第15話 師弟会合…?
【デュエル・コロッセオ 大会説明】
デュエル・コロッセオではまず1次予選が行われる。これではプレイヤーが任意で決闘を申し込み互いの同意の元、決闘が行われる。デュエル・コロッセオの1次予選で決闘を行える回数は10戦。その戦績で上位者を決め2次予選へ進出する。
2次予選ではランダムで対戦相手を決められ、決闘を行う。ここでは戦績ではなく敗北=失格となり、最終的に16名の勝者を選出し、本戦に出場が可能となる。
本戦では16名によるトーナメント方式で優勝者を決める。
大会ルールとして、使用する武器は自由。サブウェポンも使用可。
敵、または自分のHPが0になった時点で決着。一撃必殺もあり。決闘ではHPが0になってもデスペナルティを受けることなくその場で蘇生する。
そして、デュエル・コロッセオでは【パッシブスキル、アクティブスキルの使用は例外なく禁止】だ。
以上が【デュエル・コロッセオ】における主な説明だ。
◇◇◇
【プレイヤー:ハルから決闘の申し込みが来ました】
「ん?ハル…?」
大量に挑戦状が突きつけられる中、その挑戦状だけは目を引いた。
ハル……俺がWSOに来る前のオンラインゲームで知り合ったいわゆるネッ友だ。俺の事を師匠と呼び、いつも俺の後ろを着いてきたオンラインゲームの中の"弟"みたいな存在だった。
同じ名前だが……。それに使用武器も銃、あいつ確かガンナーだったよな。たまたまか?面白いゲームを見つけてそれにハマっているはずだが。
「会ってみれば分かるか」
俺はハルからの挑戦状を受けた。
「私はこの短剣の人にしよー」
スミレはハルと同タイミングで来た短剣の男にしたようだ。
「ちょ、ちょっと!そんな適当に決めて!慎重にって言ったじゃん!」
アリシアはそんな事を言っているが正直俺達からしたら誰が相手であろうとあまり関係ない。
「大丈夫だ。こと対人戦においてはモンスターと戦うより得意だ」
「そうね」
「え……?」
「いや、気にするな」
【決闘を行います。開けた場所に出てください】
表に出れば決闘が始まるのか。どうやら挑戦状を出した方が相手のいる位置に強制でワープするらしい。ギルドによってはギルドハウスに決闘ルームを設けているとこもあるとか。
【決闘を開始します】
表に出ると、俺を囲むように広い結界が張られた。これが決闘場になるのか。
そして、俺の目の前に挑戦者が転送される。
「お?決闘が始まるぞ!」
「ちょっと見ていこうぜ!」
ちょっとギャラリーが多いな。始まりの街だからビギナーがわらわらと群がってくる。まぁ、始めたばかりのプレイヤーからしたら良いデモンストレーションになるのか。
「……」
「お前がハルか」
転送されてきたプレイヤーは黒髪のショートカットの女性、黒いレザーベストを身につけ、茶色のマントを羽織っている。腰には二丁のリボルバー。二丁拳銃か。
そして、スミレとは対象的な控えめの"胸"。
〔バンッ!!〕
「うわっ!?まだ始まってないぞ!?」
「なんか無性にイラッときて」
こいつ、ヤバいやつだ。それに今の早撃ち……中々できるぞ。
だが、女性か。このゲームではガチなプレイヤー程、現実に近い体型にする。特に性別が違えば体の作りが違うから尚更ガチのプレイヤーは性別を変えない。
ハルは前のゲームでは男だった。前のゲームでネナベしてない限りは、こいつがあのハルである可能性は低い。
「お、おいあの挑戦者『ドクロ狩りのハル』じゃないか……?」
「そうだ!ハルって名前で黒髪でリボルバーの二丁拳銃!間違いない!」
「すげぇ!PvPの専門家だ!」
こいつ有名人なのか。相手が有名人だと、俺に向けられる目は哀れなものになる。もうこういうの慣れた。
「あいつ運ないな。よりによってPVP専門と戦うなんて」
「それに、ほら、日本刀だぞ?」
「夢見がちなガキが頑張ってんだ、応援してやれよ」
クスクスと笑う声も聞こえれば、落胆する人の声も聞こえる。まぁ、今に見てろ。
俺とハルの前でカウントダウンの文字が浮かぶ。
【10 9 8 7 6】
お手並み拝見といこうか。
【5 4 3 2 1…】
【決闘開始】
ハルは腰から二丁のリボルバーを抜き取り、物凄い速さで撃ってきた。
その速攻は予測できていた為、容易に躱す。
「おお、速いなぁ」
「なんで銃弾避けれるの……」
そりゃスキルは使えないが、強化されたステータスがあるからな。
スキルが使えないとなると、ステータスをある程度強化したベテランプレイヤー相手には不利な状況だが……どうにかなるだろう。何よりこのイベントで大事なのはプレイヤースキルだ。
VS銃の場合、普通はボディアーマーや防弾チョッキみたいな防具を身につけるのが常識らしい。確かに、決闘において銃は強力だ。心臓撃ち抜かれれば終わりだし。その点日本刀は相手に近付かないといけないから不利と言えば不利か。
〔バンッバンッバンッバンッ〕
「よっと」
間髪入れずにハルは撃ってくる。容易には近付けないが…。
きた、リロードだ。
一気に距離を詰める。しかし、ハルの顔がニヤリと笑った。
ハルは腰にある短剣を抜いた。
「やべっ」
短剣!?銃じゃ……そうか、サブウェポン。
ハルは捉えたと言わんばかりに俺の首目掛けて短剣を振り抜いた。だが、そんな簡単に殺られるつもりはない。
〔キンッ!!〕
「……は?」
ハルは何が起こったのか分からず動揺する。確実に敵の首を切り落としたはずだと。しかし、自分の眼前には倒れるはずの敵が勢いよく自分に刀を振り下ろしてる光景が広がっていた。
「くっ……」
ハルは身体に深い切り傷を負う。ダメージも相当だ。
「一撃とはいかねぇか、だが……!!」
俺は再びハルに肉薄する。ハルも接近戦はマズいと察し大きく後退し、距離を取る。そして、俺に向けてリロードを終えたリボルバーで何発も銃弾を放った。
〔バンッバンッバンッバンッバンッ〕
〔キンッキンッキンッキンッキンッ〕
「なにそれ……そんなこと!!」
「できるんだよ。俺ならな」
そう。俺は迫る銃弾を全て刀で弾き落としていたのだ。第六感による予測に加え、AGIを多めに振ったステータス、それによりこの超プレーを実現させた。
「お前もなかなか強かったと思うぞ?」
「鷹見流『鳴神一文字』」
「……」
ハルは何故かニコッと笑い、俺の刀を受け入れた。ハルのHPは0になり決闘は決着した。
【勝者:ハイセ】
「うぉぉお!!!なんだ今の!!銃弾を弾いてたぞ!!まぐれなのか!?」
「マグレで全弾落とせるかよ!!やべぇなあいつ!!」
ギャラリーは大盛り上がり。日本刀だと笑ってたやつはどこへ行ったのやら。
「ハイセなら当然よ」
「ほ、本当にハイセって凄かったんだね……」
スミレはツンケンとしているが顔は嬉しそうだ。アリシアは……うん、引いてるな。俺の剣術を見るのはこれが初めてだからだ。
「ほら、大丈夫か?」
その場で腰を抜かしたように座るハルに手を差し伸べた。ハルは黙って俺の手を取り立ち上がる。
「うおっ……」
「え!?ちょ、ちょっと!!」
ハルは手を取った勢いそのままに俺に抱きついてきた。その光景を見ていたスミレの表情は正にショックといった感じだ。
「師匠!!師匠ですよね!!わかりますよ!!お久しぶりです!!」
な、何だ急に。師匠?何言って……まさか……。
「【Amateras Online】以来ですね!」
やっぱり。
「ハルか?」
「そうです!覚えててもらえて嬉しい!!」
ハルは俺の首の後ろに手を回しギューッと強く抱きしめてくる。ない胸だと思っていたが、これはむにっとほんのり柔らかい……。これもこれでなかなか……。
「ちょ、ちょっと。あんた誰よ!離れなさいよぉ」
スミレが割り込んできてハルを引き剥がそうとする。
「あなたこそ誰?僕と師匠の感動の再会を邪魔しないでよ」
「私はハイセのパーティーメンバーよ!」
「なーんだ。"ただの"パーティーメンバーじゃん。眉間に風穴空けられたくなかったらどっか行ってよ」
「上等よ……!!」
スミレとハルの間でバチバチと火花が散る。俺を挟んでやめて欲しいものだ。
「落ち着けよ、2人とも」
俺の一言で2人が黙る。
「スミレ、決闘の時間だろ?ちゃんと見てやるから行ってこい」
「わ、わかった……」
「べー」
開けた場所に向かうスミレをハルは舌を出して見送った。
「てか、ハルお前女なのか?それともネカマ?」
「女ですよ!あのゲームは男性アバターの装備がかっこよかったので、フルダイブとなると元の体型に近い方が動きやすいですからね!」
「そうか。よく俺だってわかったな」
「そりゃそうですよ!ハイセって名前だし、日本刀だし、仕舞いには初めて会った時と同じこと言ってるんですから!」
初めて会った時と同じ事?俺なんて言ってたっけ。
「『お前もなかなか強かったと思うぞ?』って!僕その一言で心ポッキリ折られたんですから。始めて数日のビギナーに装備の性能関係なくキャラコンだけで倒されるなんて……」
「あー、ははは……」
そいやそんな事言ったっけな。
そんな話をしていると、スミレの周囲に結界が張られた。
「あの人弓なんですね。よく今回のイベント出場しようなんて考えましたね。1v1のPvPなのに」
まぁ、スミレの実力を知らない人からしたら考えられないことか。
そして、スミレの前に短剣使いの男が転送される。
「あの短剣使いは僕のパーティーメンバーなんですよ」
「強いのか?」
「まぁ、そこそこですね。僕達はPVPを専門としてるんですけど、エイジ…あの短剣使いはそれなりに場数を踏んでます。正直、強いって程じゃないですけど、弓相手ならエイジの勝ちじゃないですかね」
なんか『ドクロ狩りのハル』とか呼ばれてたっけ。PVP専門ねぇ。
ハルは俺の右腕にギューッとしがみついてくる。
「ハル、近い」
「いいじゃないですかぁー、久しぶりなんですし」
その様子をスミレは結界内から見ている。ぬぐぐといった表情だな。決闘に集中してもらいたい所だ。
「ハル、あの男の勝ちだって言ったか?」
俺はハルの腕を振りほどきながら言った。
「はい。不遇武器ですし」
「そうか。言っておくが……」
結界内では戦闘が始まる。
「スミレはお前より強いぞ」
「え?」
決闘は一瞬で決着した。
◇
【決闘を開始します】
「姉ちゃん、悪いこた言わねぇからこのイベントは辞退しな?弓じゃ厳しいぜ?」
短剣使いの男エイジはスミレにそう言った。
「あの女……!ハイセにあんなベタベタ……!離れなさいよ!」
エイジの言葉はスミレの耳には入っていない。
「お、おい……聞いてるのか?」
「うるさいわね!!」
「え、あ、ごめんなさい」
スミレの怒気にエイジはたじたじだ。
「ま、まぁいい。後で後悔するなよ」
「腕なんか組んじゃって……!ハイセもデレデレしないでよ……!!」
「おい……」
【5 4 3 2 1……】
【決闘開始】
「泣いても知らねぇぞ!!」
エイジは物凄い勢いでスミレに肉薄しようとする。
スミレの頭にはまた吾郎から言われた言葉が過ぎる。
『悪態ばっかついてないで素直にならないと誰かに取られるぞ』
スミレの持つ弓に力が入りブルブルと震える。
「分かってるわよ!!!!」
一瞬で矢を番え、エイジに放つ。
「へっ!こんくらい……へ?」
エイジは初弾を容易に躱す。しかし、躱したエイジの目の前にあるのは2本目の矢だった。
〔ダンッダンッダン!!〕
「ぐぇぇえ…」
額、右肩、左肩に綺麗に矢が突き刺さった。
「鶴矢流『光風参閃』」
スミレは初弾を囮として、残りの2本を時間差で放ったのだ。
普通ならまともに敵を狙えない。相手がプレイヤーなら尚更難しくなる。しかし、スミレはそれを当然のようにやってのけた。
エイジのHPは0になり、勝負は決着した。
【勝者:スミレ】
「な?」
「す、すごい……!!」
ハルは目をキラキラさせながらスミレを見ている。
「さすがだな、スミレ」
「当然よ」
俺とスミレはハイタッチをした。まぁ、当然の結果か。
「で、この子どうしたの?」
さっきまで睨んでいたのに今ではスミレを尊敬の眼差しで見ている。
「スミレの弓術を見て感銘を受けたんだってよ」
「スミレさん!!!」
ハルはずいっとスミレに近付き手を握った。
「スミレさんも強いんですね!あの感じ……師匠と似た何かを感じました!」
俺と似た何か……か。意外とハルって勘が鋭いんだな。
「最初は師匠の力に群がる、虎の威を借る狐だと思ってました!!」
「失礼ね」
「でも今は尊敬してます!!」
スミレも悪い気はしないのだろう、顔がニヤニヤしている。慕われるってのは素直に嬉しいことだ。
「な、ならハイセにあまりベタベタしないでよ……」
スミレがそう言うとハルは俺の右横に来て俺の右腕に抱きついた。
「それとこれとは話が別です!」
ハルはイタズラな笑みを浮かべてスミレに言った。
「なっ!」
スミレはまたハルを引き剥がそうとしている。
おいおい……周りの目ってのが。
「おい見ろよあいつ」
「くそっ……モテ男アピールか?」
周りの……目。
「いやぁ、モテる男は大変だねぇ」
アリシアがニヤニヤしながら言ってきた。他人事だからって……助けてくれよ……。
「師匠ぉ」
「離れなさいよ!」
ダメだこりゃ。
俺は持ち前のスピードを活かしハルの腕を振りほどき、その場を全力ダッシュで逃げた。
「「あっ!!」」
俺にどうしろってんだ……。
2人に追われながら、この先大丈夫かと不安になる俺だった。
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