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第19話 2次予選

 

 ◆BA【サキノス砂漠】


「ここら辺に居るのか?」


「はい!情報ではここら辺ですね!」


 俺達は【中央都市:シアレスト】から西に逸れた砂漠のエリアを歩いている。目的、それは。


「お頭!!カモが来やしたで!!」


「ひぇっひぇっひぇっ!!今回は上物かぁ!?」


 盗賊だ。


「カモが来たわね」


「来たな」


 なぜわざわざ盗賊が出没するエリアに来たのか、理由は簡単だ。

『デュエル・コロッセオ』に向けて対人戦闘で経験を積んでおきたいからだ。


「えいえい兄ちゃんに姉ちゃん達ぃ、ここが【砂猿】の縄張りだって気付かずに入っちゃったのかなぁ?」


「身ぐるみ置いてってもらうぜぇ」


「心配するな。俺もお前達が目的で来てる」


「なにぃ……?」


「盗賊ギルド【砂猿】のリーダー、デズモンドだな」


 俺の言葉にデズモンドはニヤリと笑った。


「おーっとと、まさかの賞金稼ぎかぁ。だが、ふむ。日本刀……ぷっ」


「「「「だっはっはっはっは!!!!!!」」」」


 俺の武器を見るなり、その場にいた6人の盗賊は笑い転げた。この反応も飽きてきたな。


「おいおい、本物のカモだぜ!!」

「不遇武器で賞金稼ぎ気取りですかぁ!?」

「逆に煽られてる!?俺達!!」


 盗賊達は俺達を囲む。


「お、おい頭!この女『ドクロ狩りのハル』だぜ!?」


 1人がハルに気付いたようだ。聞いた話によるとハルは盗賊界隈では恐れられているらしい。

『ドクロ狩り』つまり、ドクロ付きのプレイヤーを狩るPvPを専門としている。

 なぜドクロ付きのプレイヤーを狩るのか、その理由としては『懸賞金システム』にある。


『懸賞金システム』はドクロ付きのプレイヤーの中でも特に害悪プレーを行ったプレイヤーに懸賞金がつくシステムの事だ。盗賊界隈ではその懸賞金額を一種のステータスとして、懸賞金を掛けられる事を誇りに思っている。

 ちなみに、害悪プレーはWSOの規約違反にならないラインに限る。行き過ぎた害悪プレーはBAN対象になる。


【プレイヤー名:デズモンド 懸賞金額:40ゴールド】


 ふーん。宝の地図のダンジョン分ぐらいの金額か。こいつ狩るだけでこの金額……金策としては賞金稼ぎも中々いいな。


「ハル、お前相当貯えてるなぁ」


「えへへ、バレました?でも、全部師匠を養うためですよ?欲しいものあったら言ってくださいね!」


「今は特にないかなー」


「おい!俺達を無視すんじゃねぇ!!」


 忘れてた。そうだ、コイツらを倒しに来たんだったな。


「ドクロ狩りを連れてるなら話は変わってくるなぁ……こっちも全員で……」


「あー、ハルの事は気にするな。手出しはさせない」


「は?正気かお前」


「正気も正気だ。その為に来たんだ」


 盗賊達は信じられないといった表情を浮かべ、次第にニヤリとした顔に変わる。


「こりゃ、筋金入りの馬鹿だな……」


「あ、ちょっと待ってくれ」


「あ?」


「えっとぉ……」


 俺は自分の設定画面を開いた。


「『パッシブスキル:オフ』『アクティブスキル:オフ』よし。これで完全にシュミレーションできるな」


 これでデュエル・コロッセオの条件と同じだ。せっかく対人戦闘だ、全力でいこう。


「てめぇ……舐めてんのかぁ……?」


 別に煽ってるつもりはないんだが、人によっては喧嘩売ってるとしか思えないか。そんなつもりはないんだけどなぁ。


「ふざけるなよ!デュエル・コロッセオの練習のつもりだろ!?あれは1vs1のタイマンだろうが!こちとら5人以上いるんだぞ!!」


 一理あるな。だが、ぐだぐだせずにチャチャッと戦ってしまいたい。


「うだうだ言ってねぇでササッとかかって来いよ。ビビってんのか?」


 俺はニヤッと笑い舌を出した。


「て、てめぇ!!やっちまうぞお前ら!!!」


「「「「うおおおおおお!!!!」」」」


 盗賊達は一斉に俺に襲いかかってきた、


「師匠の挑発顔……素敵……」


「……」


 ハルはうっとりしているが、スミレはなんとも言えない表情で戦いを見守っている。


 ◆◆◆


 ~スミレ視点~


 ハイセを見送った数分後、ハイセは怪我して家に戻ってきた。


「どうしたの!?」


「ちょっと、色々……。湿布貰えるか?」


「頬が切れてる……消毒して絆創膏貼らなくちゃ。ここで待ってて」


 救急箱を取りに走るとお父さんとすれ違った。


「気分はどうだ」


「最悪ですよ……。でも、目が覚めました」


「そうか」


 そう言葉を交わし、2人はニコッと笑った。

 自分の悪い所を見つけられるのは、武術家としては良い事だと思う。でも、心配するこっちの身にもなってほしいわ...。


 お父さんから、圭吾おじさんの試練のことは聞いていた。その戦いでハイセは負けるとお父さんは言ってた。


 ハイセが負ける?そんなハズない。

 負け知らずのあのハイセが?

 歴代最強の継承者が?

 お父さんも間違えることがあるんだな。


 そう思ってた。

 でも実際は……。


「じっとしてて」


「痛てて……」


 頬の切り傷を消毒しながら、ハイセも負けることがあるんだって実感してしまう。


「肩にも湿布貼ってくれるか?」


「私が貼るわぁ」


 お母さんがハイセの服を脱がした。

 剣を受けたであろうハイセの左肩はひと目でわかるほどにボッコリ腫れていた。


「……ハーくん」


「どうしました?」


「これ、骨ヒビ入ってるわよ?」


「「え?」」


 すぐに病院に行くと、お母さんの言う通り、ハイセの左肩にはヒビが入っていた。さすがは元外科医。


 ◆◆◆


「ぐわー!!」

「な、なんだこいつ!!」


 今も複数人相手に圧倒的実力差で敵をねじ伏せているハイセ。

 ハイセを打ち負かす相手ってどんな人なんだろう……。


「やっぱ6人相手に1人はキツかったか……?」


 だんだん押されていく。このままだと危ない。

 でも、ハイセならこんな困難も乗り切るでしょ。


 昨日のハイセの姿が脳裏にチラつく。

 血を流し、動かせない左肩を庇いながら困ったように笑う姿が。


「もらったぁあ!!!」


 〔パァン!!〕


「なん……」


 私は剣を振り上げた盗賊の1人を撃ち抜いた。


「スミレ」


「たまには私も頼ってよ」


「おい!話が違うじゃないか!」


「あ?俺は"ハルは"手出しをさせないとしか言ってないが?」


 その後は私とハイセで敵を殲滅した。


「ありがとな!」


 ハイセはニコッと笑う。


 いつからだろう。守られるのが当たり前だと思ってしまったのは。

 いつからだろう。ハイセは最強無敵の剣士だと錯覚してしまったのは。


 考えを改めないと。

 ハイセも1人の人間なのだと。優しくてお調子者な私の幼馴染。

 守られるだけじゃダメ。私も彼を守れるように……。


「2人ばっかりずるいですよぉー!!」


「仕方ないだろ?そういう約束だ」


 拗ねるハルの頭を撫でながら私は決意新たに弓を握る。


 ◇


 ~ハイセ視点~


「はぁ……全くもって手応えがないな」


「殺られそうになってて何言ってるのよ」


「HPはほぼ満タンだし」


「PvPは一撃必殺があるでしょ」


 そうだった。

 昨日の一撃をこの世界で受けていたら、瀕死だっただろうな。


「そういえば、昨日どうやって戦ったの?」


「そこら辺に落ちてる木の棒」


「……」


「痛っ」


 スミレが無言で俺の頭を殴ってきた。

 鷹神を抜く訳にはいかないだろうに。


 〔ピロンッ〕


【デュエル・コロッセオ 2次予選第3戦を開始します。開始可能時間を設定してください】


「お、来たな。3戦目」


 2次予選は開始通知が来てから24時間以内で好きな時間に戦いを設定できる。相手とのマッチングが上手くいかなかった時は再度マッチングし直し、同じ時間に戦えるようになっている。

 今回はどんな奴が来るかな。開始時間を今すぐに設定すると、転送が開始された。今回は俺が相手のいる場所に行くみたいだな。


 1戦目と2戦目は大したことなかったな。さて、今回はどんな奴が相手かな。


「いってらっしゃい」

「師匠、ふぉいとー」


「おう、いってくる。シアレストで落ち合おう」


 転送が開始された。


 ◇◇◇


 暗転した視界が次第に明るくなってくる。なにやら話し声が聞こえる、どこに転送されたんだ?

 視界が完全に晴れると俺は闘技場に立っていた。


『挑戦者が現れたぁぁああ!!!』


「な、なんだ……?」


 闘技場にいるのは俺と相手のプレイヤーのみ。相手はなにやらふよふよ浮かぶ球体に話しかけている。


「今日もやってくぜ、決闘生配信!!このアルノーが見えてるかーリスナー諸君。……OKOK見えてるみたいだな!」


 このアルノーって奴は配信者なのか。この宙に浮かぶ球体は撮影bot。自分が設定したアングルから自動で録画、配信をしてくれる便利アイテムだ。それを動画投稿サイトにアップロードし、一定条件を満たすと収益化できるってやつだ。


「今日もストレート勝ち?いやいや、2次予選はそんな甘くないよ、ただ全力で戦うだけさ」


 アルノーは撮影botに向かってキラッと笑顔を向ける。人気な配信者なのかな?


「それじゃ、決闘の準備するから暫し待たれよ!」


 カメラをオフにして、マイクもミュートにしたみたいだ。


「ふぅ……すまないな!待たせてしまった」


「いや、気にするな。そういう仕事だ」


「理解感謝するよ」


 意外と清々しいやつだな。

 すると、俺のウィンドウに何かが表示された。


「おい、これはどういうつもりだ」


「理解してくれてる君なら、これも理解してくれるだろ?」


 俺のウィンドウに表示されるのはアルノーから贈られてきた金だった。金額は50ゴールド。デズモンドよりも高額だ。

 理解……つまりこれは賄賂だな。


「金やるから負けろってか」


「端的に言えばそうだね。50ゴールド得て負けるだけでいいんだ。美味い話だと思うけど。それに君は……ほら、どっちにしろ負けるじゃん?」


 アルノーは馬鹿にしたように笑い、俺の腰を指さす。


「やってみないとわかんねぇぞ。金は返す」


「馬鹿だなぁ。結局負けるんだから、受け取っておいた方がお得だろ?」


「まぁ、言いたいことはわかったよ。賄賂のことは口外しないから安心しろ」


「君がどこまでも馬鹿で良かったよ。それじゃ、配信再開するからくれぐれも」


「わかってるって」


 別に暴露したっていいがあまりメリットはない。俺は別に配信者じゃないし、無駄に注目浴びるのも嫌だ。

 アルノーは撮影botのカメラと音声を起動する。


「さぁ!準備完了だ!君が日本刀だからって俺は油断しないよ!」


 大した演技だ。ベロンベロンに舐めまくってる癖に。


「自己紹介をしておこう!!俺の名前はアルノー!!ロングソードを扱う剣士だ」


 見りゃわかるよ。


「そして!西洋剣術"ベネクト流"を留学して学んできた帰国子女でもあるのさ!!」


「ベネクトだと?」


「そうさ、西洋剣術最強の流派……知ってるかい?」


 こりゃ大当たりだ。ドンピシャで引き当てたぜ。

 イタリアのベネクト流は鷹見流のような"一家相伝"の剣術ではなく、才能さえあれば国籍関係なく流派の門弟として修行を受けることが出来る。


「どうする?棄権するかい?」


「いや、尚更負けられなくなった」


 つまり、ベネクト流を学んできたというこいつはそれなりに才能があるってことだ。やっとマシな奴と戦える。


【決闘を開始します】


「さぁ!俺のベネクト流剣術!とくとご覧あれ!!」


【5 4 3 2 1……】


【決闘開始】


「行くぞ!!くらえ!!」


 アルノーはグッと踏み込み一気に肉薄してきた。


「ベネクト流ぅぅうあああ!!!!!!」


『ボンゴレ・ビアンコ!!!!」


「………は?」


 ロングソードを肩に置いた状態で一気に肉薄してきたアルノーはそのままロングソードを振り下ろす。

 動きも遅いし、剣に力は乗ってないしもうめちゃくちゃだ。

 俺は意図も容易くアルノーの首を斬り落とした。


「なん……だと……?」


「お前……」


 いやいや、ベネクト流?そんな馬鹿な。こんな奴が?弱すぎる……。それに、『ボンゴレ・ビアンコ』って……。

 粒子になって消えたアルノーはすぐに蘇生した。


「な、なにかの間違いだ!!俺が不遇武器なんかに!!」


「おい、お前。"ベネクト流"っての嘘だろ」


「はぇ!?な、なにを言う!!俺は正真正銘の……!!」


 分かりやすくオロオロしている。こいつ、やっぱ嘘ついてたのか。ベネクト流だって言えば視聴者が集まってくるからな。

 はぁ……期待して損した。


「あのな。眉唾で西洋剣術を少し学んだんだろうが、お前が使おうとした技は『トゥッタ・ボルタ』だ」


「へ……?」


「あと『ボンゴレ・ビアンコ』はパスタの名前な……ぶふっ…!!」


 自分で言っておかしくなってきた。思わず吹き出してしまった。

 てか、よくこんなんで今まで配信者やれたよな。もしかして、みんなわかって見てんのか?


「ま、まぁ……これからは、ベネクト流騙るのはやめといた方がいいぞ……あと賄賂もな……あっごめん……」


 口が滑っちまった。

 アルノーは顔を真っ青にして急いで配信を閉じた。そして、何も言わずにログアウトしてしまった。


「なんか悪いことしたなぁ。この闘技場も高ぇ金出して借りたのだろうに」


 ま、いいか。さっさと2人の元に帰ろう。

 デュエル・コロッセオ2次予選3戦目も無事勝利を収め、スミレとハルの元に戻った。


 ◇◇◇


 WSOのとあるギルドハウス。


「ベネクト流だっていう配信者がいるって聞いて、見てみたんだけど……」


 金髪の男、ギルド【円卓】のリーダー、レオルは苦笑いをしながらアルノーの配信を見ていた。


「これは……酷いね……」


 ベネクト流は嘘。挙句の果てに賄賂で今まで勝利してきたという事実に呆れていた。


「それよりも彼だ」


 レオルが注目したのはアルノーを相手にした日本刀の剣士だった。


「ゴロー、彼は何者だい?」


「なんで俺に聞くんだよ」


「彼を見た時にニヤってしてたからね。彼がタイプなのかな?」


「俺は男趣味じゃねぇよ……」


 レオルの言葉に吾郎はため息を吐く。


「まぁ、なんだ。ダチだよ」


「へー!友人なんだ!彼について教えてくれないか?」


「なんで、そんなハイセについて気になるんだよ」


「ハイセ……ハイセって言うのか……ふむ」


 なにか心当たりがあるのか、レオルは深く考え込む。


「彼は西洋剣術に理解があるようだった。それにあの無駄のない動きに日本刀の熟練度……」


「レオル。どうせあいつは本戦に来る。それまで楽しみはとっておけよ」


 吾郎の言葉にハッとし、レオルはニッコリ笑った。


「それもそうだね!」


「それに、ハイセについて教えろって言われても教えねぇよ」


「そうかい?なら戦ってみるまでだよ」


 レオルの青色の瞳が怪しく光る。


「ハイセ……か」


 いずれ相見えるであろう強敵に思いを馳せ、レオルは2次予選に挑む。


 ◇◇◇


 2次予選は1週間をかけて行われた。1次予選通過者の中には一定数の棄権者も出てきたため、1週間で上位16名を決めることが出来た。


「アデルも勝ったみたいだな」


「そうね、吾郎は居ないみたい」


「あいつはサポートメインだろ?そもそもエントリーしてないはずだ」


 デュエル・コロッセオのイベントページでは本戦出場者の名前が記載されている。

 もちろん、俺とスミレも本戦出場だ。


「レオルって言えば、西洋剣のオリジン持ってるやつか」


「ちなみに!ギルドランキング1位の【円卓】のリーダーでもありますよ!」


「へー、1位ね」


 最強のギルドのリーダーか。


「確か、このイベント第2回だよな?1回目は誰が勝ったんだ?」


「1回目はレオルです!ちなみに、2位はアデルです!あの白熱した決勝戦は動画投稿サイトで12週連続1位だったくらいですから!」


「ふーん。まぁ、アデル個人の実力はよく知ってる。あいつなら2位くらい当たり前か」


 アデルでもレオルには敵わないのか。戦ってみたいな。


「でも、今回は師匠に、スミレさんが居ます!どうなるかわかりませんよぉ」


 ハルはニヤニヤしているが、そうだなぁ、やるからには勝ちたいな。

 本戦が待ち遠しいぜ。


ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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