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第25話 修羅と呼ばれた少年


プチ情報ですが、WSOの世界の言語は自分の国の言語に設定されます!自動翻訳機能があり、英語で喋っても相手が日本語に設定している場合自動で日本語に翻訳してくれます!和製英語や簡単な英語に関しては翻訳されないようになってるみたいです!


 

 鷹見ハイセ。鷹見家の神童、歴代最強の継承者。

 大袈裟だと嘲笑してきた人達は彼の剣技を目の当たりにすると、彼に対する考えを改める。

 彼と戦いたいと勝負を挑んだ者達は尽く心を折られてきた。

 浴びせられる猛攻の雨、無慈悲なまでの実力差。そして、第六感という能力。その強さは正に完全無欠、最上無二。


 鷹見ハイセの戦いを見た者達は"敬意"と"畏怖"を込めて彼を【修羅】と呼んだ。


 ◇◇◇


『とうとうこの時が来てしまった。WSOのPvPの頂点を決めるこの戦い。圧倒的なプレイヤースキルで勝利し続けた2人が今、武舞台で向かい合っている。レオル選手はハイセ選手に注目していると言っていた、そして、数多の激戦を超え今レオル選手の目の前に立つのはハイセ選手その人。果たしてどんな戦いになるのか……!!』


 数多の激戦って程じゃなかったが、どっちかと言うとレオルの方が激戦だったけどな。


 俺とレオルは武舞台で向かい合っている。お互い意識はしていたが、こうやって顔を合わすのは初めてだ。


「ハイセ。4年前の俺の言葉を覚えているかい?」


 やっぱりレオルの正体はリオンだったか。


 リオン・ベネクト。

 ベネクト家の長男で、ベネクト流剣術の次代継承者。力強くも靱やか、変幻自在の剣技はベネクト流歴代継承者の中でも最強と称され、同年代でリオンに敵う者はいないとまで言われていた。


「ああ、覚えてるよ。夢で見たほどだ」


「そうか。無様に敗れた俺があんな事を言うなんて、酷く滑稽だったろ?」


 滑稽?人によってはそう捉えることもあるか。


「俺は、そうは思わない」


「どうして?」


「自分で言うのもなんだが、俺は相当強い自覚はある。同年代では誰にも負けないと思えるほどな。お前もそうだったんだろ?」


 レオルはハイセに負ける前の自分を思い浮かべていた。

 門弟達との立ち合いでは負け無し、大人と戦っても勝利を収めていた。自分は強いという自覚ももちろんあった。

 ただ、最強だなんだと周りは持て囃すが、誰も自分と競おうとしない、言いようのない孤独と虚無感。


「あの時、お前の顔を見て幼いながら察したよ。こいつは俺と同じだってな」


 あの表情。今でも忘れられない。涙を流しながらも目を輝かせ、まるで新しい玩具を見つけたかのような顔。ボコボコにされていたのに、リオンは笑っていたんだ。


「だから、俺は"楽しみにしてる"って返した。嬉しかったんだろ?自分より上がいて。俺も嬉しかったんだよ。俺に本気で追いつこうとするお前が、剣を競ってくれる人がいる事が何よりも嬉しかった」


 リオンの名前は忘れてたけど……それは黙っておこう。

 レオルは少し驚いたような顔をして笑った。


「そうだね。うん、そうだ。嬉しかったんだ」


 レオルは真剣な顔になり、ジッと俺の見る。


「俺にはもう恥も外聞もない。だから、改めて言うよ」


 腰から剣を抜き取り、構える。


「俺は、君を"超える"」


 超えるか。


「おい、あの時は"対等に渡り合う"だったろ。欲張んなよ」


 俺も抜刀し、構えた。

 手加減なしの真剣勝負。負ける気は毛頭ない。


『デュエル・コロッセオ本戦!!決勝戦!!!』


 互いの武器を握る手にグッと力が入る。


『始め!!!!』


 〔カァン!!!!〕


 決勝戦の戦いのゴングが鳴り響く。

 それと同時に俺とレオルは飛び出した。


「ベネクト流『フルミネ・ブル』」


「鷹見流『鳴神一文字』」


 互いの技が、武舞台中央で激しく衝突した。


 ◇


 武舞台の中央では一進一退の攻防が繰り広げられている。いや、一進一退の攻防と言うよりも、俺が攻めあぐねているのだ。


「はっ!!!」


 レオルは鋭い突きを放つ。

 理由はこれだ。ロングソードのリーチを活かした突き。これのせいで日本刀の間合いに入れない。間合いに入る隙も見当たらない。これじゃジリ貧だな。


 ◇


「ハイセのやつ押されてるのか?」


 観客席で試合を見守っているアデルはそう言う。


「押されてる訳じゃないわ。攻めあぐねているの」


「んなもん無理矢理グッと行ってバッとすればいいんだよ」


「そんな単純じゃないこと、アデルさんもわかっているでしょう」


 カスミはため息混じりにアデルに言った。


「俺、西洋剣術よく知らねぇし」


「だから、レオルさんにもスミレさんにも負けたんですよ。勝ちたいならまずは相手を知ることから、ハイセさんやレオルさんが無敵に思えるほど強いのはそういった知識の差もあるんだと思いますよ」


「な、なんかカスミが辛辣だ……」


「いつもの事じゃない?」


 スミレはハイセの戦いを見守る。


 ◇


「くそ……間合いを詰められない」


 この距離感がもどかしい。無理に突っ込めばあの突きや斬撃の餌食になるし、突きを払い除けたとしてもそこからのカウンターの餌食になる。まさに攻防一体の剣術だ。


 ベネクト流剣術の型の1つ『アルコバレーノ』。

 虹の意味を持つその型名を現すか如く、7つの技を用いてあらゆる場面に対応するべく完成した攻防一体の剣術だ。


 だが、いつまでも攻めあぐねている場合じゃない。


「よしっ!!」


 俺はレオルの間合いに突っ込んでいく。レオルは怪訝な表情を浮かべている。急に突っ込んできたらビックリするわな。

 レオルの強烈な斬撃が迫る。それを俺は刀で受け流し、更に肉薄する。


「なんのつもりだい……!!」


 受け流した剣は勢いそのまま手首を中心にグルンと回る。そして、一撃目よりも更に勢いの増した剣が俺に迫る。


「へぇ、間合いに入るとこうなるのか」


 眼前に迫る剣を体を捻り間一髪で躱した。ちょっと危なかった……。


「鷹見流『天つ風』」


「くっ……なんで今のを躱せるんだ……」


 レオルの体に斬撃が刻まれる。だが、浅いな。有効打ではない。


「どうする?籠ってばっかじゃ勝てないぞ?」


「そうだね。じゃあ遠慮なくっ……!!」


「ベネクト流『ノッテ・クレシェンテ』」


 レオルは俺に肉薄し横なぎ斬撃を繰り出す。

 ノッテは夜、クレシェンテは三日月って意味だな。


「鋭い斬撃だな。これなら、人の体も真っ二つだ」


 達人級の剣士はロングソードでも、人体を両断できるって話だ。叩き切るイメージの強い武器だが、ロングソードの切れ味は中々良い方だ。


(全部躱される。ハイセの第六感……まさかその感覚も鋭くなっているのか……?)


「どうした?焦りが出てるぞ」


「そんなこと……」


 レオルもスミレと同じで顔に出やすいタイプだな。勝負の世界じゃその弱点は命取りだ。


「そろそろ、俺も攻めるか」


 俺はレオルに瞬時に肉薄する。


「鷹見流『驟雨』」


「その程度!!」


 〔キンッキンッキンッ!!〕


 繰り出した3つの斬撃は見事に弾かれる。だが、


「ひとつ教えてやる」


「鷹見流『鳴神一文字』」


「はや…!?」


 繰り出された逆袈裟斬りはレオルの胴体を捉え、深い傷を負わす。


「剣術の型っていうのはただ繰り出せば良いってもんじゃない。型と型の組み合わせ、次に繋げる動作が重要だ。例えば……」


「教えを乞うたつもりはない!!」


「ベネクト流『フルミネ・ブル』」


 レオルは物凄い勢いで肉薄してくる。


「話を聞けよ」


 俺は納刀し、腰を落とし、柄に手をかける。


「鷹見流居合『幽冥一閃』』


「そう来ると思ってたよ…!!」


 刀を受け止める為に防御の体勢を取っている。だが、そんな事は十分予想できる。


「なっ……!?」


 受け止めたはずの斬撃はレオルの剣をすり抜け、その胸部に傷を負わした。


「鷹見流『陽炎(かげろう)』」


 幽冥一閃と陽炎の合わせ技。

 すり抜けた原理としては日本の古武術にもある『影抜き』と同じ原理だ。刀はレオルの剣を沿うように躱したのだ。


「型と型を組み合わせることであらゆる局面に対応することが出来る。コツは型と型を繋げる時の隙間を無くすことだな」


 実力差を思い知ったのか、レオルは絶望的な表情を浮かべている。


「確かに成長しているな。だが、その程度で俺を超えるなんて到底無理だ」


 レオルはギリッと歯を食いしばる。


(高い……高すぎる……ハイセという壁が……)


「冷静になれよ。レオル、お前は一度俺に勝ってんだから」


 あの時の刺客が使っていた剣術は間違いなくベネクト流だった。それにあの技の冴えとイタリア語、なにより俺と対等に戦えるほどの技量。間違いなくあの刺客はレオル……いや、リオンだ。


「ははっ、木の棒を握った相手に勝ったなんて恥ずかしくて言えないよ。でも……そうだね」


 レオルは立ち上がり、鋭い目付きで俺と再度相対す。


「いい目だ」


 俺は深く息を吸い、ゆっくりと息を吐く。そして、正眼に構え集中力を最大限に高めた。


「ベネクト流剣術次代継承者リオン・ベネクト」

「鷹見流剣術次代継承者鷹見ハイセ」


「「参る!!!!」」


「鷹見流『鳴神一文字』」

「ベネクト流『フルミネ・ブル』」


 瞬時に肉薄し、互いに技をぶつける。


 〔ガンッ!!!!〕


 加州清光とエクスカリバーが激しくぶつかる。

 ギリギリと鍔迫り合いが行われるが、均衡は簡単に崩れた。


 俺の横薙ぎの一閃が、エクスカリバーを弾く。

 剣を弾かれたレオルは大きく仰け反る。


 胴体ががら空きだ。取った。

 刀を振り上げ、『轟雷』の型を使おうした瞬間だった。


 違和感。


 なんとも言えない違和感を覚えた。

 なんだ……?


 違和感の正体はわからない。だが、俺の第六感が最大限の警告を発している。


 まずい。


 俺は咄嗟に型を止め、顔を上げ、仰け反った。


 〔ブンッ〕


「っ!?」


 俺の顔の前をレオルの上段蹴りが通り過ぎる。

 俺は釣られていたのか……!!


 大きく仰け反った俺はバク転し、体勢を立て直す。

 対するレオルは上段蹴りを躱された反動で体勢を崩していた。


 この間、刺客であるレオルに負けたってのに、まだ俺はレオルを舐めていたようだ。

 こいつは……俺を殺せる。


 そう思った瞬間、俺の身体を駆け巡る血液が煮え滾るような感覚に陥った。


 こいつは


「殺さなければ勝てない」


 刹那、レオルに肉薄し、刀を振り抜く。


 〔キンッ……〕


 レオルの首には一筋の斬撃が刻まれていた。


 一撃必殺。


「流石だね」


 満足そうに笑うレオルは光の粒子となって消えていった。


「はぁ……はぁ……、勝った……」


『勝負あり!!!!勝者!!ハイセ!!!!』


 〔ワァァァァアアアア!!!!!!〕


 耳が痛くなるほどの大歓声だ。


「はぁ……はぁ……」


 身体が暑い。


「ハイセ?」


 スミレが心配そうな顔で見てる。


 〔ピロンッ〕


【心拍数の急激な上昇を確認しました。多大な精神的負荷がかかっている恐れがあります。ログアウトしますか?】


 いいえ。


 こんな所でログアウトしちゃまずいだろ。

 それより、心拍数の急激な上昇?

 ああ、そうか。久しぶりにマジになっちまったのか……。


「ふぅ……」


 深呼吸し、心を落ち着かせると警告画面は消えた。


『優勝はハイセ選手!!!レオル選手との激戦を制し!3620万人の頂点に立ったぁああ!!!!手に汗握る戦いに興奮を隠せません!!!そしてなんとなんと!予選通してノーダメージでの優勝!!!この素晴らしい1戦はWSO公式チャンネルでもう一度視聴する事が可能ですよ!?』


 ちゃっかり番宣してんな。


『表彰式は15分後に行います!!3位決定戦勝者のスミレ選手!2位のレオル選手!1位のハイセ選手は15分後武舞台までお越しください!!』


 レオル強かったな……。マジになったのは小学生の時以来か。


「ハイセ!」

「師匠!」


 武舞台を出るとスミレとハルが待ってくれていた。


「お疲れ様。当然よね」


「やっぱり師匠は最強です!」


 WSO初めてのイベント、正直これで優勝したからといって最強のプレイヤーって訳じゃないけど、優勝できたのは素直に嬉しい。


「ありがとう、2人とも」


 こうしてPVPイベント【デュエル・コロッセオ】は俺の優勝という最高の結果で幕を閉じたのだった。




ご閲覧ありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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