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第26話 貫き通した信念

ちょっと話長めです。もっと上手くまとめたい。

 

「ハイセ」


 スミレとハルと喜びを分かち合っていると背後から誰かが声をかけてきた。


「リオ……レオル」


「完敗だよ。でも、僕も成長してるだろ?」


 僕?こいつ自分のこと俺って言ってなかったっけ。

 なるほど、ギルメンの前ではカッコつけたがるタイプか。今は円卓のメンバーはいないもんな。


「ああ、驚いたよ。マジになったのは久々だ」


「やっぱりあれがハイセの本気なんだね!君の本気を引き出せたのなら負けた甲斐があったよ!」


「あのなー、そんな事言うなら初めから本気で来いよな?なんだよあの腑抜けた剣技」


「あっはは……申し訳ない……」


 何か焦っているような様子だったな。レオルが最初から調子良かったら俺もノーダメージ優勝なんて出来なかっただろうな。


 そんな俺とレオルの様子をハルはポカンとした様子で見ている。


「あ、あれ?師匠とレオルさんは知り合いだったんですか?」


「あー、いや……なんて言うか。昨日の敵は今日の友ってやつだ」


「昨日の敵って……まだ数分前ですよ!!」


「まぁなんだ、お互い理解を深めるには剣を交えるのが1番だろ?」


「いつの時代の人間ですか……」


 ハルは呆れたように項垂れているが、俺達の関係を説明しようとする色々面倒臭いのだ。


【入賞者の方々は闘技場に入場してください!!】


「アナウンスね」


「スミレ、レオル、行こう。また後でな、ハル」


「いってらっしゃーい!」


 ハルに見送られ俺達は闘技場に向かった。


 ◇


「良いメンバーだね。彼女は確かドクロ狩りだよね?」


「No.1ギルドのギルマスも知ってるのか」


「まあね。一匹狼だと思ってたけど……」


 エイジってパーティメンバーが居たんだけどなぁ……。レオルの眼中には無かったようだ。


「そんなことより、賞品何貰えるんだろうな」


「前回は確かUR確定のクエストが記されたメモを貰ったよ。今回も似たような物なんじゃないかな?」


「UR!!そりゃいいな」


「3位の人は何貰ったの?」


「えっと……確かデイルは【空きスロットチケット】×2だったはずだよ」


【名称:空きスロットチケット SR 説明:武器に空きスロットを付けることができるチケット】


「これは3位も期待できそうね」


 さすがデカいイベントってだけあって羽振りがいいな。


 スミレの3位決定戦は決勝戦前に行われていた。結果はスミレの圧勝。3位スミレ、4位デイルとなったのだ。アデルは不満そうにしているが。


『それでは!!表彰式を始めます!!』


 武舞台に着くと実況者のレイナが司会進行を始めた。ちゃんと敬語使ってる。


『まずは、第3位から!!第3位!スミレ選手!!』


 スミレは武舞台の中央まで歩く。スクリーンにはデカデカとスミレが映し出された。


『スミレ選手には賞金100ゴールドと賞品【宝の地図】と【山賊の銀コイン】を贈呈します!!』


【名称:山賊の銀コイン SR 説明:使用したパーティーのアイテムドロップ率が大幅に上昇する。効果時間1時間】


 へぇ、山賊の銀コインってのは山賊のコインの上位互換なのか。普通のコインでも結構良かったのに、銀コインともなればウハウハかもな。それに、宝の地図まで、こりゃ大儲けできそうだな。賞金もついてくるとは優勝はこりゃとんでもないもんが貰えそうだ。


『準優勝!!レオル選手!!』


 スミレと入れ替わるようにレオルは武舞台の中央まで歩く。


『レオル選手には賞金150ゴールドと賞品【シアレスト王の金庫の鍵】を贈呈します!!』


 シアレスト王の金庫の鍵?なんだそりゃ。


【名称:シアレスト王の金庫の鍵 SR 説明:シアレスト王の自室にある金庫の鍵。中には金銀財宝が眠っていると噂されるが真実はいかに……】


「まじかよ!!」

「あの金庫の鍵ってデュエル・コロッセオの賞品だったの!?」

「うわぁ!!いいなぁ!!」


 観客席がザワついている。

 どうやら、このアイテムはストーリークエストで使用するアイテムで、クエスト途中にある【シアレスト王の自室】というエリアの開かずの金庫の鍵だそうだ。みんな血眼になって探していたらしい。


 いいなぁ、楽しそう。それがイベントの賞品ってのも中々に辛辣だけど。

 レオルは鍵を受け取るとニコニコしながら俺の隣に戻った。


「それくれよ」


「いやだよ!!」


 レオルは鍵を急いでインベントリに仕舞った。冗談だってのに。


『そして!!第2回デュエル・コロッセオ!!優勝!!』


 俺の番か。


『ハイセ選手!!!』


 観客席からは割れんばかりの拍手喝采。闘技場の周りでは花火が上がり、紙吹雪が舞う。

 盛り上がってくれたようで何よりだ。


 俺は武舞台の中央に立つ。


『優勝したハイセ選手には賞金300ゴールドと賞品【クエスト:第六天魔王】の情報と【ワコクの入国手形】を贈呈します!!』


 ワコクって、日本をモチーフにしたエリアの事だよな。それに第六天魔王……。織田信長の異名だな。織田信長関連のクエストだろうか。入国手形って、鎖国でもしてんのか?


 思ったより……しょぼい?


「え!?まじかよ!!すげぇ!!」

「今回のアプデで追加されたエリアよね!?」

「場所は分かってるが、誰も行ったことないらしいぞ!入国手形が必要なのか!」


 そんな事ないみたいだ。

 どうやらワコクはエリアに追加されたが、まだ入り方が解明されてない未開の地だったらしい。

 未開の地か、楽しみだなぁ。早く行きたい。


『それでは!優勝しましたハイセ選手からコメントを頂きましょう!!』


 え?そんな事あるって聞いてないぞ。

 俺の手元にマイクが出現した。

 えぇ……なに話せばいいんだよ。とりあえず謝っとくか。


『えっとぉ……とりあえず、不遇武器でも戦えるってことは証明できたかな?』


 観客席からは歓声が上がる。

 不遇であることには変わりないから、これからも舐められたり笑われたりするんだろうけど。


『今回の大会で優勝することはできたが、正直俺は最強のプレイヤーではないと思う。俺始めたばっかのビギナーだし、WSOの知識も乏しい。もし、スキルありの戦いなら、間違いなくレオルに負けていたはずだ』


 ノーダメージ優勝なんて今回だけのたまたまだ。


『だから、真に最強のプレイヤーはまだ分からない訳だ。No.1ギルドのギルマスか?デュエル・コロッセオの優勝者か?はたまたその2人を倒したプレイヤーか?WSOをプレイする全てのプレイヤーに最強となる資格があるって事だ。まだ、最強を証明できるものはないが……楽しもうぜ、ワールド・シーク・オンラインってゲームを』


 答えるように会場は熱狂した。

 うむ。我ながら良いスピーチだったな。


『素晴らしいコメントありがとうございました!!改めまして優勝おめでとうございます!!今後の活躍を期待してます!!』


 その後、閉会式も恙無く終わり、こうして第2回デュエル・コロッセオは幕を閉じた。


 ◇◇◇


「おつかれ様です!!師匠!スミレさん!」


「おう、ハルも応援最後までありがとな」

「ありがとね」


 閉会式も終わり、闘技場の外に出るとハルが待っていた。


「折角ですし、打ち上げ行きません?師匠の優勝とスミレさんの第3位入賞を祝して!」


「打ち上げか。金もいっぱい手に入ったし、悪くないな」


 俺とスミレとハルの貯金額を合わせたら凄い額になりそうだ。俺達も晴れて金持ち組の仲間入りか。


「なんか打ち上げとか面白そうな単語が聞こえたな」


「アデル、お前いつでもどこでも出てくるよな」


「ダチを見かけたら挨拶するのが礼儀だろ」


 これを挨拶って言うなら今日何回挨拶してんだよ。


「アデル達も来るか?どうせ暇だろ?」


「行くに決まってるだろぉ!高い店行こうぜ!!」


 タダ飯食らう気だな。そうはさせない。もちろん割り勘だ。


「なら、僕もお邪魔しようかな」


「レオルも居たのか。もちろんいいぞ。せっかくなら大人数の方がいい!!さっ、どっか店行こうぜ!」


「そうね。早く行きましょ」


 そして、俺とスミレは同時に思った。


((あれ?なにか忘れてる……?))


 〔〔ピロンッ〕〕


 同時に通知が鳴った。


「同時に通知来たな。ハイセとスミレか?」


 俺とスミレは通知を開ける。メッセージが送られてきているようだ。内容は。


【大至急って言葉の意味を知っているか?】


 椿さんからだった。俺とスミレは顔面蒼白になり見つめ合う。


「「はっ…!!」」


 色々ありすぎてすっかり忘れていた……。スミレが鷹見流剣術を使った話は終わってなかったんだった。


「ど、どうしたんだお前ら、そんな泣きそうな顔して」


「い、いや……ほら……まぁ、スミレがさ、日本刀……」


 スミレが日本刀。その単語でレオルとアデルは色々察したようだ。鷹見家と鶴矢家の交友関係は界隈では有名な話だからな。


「そうか、それは仕方ないな。打ち上げはまた今度にするか」


「そ、そうだね……。えっと……頑張って!!」


 なにを頑張るってんだよ。あとは怒られるだけだ。


「えぇ!!打ち上げは!?師匠!」


「急用ができたんだ。後日絶対に打ち上げするから、我慢してくれ」


「えー、絶対ですよ?」


 ハルは不満げな顔をしているが、納得してくれたようだ。


「レオル、今度話がしたい」


「うん、わかった。いつでも連絡して」


 俺とレオルは固く握手を交わす。


「ちょっと!!ハイセ!早く!!」


「今行くから!!じゃ、またな、レオル」


「うん!またね!」


 スミレに急かされながら、俺達はWSOからログアウトした。


 ◇◇◇


「ふぅ……もう夕方か」


 辺りは薄暗くなっている。今日は土曜日、朝からWSOに居たから10時間くらいはやってたのか。


「じじい、居るか?」


 リビングに入るがじじいは居ない。机にはメモが置かれていた。


【先に行っておるぞい】


「じじいも呼ばれたのか。まぁ、現継承者はじじいだもんな」


 鶴矢家に向かうか。


 ◇◇◇


「はぁ……」


 鶴矢家の玄関を前にため息が漏れる。


「別に俺が怒られる訳じゃないんだけどさ……」


 なんて言うか、大人の本気の説教ってめちゃ怖いんだよな。怒られている対象じゃなくても泣きたくなる。それに、俺も無関係ではないからなぁ……。


「流石に破門はないだろ」


 俺は鶴矢家に入った。


 ◇


「破門だ」


「え?」


 椿さんは今なんて。


「破門と言った。固く禁じられていると分かっていながら使用したんだ。掟を破った者に同情の余地はない」


「い、いやいや……ゲームじゃないですか」


「ゲームだろうがリアルだろうが関係ない。"使用した"という事実が重要だ」


 ダメだ。椿さんはもう決心しているのか、付け入る隙がない。


「鶴矢流の継承が途絶えますよ?」


「それが運命というなら致し方ないだろう」


 じじいをチラッと見る。呑気にお茶を啜ってやがる。おかわりしてんじゃねぇ!


「おい、じじい。これでいいのか?」


「良いも何も、スミレはやっちゃいかんことをしたんじゃ、掟は絶対、椿の言う通り同情の余地はない」


 スミレは泣きそうな顔で俯いている。


「ハイセ、お前はあくまで次代継承者じゃ、現継承者の決定に口出しできる立場ではないぞ」


 じじいが鋭い眼光で俺を睨む。そんな、じじいの目を俺は睨み返す。ピリついた空気がリビングに充満する。


耄碌(もうろく)したじじいは頭が硬ぇな」


「ハイセ!!」


「椿さん、あんたもそうだ。掟、掟、掟……そんなに掟が大事か?」


「継承者として、掟を守るのは大事な事だ」


「そうかよ……」


 ルールを守るってのは大事な事だ。椿さんやじじいの言っている事は間違っていない。間違っていないんだ……。でも、スミレが破門になるのは、違う。


 俺は頭を下げた。喚き散らかしてどうこうなる問題じゃない。感情は抑えろ。


「椿さん、じいちゃん……頼むよ……スミレを許してやってくれ」


「なんで、ハイセが頭を下げる。お前はどっちかと言うと被害者だろう」


「被害者もクソもねぇよ!スミレは俺の為に戦ったんだ……」


 すると、スミレも頭を下げた。


「本当にごめんなさい。お父さん、灰晴おじい様……。もう二度と同じことは繰り返さない。鶴矢流に誓って……」


 椿さんは複雑そうな表情を浮かべ、口を開いた。


「もういい、顔を上げてくれ。子供に頭を下げられるのは気分が悪い……こっちが悪者みたいだ……」


「じゃあ……」


「破門は無しだ」


 よかった……。


「だが、スミレ。掟を破るっていうのはそういう事なんだ。後で後悔することになるぞ?」


 後悔。その言葉を聞いて、スミレは強く椿さんを見る。


「今回のこと、反省してるし、本当に悪い事をしたわ。二度としないと誓う。でもね……私は」


 スミレは泣きそうな顔でグッと唇を噛み締める。


「私は、あの時鷹見流を使ったことを後悔してないわ!!私は私の信念を貫いただけだから……!!」


 怒鳴りつけられることを覚悟し、スミレはグッと目を瞑った。しかし、


「ん……そ、そうか?なら、まぁ、別に……」


 え?なんか思ってた反応と全く違う。椿さんは気まずそうに顔を逸らしている。


「はっはっはっ!!やっぱり親子じゃのぉ!!昔の椿と全く同じことを言っとらい!!」


「「え?」」


「ちょ、灰晴さん!!」


 すると、美味しそうな料理を持ってキッチンから桜子さんが出てきた。


「学生の頃なんだけど、お父さんも鷹見流剣術を1度だけ使ったことがあるのよ」


 ニコニコしながら桜子さんがそう言う。

 俺とスミレはジト目で椿さんを見ている。椿さんも前科ありなのかよ……。


「私が暴漢に襲われてるって勘違いしてね?圭吾君が練習で使ってた木刀をその場で奪って助けに来たのよ?勇敢でしょ?」


「勇敢ですけど、勘違い?」


「もうやめてくれ……」


 椿さんは顔を真っ赤にしながら顔を伏せている。


「ちょっと強引な先輩がいてね、ご飯食べに行こうって誘われたんだけど、その時腕を掴まれちゃってて、それで勘違いしちゃったの」


「椿さん……」


 学生の頃から天然だったんだ。


「確かその時使った型は『天つ風』じゃったなぁ。良い選択じゃ、桜子さんを掴んだ暴漢の腕を見事に弾き飛ばしよった」


「かっこよかったわぁ」


 桜子さんは思い出しポッとしているが、椿さんは恥ずか死にそうだ。


「ま、まぁ、なんだ……代々鶴矢家の通過儀礼みたいなものなんだ。ただ、それが私利私欲の為だとしたら、それは容赦なく破門にする。だが、スミレは自分の気持ちをハッキリ伝えてくれた。それで十分だ」


 なんか色々損した気分だ。スミレが破門にならなかったのは良かったけど。


「ほら、話し合いも終わったことだし!晩御飯にしましょ!ハーくんもゲームで優勝したんでしょ?お祝いよ!」


 そう言って桜子さんはいつもの倍はあるくらいの大量の料理を運んできた。今日は食べきれないかもしれない……。

 何はともあれ、全てが丸く治まってよかった。


 桜子さんが作ってくれた料理を頬いっぱいに貯め込みながら、何事も無く終わり安堵するのだった。


 ◇◇◇


「そういえば、レオルと会って話すんでしょ?」


 食後、リビングのソファで寛いでいると、スミレが唐突に聞いてきた。


「まあな。積もる話もあるし」


「私もついて行っていい?」


「ああ、一緒に行こう」


 だが、今日はもう色々疲れた……。レオルとの話はまた明日にしよう。

 鶴矢家でまったりした後、我が家に戻りしっかり休んだ。


ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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