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第12話 神槍:グングニル

 

 ◆BA【ゼナルド山脈:頂上】


「これで何回目だ……」


「よせ、数えるだけ無駄だ」


 俺達は『魔氷』獲得を目指し、ひたすらフロストギガンテスを狩っている。


「誰かでたかー」


「残念ながら」


 どうやら全滅みたいだ。モンスタードロップに天井システムは採用されてないから正真正銘の1.5%を引かないとダメなのだ。

 こればっかりは運だな。次のリポップを待とう。


「ねぇねぇ、ハイセってなんでそんなに日本刀の扱い上手いの?」


 サラが俺の隣に座り、そんな事を聞いてくる。


「あー、まぁ、多少心得があるからな」


「なにしてたの?」


「えー……っとー……」


 こういう時どう誤魔化せばいいかわからん。


「サーラー、オンラインゲームでリアルの事を聞くのは非常識だぞー」


「えー!リーダーも気になってたじゃん!」


「気になってはいるが、聞くもんじゃないって言ってんの」


「痛っ」


 サラはアデルにチョップされた。確かにあまり詮索するのは良くないことだ。


「まぁ、居合とかで真剣を握る機会があったから……かな?」


「なるほどね!でも、それだけの経験でここまで強いなんてハイセは元の能力が凄いんだ」


「そういうことになるか」


 他愛のない話をしているとフロストギガンテスがリポップしたようだ。しかし、どうも様子がおかしい……。


「なんか色違くない?」


「確かに、なんか水色っぽいっていうか、透明感が増したっていうか」


「良い化粧水でも使ってるんじゃないか?」


「「なるほど」」


 俺のボケにサラとスミレが納得した。


「バカ言うな!!アレは特殊個体だ!!やった!!やっと地獄から抜け出せる!!」


「特殊個体?」


「極低確率で出現するレア個体のことだ!ドロップ素材はSR確定!つまり、これで終わりだ!」


 特殊個体なんて居るのか。何にせよ長い戦いが終わりそうだ。


「ただ、通常の個体よりめちゃくちゃ強いから気を抜くなよ」


「おう」


 俺達はSBAに足を踏み入れた。


 ◆SBA【特殊個体:氷の巨人 フロストギガンテス】


「ハイセ、スキルの出し惜しみはするなよ」


「わかった」


 MP消費ガン無視でひたすら攻撃だな。


 フロストギガンテスの見た目はまるで氷の様な透明感だ。氷の斧を両手に持ち身体中に氷柱を生やしている。


 〔グオオオオオオオオオ!!!!!〕


 雄叫びと共にフロストギガンテスの周囲には氷柱が浮かび始めた。

 これは、大変だな。


「さて」


『神速』

『ニノ太刀』

『陽炎の刃』


 スキルのオンパレードだ。出し惜しみせず行くぞ。


「俺も!!」


『必中』

『絶撃』

『嵐絶の矛』


【スキル:絶撃 SR 説明:通常攻撃1.25倍、会心が発動した場合ダウン値を多く蓄積する。効果時間30秒】


【スキル:嵐絶の矛 UR 説明:自身の武器に風属性を付与、30%の確率で追加攻撃、STR.AGI.DEF+5。効果時間30秒】


 アデルもスキルを惜しみなく使う。流石オリジン武器だ。スキルの性能が素晴らしい。


「いくよ!!」


 〔ドガァァアン!!〕


 サラの矢がフロストギガンテスに直撃した。開戦の合図だ。


「っしゃ!!」

「おらっ!!」


 俺とアデルはフロストギガンテスに肉薄し、攻撃を繰り出す。


「硬ってぇ」


「火は有効みたいだ」


 アデルの槍は氷を少し削る程度だったが、俺の火を纏った刀はじわじわとフロストギガンテスの表面に張り付く氷を溶かしていく。


「表面の氷を削るのはハイセに任すぞ」


「おう、アデルは氷のない関節部分狙ってくれ」


 表面の氷のせいで中々攻撃が通らない。急いで溶かしきらないと。

 すると、後方から火矢が飛んでくる。


「手伝うわ!!」


 いつの間に火矢なんて買ってたんだ?スミレの火矢は俺が溶かしきれていない氷の部分を正確に撃ち抜く。


 〔グガァァア!!〕


 フロストギガンテスは両手に持つ斧を大きく振り上げ、地面に叩きつけた。


「なんつー威力だよ……!!」


 振り下ろされた斧の爆風に晒され後退する。爆風に混ざっていた氷柱が地味にダメージを与えてくる。鬱陶しい……。

 そして、叩きつけられた斧の周囲には氷の棘が生成される。


「なっ……」

「やべっ。…」


 しかし、通常と違いそれは三重の多段攻撃に変化していた。

 俺は【転身】で2撃目を回避出来たが、3撃目をまともに食らってしまう。アデルは2撃目も3撃目もまともに食らってしまったみたいだ。


「さすがに強ぇな……」


「初見であれは躱せないだろ。気を引き締めよう」


 正に初見殺しだ。

 フロストギガンテスの周囲に浮かぶ氷柱が俺達に向けて放たれる。


「チッ…」


 襲ってくる氷柱を片っ端から躱していく。しかし、同時に氷の斧も振りかざしてくる。圧倒的な手数の多さだ。


「あー!!!鬱陶しいなぁ!!」


 俺は迫る氷柱と氷の斧を紙一重で全て躱していく。背後から迫る氷柱も頭上から振り下ろされる氷の斧も全て。


「……前から思ってたんだが、お前の背中に目でも着いてんのか?」


 アデルはそんなことを言っているが、俺の動きを見た奴はみんな同じことを言う。


「まぁ、似たようなもんだ」


「化け物かよ」


「失礼だな。ちゃんとした人間だ」


 攻撃後の僅かな隙をつき、俺とアデルはフロストギガンテスにダメージを与える。


「サラ!ルーティーンのクールタイムは!!」


「あと60秒くらい!!」


 サラの一撃は結構HPを削ってくれる。それに爆裂攻撃でダウン値を多く稼げる。アデルの【絶撃】と相まって確実にダウンさせられる。


「あと60秒、なるべくダメージ与えるか」


 フロストギガンテスに肉薄し抜刀する。


「鷹見流『天つ風』」


 天へと登る燃える斬撃はフロストギガンテスの左腕に炸裂する。表面を覆っていた氷もだいぶ溶けていたため相当なダメージが入ったようだ。


「やるな!」


 アデルは腰を落とし槍を構える。


『覇貫』


 勢いよく繰り出された突きは大きな衝撃を発生させ、フロストギガンテスをふらつかせる。


「へー、あれスキルじゃねぇな」


 アデルも"多少"武術の心得があるって言ってたよな。槍術かじってんのか。

 フロストギガンテスのHPもそこそこ削れたな。


「私も役に立たないとね!」


 スミレは数発フロストギガンテスに向けて矢を放つ。


「ん……?」


 なにか違和感を覚えたのか全く同じ場所に再度放つ。そして、確信を得たように叫んだ。


「弱点が変わってるわ!額の宝石よ!!」


「ナイスだ!」


 どうやら特殊個体になった事で弱点も変わったらしい。確かに、もう口を開けて氷柱作らなくても周囲に浮いてるもんな。


「スミレ!氷柱そっち向いてるぞ!」


「えぇ……」


 無数の氷柱がスミレに向けて放たれる。斧は俺達で抑えているため、追撃は無いはずだが。


「これは、少し面倒ね」


 そう言いながら数本の矢を指に挟み、1本番えた。


「はっ!!」


 なんとスミレは迫ってくる氷柱を片っ端から矢で撃ち落としていく。


「相変わらず反則だね……」


 サラは若干引き気味になりながらスミレの様子を見ている。昨日のような劣等感に溢れた顔ではない。相手を敬う、そんな表情だ。


「ぐっ……!!」


 さすがのスミレでも全て撃ち落とすことは出来なかったみたいだ。氷柱が数本刺さってしまった。


「まだか!?」


「あと10秒!!」


 あと10秒……もう少し。


「なんだ…?」


 身体中悪寒が走る。そして、俺の視界は雲がかったように白くなっていく。


「なん…だ……これ」


「…っ!?まずい……ハイセ!!」


 アデルの声が遠くなっていく。しばらくして、俺の動きが止まった。


【状態異常:凍結 説明:冷気に長い間晒された時に起こる状態異常。10秒間の拘束、拘束中モンスターから攻撃を受けた場合被ダメージ1.25倍。拘束解除後は5秒間AGIが低下する】


 凍結!?いつの間に……。そういや、フロストギガンテスのHPが半分を切ってから妙に周りが白くなったような…。あれが冷気か……。くそっ。


「エイハム!!保温の魔法を掛けてくれ!!」


「は、はい!!」


 エイハムの魔法により、アデルはギリギリで凍結を回避した。

 そして、フロストギガンテスの氷の斧は凍結したハイセに迫っていた。


「間に合わない……!!」


 〔バキンッ!!!〕


「ぐあっ!!」


 フロストギガンテスの攻撃を受けたのか……。通常より強い攻撃だ。

 俺はそのまま勢いよく吹き飛ばされ、後方の壁に激突する。


「ぐっ……」


「ハイセ!!大丈夫!?」


「スミレはアデルの援護を徹底しろ!」


 スミレは頷き引き続き矢を放つ。

 俺のHPは……。


【HP 400/1300】


 キツいか。ポーションを飲んで前線に戻らねぇと。


「エイハム!!ハイセにヒールを!!」


 アデルが指示を出す。それを聞きエイハムは慌てて俺に駆けつけようとする。

 だが、それは悪手だ……。【ルーティーン】のクールタイムが終わったサラが射法八節を始めている。


 "お守り"が居ない…!!


「ダメだ……!!」


 強力な攻撃が来ると察したフロストギガンテスは攻撃の対象をアデルからサラへ変更した。

 フロストギガンテスの周囲に浮かぶ氷柱は1つに集中し、細長く鋭い氷柱へと変化した。氷柱というよりも、氷の槍そのものだ。


「くそ!!AGI低下が……」


 拘束解除後のデバフでスピードが出ない。あと何秒だ…


 3


 氷の槍は完全に顕現する。


 2


 サラに向けて勢いよくそれは放たれた。


 1


 しかし、サラは避ける様子もなく、何かを信じているように弓を引いた。


 0


【ルーティーン 発動】

【AGI低下 解除】


 サラの放った矢は氷の槍の横を通り過ぎ、フロストギガンテスの額に直撃した。


「サラ!!」


 サラに直撃するはずだった氷の槍はサラに当たる直前、それは真っ二つに裂けた。


「さっすが!!」


「はぁ……ギリギリだ……」


 サラの前には刀を振り下ろしたハイセが立っていた。AGI低下解除後、【神速】でサラの前まで来たのだ。


 〔ドォォン……〕


「お?」


「"ダウン"ね」


 フロストギガンテスは力なく膝を突きぐったりしている。本来ならここで畳み掛けたいが。


「今の【神速】でMP全部使っちまったよ…」


 もう陽炎の刃はおろか、ニノ太刀すら使えない。連続でずっと使っていた為MPポーションも底を尽きた。


「ははっ!!お前らはそこで見てな!!」


「1人でやるのか?」


 アデルはグングニルを肩に置き、指をさした。


「ハイセ、土産に"オリジン"見せてやるよ」


 まさか、見れるのか?槍のオリジンが。


「お前達には世話になった。今じゃ仲間ほど信用出来る」


 アデルはグングニルをフロストギガンテスに向けて構えた。


【神槍:グングニル】


 スキルが発動した。

 グングニルからは緑色のオーラが溢れ出し、アデルを包み込んだ。そして、アデルの装備が一変し、深緑色のロングコートと、ハットを身につけていた。


「これが"オリジンスキル"【神槍:グングニル】だ」


【スキル:神槍:グングニル オリジン 説明:グングニルの真の力を解放し、使用者を『神格化』させる。使用中はグングニルの属性は暴嵐へ変化する。効果時間60秒】


【神格化:全ステータス+10。グングニルの神格化の特徴として『弱点攻撃』『加速』が追加される。EXスキル『神撃の槍(グングニル)』発動可能】


 EXスキルとは、一定条件を満たした場合にのみ発動可能なスキルの事だ。『神撃の槍(グングニル)』の場合はオリジンスキル『神槍:グングニル』の発動が条件だろう。


「すげぇ……」


『加速』は『神速』の下位互換だが、スピードはもう十分に上がっているだろう。


「さぁ、終わりだ」


 アデルは空高く跳躍し、槍を振り上げる。


「死ねぇ!!!」


神撃の槍(グングニル)


 薄黒く猛々しい暴嵐を纏ったグングニルはフロストギガンテスの頭上目掛けて振り下ろされる。


 〔ドガァァァアアン!!!!〕


「うおっ」


 激しい轟音と爆風が戦場に吹き荒れる。

 爆風はやがて1つの巨大な竜巻となり、フロストギガンテスを覆い尽くし、持続ダメージで大ダメージを与え続けているようだ。

 視界が晴れ、フロストギガンテスの様子を見た。


「オリジン、すげぇな」


 肩を落としていたフロストギガンテスの後頭部から槍が突き刺さり、額まで貫通していた。弱点である額の宝石がパキンと割れる。

 フロストギガンテスのHPを全て削りきり、粒子になって消えた。


「ふぅ」


 アデルの神格化が解除され、いつもの姿に戻る。


【DEFEAT THE ENEMY】


 討伐報酬のウィンドウが表示される。


「出たわよ!!」


「俺も出たな」


 俺とサラに魔氷がドロップした。確か、パーティーで1つ確定だから1つは完全に運か。


「いやぁ…終わったぁ…」


「長かったな…」


「私達は運がいい方ですよ?なんせ特殊個体と出くわしたのですから!」


 エイハムは嬉しそうに語るが、SR確定ってだけじゃないのか?


「報酬画面をよく見てください!!」


「ん?」


 報酬欄に見たことがないものがある。


稀血(まれち)


「稀血?なんだそれ」


「稀血とは特殊個体のモンスターがドロップするアイテムです。これを9つ集めると貴重な情報と交換できるんです!」


 へー、そんな要素もあるのか。しかし、何十周もして1体出てきたやつを9体って考えると気が遠くなるな。貴重な情報ってのも曖昧だしな。


「俺のグングニルの眠るダンジョンの場所も稀血を集めて手に入れた情報だったんだ」


 オリジン武器の情報もか、そりゃすごい。だが、どんな情報を貰うかは運みたいだ。


「まぁなんにせよ!お疲れ様だ!」


「そうだな、お疲れ様!」


「「「お疲れ様!!!」」」


 周回がこんなに大変だとは思いもしなかった。


「そうだ、ハイセ。この後暇か?スミレも」


「ああ、思ったより早く終わったし」

「暇よ」


 アデルは嬉しそうにニコッと笑った。


「うちのギルドハウス来いよ!お疲れ様会しようぜ!」


「いいね!!いこいこ!!」


 ギルドハウスなんてものがあるのか。飯も食えるかな?この世界だと空腹が紛らわされる程度だが味覚はある為、味わうことができる。


「スミレはいいか?」


「いいわよ、楽しそうじゃない!」


 スミレもノリノリみたいだ。


「じゃ、お邪魔しようかな」


「よーし!決まりだ!今日は宴だ!!」


 アデルは飛び跳ねながら嬉しそうにしている。


「エイハム!!カスミに連絡しといてくれ!飯を用意するように!」


「また急に……カスミさんに怒られますよ?」


「いつもの事だ!!気にすんな!!」


 新しい名前がでてきたな。まぁ、ギルドに着けば分かることか。


 俺達は目的を達成し、ギルド【オーディン】のギルドハウスに向かうのであった。

ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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