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第13話 祝勝会

 

 ◇SA【麓の街:ロザルド】


「んで?オーディンのギルドハウスってどこにあるんだ?」


 俺達はゼナルド山脈を下山し、【麓の街:ロザルド】を歩いている。


「ここから西に進んだ所にある、【中央都市:シアレスト】って街よ。都市って名前が付くだけあってすごく大きい街なの」


「ビギナーからベテランまで多くのプレイヤーが集まるWSO最大の街だ」


 WSO最大の街か、中央都市ってだけはあるな。


「でけぇし何でもある街だからそこの物件買ってギルドの拠点を構えるやつも多い」


「オーディンもその一つか」


「いや、俺達のは仮拠点だ」


「仮?」


「ああ、金がある程度貯まれば好きな街に行って本拠点を構える」


 オーディンって結構規模のでかいギルドなんだなぁ。


「シアレストは良い街ではあるがなんせ人が多いし好物件も埋まっちまってる。俺達には肌が合わねぇから良い感じの街探してるって訳だ」


「なるほどな」


 話を聞くに、大きいギルドほど別の街に移っているらしい。故に、シアレストに本拠点を置いているギルドのほとんどは弱小らしい。


「有名なとこでいうと【漆黒の翼】は西の辺境【ルドロス】に拠点を構えてるな」


 漆黒の翼って有名なの?確かにハロルドは強いプレイヤーだったな。ひたすら新人勧誘してるだけのギルドじゃなかったってことか。


「お前らはワープできないんだったな。まぁ、西にひたすら進んでったらでけぇ街が出てくる。街門前で待っといてやるから早く来いよ」


「そ、それって……歩いて行ける距離……?」


 スミレが恐る恐る聞いた。


「なわけないだろ。飛竜じゃねぇと今日中には着かないぞ」


「うぅ……」


 スミレは涙目になり俺の腕に震えながらしがみついた。


「ど、どうしたんだ急に……」


「ははは……気にするな。なるべく早く向かうから先に行っててくれ」


「お、おう。じゃ、また後でな」


「おう」


 アデル達はワープポイントで一足先に向かった。


「スミレー」


「む、無理……。やだ……」


 重症だな。スミレは俺の腕にしがみついて石のように動こうとしない。飛竜で移動する度にこれじゃ先が思いやられる。


「わかった。じゃあスミレは用事があるから先に帰ったって言っとくな」


「……」


「俺はサラ達と仲良く祝勝会しとくから」


「……」


 俺だけ楽しむって言葉が効いたのかスミレは俯き黙りこくってしまった。


「……なんでそんな意地悪いうの」


「意地悪じゃないだろ。スミレが我慢すれば良い話だ」


「………わかったわよ……早く行きましょ」


 なんかスミレのこの様子を見ると申し訳なくなってくるな。すまないが我慢してくれ。俺はゲームの中で何日も歩き続けるなんてごめんだ。


 ぶるぶる震えるスミレを後ろに乗せ、俺達は【中央都市:シアレスト】に向かった。


 ◇◇◇


 ◇SA【中央都市:シアレスト】


「もう!!アデルさんはいつも急なんですよ!!計画性ってものはないのですか!?」


 ここはギルド【オーディン】の仮拠点。ギルドマスターであるアデルは副ギルドマスターのカスミに怒られている。


「いいじゃねぇか、ダチができたんだ、しかも強い」


「そんな話はしてません!!サラさんの弓を作るのも急に決めるし……」


「カスミがなんとかしてくれるんだからいいじゃねぇか」


「こっちの身にもなってください!!いきなり最上級の宴会料理を用意しろだなんて……余ほど気に入ったのですね」


 カスミがそう言うとアデルは嬉しそうに笑った。


「ああ!!“ハイセ”と“スミレ”って言うんだ!お前も仲良くなれると思うぜ」


 2人の名前を聞きカスミの動きが止まった。


「えっと、使用武器を聞いても?」


「あ?ハイセは日本刀、スミレは弓だ。珍しいだろ?それに不遇武器なのに馬鹿みたいに強いんだよ」


(日本刀に弓……?まさか、そんな偶然が……?)


 カスミは顎に手を当て深く考え始めた。


「ハイセは日本刀だが、実践に近い剣術を学んでいたって言ってたな。スミレも似たようなもんだって。詳しくは知らないが」


 ハイセとスミレ、日本刀と弓、馬鹿みたいに強い、実践に近い剣術。それらの情報を整理し、カスミはその人達だと確信した。


「料理スキルがある人達は急いで準備してください!粗悪なものをお出ししたら許しませんよ!!」


「急にどうしたんだ?カスミのやつ」


「「さぁ……」」


 カスミの変わり様にアデル達は困惑していた。


(こんな、こんな偶然があってもいいのでしょうか…!!間違いなく彼らでしょう!!ゲームでもお会いできるなんて!それにゲームだとお2人の武術を見れるかも……?キァー!!)


 カスミは有頂天になりながら2人を迎える準備を進めるのであった。


 ◇◇◇


「でけぇ街だなぁ……」


 バカでかい街壁に街門、これを一周するのにどのくらいかかるだろうなぁ。


「大丈夫か?」


「わかってるくせに……」


 スミレは膝から崩れ落ち顔を青くしている。


「おーい!ハイセ!」


「アデル」


「スミレのやつどうしたんだ?」


「んー、まぁ、色々あるんだよ」


「そうか?準備は出来てるぜ!案内してやるよ!」


「おう、頼む」


 アデルの案内の元、シアレストに足を踏み入れた。


 ◇SA【中央都市:シアレスト】


 シアレスト。WSO最大の街で、街の中央には大きな城がそびえ立っている。シアレスト城と言うらしくWSOの世界のストーリーイベントに関わってくるらしい。

 俺はストーリーイベントをやってないからあんまわからん。でも、ストーリーイベントでしか手に入らないアイテムもあるらしいから時間がある時にやりたいな。


「ここが【オーディン】の仮拠点だ!!」


「これが……仮?」


 城下の一等地に構えられた大きな建物。冒険者協会と見間違うこの建物が仮だって?

 俺とスミレはオーディンのギルドハウスに入る。


「「おぉ……」」


 煌びやかな内装、ロビーには机や椅子が並べられておりギルドメンバーが寛いでいる。正面の階段を上がるとロビーを囲むようにたくさんの部屋が用意されている。


「他の部屋は会議室だったり、幹部の部屋だったり、メンバーの娯楽の部屋だったりする」


「へ、へぇ……なぁ、オーディンの規模ってどのくらいなんだ?」


 これだけの装飾に大きさ、用意されている家具の数も多い。その上このギルドハウス、オーディンって結構……。


「どのくらいの規模?そうだなぁ……」


「所属プレイヤー数は52人、去年のギルドランキングでは4位の成績を収めています」


 そう話すのは銀髪でボブヘアーの女性だ。なぜか顔がニヨニヨしている。


「私は、ギルド【オーディン】の副ギルドマスターでカスミと申します」


「ああ、よろしく。ハイセだ。後ろでダウンしてるのがスミレ」


「はい!」


 なんかこの人どっかで見たことあるか?うーん…気のせいか。


「ギルドランキングってなんだ?」


「ギルドランキングというのは1年の間で行われる"ギルドコンペティティブ"と呼ばれるギルド規模のイベントで収めた成績を集計したランキングです。ちなみに、WSOにおける活動中のギルドは500を超えます」


「自分で言うのもなんだが、結構凄いぞ。ギルドイベントもめちゃくちゃ頑張ったしな」


 4位って。めちゃくちゃ強いギルドじゃないか。


「なるほど、サブマスターのカスミが頑張ったんだな」


「ええ……それはもう……。細かいパーティー編成や作戦立案まで……」


 カスミが居てこそのオーディンだってことがわかるな。

 アデルはリーダーとしての素質や腕っ節はあるが、結局の所脳筋であることに変わりは無いからな。


「なんだよ!!俺も頑張ったよ!!」


「アデル、ギルドの運営ってのは武力だけじゃダメなんだぞ」


「ハイセさんよくわかってますね!」


「なんで始めたばっかのビギナーでしかもギルドに入ったことないやつに説教されんだよ……」


 アデルをいじっているといい匂いがギルドハウスに充満する。


「さぁ!食べようぜ!」


「お?なんだなんだ?騒がしいと思ったら」

「すげぇ料理!なんかの祝いか?」


 匂いに釣られてギルドハウスにいたメンバー達が集まってきた。


「祝勝会だ!氷の巨人フロストギガンテスの討伐!魔氷の入手!そして、俺の新しいダチに乾杯だ!全員飲んでけ食ってけ!!」


「氷の巨人!?特殊個体ですか!?」


 氷の巨人と聞いてカスミが驚いている。やっぱ特殊個体って凄いのか。


「ああ、運が良かった」


「運も良いですけど、まさか5人で倒したのですか?」


「それ以外ないだろ」


「えぇ……。普通は最低でも10人以上のレイドで倒すモンスターですよ?」


 へー、そうなんだ。てっきり多少強くなるだけで推奨は通常と変わらないと思ってた。


「なんせこっちにはハイセとスミレが居たからな!氷の巨人なんか余裕だ!」


「私達もいるんですけど!」

「そうですよアデルさん。私達も頑張りましたから」


 確かに2人のサポートはでかかったな。


「この料理美味いな」


「ハイセが好きそうな味ね。今度作ってあげようか?」


「よろしく頼む」


 そんな他愛のない会話をしながら祝勝会を楽しんだ。アデルのハイテンションにタジタジしながらもやっぱりみんなで騒ぐってのは楽しいな。スミレも立ち直ったみたいだ。


 ◇


「なぁ、ハイセ、少し話があるんだ」


 祝勝会も終わりが近づき、みんなログアウトを始めた頃、アデルがいつになく真剣な顔で話しかけてきた。


「どうした?」


 ロビーにはアデル、カスミ、サラ、エイハムが残っていた。


「ハイセとスミレはどこかギルドに所属する予定はあるか?」


「いや、ないが」

「私はハイセの決めたことについて行くから」


 スミレも自分で考えればいいのに、俺に任せてばっかだな。


「だったら、2人共オーディンに入らないか?」


 そういう事か。


「お前らの実力は俺達が知っている。不遇武器だろうがお前らの強さは本物だ」


 認めてくれているのは嬉しいな。


「もちろんタダでとは言わない。これはスカウトだ。相応の立場を用意する」


「相応の立場?」


「ああ、空席の幹部の座が2つある。それをお前らに与えたい」


 幹部の座か……。アデルが言うにはオーディンには5人の幹部の席があるらしい。その内の3つは埋まっている。アデルやカスミに次ぐ実力者らしい。その席の2つを俺達に……高待遇だな。


「どうだ?」


「私はハイセ達ともっと冒険したいな」

「私もあなた達の技術には惚れ惚れしています」」

「アデルさんがこれ程認める方でしたらは私が言うことはありません」


 認めてくれてるのは嬉しい。サラ達との冒険も楽しかった。だが……。


「こんなついこの間始めたばっかのビギナーがいきなり幹部じゃまずいだろ」


 幹部になるために頑張ってるプレイヤーだっいるだろうに。


「それは問題ない。ギルマスの俺、副ギルマスのカスミ、副ギルマス補佐のエイハム、大隊長のサラが推薦してんだ。文句言うやつなんて出てこねぇよ」


 ん?副ギルマス補佐に大隊長……?この2人ってそんなに上の立場だったのか……。

 しかし、そうだったとしても答えは……。


「すまない。俺は今はギルドに入る気分じゃないんだ」


「幹部だとしても?」


「ああ、立場じゃないんだ。俺はまだこの世界に来たばっかりだからな。もっと色んなものを見て、感じて、めいいっぱい楽しみたいんだ。俺のこの剣術は……いや、なんでもない。とにかく今は気分じゃないんだ」


「そうか……」


 なんか暗い空気になってしまったな。


「まぁ、断られるのは薄々わかってたさ!お前のその剣術、スミレの弓術は正直俺の手に余る」


「そうか。すまないな」


「それに、ハイセ!お前は誰かの下に着くような器じゃねぇだろ?」


「よくわかってるな」


 俺が人のギルドに入らない理由をアデルは分かっているようだ。


「だが、あと2ヶ月後にギルドイベントが始まる。それまでにギルドには入ることをオススメする」


「なんでだ?」


「ギルドイベントで手に入るアイテムは貴重だ。中にはURのアイテムも存在する。それに、稀血同様『オリジン』に関する情報も手に入るかもしれない。ギルド加入は得する事の方が多い」


 なるほど。まぁ別にギルドに入りたくないって訳じゃない。ただ"今は"違うってだけだ。


「助言ありがとな。じゃ、2ヶ月後までにはギルドに入るよ」


「お前らが入るギルドは強くなるだろうなぁ」


「何言ってんだよ。"俺が創る"んだよ」


 俺の言葉にアデルは目を見開き、そして笑った。


「やっばそうだよな!!それがいい!!お前らがギルドイベントに参加すんの楽しみにしてるぜ!」


「ああ、誘ってくれてありがとな。またどっかで冒険に行こう」


「もちろんだ!ハイセやスミレの手を借りる時が来るかもしれないしな。ハイセも俺達の力が必要な時は遠慮なく言ってくれ」


「ああ、ありがとう」


 俺とアデルは固い握手を交わした。


「ねぇ、盛り上がってるとこ悪いけど、あんた達なにか忘れてない?」


 スミレがそんな事言っているが、なにか忘れていることあるか?


「サラ、これ完全に忘れてるわよ」

「サイテー」


「「あ……」」


「早く弓を作りに行こうよ!!」


 そう言えばそれが目的だったな。早いとこ作りに行くか。


 俺達はアリシアの元に向かった。


 ◇◇◇


 ◇SA【始まりの街:アルガン】


「お前らにマスタースミスの知り合いがいるなんてな」


「まぁな。たまたま見つけた店の店主がマスタースミスだったんだ。SR弓の情報もそいつから聞いた」


「オーディンにはマスタースミスが居ないからなぁ」


「勧誘するのか?」


「いや、鍛冶師でもうすぐマスタースミスになるやつがいるから、勧誘はしない」


 アリシアもどこかギルドに入ってるのかな?まぁ、どうでもいいか。


【アリシア武具店】


「え!?もう集まったの!?」


「ああ、早かったか?」


「早いよ!!まだ2日じゃん!!普通なら1週間以上かかるんだけど……で、そっちの人達は?」


「俺達と同じだ。SR弓を作って欲しい」


「もちろんいいよ!素材は集まってる?」


 スミレとサラは必要な素材をアリシアに渡した。


「サラちゃんは…『火蜥蜴の火袋』『トレントの硬枝』『ギルスパイダーの糸』そして『魔氷』

 スミレは…『若鷹の剛翼』『トレントの硬枝』『ギルスパイダーの糸』んで『魔氷』!いいね!!」


「ん?少し素材が違うんだな」


「うん!魔氷の説明にも書いてるけど、使う素材によって完成する弓が変わるの!サラちゃんは火派生、スミレは風派生だね!」


「へー、すげぇな」


 確かに使用する素材で変わるって書いてたな。


「じゃ、私は鍛冶に集中するから1時間後に取りに来てね!」


 そう言うとアリシアは嬉しそうに素材を抱えて裏の鍛冶場に向かっていった。アリシアは鍛治が余程好きなんだろうな。活き活きしてる。


「楽しみね!」


「うん!」


 スミレとサラも嬉しそうだ。頑張った甲斐があるってもんだ。

 1時間後、満足気なアリシアが出てきた。


「ほら!できたよ!私の自信作達!」


 机の上に2つの弓が置かれた。


「まずは、これ!サラちゃんの弓!」


【火蜥蜴の剛弓 SR スキル:チャージショット R 豪炎矢 SR 炎帝の剛射 SR 空きスロット】


「おお、強そうなスキルばっかだ。ん?空きスロットってなんだ?」


「空きスロットはね、弓のスキルであればなんでもアクティブスキルを付けられるスロットの事だよ!付けるのには秘伝の書っていう特定のスキルが記されたアイテムが必要だけど」


「俺のには空きスロットないけど」


「それは……まぁ、ハイセの運が悪かったってことかな……」


 まじかよ…。いいもん。加州清光お気に入りだし。スキルスロットなくたって。いいもん…。


「これが私の弓…」


 サラは嬉しそうに弓を抱きしめた。大隊長ってんだからもっと強い弓持ってそうなもんだけどな。


「サラは武器に拘りが無くてな。SRの弓を使ってたんだが……、なんせ性能が良くなかったから、それに見兼ねてって感じだ」


 アデルが俺に耳打ちする。

 拘りがない……か。おそらくサラは弓を引くのが何よりも楽しいのだろう。


「ハイセ!スミレ!手伝ってくれてありがとうね!また一緒に冒険しよ!」


「ああ、良かったな。もちろんだ」

「ええ!もちろんよ!」


 サラの頭を撫でると照れくさそうにそして、嬉しそうに微笑んだ。


「じゃ、スミレの弓ね!」


【大鷹和弓 SR スキル:疾風 R 風氷の矢 SR 大鷹の暴嵐 SR 空きスロット 空きスロット】


「え!?空きスロットが2つもある!!」


「そう!!そうなの!!凄くない!?大当たりだよ!!」


 えぇ……。なんか虚しくなってきた。もしかして俺の刀って弱い?そんなことないよな。


「ふふっ」


 スミレも嬉しそうに弓を抱きしめる。


「よかったな」


「うん、大事にする」


 スミレの嬉しそうな顔を見ると、頑張った甲斐があったってもんだ。


 無事スミレの武器も手に入った。だが、俺達の冒険はまだまだこれからだ。



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