第16話 ハルの憂鬱
「おいおい、なんだハイセ。両手に花じゃねぇか」
そう言い笑いながら俺をからかうのはアデルだ。今俺達はオーディンの仮ギルドハウスにいる。
「うるせぇよ。それよりもこの馬鹿みたいな申請の数だ」
「まぁ、適当でいいんじゃないか?」
俺達がデュエル・コロッセオに参加してから今でも決闘の申し込みが来る。みんな1次予選を通過するためにしっかり戦績を残しときたいんだろう。
あまりに多すぎるため、オーディンのギルドハウスの休憩スペースで休みながら整理させて貰っているのだ。
「あ、あの……リーダー?」
ハルと一緒にパーティーを組んでいる短剣使いの男……エイジだっけ?俺達の後ろでオドオドしている。トップギルドのギルドハウスでたじたじしているのだろう。
「ん?エイジまだ居たんだ。帰っていいよ?あと、今日でパーティー解散だから」
「え!?いや……え!?」
俺の右隣をキープするハルは後ろから着いてきたエイジにそう言い放った。辛辣だなぁ。
「長いことパーティー組んでたんじゃないのか?」
「んー、WSO始めた頃からだから2ヶ月くらいですかね」
「長いじゃねぇか。ちゃんとエイジの事も考えてやれよ」
俺の話を聞いてハルは渋々エイジの元に行った。
「前にも言ったけど、僕は師匠……そこにいるハイセさんと再会することが目的なの。だから、もうパーティーを組む必要も無いし、僕は師匠のパーティーに入るから」
やっぱ入るのね。着いてきそうな気はしてたけど。スミレが複雑表情を浮かべている。
「えっと……これからも2人で冒険とかは?」
エイジは藁にも縋るような思いでハルに聞いた。
「え?なんで?僕は師匠と再会したのに、これ以上エイジと冒険する必要あるの?ていうか、僕1人で冒険してた所をエイジが半ば無理矢理パーティー組んだようなものだったよね」
「あ、えっと……」
「まぁ、そういう事だから。エイジ、今までありがとう。これから、まぁなんか色々頑張ってね」
「あ……」
エイジはそのままハルに押し出される感じでオーディンのギルドハウスから締め出された。
「ハル」
「はい!師匠!」
「言っとくが、お前も半ば無理矢理パーティー組んだようなものだったぞ。自分のことは棚に上げてか?」
「昔のことじゃないですか!今はちゃんと正式にパーティー加入を申請します!」
「入る気満々みたいだが、俺はお前をパーティーに入れるなんて言ってないぞ?」
「え!?」
俺の言った言葉が衝撃だったのか、盛大に驚き、言葉の意味を理解するとオロオロし始めた。
「え、あ……僕……お邪魔ですか……?やっぱり、スミレさんと2人の方が……」
エイジを雑に追い払った罰としてからかってみたんだが、なんか悪い気がしてきたな。ハルは今にも泣き出しそうだ。
「ハイセ、からかいすぎるのも良くないわよ」
「わかってるよ。冗談だ、ハル」
「え?」
「パーティー入るんだろ?スミレも良いって言ってるから問題ない」
意外な事にハルのパーティー加入をスミレが快く承諾したのだ。仲悪そうに見えたが。どういう風の吹き回しだ?
「スミレさん、いいんですか……?」
「ええ、ハイセの足引っ張るような人だったら嫌だけど、あなた強そうだし」
「ありがとう!スミレさん!大好き!」
そう言ってハルはスミレに抱きついた。そんなハルをスミレはやれやれといった感じで頭をなでている。
なるほどな、スミレもハルの弟……いや妹属性にやられたのか。
スミレは一人っ子だ。昔から弟か妹が欲しいとよく言っていた。かく言う俺も一人っ子だが。
ハルの身長はスミレより低く、150cm半ば程だろうか?これがまた妹属性に拍車をかけるのだろう。
ちなみにスミレの身長は164cmだ。
こうして、ハルが俺達のパーティーに加入した。
【プレイヤー名:ハル 総獲得討伐P:163 使用武器:銃 (リボルバー)】
「よろしくね!師匠!スミレさん!」
「ああ、よろしく」
「よろしく、ハル」
これでこのパーティーは3人か。
「ハル、お前は何ができるんだ?」
「銃が撃てる!!」
ハルはドヤ顔をキメ、ガチャリとリボルバーを二丁構えた。
「それはわかってるよ。他には無いのか?」
日本刀を振ることしかできない俺がこういう事を聞くのはどうかと思うが、一応聞いとかないとな。
「んー、サポート魔法全般が使えますよ!」
「おお、まじか。そりゃありがたい。でもなんでサポート魔法なんだ?ハルならステータスとか武器スキルに討伐P使ってそうだが」
サポート魔法や生産系スキルを獲得するのにも討伐Pが必要だ。
ちなみにサポート魔法や生産系スキルは全プレイヤー覚えることが可能で、"スキルツリー"から討伐Pを消費することで習得ができる。だが、必要討伐Pの多さから戦闘をメインとするプレイヤーは生産系や魔法に討伐Pを消費しなくなるのだ。
「それはですね、師匠と再会した時の為に覚えておいたんです!僕がサポートできれば師匠はもっと輝けると思いまして!」
ハルは目をキラキラさせながら言っている。俺は別に輝きたくは無いが。
「それに、スミレさんも僕がサポートすればもっと火力が出せそうです!お2人がメインアタッカー、僕がサブアタッカー兼サポーター!完璧じゃないですか!」
「確かにな、バランス良いか。だが、ハルの負担がデカくないか?」
「吾郎並に器用じゃないとね」
吾郎やハルのようなプレイヤーはよく居るが、その性能を最大限発揮できるプレイヤーは極稀だ。
エイハムが良い例だ。エイハム並に攻撃、守り、サポートを使いこなせれば色んなギルドから引っ張りだこになるらしい。
「その吾郎って人のことは知りませんが、私もそれなりに出来ますよ?」
「ほんとかー?」
俺が疑いの目でハルを見ると俺の肩にアデルがもたれかかってきた。重い。
「そいつの腕なら俺が保証するぜー」
「なんでアデルが保証すんだよ。知り合いなのか?」
「まあな!」
アデルとハルが知り合いってのも意外だな。
「誰でしたっけ?」
ハルは覚えてないみたいだけど。
「おい!オーディンのリーダーだよ!1週間前くらいにウチに来ないかって勧誘しただろ!」
「あー……あー……?」
ピンと来てないみたいだが。
「覚えてないなら別に良いさ……。1週間くらい前にこいつの事スカウトしたんだよ。銃の腕も確かだが、サポートができるアタッカーなんてあんまり居ないからな。ハルは自分で自分をサポートしながら戦い続けてたんだぜ?器用なんてもんじゃねぇ。だから、スカウトしたんだ。そしたら、こいつなんて言って断ったと思うよ?」
「なんて言ったんだ?」
大体予想つくけど。
「『僕の力は君"なんか"に使う為の物じゃない』だぞ!?"なんか"ってなんだよ!!あの後カスミに大爆笑されて恥ずかしかったんだからな……」
まぁ、アデルの恥ずかし話はどうでもいいとして、オーディンがスカウトする程の腕の持ち主なのか。
「君になんか使う為の物じゃないって言ったって、お前エイジとパーティー組んでたろ?」
「勘違いしないでください!エイジには1度もサポートした事ありません!」
「いや、それもそれで問題だろ。よくエイジはお前とパーティー組んだな」
「サポートもいらないからパーティー組ませてくれってエイジから言ったんですよ。僕はそもそもソロが良かったんですから」
それってエイジになんのメリットがあるんだ?よくわからん。
「なんか、僕とパーティー組んでるってあちこち言いふらしてみたいですけど。最近は周りから"カップル"とか言われだしてもう鳥肌立ちましたよ……」
なるほど。それがエイジのメリットね。ハルと一緒に居るってだけででかい顔してたのか。それならこんな捨て方されるのも当然か。
「最近やたらリアルのこと聞いてくるし、2人でオフ会しようとか……。ちょっとしつこかったんですよね」
「逆恨みされないようにな」
「師匠が守ってくださいね!」
そう言いニコッと笑う。自分で守れよ。そんくらいの力あるだろうに。
しばらくして、決闘挑戦状の整理も終え、談笑していた所、また決闘の挑戦状が叩きつけられた。
「誰だよ……ん?」
【プレイヤー:エイジから決闘の申し込みが来ました】
「「「は?」」」
面倒事が増えてしまった。
◇◇◇
WSO内のとある街。
「君が噂のサポーター君かな?」
サポーターとは主にサポート魔法を中心とし、プレイヤーの補助を行うプレイヤーだ。オーディンでいうところのエイハム、ハイセのパーティーでいうところのハルに該当する。
「そうだが」
「名前は?」
「ゴロー」
ハイセのもう1人の幼馴染、吾郎は強くなるべく猛者のパーティーに混じりダンジョンを周回していた。
吾郎の的確なサポートと時折見せる高火力攻撃は巷では噂になっていた。
「ビギナーのはずだけど、結構知識もあるみたいだね」
「これは2つ目のデータだ。訳あって1つ目は消した」
「そうか」
ふむ、と金髪で銀色の甲冑を身に纏った男は考える。
「何か用があるんだろ?手短に頼む」
「そうだな……このパーティーのリーダーは?」
「後ろのおっさんだ」
吾郎がそう言うと後ろで休憩していたスキンヘッドの男が立ち上がった。
「おっさんじゃねぇ、お兄さんだゴローてめぇ。で、なんだ?優男」
「この回だけ僕をパーティーに入れてくれないか?」
「それは構わねぇが、後ろに居るのはお前のパーティーじゃないのか?」
「この回だけだから、待っててもらうよ」
金髪の男のパーティーメンバーも納得しているようで、うんうんと頷いている。
「よろしく。ゴロー君」
「ゴローでいい」
ゴローはダンジョンに潜る準備を始めた。
「ゴロー、君は破竹の勢いで力をつけているようだけど何か目的があるのかい?」
金髪の男はニコッと笑顔を浮かべ語りかける。吾郎は手を止め、その男をジッと見てふっと笑った。
「詮索はよせよ。品定めしてんだろ?【ナイツ・オブ・ラウンド】通称【円卓】のギルドマスター、レオル」
「なんだ、分かっていたのかい?」
「あんたは有名人だからな」
「それなら、話が早い。この回で君の力を見させてもらう。僕が納得出来たら君を我がギルドにスカウトしたい」
「はっ、傲慢だな。さすがランキング1位のギルドだ。逆に俺がお前の誘いを断るなんて考えてすらいないんだな」
吾郎のその言葉にレオルはニヤリと笑う。
「君は断らないさ。効率的に強さを求める君なら……ね」
「NO.1ギルドに入れば、効率も上がるってか。正論だな」
「いくぞ!お前ら!」
リーダーの掛け声を聞き、パーティーはダンジョンに足を踏み入れる。
そして、あっという間にダンジョンを踏破した。
「ゴローのやつ。いつになく強かったな……」
「ああ、サポートしながら前衛を完璧以上にこなしていた」
「あの優男との連携も初めてとは思えねぇほど完璧だった」
吾郎はダンジョンの報酬を受け取り、レオルに向き直った。
「幹部の席、1つ空けとけよ」
「ふっ……それは君次第だ」
2人は固く握手を交わす。
(ハイセ、スミレ、俺はまだまだ強くなるぞ)
吾郎は固い決意を胸に、新たな冒険を始めるのであった。
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