第22話 国宝の秘剣術
『デュエル・コロッセオ本戦1回戦!!最終試合です!!』
闘技場にレイナの声が響き渡る。
『西側から登場するのは!!!!ハイセ!!!!』
煙がモクモクしてて前が見えづらい…。
『今この闘技場に彼のことを知らない人は居ないでしょう!!!今話題沸騰中の超注目プレイヤー!!!不遇武器と揶揄される日本刀を巧みに使いこなし、数多のモンスターを狩っていく配信は記憶に新しいでしょう!!!果たしてどんな戦いを魅せてくれるのかぁぁあ!!!』
結構な紹介だ。他の出場者もそのくらい紹介してあげたらいいのに。
『東側から登場するのは!!ヤマト!!!!』
あれ?あの武器は……。
『なんとなんと!!ヤマト選手の使用武器は日本刀!!!!不遇武器と揶揄される日本刀使いが上位16名に2人も残るとは誰が想像したでしょう!!この戦い!色んな意味で注目が集まります!!』
日本刀使い、俺以外にも居たんだな。まぁ少ないってだけで居ない訳じゃないか。なんにせよ日本刀に理解があるやつが居て嬉しいな。
「お前は、何本の刀を折ってきた?」
「え?」
WSOでのことだよな。
「0だが……」
「ふっ……そうか。私は100を超えている」
「へ、へぇー……」
何が言いたいんだろうか。100本の刀を折ってきたとかただの恥だぞ。
「0はまだまだ未熟だな。刃毀れを恐れ、まともに戦えてない証拠だ」
「あ、そう」
前言撤回だ。こいつは日本刀に対して理解もくそもない。俺の配信を見て恐れてるって思ってんなら大したもんだよ。
「君はビギナーだったね。色々注目を集めているようだが、日本刀使いの先輩として指導してあげよう」
「余程自信があるみたいだが、自分が負けるとは思わないのか?」
「俺が負けると?0の男に?万に1つもないな。WSOの世界に俺以上の日本刀使いはいないと自負している」
おお……ここまで自信満々だとなんか凄い猛者に見える。
「それに、俺には"鷹見流剣術"が着いているからな」
「は?」
こいつドヤ顔で何言ってんだ?
「君が日本人であれば知っているはずだ。国宝"鷹見流剣術"を」
「ま、まぁ……知ってるが」
俺こんな奴知らないぞ。てか、継承者以外に型教えられないんだが。
「鷹見流は一家相伝の秘剣術だと聞いているが……?」
「ふっ……そうだな。だが、俺は認められた例外だ」
じじいが何かしたのか……?いや、じじいも規律を重んじる、そんな事するわけが無い。まさか、親父?あいつも俺が産まれる前は次代継承者だった。型は知っているがそんなことするか?大問題だぞ……。
「3ヶ月前、俺は某所にある鷹見流の本家を訪ねたのだ。弟子入りさせてほしいとな。だが、タイミングが悪く留守だったのだ。それから数週間通い詰めたが、ずっと留守だった。俺は仕方なく諦めて帰ったよ」
うん、それは別宅だな。
隣町の昔俺が住んでた家だ。本家じゃない。本家だったらじじいが一日中家にいるからじじいが散歩に行かない限り留守にはならない。
それに、毎日誰かしら来客が来るから尚更有り得ない。
「しかし!!鷹見流の継承者様は俺を試しておられたのだ!!どれほどの熱意があるのかを!!数週間通い詰めた俺を認めて下さり、秘剣術とされている鷹見流剣術を教えてくださったのだ」
「そ、そうか。その人は禿げたじじいだったか?それとも中年のおっさんか?」
「いや、若い男性だ。今思えばあの方が次代継承者なのだろう」
誰だ……?親父は40を超えてる、お世辞にも若いとは言えない。謎は深まる一方だ。
「どうやって学んだんだ?」
どこかの道場を使ったのだろうか。3ヶ月前なら、まだ利用履歴を見ることが出来る。
「俺の自室だ」
「は?え、ああ、広い部屋なのか」
「いや、6畳程だ」
6畳間で刀を振っていたのか……?いや、振れないことは無いが鷹見流の型を練習するなら6畳じゃ狭すぎる。
「ふっ……日本刀使いの好みだ、特別に教えてやろう」
ゴクリと喉を鳴らす。
「その方から限定のURLを送って頂いたのだ!!!」
馬鹿にしてるのか?
ピキっと俺の額に青筋が立つ。
「俺は継承者様から鷹見流剣術が記載されたサイトの限定URLを頂き!自室でひたすら修練したのだ!!俺には鷹見流剣術が着いている!君に勝ち目はない!!!!」
ダメだこりゃ。
『それでは!!!始め!!!!!』
〔カァン!!!!〕
戦いのゴングが鳴り響く。
「鷹見流剣術の真髄は"堅実"!!!200年間継承されてきた堅実の型をとくと受けてみよ!!!」
ピキピキと額に青筋が増える。
鷹見流剣術の真髄は"自由"だボケ。200年間の継承で進化し続けた自由な型だ。
「鷹見流!!!『ゲリラ豪雨』!!!」
ゲリラ豪雨って……。もう怒りを通り越して呆れるな。
ヤマトは抜刀術を使用してるみたいだ。
「はぁ……」
俺は刀を抜き、振り下ろした。
ヤマトの刀の側面を正確に捉え、そのままヤマトの刀を地面に叩きつける。当然、ポッキリ刀身が折れた。
「武器破壊!?」
「おい」
「ぐっ……!!」
ヤマトの鳩尾を蹴り飛ばした。大きくノックバックし、尻もちをつく。
切先をヤマトの首元に向ける。
「折った刀の数は誇るべきことじゃない。剣士が最も恥ずべき事だ。そんな奴が日本の国宝を語るのか?」
「き、君になにがわかる!!」
「俺も多少は武術の心得があるからな。あと、お前のそれ鷹見流剣術じゃないぞ」
「貴様!!俺だけに飽き足らず鷹見流剣術を愚弄するか!!!」
そう捉えちゃったか。おめでたい頭だ。
「愚弄しているのはどっちだ馬鹿が」
「ば、馬鹿だと!?」
「あのな、200年前の人間が『ゲリラ豪雨』なんて言葉使ってるのか?あ?考えたら分かるだろ。だから、馬鹿なんだよ」
ヤマトは見るからにガーンとした様子で肩を落とした。
「考えることを放棄した自分を恨むんだな」
俺はヤマトの首を斬り落とした。一撃必殺。ヤマトのHPは0になり、粒子となって消えた。
『しょ、勝者!!!ハイセ!!!!』
割れんばかりの歓声が闘技場を包み込む。
『やはり、日本刀においては彼の右に出るものは居ないのかぁぁあ!?あっという間の決着だぁあ!!!』
これで1回戦突破か。なんとも拍子抜けだ。
『これより15分間の休憩に入ります!15分後2回戦第1試合レオルVSスマーニの試合を行うのでお見逃し無く!!!』
俺はそのままスミレとハルの元に戻った。
◇◇◇
「なぁ、あの武器破壊って狙ったのかな?」
「狙ったような動きだったけど……」
「あんなことできるんだな!!」
周囲ではヒソヒソとさっきの試合を話している。
武器破壊、意外と使えるな。流石にロングソードとかには使えないが、刀身の細い武器であれば有利に立ち回れそうだ。
「あのヤマトって人と何話してたの?」
スミレが俺の顔を覗き込んで聞いてくる。
「んー?まぁ、剣術っていいよなぁって話」
「本当に?そんな楽しそうには見えなかったけど」
「気にするな。それよりも次の相手はアデルだぞ」
「そうだぜ、スミレ。手加減はしねぇからな?」
後ろからアデルが俺の肩にもたれかかってきた。何でいちいち俺の肩に持たれるんだよ。重い。
「それはこっちのセリフよ。負けても泣かないでね?」
2人はバチバチに火花を散らしている。
「それより、カスミのやつどうしたんだ?なんか鼻息荒くしながら撮影bot準備してるけど」
アデルの後ろではカスミが興奮気味な様子でウロウロしている。
「あー、はは……気にするな。あいつの趣味みたいなもんだ。今回の俺とスミレの試合は絶対に録画するって言っててな」
「変わってるわね」
「どっかの先輩見てるようだ」
四条が居たらあんな感じになるんだろうな。あの人は生粋の武術オタクだし。
それよりも、気になる事がある。ヤマトにURLを送ったってやつだ。単なるお遊びか、イタズラか?それにしては悪質だ。まぁ、簡単に気付けるはずだったのにヤマトが気付かなかったことも問題があるけど。
「ちょっと、用事思い出した」
「お?あと10分だぞー」
「おう」
その場を後にし、ヤマトを探す。
「居た」
1番端っこの椅子に座り肩を落としている。哀愁漂うその姿に通る人は皆目を逸らしているな。
「ヤマト」
「ん?君か、笑いに来たのか?」
卑屈になってるなぁ。
「いや、聞きたいことがある」
詳しく聞きたいが、俺自身も身バレしたくないしなぁ。
「お前が言っていたURL、俺にも送ってくれないか?」
俺の言葉にヤマトは怪訝な表情を浮かべる。
「偽物だぞ…?何のために」
「えっとぉ、鷹見流剣術って国宝だろ?その限定サイトって結構問題だと思うんだよ。もちろん、それを作ったやつもそうだが、国宝ってわかっていながら使っていたヤマトもな」
ヤマトの顔がみるみる青くなっていく。どうやら、国宝という存在がどれほど大きいか理解したようだ。
「あんま詳しくは言えないが、俺はそれを解決出来るかもしれない。もちろん、URLを送ってくれたらお前の名前は出さない。これを作った本人だけを咎めることも可能だ。どうする?」
考える余地もないだろう。こんな事で前科を付けたくないはずだ。国宝を騙りこれみよがしに使用していた。金品は騙し取っていないだろうが。厳重な注意は受けるはずだ。それに、武術連盟からも目をつけられる。
「わ、わかった……送る……」
「おう、すまないな」
ヤマトからURLが添付されたメッセージが送られてきた。よし、これでいいだろう。念の為俺のスマホにも送っておこう。
「念を押しとくが鷹見流剣術は国宝で一家相伝の秘剣術だ。弟子も受け付けてない。噂によれば次代継承者は相当強いらしい。あんまりやらかして目をつけられないようにな」
んんん。自分で言ってて恥ずかしい……。
「あと、このURLを他人に送ったってことは作った本人に言っていいが、俺に送ったって言うなよ?言ったら……」
「わ、わかってる!言わない!絶対!」
よし、念押しはこの位にしておくか。
「せっかくのゲームなんだ。迷惑かけない程度に好きなことして楽しもうぜ」
「ああ、すまなかった」
「いいってことよ」
頭を下げるヤマトを背に俺は客席に戻った。
じじいは携帯持ってないから、椿さんに事情を説明してURLを送っておこう。
その数時間後、犯人はあっさり捕まった。
◇◇◇
本戦が再開し、2回戦第1試合。レオルVSスマーニの戦いはレオルの圧勝で終わった。
レオルの力量については底が見えない。まだ猛者と言える相手と戦っていないのも理由の一つだろう。当たり前の事だが、4年前とは比べ物にならないほど強くなっている。
2回戦第2試合は……。
「ふぅ、行ってくるわ」
「スミレ、お前なら勝てる」
「ええ、ありがとう」
スミレが珍しく素直に礼を言った。悪態つく余裕が無いほど集中してるいるんだ。アデルもまた俺達と近しい実力を秘めている。
『さぁ!!どんどんやっていこう!!2回戦第2試合は!?アデルVSスミレ!!!!果たして勝ち上がるのはどっちだ!?』
どっちも応援したいが、やっぱ身内を優先したくなるものだ。頑張れスミレ!
『選手の準備が整いました!!それでは入場していただこう!!!!』
レイナの実況と共に両側の出入口から煙幕が上がった。
ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!




