第24話 負けられない
更新遅れて申し訳ありません!
~ハイセ視点~
『しょ、勝者!!スミレ!!!!』
勝ったか。やっぱりスミレは凄いな、俺はスミレの弓術真似出来ないぞ。
「でも、まずいよな……」
じじいはともかく、椿さんってゲーム配信とか見るのかな。あの感じだと見そうにないけど……見てないことを祈ろう。
「はぁ……まぁ仕方ないんだけどさ」
知っての通り鷹見流剣術は一家相伝の秘剣術。型については門外不出で、万が一情報が漏洩した場合は重い罰が下される。一家相伝ではあるが、唯一の例外が存在する。
それが、鶴矢家だ。
200年程前に鷹見流剣術が発足、その当時から鶴矢家とは友好関係にあった。程なくして鶴矢流弓術が誕生した。そして、当時の両家の当主は、信頼の証と、互いの武術が途絶えない為に、その流派の型が記された秘伝書の複製を互いに贈りあったそうだ。
型の知識は代々引き継がれ、俺も鶴矢流弓術の知識を引き継いでいる。スミレも同様に鷹見流剣術の知識を引き継いでいるのだ。
「あ!スミレさん来ましたよ!」
スミレは気まずそうな顔をしている。やっちゃったもんはしょうがない。ここは素直に。
「おつかれスミレ。流石だな」
「その…ごめんなさい…」
「謝るこたねぇよ。だが、まずいな」
「そうよね……」
俺とスミレの会話にハルは首を傾げている。
なぜ俺達がこんなに焦っているのか。
それは、互いの型の知識は継承するが、使用は固く禁じられているからだ。あくまで型は一家相伝であり、門外不出の代物。いくら友好関係にあろうとも一族以外の者が使用することは許されないのだ。これは、鷹見家と鶴矢家の今後の関係にも影響してくる。
まぁ、次代継承者の俺は別に何も気にしてないが。
「ま、まぁ!椿さんはゲーム配信なんか見ないだろ!」
「それもそうね!黙ってたらバレな……」
〔〔ピロンッ〕〕
通知音がした。俺とスミレだ。WSOとスマホを連携しているから、外部との連絡も取れるのだ。
送り主は、椿さん……。
【その大会が終わり次第"大至急"私の元に来るように。理由は、わかっているな】
宛先は俺とスミレになっている。
「「終わった……」」
まさか、椿さんがゲームの配信を見てるなんて。
「え!?ちょ、どうしたんですか!?勝ったのになんでそんなに落ち込んで!?」
「き、気にするな……大丈夫だ……」
「気になりますよ!!」
ハルはギャーギャー騒いでいるが、こればっかりは言えないな。
「いやぁー負けた負けたぁって、なんでお通夜みたいな空気なんだ……?負けたの俺だぜ?」
俺とスミレが肩を落としていると、控え室から出てきたアデルがのんきに歩いてきた。
「まぁ、色々あるんだよ。それより残念だったな。スミレの方が上手みたいだ」
「それはサブウェポン使ったからだろ!?弓だけだったら俺が勝ってた!」
「そうかぁ?なんにせよ、スミレの剣術に殺られるようじゃ俺とはまだ戦えないな?」
「ハイセ何様だてめぇ!お前に負けた訳じゃねぇよ!」
「スミレの刀も躱せないようじゃ、俺には勝てないぞ」
「んだと!?やるか!?今から決闘か!?」
やる気満々だな。世の中の厳しさってのを教えてやるか。
「はぁ……ハイセ、あんた次よ」
「そうか。なら仕方ないな、今度相手してやるよー」
「へっ、命拾いしたな」
こっちのセリフだ。
「ハイセ」
「ん?」
「やるなら勝てよ」
「当たり前だ」
アデルも悔しいんだろうな。
アデルからの激励を受け取り、控え室に向かった。
◇◇◇
俺の対戦相手は双剣使いのロビンってプレイヤーだったよな。
文化遺産指定されてる双剣術の流派って、確かフィリピンだっけか?これだけ継承者が集まってるならもしかして……?
「いや、違うな。1回戦見た限りじゃそこまでじゃなかったし」
◇
『勝者!!ハイセ!!!!』
予想通り、ロビンってプレイヤーは継承者ではなかった。まぁ、別に継承者を狙ってるわけじゃないけど、4人もいるからもしかしたらって思っちゃうよな。
「涼しい顔しやがってー、あのロビンってやつは前回大会の4位だぞ?」
観客席に戻ると、アデルが当然のように俺達の席の隣に座っていた。
「そうなのか?確かに、太刀筋は良かったな。次の相手は誰になるんだ?」
「ハイセの前の試合で勝ったデイルってプレイヤーよ。確か、レイピアを使ってたはず」
「レイピアかぁ」
レイピアは確か西洋剣に分類されてたよな。
WSOの西洋剣も色々種類がある。一般的なロングソードから、レイピア、エストック、ツヴァイヘンダー等々、選べる幅が広く西洋剣はWSOで最も人気のある武器種だ。
突きに特化したレイピア、日本刀との相性も悪くはないが。
「デイルは【円卓】の副ギルドマスターだ。レオルも認めるほどの実力者だ。舐めてたら足元すくわれるぞ?」
「助言ありがとう。油断しないから安心しろ」
円卓のサブマスか。No.1ギルドの2番手、レオルが認める男ってのはどれほどの強さなのか、ちょっと楽しみだ。
「それより先に、スミレの出番か」
「そうね」
スミレの表情が固い。緊張してるんだろう。流石にもう鷹見流剣術は使えない。
「みんなで応援してるぞ」
アデルには意地で勝ってみせたが、その試合も見られてるレオルには意地だけでは通用しないだろう。
あんまり、気負いすぎないで欲しいな…。
わかってる…なんでスミレがあそこまで勝利に執着するのか。
『どんどんやっていこう!!!次はデュエル・コロッセオ本戦準決勝だぁぁあ!!!!』
会場からは大歓声が上がる。
『まずは、ベスト4に残ったプレイヤーを紹介しよう!!!』
スクリーンには大きくレオルが映し出された。
『1人目はギルド【円卓】のリーダーであり、前回大会優勝者!そして、オリジン武器エクスカリバーを扱うプレイヤーの中のトップオブトップ!!彼を破るプレイヤーは出てくるのか!?レオル選手!!!』
次はスミレが映し出される。
『2人目は不遇武器である弓を扱う美少女!!その力強くも華麗な弓さばきは見る者を魅了してきた!!この会場にも彼女のファンが増えたんじゃないか!?前回大会2位のアデル選手を破るというどんでん返しを見せたスミレ選手!!!』
1部の席から一際大きな声援が上がっている。ファンが増えたってマジみたいだな。まぁ、あの容姿なら人気も出るか。
次はデイルが映し出される。
『3人目はギルド【円卓】の副ギルドマスター!No.1ギルドの2番手の力は伊達じゃない!!前回大会では3位の好成績を収め、そのレイピアから放たれる高速の突きは相対するプレイヤーを圧倒してきた!!デイル選手!!!』
俺の番か。
『最後4人目は!今大会の超絶注目選手!!期待通り……いや、期待以上の大躍進!!圧倒的刀捌きで敵をバッサバッサなぎ倒す!なんと、ハイセ選手は1次予選を通しここまでノーダメージで勝ち上がっている!!不遇武器と呼ばれる日本刀を華麗に扱う若き侍!!決勝のステージに上がることはできるのか!?ハイセ選手!!!」
割れんばかりの大歓声は闘技場全体を包み込んだ。
ベスト4の紹介が終わり、武舞台にはスミレとレオルが立っている。
「スミレ……あの弓術、そうか君は」
「ハイセばっかり気にかけてるから、私は眼中に無いのかと思ったわ」
「ははっ、そんな訳ないさ。アデルを倒した君を警戒しないはずがない」
レオルは剣を抜き取り、構える。
「でも、あの剣術は少々お粗末ではなかったかい?」
「言われなくてもわかってるわ。二度と使わないから安心して」
スミレも弓を取り出し、矢を番えた。両者睨み合い、空気がピリつく。
『それでは!!準決勝第1試合!!始め!!!!』
〔カァン!!!!〕
戦いのゴングが鳴り響いた。
◇◇◇
「……」
「師匠……」
ハルは心配そうに俺の顔を覗き込む。
「ああ、わかってる」
レオルとスミレの戦いは意外と直ぐに終わった。スミレの状態は万全だった。型の精度も高く、全力を尽くしたと思う。
それでも、レオルには届かなかった。完全に抑え込まれていた。
おそらく、アデルとの戦いでスミレの癖や特徴を掴んでいたんだろう。この僅かな時間でそれだけの情報を掴んだレオルの洞察力を褒めるしかない。
俺はスミレがいる控え室に入った。スミレは控え室の机に突っ伏していた。
「スミレ」
「……負けたわ」
「ああ、負けたな」
悔しいのかスミレの拳はプルプルと震えている。
「お前は気負いすぎなんだよ。1回負けたくらいで」
「……私は……私は負けちゃいけないのよ」
「そうか」
しばらく沈黙が続く。
こういう時どんなことを言ったらいいかわからない。
「こんな時に言う事はわからないが……いつもありがとな。俺を"守ってくれて"」
すると、スミレは驚いたように顔を上げる。
「いつも……?守る……?」
「ああ、お前が居てくれたお陰で救われたことは両手じゃ足りないほどだ」
そう。スミレはいつだって俺の為に動いてくれていた。俺が傷つかないように、前を向いていられるように。
「俺は、お前が隣に居てくれることが何よりも心強いんだ。だから……その……なんだ」
上手く言葉が出ない。
「いいんだよ、負けたって。それで俺がお前を見損なうとでも思ったのか?」
「そういう訳じゃないわ。ただ、ハイセを守るためにもっと強くならないといけないから」
頑固だなぁ。全部1人で抱え込むのはスミレの悪い癖だ。
「そうか。なら、スミレが負けた分、俺が勝ってやるよ。スミレは俺の為に頑張ったんだろ?なら、今回は俺がスミレの為に戦ってやるよ。それで勝てたら負けた分はチャラだ」
我ながらめちゃくちゃな理論だ。でも、こうでも言わないとスミレは納得しないだろう。
「スミレが負けたんなら俺が勝てばいい、俺が負けたんならスミレが勝てばいい。そうやって互いを埋め合わせていけば良いだろ?」
「……うん……」
スミレは静かに頷いた。
「ほら、ハルが観客席で待ってる。早く行ってやれ」
次の試合は俺だ。このまま控え室で待機しておこう。
スミレは立ち上がり、ドアノブに手をかける。
「ありがと」
「どういたしましてー、弱ってるお前も新鮮だったぞ」
そう言うとスミレは顔を赤くし睨んできた。
「これで負けたらあんた相当恥ずかしいわね!」
「勝つから関係ないよ」
スミレはべーっと舌を出して控え室を出ていった。元気になったみたいでなによりだ。
「さぁ、俺も本格的に負けれなくなったな」
この大会はそれなりでいいと思ってた。あくまで冒険のついでだと。
「手加減はなしだ。全力でいこう」
俺は武舞台へと向かった。
◇◇◇
『準決勝第2試合!!!両選手が武舞台へと上がりました!!』
俺の目の前にはデイルが立っている。レイピアを腰に挿している。見た感じ手足が長い、リーチを活かしてくるタイプか。
「うちのリーダーはえらく君にご執心でね。最近、ギルドの運営を僕達に任せっきりなんだ」
「そうか。そりゃ大変だな」
どっかのギルドもそんな感じだったな。
「僕もそれなりにレオルに認められているって思ってたんだが、まだまだみたいだ。レオルは君が決勝に上がってくると思い込んでいる」
「どうだろうな」
「君に勝てばレオルも僕の事を信頼してくれるはずだ」
ギルドの運営も任せれて十分信頼されてるだろうに。余程俺より下に見られているのが嫌なんだろう。
『それでは!!!準決勝第2試合!!!』
「悪いが、俺も負けられない。全力でいかせてもらう」
「まるで今までは全力じゃなかったような言い方だな」
デイルはレイピアを抜き取り構えた。
『始め!!!!』
〔カァン!!!!〕
ゴングが鳴り響くと同時に、デイルは素早く俺の前までジャンプし肉薄してきた。素早い突きを放つ。
こいつ、フェンシングの経験者か。確か、ボンナバンって言うんだっけ?
「これには反応できないだろ!!!」
デイルは素早い突きを5回放つ。
「なっ…!?」
確かに早い。だが、沖田総司の突きはその倍は早かったな。俺は5回の突き全てを躱しきった。
「まだ…!!」
「いや、終わりだ」
「なっ……いつの間に……」
デイルの首には鋭い斬撃が刻まれていた。5回の突きを躱した後、デイルの僅かな隙をつき首に斬撃を与えたのだ。
どうやら、デイルは攻めに夢中で俺の動きを追えてなかったみたいだ。
「悪いな。俺にも譲れないものがあるんだ」
デイルは粒子となって消えた。
『瞬殺!!!勝者!!ハイセ!!!!決勝進出はハイセ選手だぁあ!!!』
レオル……いや、リオン・ベネクト。ベネクト流の次代継承者。間違いなく強敵だ。あいつは4年前の大敗を境にめきめき力を付けたと聞いている。
『僕は…僕は!!いつか君と対等に渡り合えるくらいの剣士になるから!!』
4年前リオンが俺に言った言葉だ。今でもしっかり覚えている。
俺はレオルがいる席を見た。レオルもじっと俺の事を見ている。
「どのくらい成長したのか見せてみろよ」
そう呟き、俺は控え室に戻った。
ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!