第2話 WSOの世界へようこそ
『ワールド・シーク・オンライン』通称【WSO】
広大なフィールド、自由なキャラメイク。
ジョブシステムを撤廃し、1つの武器を極めるという珍しいシステムにゲーマー達は惹かれた。
そして、WSOは世界的に人気が爆発し、フルダイブシステムを採用したMMORPGの代表作となった。
リリースから僅か1年でプレイヤー人口5000万人を突破し、現在もその人気は留まることをしらない。
キャッチフレーズは『君は、世界に何を求める』
◇◇◇
〔ピロンッ〕
「ん? 吾郎からか」
メッセージには吾郎のフレンドIDが送られていた。
「えっと……このサングラスにこのチップみたいなソフトを入れて……。へー、ディスクじゃないんだなぁ」
電源を押すとサングラスは薄ら光を放つ。
「あとは……楽な姿勢で、目を閉じる……うおっ……」
すると、フワッと体が浮くような感覚に陥る。意識は吸い込まれいつの間にか真っ白い空間に立っていた。
〔ピロンッ〕
『貴方の名前を教えてください』
「うわっ、びっくりした」
目の前に液晶画面のようなものが広がり、そこから音声が流れた。
「えっと……よし」
キーボードで打ち込む。
『プレイヤー名【ハイセ】承りました』
本来はオンラインゲームで実名を使うのは良くないが、別に問題はないだろう。元々じじいが使ってたオンラインネームだしな。俺の名前。
『それでは、ワールド・シーク・オンラインの説明を始めます』
真っ白い空間にはWSOの風景が投射される。
巨大な山脈、その山に住まう龍、緑の平原、日照りの強い砂漠、荒野、雪原。そして、空に浮かぶ島。各フィールドに生息する数多のモンスター。
「おぉ……」
素晴らしい演出だ。これだけで冒険意欲を掻き立てられる。
『WSOには特定のジョブは存在しません。貴方の思う武器を手に取り戦ってください。しかし、扱う武器系統の変更には回数制限があり3回まで変更可能です。使用武器系統を決める際は十分に検討して決めてください』
「へー、ジョブシステムはないのか。武器その物がジョブみたいなものか……。変更は3回まで、武器を重んじるゲームなんだな」
『貴方が扱う武器系統を決めてください』
俺の目の前にはズラっと武器が並べられた。全部で9つの武器だ。
「西洋剣、双剣、棍棒、銃、槌、短剣、弓、槍……」
そして、そこには見慣れた武器があった。
「日本刀……」
俺は日本刀を手に取る。
『尚、WSOはプレイヤースキルを重視しております。遠距離武器以外に攻撃アシストは付かないのでご注意ください』
ふむ。従来のゲームのように自動で攻撃を当ててくれる訳じゃないと…。いかに敵にダメージを与えるかは自分本来の力量次第って訳か。
「なるほど、吾郎が勧めたのはこれが理由か」
リアルでの力量次第でどこまでも上を目指せる。俺の実践用剣術も活かせるって訳だ。
『武器には耐久値があります。武器の扱い方、熟練度によって減少度合いが変化します。武器を上手く扱えば扱うほど武器の耐久値は消費せず、より高いダメージを出すことが可能です』
俺は今どんな顔してるだろうな、目を輝かせニヤついているだろうな。持て余した剣術を活かせる絶好の場所だ。後でスミレにも教えてやろう。
『【メインウェポン:日本刀】でよろしいですか?』
「もちろんだ」
はいのボタンを押す。
〔ポンッ〕
俺の目の前には一振の日本刀が現れた。その日本刀を手に取りウィンドウを開く。
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名称:日本刀 C
耐久値:50
説明:駆け出し冒険者に配られる最もスタンダードな日本刀。性能は可もなく不可もない。
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「へー、このCってのはレア度か、確か「Common」って意味だよな。コレクション要素もあるみたいだな」
レア度はC、UC、R、SR、URに分かれるらしい。
手に取った日本刀で軽く素振りをしてみる。
「……すげぇな。日本刀の重心や振った時の遠心力のかかり方、細かい重さや握り心地まで完璧に再現してある。これ作るのに相当研究しただろうな」
相当な刀マニアか、実際に使用した事があるのか。このゲーム作った人は意外と武術の継承家系だったりしてな。
『サブウェポンを決めてください』
「サブウェポン?」
『サブウェポンはメインウェポンが使用不可状態に陥った際に使用する武器です。サブはあくまでサブです。メイン程の火力は出ません。ないよりはマシ程度なので気楽にお選びください』
……なんかこのAI辛辣だな。
「ふーん。サブはあんま使わないだろうな」
俺の目の前には弓が置かれている。丁度スミレに教わったばっかりだしな。
「よし、弓だ」
『【サブウェポン:弓】でよろしいですか?』
はいのボタンを押す。
日本刀と同様俺の手元に弓が出現した。
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名称:ショートボウ C
耐久値:弓200 弦100
説明:ごく一般的なショートボウ。性能は可もなく不可もない。
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弓からウィンドウが表示されるが内容は日本刀とあまり変わらないな。初期武器はどれも同じか。
『貴方の分身となるアバターを作成してください』
目の前に俺と同じ背丈のアバターが出現した。まずは性別からだが、俺はネカマをする気はないのでもちろん男だ。あとは細かいキャラメイク……。
「こういうの苦手なんだよなぁ……」
刀が振れりゃなんでもいいや。おまかせボタンの横にもう1つボタンがあることに気づいた。
「【現実に限りなく近づける】?」
そんなことできるのか。すげぇな最近のゲーム。入力は身長、体重、大凡の体脂肪率だけ。
「身長178cm体重74kg体脂肪率は確か10%位だったよな……」
入力を完了するとみるみるアバターが作られていく。
「おぉ……」
身体をリアルに近づけるのはわかるが、顔はどうやってんだ?あのサングラスから情報を読み取っているのだろうか。所々違うとこはあるが、俺にそっくりのアバターができた。
「リアルと近い方が動きやすいだろ」
『アバターの作成を完了しました。それでは、WSOでの冒険をお楽しみください』
すると、目の前が急に暗転した。真っ暗だ、何も見えない。
【アバターを構築中です。しばらくお待ちください…】
【アバターの構築が完了しました。サーバーへ接続します…】
【サーバーの接続が完了しました。WSOの世界へフルダイブを開始します】
この世界には俺が求める物はあるのだろうか。押し寄せる期待の波に俺の心は弾む。
さぁ、冒険の始まりだ。
【WELCOME TO THE WORLD・SEEK・ONLINE】
◆◆◆◆◆
もうあの世界に入ったのか?まだ視界は暗い。
段々明るくなってきた。周囲にプレイヤーが居るのだろうか、ガヤガヤと騒音も聴こえる。
そして、視界が完全に暗闇から晴れる。
「うわぁ……!! すげぇ!!」
◇BA(戦闘区域)【始まりの平原】
目の前に広がるのは広大な緑の平原。俺と同じビギナープレイヤー達が走り回っている。
「あ、そうだ。吾郎とフレンド登録しないとな。えっと……フレンド……」
フレンド検索欄に吾郎のIDを打ち込んだ。
【プレイヤー名:ゴロー 討伐P3 使用武器 棍】
「棍!? あいつ刀にはしなかったんだな」
まぁ、鷲土流は吾郎が産まれる前に消滅してるから、あまり思い入れはないのだろう。
それより、討伐Pってなんだろう。
「ちょっと、邪魔」
後ろから女性が迫ってきた。他に道はあるだろうに嫌味か?ここは穏便に……。
「あ、すま……ん?」
女性の姿を見る。黒髪のポニーテール、まるでモデルの様な顔立ちで身長は俺より15cmほど低い。
どっかの知り合いとそっくりだ。他人の空似って怖い。
「な、なにか言いなさいよ剣術馬鹿……」
「え? まさかお前、本当にスミレなのか?」
「ぐ、偶然ね! 私も今日吾郎にこのゲームのことを聞いて始めたのよ!」
顔を赤くし、逸らしながらそう言うスミレだが、始めた時間も全く同じは偶然と言えるのだろうか。
「そうか! よかったよかった! スミレにもこのゲーム教えようと思ってたんだよ! すげぇよな!!」
「えぇ、そうね。プレイヤースキル重視だなんて、私達にピッタリ」
「スミレも吾郎に呼ばれたのか?なら、一緒に待とうぜ! こっちに向かってるらしいから」
「え? あ、そうね。とりあえずフレンド登録しましょ」
教えられたIDを打ち込む。
【プレイヤー名:スミレ 討伐P0 使用武器:弓】
「そういや、サブウェポンって何にしたんだ?」
「な、なんでもいいじゃない……」
「俺は弓だぞ、スミレが教えてくれたからな」
スミレは少し嬉しそうな顔になった。やっぱ自分の好きな物を理解してくれるってのは嬉しいもんな。
「私は……日本刀よ……」
「へー! スミレが日本刀! 珍しいなぁ」
「なんでも良いってAIも言ってたでしょ! 適当よ! 適当!」
談笑しながら吾郎を待っていると目の前に茶髪の男が現れた。
「ハイセ……スミレ……お前らなぁ……」
こいつ俺達の名前を知ってる。この顔は吾郎に似ている気がするが、髪色が茶色だ。これこそ他人の空似だな。
「誰だお前」
「……」
男は無言でウィンドウを見せてきた。
「ゴロー? お前吾郎だったのか。なに髪なんて染めてんだよ、不良か?」
「そうよ。茶髪似合わないわよ?」
「うるせぇ!! ここはゲームだ!! お前らこそ馬鹿か! なんでリアルとほぼ同じなんだよ!」
「別にいいじゃねぇか」
「良くねぇよ! せめて髪色と瞳の色くらい変えろ! スミレもだ!」
「「えぇー」」
「えぇー、じゃない! 後で後悔するぞ!」
吾郎がすごい剣幕で怒っている。さすがにまんまはまずかったか。確かにリアルはリアル、ゲームはゲームだもんな。髪色と瞳の色だけでも変えるか。
俺とスミレはゲームのロビーに戻った。あの真っ白の空間だ。
「うーん。まぁ、なんでもいいや」
俺は銀髪を選んだ。黒と銀じゃだいぶ違うからな、印象も違うだろ。瞳の色は黄色にしよう。
ちなみに髪色やフェイスペイント、アクセサリーなどはいつでも変更が可能だ。それ以外に関しては1度決めると変更ができない。
「よし、それならいいな」
スミレは美しいブロンドカラーだ。瞳の色は緑。
「ど、どう?」
「ん? 可愛いと思うぞ」
モジモジするスミレを他所に、吾郎からのお墨付きも得たことでさっそくチュートリアルだ。
まずは、スキルについて。
主に2種類、"アクティブ"と"パッシブ"だ。任意で発動可能なアクティブ、取得時点で自動的に発動するパッシブ。
このゲームはプレイヤースキル重視だが、もちろん攻撃スキルも存在する。刃が拡張されたり、矢が無数に増えたり、刀身が燃えたり様々だ。中には生産系スキルという物もある。鍛冶やポーションの作成など生産系スキルも多数存在する。
パッシブスキルについては、使用武器によって得られるスキルが変わる。日本刀を選んだ俺には【心眼】というパッシブが着いている。内容は【会心ダメージを与えた場合、自身の素早さが上昇する】といったものだ。
「弓を選んだ私は【頭部破壊】ね。【ヘッドショットを与えた場合、10%のダメージを追加する】だって」
「物騒なスキルだな。スミレらしい……ぐっ……」
スミレの鉄拳が俺の頭部に炸裂した。このゲーム、フレンドリーファイアがあるから地味にダメージが入る。
「で、スキルってどうやって手に入れるんだ?」
「それは武器によって異なる。パッシブはプレイヤー自身のスキル、アクティブは武器そのものにスキルがあるって考えだな。アクティブを解放するために使うのが『討伐P』だ」
なるほど、討伐Pってのはそういう使い方をするのか。
「討伐Pはモンスターを倒すと得られるんだが、得られる条件がモンスターによって異なる。例えばあのスライムだ」
吾郎が指さすスライムを見る。
「あいつを3秒ほど見てみろ、ウィンドウが表示されるから」
【名称:スライム 弱点:?? 討伐P条件:ノーダメージで討伐】
「おぉ、ノーダメージで討伐か。あ、弱点が『??』になってるぞ?」
「それはまだそのモンスターと戦ってないからだ。繰り返し戦うことでモンスターの情報をより多く得られるってことだ」
なるほど。しっかりしてるな。
「ちなみに、同じモンスターから得られる討伐Pは5Pまでだ。1週間経つとリセットされるぞ」
俺は日本刀を取り出し、スキルを確認する。
【スキル:縮地 C 必要討伐P:3】
「スキルにもレア度があるんだな」
「そうだな。基本的に武器のレアリティに依存するが、極稀に低レアリティの武器にSRのスキルが付いてることもある」
「へー! 面白そうね!」
スミレはレアリティシステムが気に入ったようだ。意外と収集癖でもあるのか?
「逆に高レアリティの武器にCのスキルが付いてる場合もあるがな。そうなったらもう一度その武器が出るまでひたすら周回だ」
「MMORPGっぽいな」
うずうずしてきた。早くモンスター狩りたい。
「あと、討伐Pにはもう1つの使い方がある」
「「もう1つ?」」
「それは、ステータスの強化だ」
ステータスの強化? このゲームにはレベルがない。レベルがないから、そういうのも無いと思ってた。
話によると、STR(筋力)、VIT(生命力)、DEF(防御力)、INT(知力)、DEX(器用さ)、AGI(素早さ)、LUK(運)があるらしい。
ステータスを1つ強化するのに討伐Pが5必要みたいだ。中々上げづらいが得られる恩恵は大きいらしい。
「INTって、このゲーム魔法もあるのか?」
「一応あるが、攻撃魔法はない。味方のバフだったり、回復だったりサポートメインだ。ちなみに俺はサポート中心だからその辺は任せろ」
吾郎はサポートメインなのか。前に出てガンガン戦うと思っていたがこれまた意外だな。
「基本的な事はこんぐらいだ! 必要なことはおいおい説明していくからな!」
「おう!」
「それじゃ、お待ちかねのモンスター退治だ!! RPGビギナーが最初に通る関門!!」
〔ゴクリッ…〕
俺とスミレは喉を鳴らす。
「スライム狩りだぁぁああ!!!!」
「「お、おー」」
こんだけ勿体ぶってスライムかよ……。
サクッと倒すか!
ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!