で背負っている。リアルならありえない事だが、こうしないと持ち歩けないため2つ折りにしたそうだ。
背から和弓を取り出すと自動で元の形に戻り、光の弦が張られる。矢は背中の矢筒に収納されている。見た目は数本しか入っていないように見えるが最大100本ストックできる。
耐久値は弓本体と弦で分かれている。弦をより多く消耗するため、弦の耐久値の方が低い。
【武具屋】
「なんか買うのか?」
「いや、見るだけだ。いつまでも初期装備じゃ貧相だぞ?」
初期装備は皮の胸当てに皮の指だし手袋、白いワイシャツに黒の長ズボンだ。いかにも初期って感じだな。
店の中に入るとRPGでよく見る武具屋の光景が広がる。部屋の隅には乱雑に置かれた安売りの武器、高い武器はショーケースに入っておりキラキラしている。防具も一通りあるみたいだ。
「動きやすいのがいいなぁ」
「日本刀使うなら和服の方がいいんじゃないの?」
「和服かぁ。出来れば半着と袴が良いけど、それまでは普通でいいかな」
そう言い手に取ったのは黒色のショートコート。
「ハイセ、ちゃんと値段見ろよ」
「ん?…2ゴールド」
俺の持ち金は…。
「20カッパー…?」
「100カッパーで1シルバー、100シルバーで1ゴールドだ。あと×1000必要だな」
俺は無言でコートを元の位置に戻した。
「20カッパーじゃなにも買えねぇじゃねぇか!!」
「見に来ただけって言ったろ。相場を見に来ただけだ。金はしっかり稼ぎに行くさ」
「私これ欲しい。ハイセ買ってよ」
そう言ってスミレが持ってきたのは袴を動きやすくしたような可愛らしい装備だった。確かにこれに和弓は良く似合う。値段は…。
「……20ゴールド…」
俺の10倍じゃねぇか!!
「返してきなさい。買えるわけないだろ」
「甲斐性なしね」
「始めて数分の俺に言う言葉じゃないだろ……」
俺をなんだと思ってんだこいつは。
金稼ぎかぁ…。スライム5体で20カッパーって事は、スライム1体4カッパーって事か。スライムは金稼ぎにはならんな。
日本刀はどうだろうか。
【名称:日本刀 UC 耐久値:50 スキル:縮地C 岩斬UC 鋼鉄化UC 値段:3ゴールド】
「意外と安いんだな。性能は良くないが」
「まぁ、武器は大抵ダンジョンで手に入れた物とかモンスターの素材で作った物を使うからな。武具屋で売られている武器はほとんど使わない」
「なるほどな」
俺達は一通り欲しい装備に目星を付けて武具屋を出た。
「金稼ぐってどうするんだ?ひたすらモンスター狩るのか?」
「それも悪くないな。ドロップしたモンスター素材を売却するのも一つの手だ。だが、今回は俺達もステータスとか上げときたいからクエストをやろう」
「おお!クエスト!それらしい!」
クエストはプレイヤーであれば誰でも受けられるみたいだ。一応プレイヤーはみんな冒険者という括りらしい。
偏に冒険者と言えど様々な種類がある。ひたすらモンスターを狩りまくる冒険者、ダンジョンを周回しまくる冒険者、生産系スキルで武器を生産する冒険者などなど。中には人を襲う事を目的とする盗賊冒険者も居るらしい。
クエストを受注するには冒険者協会に行く必要があるようだ。
【冒険者協会:アルガン支部】
「うわっ、すごい人ね」
「確かにごった返してるな」
溢れんばかりのプレイヤーがいる。みんな似たような装備をしているってことは俺達と同じビギナーか。考えることは同じか。
「まぁ、始まりの街ならではだな。WSOのワールドは日本列島と同じ面積くらいの大きさがあるからな」
「「え!?」」
とんでもないな…。移動どうするんだろう。
「あらゆる街に冒険者協会は点在してる。クエスト内容はどの支部でも共通だから、わざわざ1つの街に人が溢れることはないんだ」
「へー、ここはビギナーが集まる場所だからか」
「そゆこと。クエストはなんでもいいから、ハイセ取ってきてくれ」
「なんでもいいのか?」
「ああ、アルガンの俺達の冒険者ランクだと受けられるクエストも限られたもんだ」
吾郎の言う通り、冒険者ランクなるものが存在する。
なぜクエストを受けずにフィールドモンスターを狩ったり、ダンジョンに潜ったりするか、それは偏に冒険者ランクが存在するからだ。簡単に言えば「ランクアップが面倒臭い」ってことだな。
「俺達は1番下のF。スライムの狩猟とか、ゴブリンの狩猟だ。報酬も1人2シルバーが良いとこだな」
「えー、じゃあなんでやるのよ」
「まぁいいから。さっさと終わらせるぞ」
「へいへい」
一際プレイヤーでごった返している場所、クエストボードの前に行く。
「ぬー……凄い人だ。なんでもいいんだっけ?なら、これだ!!」
手の前にあった適当なクエストをちぎりとった。ちぎった上からまた同じクエストが発行されてる。なるほど、争奪戦にならないようにみんな平等にクエストを受けられるのか。
よし、2人に見せに行こう。
「はぁ……それで取ってきたクエストが"これ"か…」
そのクエストは黒色の紙だった。
「なんかいけないのか?」
【緊急クエスト:オーガキングの討伐 緊急クエストの為、ランクによる制限を解除します。受注の際は自己責任でお願いします。推定ランク:C】
「よりによって緊急クエスト……」
「良い力試しになりそうだな。スライムやゴブリンじゃ相手にならねぇ」
「そうね!腕が鳴るわ!」
オーガ。確か鬼みたいな見た目のモンスターだっけ?それのキングだからデカいのか?
「一応言っておくが、このゲームのデスペナルティは【所持討伐Pの3分の1ロスト、冒険者ポイントの減少、所持金の半分ロスト】だ。心してかかれよ」
「「まじか」」
デスペナルティキツすぎないか?
「でも、まだ始めたばっかりだ。失う物は特にない!」
これがビギナーの強みだな。デスペナルティどんとこいだ。
俺達3人はクエスト指定の場所に向かった。
ご閲覧ありがとうございます!
次回をお楽しみに!