第23話 スミレVSアデル
~スミレ視点~
アデル……。強いわよね。
ゼナルド山脈で解散してからも何度かアデルとハイセと一緒にクエスト行ったりしたからわかるけど、アデルの強さはハイセと通ずるものがある。
「私みたいな凡人にはない、圧倒的な才能と強者の纏う独特な空気……」
アデルとハイセだけじゃなくて、リオンも。ゲームの中でもそういう空気ってあるのね。
「とんだ貧乏くじだわ……」
ため息を吐き、苦笑いする。でも、瞳には強い決意の光が宿る。
「よし!勝ってハイセに褒めてもらいましょ!」
普段から素直になれたらいいのに…。
本当はハイセに甘えたいし、ハルみたいにベタベタしたいけど、いざ目の前にすると強がっちゃうのよね。これもどうにかしないと。
和弓を手に、武舞台へ向かった。
◇◇◇
『西側から現れたのは、1回戦でコンノ選手を破ったアデル選手!!!自慢のプレイヤースキルで相手を圧倒して魅せた!!やはり、前回大会準優勝は伊達じゃない!!』
「準優勝、準優勝ってやめてくれよ……」
アデルは頭を掻きながら武舞台に上がった。
『そして!東側から登場するのは、1回戦でケンジ選手を破ったスミレ選手!!!スミレ選手は日本刀同様不遇武器と揶揄される弓を使用しているが、彼女の華麗な弓さばきは見るものを魅了する!!!アデル選手相手に通用するのかぁあ!?』
「華麗なだぁ?凶悪なの間違いじゃないか?」
「それで言うならアデルの槍も凶悪よ」
間合いに入ってしまったら、一気に流れを持っていかれるかもしれないわ。
「ねぇ、アデル。あなたのその強力な槍術……いや、ごめんなさい、なんでもないわ」
「そうか?まぁなんだ。俺もお前とハイセについて思い当たることがあるんだ。つまり、"そういう事"だろ?」
どうやらアデルも薄々気付いてたようね。まぁ、私とハイセは実名そのまま使ってるし、ちょっとくらい変えればよかった。
「せっかくだ。楽しもうぜ?」
「ええ、全力を尽くしましょう」
『それでは!!!!始め!!!!!』
〔カァン!!!!〕
戦いのゴングが鳴り響く。
「っしゃ!!!」
アデルはグルグルと槍を回し、左半身を前に出し、槍を構えた。
確か、槍の構えには『右前半身構え』と『左前半身構え』があるってハイセが言ってたわよね。アデルは左前半身構え、右腕の力を最大限使い、捻りを加えた強力な突きを放ってくる。
間合いに入るのは危険ね。
〔バシュッ〕
アデルに向けて1本の矢を放つ。
〔キンッ〕
当然弾かれるわね。
「なんだー!!その腑抜けた矢はぁあ!!……うぇ!?マジかよ!!」
アデルに迫るのは3本の矢。
「鶴矢流『光風三閃』」
まだアデルに速射を見せたことが無かったのが僥倖だったわ。
間髪入れずに放たれた3本の矢はアデルを襲う。
〔キンッキンッキンッ!!!〕
「っぶねぇ……スキル無しでその速射は反則だろ」
「それを全部叩き落とすあんたも反則よ」
簡単にはいかないと思ってたけど、1本くらいは当たると思ってた。見通しが甘かったみたいね。反射神経はハイセ並、流石に第六感は無いみたいだけど。
「ふぅ……」
背の矢筒から矢を取り出し番える。
「させるか!!」
アデルは勢いよく迫ってくる。この勢いのまま額を射抜ける?いや、アデルはそれも読んでるはず。なら……。
「オラァ!!」
「ここっ!!くっ……」
アデルの槍が私の肩に刺さる。なんとか心臓一突きは回避出来たみたいね。でも、槍の一撃、意外と重い。
「どこに放って……チッ!あれか!」
アデルは距離を取り、上空を見上げた。
「空ばっかり見てていいの?」
「くそ……!!」
私は絶えず矢を放つ。当たらなくてもいい、そこまで誘導できれば。
そして、最後に1発勢いの強い矢を放ち、アデルを足止めした。
「はっ!どうやらここだったみたいだな!」
そう言ってアデルは1歩右にズレた。
「ええ、そこよ」
「鶴矢流『五月雨』」
「やべっ……」
アデルの頭上から1本の矢が降ってきた。そのまま脳天に突き刺されば一撃必殺。
「ぐっ……!!」
矢はアデルの右肩に突き刺さった。すんでの所で体をズラし、即死を免れたみたい。
「どんな反射神経してるのよ……」
あれを避けるなんて。
「それだけが俺の取り柄なんで……なっ!!!」
アデルは勢いよく私に肉薄する。槍を引き、突きを放とうとしている。でも、まだ遠い、これなら少し後ろに下がれば躱せる。
その時、アデルはニヤリと笑った。
『朧槍』
「え……?伸びて……」
間合いの外だったはず、なんでアデルの槍は私の腹部を貫いているの?スキル?違う……あれは槍術。アデルの槍術の型だ。
「やっと有効な一撃が入ったな」
「くっ」
なるほどね。アデルの長い手足がこの技の要なのね。見た感じ、槍の1番端を握ってた。普段は大体真ん中より後ろだけど。だから、伸びたように見えたのね。
私のHPは?
【900/1500】
結構削られたわね。アデルは……。
【1000/1500】※決闘ではHPが1500で固定になります。
100差、まだ誤差ね。大丈夫。
「おらおら!!どんどん行くぞ!!」
アデルはもう一度肉薄してくる。間合いの外、また伸びてくる?
私は踏み込み大きく後退する。
「伸びない……!!」
「残念」
そのまま大きく後退した私に勢いそのままにアデルは肉薄する。
『覇貫』
「ぐっ……!!」
もう一度腹部に強烈な突きを食らう。私はノックバックし、武舞台の端に追いやられる。
やっぱり、近距離じゃ槍には手も足も出ない……。なら、
「オラァ!!!」
間髪入れずにアデルは迫ってくる。
タイミングを逃せば殺られる。
焦ったらダメ。確実に、正確に。
「ふぅ……はっ!!」
『光風三閃』
「それは見た!!勢いのねぇ矢じゃ俺は貫けないぜ!!」
アデルは容易に3本の矢を叩き落とす。もう1本矢を番える。
いつもより強く弓を引く、弓は大きくしなり、弦はギチギチと音を鳴らす。矢はいつもよりも長めの物を使っている。
引きは十分ね。
矢を放つ。大きくしなった弓からはとてつもない勢いで矢が放たれた。
「鶴矢流『業風剛穿』」
「ここで剛射かよ……!!」
アデルは立ち止まり防御を固める。
「うらぁぁああ!!!!」
槍で矢を受け止める。あまりの勢いにアデルは若干押されるが、矢は叩き落とされた。
「この位どーってこと……なっ!?」
間髪入れずに放たれた1本の矢がアデルの眼前まで迫り、襲う。
凄まじい勢いの矢を弾いた事で体勢が崩れてた、これなら……。
〔パンッ!!!〕
攻撃が当たるエフェクト。狙った場所は額。
「うそでしょ」
「今のはマジでやばかった」
アデルは額を手のひらでガードしていた。矢は手のひらを貫通し、矢じりはアデルの額に少し触れる程度だった。
なんでそれに反応できるのよ……!第六感を抜きにしたらハイセでも無理なんじゃ……。
「万策尽きたか?表情に出てるぜ」
「……」
そんな顔に出てたかしら。でも、まだ。
素早く矢を番え放つ。
「無駄だ」
『光風三閃』
「無駄だ!」
『業風剛穿』
「無駄だ!!」
アデルは悉く矢を叩き落として私に肉薄し、強烈な突きを放つ。
「ぐあっ……」
「もう終わりだ。これが弓術の限界だ」
限界……。そうね、これが限界よ。相手は槍、しかも槍術の次代継承者なのよ?頑張ったじゃない。
「次代継承者同士、礼儀として俺の扱う最大の型で沈めてやる」
光栄ね。いいわ、所詮ゲームよ、負けたってどうって事ない。どうってこと……。
私の目には観客席で私の戦いを見守るハイセの姿が目に入った。
なんで、そんな顔するのよ。絶望的な状況よ?私の弓術を封じられて、間合いも簡単に詰められちゃうし、HPも残り少ない。なのに…なんで。
なんで勝つと信じてやまないような顔をするのよ。
所詮ゲームなのよ?負けたって……。
「俺は先に行かせてもらう。ベネクト流を倒し、鷹見流を倒す。最強は槍術だと証明する」
「……」
鷹見流を倒す……ね。なんでかしら、鶴矢流を馬鹿にされる言葉よりも嫌な単語だわ。
『守られるだけじゃダメ、私もハイセを守れるように』
あの時の決心は、その程度の物じゃない。
ハイセは私を守る為に刀を抜いたこともある。
なにかを守る為に命を懸ける。ハイセに限らず鷹見家の人間はそうしてきた。だから彼らは英雄と称えられ冷血の鷹と揶揄されてしまう。
そんな彼らを1番近くで見てきたのは誰?
いつも守ってばかりの人を守る人がいたっていいじゃない。
みっともなくていい。必死に食らいつけ。
所詮ゲームだとしても、私は……。
「負けない……!!」
凄いスピードで迫るアデルはもうすぐそこまで来ていた。
「なにっ!?」
私は、弓の装備を解除した。
「なんのつもりだ…?……っ!?」
そして、私の腰には一振の日本刀。
「ハイセと同じ構え……そういう事か!!」
サブウェポン。最初に選んだ時、ハイセには適当って言ったけど、本当はこんな事があるんじゃないかって思って選んだの。
本当はダメな事だけど、負けるくらいなら。
「はぁぁぁあ!!!!」
アデルはもう止まれないと察し、強力な突きを放つ。
「鴇亜流『覇極穿』」
これが、最初で最後。あなたの力を借りるわ。
「鷹見流居合『幽冥一閃』」
互いの技が衝突する。勝敗は……。
「……」
「……剣術も使えるのかよ……」
アデルの首には鋭い斬撃が叩き込まれていた。
「これが、剣術?ただの猿真似よ、二度としないわ。国宝に失礼だから」
アデルの首が落ち、粒子となって消えた。
『しょ、勝者!!スミレ!!!!!』
サブウェポンは卑怯だったかしら。でも、ルールには則ってるから多目に見て欲しいわ。
「はぁ……後で謝っておかないと」
観客席のハイセは少し呆れたように笑っていた。
国宝の秘剣術を使うなんて、お父さんに知られたら大問題よ。じじ様……灰晴おじい様にも知られちゃうかしら。
でも、なにを言われたって後悔はないわ。私は、私の信念を貫き通したのだから。
ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!




