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第20話 配信者って大変だ

 

「師匠!師匠が『I streaming』のWSOカテゴリでトレンドに入ってますよ!!」


 サキノス荒原のフィールドボス、ライカンを暇潰しに狩っていると急にハルがそんな事を言い出した。


「え?なんで?俺配信なんかしてないぞ?」


 心当たりがあるとすれば、3戦目くらいに戦った……えっと……アラヌー?


「アルノーの炎上配信でも注目を集めてますけど、1番はこれです!!」


 ハルが見せて来たのは動画投稿サイト『I streaming』

 ゲーム実況動画や生配信に特化した、ゲーム配信者の為の動画投稿サイトである。特にWSOは常にトレンドに入り続けるほどの人気カテゴリだ。

 そして、今トレンドになっているのが……


「『第1回デュエル・コロッセオ入賞者インタビュー』?」


「はい!WSOの公式チャンネルが出してる動画です!そしてそして!!」


 ハルは動画を再生し、目的の時間まで飛ばした。


【第1回準優勝者:アデルさん】


【Q.貴方が注目しているプレイヤーを教えてください】


『注目してるプレイヤーかぁ……。まぁ、そりゃ前回負けちまったレオルをライバル視するは当然だが、俺はレオルよりも注目、いや、危険視している奴がいる』


 何カッコつけてんだこいつ。勿体ぶってないで早く言えよ。


『そいつの名は、"ハイセ"。あいつは間違いなくこのイベントの優勝候補筆頭だ。はっきり言うが、俺でも勝てるかどうか怪しいな。だが、負けるつもりもない。"髪"を洗って待ってやがれハイセ』


 アデルって馬鹿なんだな。"髪"じゃなくて"首"だ。


「なるほど、前回大会2位でトップギルドのリーダーであるアデルが注目してるからか」


「それだけじゃないんですよ!!これも見てください!!」


 ハルは鼻息を荒くしながら、もう1人のインタビューを見せてきた。


【第1回優勝者:レオルさん】


【Q.貴方が注目しているプレイヤーを教えてください】


『そうですね。16名皆、激戦を潜り抜けてきた猛者なので、皆平等に警戒はしています。注目というのであれば……』


 この人は真面目な人だな。模範的な優等生って感じだ。


『"ハイセさん"……ですかね』


「え?俺?」


『これはあくまで個人的な感想なので、実際はどうか分かりませんが……彼は今大会の台風の目になるのではないでしょうか』


 どういう事だ?俺はこのレオルって男に会ったことなんて無いが……。まさか、アルノーの配信を見ただけでそう感じたのか?

 だとしたら、レオルって奴は相当できる。余裕なイベントだと思ってたが、これは中々に楽しめそうだ。


「師匠!WSOのトッププレイヤーからこんなに注目されてるんですよ!なにしたんですか!?」


「なんもしてねぇよ。アデルは普段から会うことは多いが、レオルってやつはどっからか情報を仕入れて来たんだろ」


 16人みんな警戒してるって言ってたくらいだからな。


「あ、そうだ、アルノー。あいつどうなったんだ?」


 最後口滑っちゃったけど、炎上配信ってことはしっかり俺の声乗っちゃってたんだ。


「師匠に負けて、暴露された後は大炎上ですよ!人気な若手配信者でしたからね。他のプレイヤーのタレコミもあって賄賂説は確定したんです。なんか坊主にして謝罪配信したらしいんですけど、この世界好きなだけ髪型変えれますからね」


「そういう界隈の人達は坊主にして謝るのが通例なのか?」


「昔からずっとそうみたいですよ?」


 アルノーも大変だなぁ。口滑らした俺が言うのも何だが、めげずに頑張って欲しいものだ。


「ねぇ師匠!僕達も配信しません!?」


「えー、やだよ」


「師匠に注目が集まってる今がチャンスなんですよ!『このプレイヤーのチャンネルは無いのか!!』って言われてる程なんですから!」


 えぇ、なんでそんなに俺に構うんだよ。


「だって、レオルが師匠の事を強者認定したんですよ!?それにレオルの【円卓】だって配信してるんですから!」


 へぇ、オーディンとかもやってるのかな。


「あいつが勝手に言ってるだけだろぉ。配信するメリットも無いし。それに、配信したって俺は営業スマイルなんて出来ねぇよ」


「メリットならあります!!」


 ハルは腰に手を当て自信満々に無い胸を張る。


「これだけ注目を集めているならあっという間に収益化の条件を満たせます!」


「つまり?」


「リアルマネーがっぽり」


 そんな事だろうと思ったよ。ハルの目が完全に¥マークになっている。


「俺は金には困ってない」


「えー!!師匠ってもしかして良いとこの坊ちゃんですか?」


 その言い方はやめて欲しいな。


「ねー、スミレさんも稼ぎたいでしょ?」


「私もお金には困ってないわ」


「えー!!スミレさんもどこかのご令嬢ですか!?」


「そ、その言い方やめなさいよ」


 まぁ、別に悪いってわけじゃないだが、色々面倒だしなぁ。


「えぇー、勿体ないですよぉ……やりましょうよぉ……」


 そんな潤んだ瞳で上目遣いしてくるなよ……。


「ダメ……ですか?」


「はぁ……わかったよ。ただし、俺達は最低限のことしか手伝わないぞ」


「いいんですか!?師匠のこと映したりしますよ?」


「ああ、ただ営業的なことはできないからな」


「それで大丈夫です!!師匠もスミレさんもありのままが素敵なので!」


 そう言ってハルはインベントリから撮影botを取り出した。準備がいいことで。


「なんか、良いように言いくるめられた気がする」

「してやられたわね」


「言質は取りましたからね!」


 ハルは上機嫌で撮影準備を始めている。


「もう始めるのか?」


「善は急げですよ!もうSNSにチャンネル設立の宣伝しましたから」


 仕事が早いなぁ。いや、どうにかして俺達を説得する気だったんたろうな。


「そんな事言ったって、何もすることないが」


「おあつらえ向きのモンスターが目の前に居るじゃないですか!」


「ライカンか」


 ライカン。狼のような人型モンスター、亜人系モンスターの中では中の下ほどの強さだ。体格は2mほどだから、対人戦のつもりで戦っていた。


「かっこよく決めちゃってください!!」


 営業的なことはできないって言ってんのに。


「配信タイトルは『日本刀使いハイセ。ソロでライカン攻略』ですよ!配信始めまーす!」


 ◆SBA【フィールドボス:ライカン】


 ライカンは素早さが売りのモンスターだ。物凄いスピードからの爪攻撃、噛みつき攻撃、打撃が強力だ。シャドウサーバント同様、通常なら『鈍化』の魔法をかけて討伐するらしい。


「うわっ、凄い人……」


 ハルがボソッと呟く。

 配信開始から数分、視聴者数は1000人を超えていた。コメント欄では日本刀での攻略に対する嘲笑や、ソロで討伐するという行為に興味を示すもので溢れていた。


「やるか」


 〔ガルルルル……〕


 臨戦態勢に入ったライカンは爪を伸ばし、こちらを睨む。


 〔ガアアッ!!〕


 そして、消えた。正確に言えば超高速で移動した。これがライカンの圧倒的なスピード。1度攻撃を食らってしまうとそこを起点に怒涛のラッシュで大ダメージを受けてしまう。

 攻撃を食らえば……の話だが。


「ワンパターンだよな」


 ライカンは俺の背後に回っていた。迫る爪を容易に躱す。

 ライカンの初動は高確率で超高速移動で背後を取り爪攻撃だ。わかっていれば躱すのは難しくない。

 そこからは怒涛の爪攻撃のラッシュ。


「よっ」


 右、左、右、左フェイクの右、そして、蹴り。俺は全ての攻撃を掠ることもなく完全に躱しきる。躱している合間に絶えず斬撃を与えていく。

 チラッとハルの方を見てみると、目が輝いている気がする。どうやら、配信の調子は良いみたいだ。


 〔グルルル……グガァァァァアアア!!!!!〕


 この咆哮は……確か超高速での噛みつき攻撃の前兆だったよな。

 仕方ない。せっかく配信してるんだ、映えるように戦ってやろう。


 俺は2、3歩後退し、刀を鞘に収めた。左足を引き、腰を落とし、柄に手を置き、居合の構えをとった。


「ふぅ……」


 感覚を研ぎ澄ませる。


 〔グガァア!!〕


 ライカンが一瞬で肉薄した。


「鷹見流居合『幽冥一閃』」


 超高速のライカンに対し、俺の刀は完璧にライカンの首を捉えた。ライカンのHPは大きく減る。

 モンスターに対しては一撃必殺が無いのが歯がゆい……。あと一撃。


「鷹見流『驟雨』」


 繰り出された3つの斬撃はライカンの身体に深い傷を負わす。全て会心だ。


 〔グ、グオォ……〕


 ライカンは粒子となって消えた。


【DEFEAT THE ENEMY】


 まぁ、大したことないな。こんなんで見るやつは喜ぶのか?

 と、思ったがハルが嬉しそうにニコニコにしている。どうやらこれで良かったみたいだ。


「ん?」


 ハルがカンペを出してきた。


『なにか一言お願いします!』


 まじかよ。とんだ無茶振りだ……。なにか一言って言われてまなぁ。

 ああ、丁度いいから言っとくか。


「あー、えっと……本戦出場者の中には居ないと思うだろうが、不遇武器だからって舐めてたら痛い目見るから気を付けろよ?」


 実際、予選では俺の事を舐め腐って一瞬で殺られたやつばっかりだった。


「俺はこのイベントで優勝して、不遇武器でも上に行けるってことを証明してやるよ」


 この時同接1万人を記録していたことを俺はあとから知った。


 ◇


 同時刻、オーディンのギルドハウス。


「はっ!言ってくれるじゃねぇか!俺がいるってのによほどな自信だなぁ」


 アデルはハイセの配信を見ていた。


「まぁ、ハイセさんですから……」


「カスミは何か知ってるのか?」


「へ!?あ、いや、なんとなくです……」


 立ち上がり槍を持ったアデルは訓練場に向かう。


「ハイセに本物の武術ってのを見せてやろう」


 訓練場に向かったアデルを他所にカスミは1人の瞳をキラキラと輝かせている。


「……んー!!!ここは天国ですか!?まさか、まさか!!組み合わせ次第で槍術と剣術の戦いを見れるなんて…」


 カスミは本戦に向けて、個人的な撮影botを用意するのであった。


 ◇


 そして、また同時刻。円卓のギルドハウス。


「はっはっは!!彼は愉快だね!!」


 ハイセの配信を見てレオルは嬉しそうに笑っていた。


「はぁ……あいつは何かやらかさねぇと気が済まないんだよな……」


 吾郎はため息を吐いた。だが、どこか嬉しそうでもある。


「いいじゃないか、日本刀が不遇武器と呼ばれ、蔑まれているのは事実だからね」


 レオルはハイセの剣術を思い出し武者震いをする。


『ハイセ……"Incontriamoci di nuovo(また会おう)"」


 ニヤリと笑うレオルは奥のトレーニングルームに向かった。


 そして、デュエル・コロッセオ本戦が始まる。


ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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