第21話 激戦の幕開け
デュエル・コロッセオ本戦当日。
俺達はシアレストにある大きな闘技場【シアレストコロシアム】に来ている。ここで本戦が行われるらしい。
「師匠!スミレさん!頑張ってくださいね!」
「おう」
「もうすぐ組み合わせが発表されるんじゃない?」
スミレがそう言うと、運営からメッセージが届いた。トーナメント表が添付されている。
【デュエル・コロッセオ本戦:トーナメント表】
「へぇー、俺は1番最後か」
「ねぇ!この組み合わせおかしくない!?なんでアデルも、前回1位のレオルもいるのよ!」
「俺は知らないやつしかいないな。スミレと戦えるのは決勝か」
「ズルい!!運営に抗議してくるわ!」
恥ずかしいからやめてくれ。
「公平にランダムで決めたって書いてあるだろ。運も実力のうちだ」
「全員叩きのめしてやるわ……」
「その意気だ」
スミレの瞳にはメラメラと八つ当たりにも似たやる気の炎が燃え上がっている。
「客席取ってあるので!そこで他の人たちの決闘を見ましょう!」
俺の出番はまだ先だし、他のプレイヤーの決闘を見れるのはありがたいな。
俺達は闘技場の客席に向かった。
◇◇◇
「ん?撮影botは出さないのか?」
ハルはちょこんと俺の隣に座りジッとしている。
初回配信がバズりまくって登録者数も鰻登り、ハルの予想通り収益化の条件をあっという間に満たしたのだ。それからというものハルは何かするたびに撮影botを取り出し、配信や動画を撮影している。
「んー、こういう大イベントの時は大体みんな録画してるんですよねぇ。それに、デュエル・コロッセオは配信できませんし」
「そうなのか?」
「はい、WSOの公式チャンネルの独占配信です」
独占配信か。ハルが言うには実況解説付きで配信するらしい。一大イベントだけあって運営もかなり力を入れているようだ。
他愛もない話をしていると、闘技場の中央から大量の煙幕が広がった。
「始まるみたいですね!」
そして、煙幕が晴れると闘技場の中央には1人の女性が立っていた。
『Hello Everyone!!!!とうとう今日この日がやって来ました!!エントリー総数3620万人の中の選ばれし16名によるPVPの頂点を決めるこの大会!!デュエル・コロッセオ本戦の始まりだぁぁああ!!!!』
《ワァァァアアア!!!!!》
闘技場に現れた女性は実況の人みたいだな。客席からは割れんばかりの拍手喝采だ。
てか、この闘技場デカいなぁ。アルノーと戦った闘技場でもデカいって思ったのに、これはその何倍もの大きさだ。
中央にちょこんと武舞台があり、それを囲うように観客席が設けられている一般的な創りだ。武舞台の様子をしっかり見せる為に観客席の四方には大きなスクリーンがある。今はそこに実況の人が映し出されている。
『実況は私、レイナが務めさせてもらうよ!!それじゃ、ルール説明といこう!!』
本戦の実況者レイナはルール説明を始める。
【デュエル・コロッセオ:本戦ルール説明】
本戦は16名によるトーナメント方式で優勝者を決める。戦闘方法は1vs1のPvP。サブウェポンも使用可能。バッシブスキル、アクティブスキルは使用不可。
敵、または自分のHPが0になった時点で決着。一撃必殺もあり。決闘ではHPが0になってもデスペナルティを受けることはない。
『本戦では、その場で蘇生せずそのまま控え室送りになるぞ!!ルール説明と言ったけど結局は予選とほぼ同じだ!!さぁ!猛ろ!!選ばれし16名よ!!君達の熱き戦いを期待している!!!』
予選とほぼ一緒なのに説明する必要あったのかな。まぁ、最終確認って意味合いも込めてるんだろうけど。
「初戦は確か、レオルだったよな」
「ええ、前回大会優勝者ね」
「オリジン武器の持ち主でもあり、No.1ギルドのリーダーでもありますね」
完璧だなぁ…。まさにトップって感じだ。富と名声も力も手に入れた先に、レオルは一体何を求めているのだろうか。
『選手の準備が整いました!!!それでは登場していただきましょう!!!』
実況者レイナの声と共に、まずは西側の出入口から煙が立った。
『西側から登場したのはオンノ!!!!彼のハンマーさばきは鈍器とは思えないほど正確に素早い!!もうハンマー=動きが遅いという時代は終わったのか!?』
大きなハンマーを背負った男が入場した。
こいつがオンノか。ガタイがいいな、リアルでも筋肉モリモリなのだろうか。
そして、オンノが入場を終えると、東側の出入口から煙が立った。
『そしてそして!!対するこの男、その腰に挿すのはオリジン武器【エクスカリバー】!!No.1ギルド【円卓】のリーダーにして、前回大会の優勝者!!正にプレイヤーの中のトップオブトップ!!レオル!!!』
客席からは割れんばかりの歓声が上がる。
『この圧倒的人気!!オンノ選手はレオル選手を降し、波乱を巻き起こすことができるのか!?!?』
「へっ、まるで俺様の方が弱いみたいな実況だな」
「盛り上げるための方便さ。気にしないでくれ」
レオルは爽やかな笑顔をオンノに向けた。
「チッ……てめぇのその余裕綽々な所が腹が立つんだよ。その無駄にイケメンな面ぐちゃぐちゃにしてやるよ」
「それは怖いな」
そう言いつつもレオルの表情には余裕があった。
「さぁ、互いに全力を尽くそう」
オンノ背からハンマーを取り出し構える。レオルも腰のエクスカリバーを抜き取り、構えた。
『それでは……始め!!!!!』
〔カァン!!!!〕
戦いのゴングが鳴り響いた。
「最強は俺様だぁぁああ!!!!!」
オンノはグルグルとハンマーを振り回さながらしながらレオルに迫っていく。
そんな攻撃が通用する訳ないだろうに。
「ふぅ……」
レオルは息を整える。
そして、右足を引き、腰を落とす。剣は自身の右肩に。剣の角度は自分の体と直角に。この構えは…。
「トゥッタ・ボルタ……?」
いや、それにしては前傾姿勢すぎる。
あれは…。
『フルミネ・ブル』
レオルは飛び出し、勢いそのままオンノと肉薄する。
俺は思わず立ち上がった。
「な……に……?」
「すまないね。俺も負けられないんだ」
レオルのエクスカリバーはオンノの左肩から右腰まで真っ二つに引き裂いていた。
『うぉぉぉっと!!!正に一撃必殺!!一瞬で決着が着いてしまったぁぁあ!!!!』
客席からは歓声が湧き上がる。
『勝者!!!レオル!!!!』
レオルが使ったあの技……。
ただの『トゥッタ・ボルタ』じゃない。敵を一撃で葬る事を目的とした、実践用剣術。
「ハイセ?」
「まじかよ…」
俺の脳裏には、現実で刺客と戦った時の記憶がフラッシュバックしていた。
『Incontriamoci di nuovo(また会おう)』
あの剣術に、イタリア語。俺の中で、レオルと刺客の姿がマッチして、それは確信に変わった。
レオルが使った技は『フルミネ・ブル』。
正真正銘"ベネクト流"の剣術だ。
刺客の正体はベネクト流次代継承者リオン・ベネクト。
そして、No.1ギルド【円卓】のギルドマスターその人だったのだ。
「俺とスミレの他にも……」
別におかしいことでは無い。使い道のない実践用の剣術。それを思う存分発揮出来るのは恐らくこのゲームだけだ。武術の文化遺産を継承してる者であれば行き着く場所は同じなのだろう。
「……ん?」
レオルが立ち上がった俺に気が付いたようだ。
『ん!?おぉっとぉお!?レオル選手!!客席に剣先を向けたぁあ!?その先は……!?』
「はっ……だから俺に注目してるのか……」
『ハイセ選手だぁぁああ!!!!この2人には果たしてどんな因縁があるのか!?全くの無名だったはずのハイセ選手!!!はレオル選手とアデル選手から注目を集めている彼は一体どんなプレーを魅せてくれるのか!!!』
思わず苦笑いしてしまう。
「まだ、4年前のこと根に持ってんのか?」
「え?4年前って?」
スミレは首を傾げている。
「この事は後で話そう。スミレ、お前も一筋縄じゃいかなそうだぞ?」
こうして、本戦初戦はレオルが勝利を納めた。
◇◇◇
その後、続く1回戦第2試合はスマーニという槍使いの男が勝った。
「おい、アデル」
「おー、ハイセー。応援に来たのか?」
「いや、お前の試合見れないから挨拶だけ」
「なんだよ!見てろよ!」
アデルの試合も見たいところではあったが、少しスミレと話したい事があるし。
「どうせ勝つだろ?」
「ったりめーだ。どーせスミレとイチャイチャすんだろ?それともハルか?」
「うるせぇよ。適当やって負けないように気を付けろ」
「俺に限って適当なんてものは存在しねぇ」
どの口が言ってんだ。ギルドの運営もカスミ任せの癖に。
俺とアデルは拳を交わし、その場を去った。
◇
「それで?4年前がどうこう言ってたけど……」
俺はスミレと闘技場の談話スペースのソファに腰を掛ける。今はアデルの試合中だからここには誰もいない。
「レオルの動きを見てどう思った?」
「え?ああ、オリジンの……。そうね、私は鷹見流以外の剣術には疎いけど、あの技の完成度は高いってわかったわ」
「そうだよな」
スミレから見てもそう思うなら間違いないだろう。
「ねぇ、まさか私とハイセ以外にも?」
「ああ、別におかしい事ではないさ。このゲームは世界規模だ、誰がいてもおかしくない。特に俺達みたいな奴らはな」
スミレは納得したように頷いた。
「レオル……あいつは"ベネクト流次代継承者"リオン・ベネクトだ。4年前に一度現実で戦ったことがある」
あれは確か「ベネクト流と鷹見流どっちが強いか比べようぜ」的なノリのイベントだったよな。国のお偉いさん方が勝手に決めた特に中身のないイベントだ。
ベネクト流は才能さえあれば誰でも学べるが、流派の継承に関しては一族のみだったから、必然的に俺とリオンが戦うことになったのだ。
「なるほどね……。だから、ハイセに注目してる訳ね」
「そういう事。たぶん、あいつは早い段階から俺が"鷹見ハイセ"だって気付いてたんだろう」
実名を使うんじゃなかった。なんとかなるって思ってたんだけどな。やっぱり界隈の人間には身バレしてしまうか。
「大丈夫なの?身バレしてるってことでしょ?」
「まぁ、俺もあいつの正体わかってるからな。無闇矢鱈に言いふらしたりしないだろ。それに、そんな事するような奴には見えない」
「それもそうね」
俺の話を聞き、スミレは難しい表情になった。
「ベネクト流……。強いわね……」
「強敵である事には変わりないが、スミレの技術なら勝ち筋は十分にある。応援してるぞ」
「ええ……決勝でハイセと戦うのは私よ」
まぁ、その前にアデルがいるんだがな。
◇
観客席に戻ると既にアデルの試合は終わっていた。
「あ!師匠にスミレさん!どこいってたんですか!?」
「ちょっとな」
「じゃ、私行ってくる」
「おう、頑張れよ」
スミレはそのまま控え室に向かった。
「アデルはどうだった?」
「余裕も余裕ですね。レオルと師匠に感化されてか、大人気なく戦ってましたね」
大人気なくって……。対戦相手も一応本戦出場者なんだがな。
それはさておき、俺と決勝で戦うのは誰かな。
その後、スミレは当たり前のように勝利し、2回戦進出を決めた。次の試合はデイル、その次の試合はサトシ、またその次の試合はロビンという双剣の女性プレイヤーが勝利した。
「よし、俺の番か」
相手はヤマトってやつだよな。どんな武器使うんだろ。あんまり事前情報見てないからなぁ。
『デュエル・コロッセオ本戦1回戦!!最終試合が始まります!!!』
実況者レイナの声が響き渡る。
俺は意気揚々と武舞台に向かった。
ご閲覧いただきありがとうございます!
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