第11話 世の中って狭いよね
何が起こった……?モンスターの攻撃?いや、違う。矢が飛んできた。スミレがミスったか?そんなはずは無いミスしたとしても俺に当てるミスなんてしないはずだ。
「……イセ…!!…か…!?」
「……!!……く…いと!!」
スミレとアデルの声だ。篭っていてなんて言ってるかわからん。
これは、"スタン"か。爆裂系の攻撃を食らったときになる状態異常だ。
「…ろ!!……セ…!!」
なんて言ってんだ……?
「ハイセ!!避けろ!!」
避けろって言われても、視界は大きく歪んで、バランスも上手く取れない。残りHPは?
【HP 200/1300】
えぇ……さっきの攻撃1000近くも食らったのか。避けないと死ぬなこれ。だが、五感がまともじゃない……。
だが、俺にはそんなのは関係ない。
フロストギガンテスの氷の斧は俺の首元まで迫っていた。
〔バッ…〕
咄嗟にしゃがみ、ギリギリで攻撃を回避した。しかし、フロストギガンテスの追撃がくる。口を大きく開けた、無数の氷柱が放たれる。
これは流石に……。
「ハイセ!よく躱したな!お前すげぇよ!」
無数の氷柱は駆けつけたアデルによって落とされていく。しかし、手数の多さには適わず数本アデルに刺さった。
「アデル、大丈夫か?」
「こんくらい平気だ。まだHPも余裕がある」
「何が起こったんだ……?」
俺が聞くとアデルは苦しそうな表情になり俯く。
「すまない。サラのフレンドリーファイアだ……」
スタン食らったのはそういう事か。ルーティーンで威力増し増しの爆裂矢が俺に直撃したと。バフがかかってなくてよかった。
「フレンドリーファイアで即死しなかったってことは、ハイセが無意識に防御の体制に入ったんだろう。ほんと大した奴だよ」
そこは俺の第六感だろうな。躱すまではいかなかったがダメージは抑えられたようだ。
「ハイセ!大丈夫!?」
「ああ、まだスタンでグラグラするけど大丈夫だ」
スミレが心配そうに駆けつけてきた。
「フロストギガンテスの攻撃は俺が全部引きつける。スミレはハイセを下がらせてくれ」
「わかったわ」
スミレの肩を借りて後方に退避する。そこではサラが気まずそうに待っていた。
「ご、ごめんなさい……わざとじゃ……」
「っ!!……はぁ、わかってるわ。ハイセが回復してる間、援護お願いするわね」
一瞬怒りを顕にしそうだったが、しっかり飲み込んだようだ。サラの態度を見ればわざとじゃないってことは一目瞭然だ。
「スミレも成長したなぁ」
「うるさいわね」
スミレは頬を膨らましながら俺に回復ポーションを浴びせる。
【HP600/1300】
どこにでも売ってある粗悪品だから大して回復しないか。
「ハイセさん!ヒールします!」
「ありがとう、エイハム」
エイハムのヒールでMAXまで回復することができた。
上級治癒魔法か……。確か高ランクなスキルだよな。エイハムってもしかしてすごい人?
「あ、あの……」
そんな事を考えているの罪悪感に今にも押し潰されてしまいそうなサラがおずおずとした様子で話しかけてきた。
「気にするな。と言いたい所だが、サラ」
サラがビクッと身体を震わせる。そんなサラの額をデコピンした。
「痛っ……」
「お前、なにそんな焦ってんだ?スミレが凄いプレーするからか?」
「それは……」
図星みたいだな。スミレに対する劣等感か……。よくあることだが、大抵の人はスミレの化け物ぶりを見てすぐに諦める。サラは余程弓に自信があったんだな。
「サラ、人には人それぞれの良さがあるんだよ。スミレは動き回りながら攻撃できるが、サラ程の火力はない。俺も攻撃力はあるが、アデル程のリーチはない。なにも焦る必要なんてないんだ。このパーティーは誰か1人でも欠ければ機能しなくなる」
「うん……ごめんなさい……」
「次の戦いまでに切り替えていけよ?」
「次……?」
俺は刀を鞘に収める。
「ああ、次だ。こいつは俺が仕留める」
アデルとフロストギガンテスが戦っている場に戻る。
「アデル、後は俺がやる」
「おう!」
心得たと言わんばかりにアデルは下がった。
「さてと」
まだ身体に不快感があるが問題ない。
『ニノ太刀』
『陽炎の刃』
2つのスキルを発動した。鞘の中では加州清光が猛々しく燃え上がっている。
柄に手をかけ、腰を落とす。
〔グオオオオオオオオオ!!!!!〕
フロストギガンテスは大きく口を開け巨大な氷柱を生成し始める。だが、遅い。
『神速』
一瞬でフロストギガンテスに肉薄し、抜刀した。
「鷹見流『驟雨』」
『陽炎の刃』の効果で斬撃は拡張され、フロストギガンテスの胴体程の大きさの燃える斬撃が6つ繰り出される。
そして、『ニノ太刀』の効果でそれは実質12の斬撃となった。
〔グオオオオ…〕
フロストギガンテスのHPは大きく削れ、片膝を着き、ダウン状態に入る。
「おらっ!!」
ダウン状態であるフロストギガンテスの顔面に強烈な蹴りをお見舞いしてやる。ダメージは大きくないが体勢を大きく崩した。
仰向けに転倒したフロストギガンテスの胸の上に立ち。刀を振り上げた。
「鷹見流『轟雷』」
大きく振り下ろされた炎の斬撃はフロストギガンテスの体表に深い切り傷を負わし、燃え広がるように焼き付くした。
【DEFEAT THE ENEMY】
残りのHPを全て削りきったようだ。
フロストギガンテスは粒子となって消えた。
「なんだ今の……スキル……じゃ、ないよな」
アデルは俺のの剣術に空いた口が塞がらない様子だ。
討伐報酬がウィンドウに表示される。お目当ての物は出たかな?
「ドロップしたやついるかー?」
俺の画面にはないな。ハズレか。
「出た……」
スミレがボソッと呟いた。まさか初戦で1.5%を引き当てたのか?
「うわっ、マジじゃん。強運すぎだろ」
しかし、1個か。ドロップしたのはスミレだがここは公平にしたいな。
「どうする?じゃんけんでもしとくか?」
俺の提案にアデルは少し考えた。
「いや、それは貰ってくれ。これは詫びだ。サラがすまなかった」
そう言ってアデルとサラは頭を下げた。
「気にすんなよ。生きてんだし問題ない。まぁ、『魔氷』は貰っておくよ」
【名称:魔氷 SR 説明:魔力が込められた氷。武器の鍛造に使用すると、同時に使用した素材の特性を活かした武器を鍛造することができる】
素材の特性を活かした武器か。使用する素材によって変わるのか。面白い素材だ。
「お前らは目的を達成した訳だが、手伝ってくれるか?」
「もちろんだ。最後まで付き合うよ」
「さっきは本当にごめんなさい。もう二度と同じミスしないから。私は私にしかできないことをする」
「ああ、それでいい。頼んだぞ」
サラは気合十分に弓を握りしめた。
1発でドロップしたんだ。あと1個くらい直ぐに出てくるだろ。
と、思っていた俺の考えが甘かった。
その後、就寝する限界まで周回したが、1つもドロップせず、後日に持ち越しになった。
◇◇◇
結局昨日は何周したんだろうか。20周近くはしたはずだが……。1.5%ってのは伊達じゃないな。学校終わったら直ぐにログインしよう。
「……あ、そうか。ここにはもう来なくていいのか」
毎日吾郎と待ち合わせしていた自販機の前。しかし、そこには1人の人影があった。
「遅いじゃない」
「スミレ、なにしてんだ?」
スミレが待っていた。
「お前、ここまで遠回りだろ」
「ハイセが寂しがってるって思って来てあげたのよ。感謝しなさい」
「へいへい」
相変わらずの態度だな。昨日飛龍に乗ってる時の態度はどこへやら。
「部活の朝練もしなくていいし、これからはここで待っててあげるわ」
「いや、いいよ」
「どうしてよ!」
「遠回りになるだろ?丁度いい所を待ち合わせにしよう」
いちいち遠回りさせてたら俺が申し訳なくなる。俺の提案にスミレは瞳を輝かせ、嬉しそうに頷いた。
「スミレ、お前実は羨ましかったんだろ。一緒に登校してる俺達が」
「ち、違うわよ!私は仕方なく!」
「はいはい、素直になるからァって言ってたのになぁ」
「うるさいうるさい!早く行くわよ!」
これは図星だな。顔を赤くし早歩きになるスミレの後を追いながら学校へ向かった。
◇◇◇
登校してるときはスミレが居るからいいが、教室に着くと正真正銘のぼっちになる。
別に友達と屯したい訳じゃない。寧ろ1人の方が気を遣わなくていいから楽だ。
「鷹見のやつ鶴矢さんと登校してたらしいぞ」
「は!?鷲土が居なくなったからって2人きり狙ってんじゃねぇのか?」
「幼馴染だからって鶴矢さんのこと付きまとってんだろ……」
あー。うぜぇ。言いたいことあるなら面と向かって言えよ。居心地が悪いったらありゃしない、少しは静かに出来ないものだろうか。
そんな事を考えながら机に突っ伏していると、教室の扉が開いた。
「おはようございます、新入生の皆さん」
入ってきたのはメガネを掛けた美人な女性だった。緑の名札……3年生か。
「四条先輩だ……」
「え、それってこの高校で一二を争う美人で有名な……!?」
「剣道部と新聞部を兼部してるらしいぞ」
またそんな大物がどうしてこんなとこに。なんとなく嫌な予感がする。
「四条先輩!どうしてここへ?まさか俺に?」
クラスの1人の優男風自分顔面自信満々系男子が四条に話しかけた。確かこいつは男子剣道部だったよな。四条とも少なからず繋がりがあるのか、どうやら杞憂だったみたいだ。
「あなた誰ですか?」
違うかったみたいだ。
「え?あ、いや……えっと、俺ですよ!噛瀬ですよ!やだなぁ、よ、よく話してるじゃないですかぁ」
「はぁ、すみません。私興味のない方は話していても覚えられないのですよ。申し訳ありませんがあなたの事は存じ上げません」
四条はペコりと会釈する。本人に悪気は無いんだろうなぁ。
四条のドストレートな一言に噛瀬は顔を真っ赤にした。余程自信があったんだろうな。居るよな、少し話したくらいで気があるんじゃないかって勘違いするやつ。
んで、この先輩は何しに来たんだ?そう思っているとバチッと俺と目が合う。まずい、嫌な予感しかしない。
「机に立て掛けてあるその竹刀袋……。もしやあなたが鷹見ハイセさんですか?」
嫌な予感が的中した。どうやらこの先輩は俺に用があるみたいだ。
アデルと言いこの人とと言いなんで界隈の大物がこんなに寄ってくるんだよ……。
「そうだけど」
「やっぱり!あなたと少しお話がしたかったんです!」
四条は嬉しそうに両手を合わせて喜んだ。この笑顔にやられる人は多いんだろうな。噂に違わない美人だ。
「し、四条先輩!鷹見ですよ?危ないですから下がってください!機嫌が悪けりゃ刀で斬られるかも知れません!」
噛瀬君よ……。君と知り合ってまだ1ヶ月ちょっとだ。俺は君の前で1度でも刀を抜いたことがあるかい?
「はぁ」
「こ、こいつには良からぬ噂がたくさん……」
「黙りなさい」
四条の怒気を含んだ低めの声が教室に響く。
「武術に心得のないあなたにはわからないかも知れませんが、鷹見家は古くから日本の宝を守ってきた誇り高き一族。鷹見家に帯刀が許されてから200年余り、彼らは1度も理不尽にその刀を振るったことはありません。これは歴史の教科書にも載っていることです」
日本の宝を守ってきたか。まぁ、確かに鷹見流剣術は今や国宝だもんな。歴史の教科書にもでかでかと載っている。
「それを下らない噂で貶めようなど、己の無知を恥じなさい!他人を貶め、自分が優位に立とうとする人間など視界にも入れたくありません!人間の恥です!それに…!」
「先輩、そのくらいにしとけ」
「え?」
「オーバーキルだ」
クラスメイトがいる前で恥ずかしい思いをして、学校で大人気の高嶺の花の先輩から嫌われた。その上、この言葉責め。噛瀬のHPは既に0だ。
「す、すみません……!つい……」
「それはいいけど、なんの用?話って?」
四条は咳払いをして居住まいを正した。
「私は新聞部の部長をやっています。今年の新入生に鷹見家の後継ぎが入学したと聞きまして、それであなたについて記事を書きたくインタビューを……」
「断る」
俺は食い気味に断った。
「え?ど、どうして?」
「どうしてもなにも、鷹見家に関することなら歴史の教科書に事細かく載っているだろ。俺から話すことなんてないよ」
それに、鷹見家の記事なんて書かれたら目立ってしまう。俺は目立たずひっそりと学校生活を送りたいのに。こんな美人の先輩とマンツーマンのインタビューなんて余計に目立つ。
「あ、いや、"鷹見家"ではなく、"あなた"についてです」
「俺?」
「はい。『鷹見家の神童』『歴代最強継承者』と言われるあなたに興味がありまして、是非!」
四条はずいっと顔を俺の顔に寄せる。目がキラキラと輝いて眩しい……。これは、あれだ。この人は俗に言う『武術オタク』だ……。
「尚更断る」
「どうして!?」
「目立ちたくないからだ」
そう言うと四条は表情を曇らせる。
「そ、そうですよね……。私"程度"にお話することなんて……。すみません。私"なんか"が出しゃばって……ご迷惑お掛けしました……」
目に涙を浮かべ四条はしゅんとしてしまった。クラスメイトから溢れんばかりの殺意の籠った視線が俺に向けられている。え、なにこれ、俺が悪者みたいじゃん。
「あー、もう……わかったよ。受けりゃ良いんだろ」
「ありがとうございます!!!!」
さっきの涙目が嘘のように瞳を輝かせ俺の手を握った。やられた、演技だったか……。
「では、早速インタビューさせてもらいますね!」
「まてまて、ここでか?」
「はい!早く聞きたいので」
「あっそ……」
この会話を聞くとどっちが先輩かわからんな。俺は基本敬語を使わないから。
「まずは、初めて刀を握ったのは何歳ですか?」
「3歳くらいだな。親父が幼い頃使っていた小太刀を握ったのが初めてだ」
あまり記憶はないがじじいが言うには親父がやってた型を見様見真似してたらしい。
「そうですか!次に、剣術の型はいくつあるのですか?」
「それは言えない。門外不出の剣術だからな」
「そうですよね。では次に、剣術以外にできる武術はありますか?」
「古武道に属するものなら全て扱える。柔術、槍術、棒術、薙刀術は比較的得意な方だ」
「弓術は得意ではないのですか?」
「扱えはするが、身近に化け物がいるからな。あまり乗り気にはならない」
「ああ……」
四条はスミレの事も知ってるらしい。まあ、スミレの弓術を見て競おうとは思えないよな。
「では、あなたがいつも持ち歩いている刀について教えてください」
「加州きよ…」
っとこれはWSOだった。
俺は竹刀袋から日本刀を取り出した。漆黒の鞘の根元には"鷹"の文字が刻まれている。鞘から少し抜き、刃文を見せる。
「「「おぉ…」」」
吾郎が言ってたように、日本刀はロマンなんだろうな。クラスメイトは俺の刀を食い入るように見ている。
本来なら銃刀法違反だが、俺は帯刀を許された一族だから関係ない。
「刃文は『乱れ刃"拳形丁子"』。江戸時代、鷹見家のお抱え刀鍛冶だった"木山大空"という男が打った彼の人生の最高傑作らしい」
木山家は今も鷹見家の刀鍛冶として存在する。主にこの刀の管理をしているが、親戚みたいなもので昔みたいな上下関係はない。
「銘を【鷹神】正式名称は【鷹神宝斬大空】だ」
その昔、鷹見流創設者がその刀で強固な宝石を真っ二つに切り裂いたことから付いた名前だ。
「噂に聞く宝刀ですね……。ですが、この刀は継承者が持つ仕来りだと聞いていますが?」
なんでこの人はこんなに鷹見家に詳しいんだよ……。
「じじいは現継承者という肩書きだが、もう隠居してる。だから、早々にこの刀は俺が持つことになった。18歳になれば正式に継承者になるよ」
「なるほど…では、最後の質問です」
四条は俺の瞳をジッと見つめ、口を開いた。
「あなたは、刀で人を斬ったことがありますか?」
中々にハードな質問だな。こんなことも新聞に書くのか?
答えは……。
「ある」
俺の答えに教室がザワつく。
「本性を現したぞ!やっぱりこいつはヤバい奴なんだ!!」
「黙りなさい」
騒ぐ噛瀬を一言で黙らした。
「その理由を聞いても?」
「正当防衛だ。クズの片腕を斬り落としたんだよ」
俺がまだ5歳の頃、公園で一緒に遊んでいたスミレが俺が目を離した隙に、公園に居た小太りの男に口を抑えられトイレに無理矢理連れ込まれそうになるという事件があった。
俺は当時親父から譲り受けていた小太刀でそいつの腕を切り落とし、警察に突き出した。後日、"小さな英雄"という見出しで新聞に載ったがそんなこと覚えているやつなんてもういない。
「そうですか」
鷹見家は理不尽に刀を振るわない。しかし、理由があれば容赦なく刀を抜く。
「鷹見家の信条は『弱きを助け強きも助ける。その刃に染まるは悪の血のみ』だ」
「ええ、聞いたことがあります」
実際、殺しはしないが親父もじじいも人を斬ったことがある。しかし、それは正当防衛であり、誰かを守るため絶対悪を懲らしめただけだ。そういった姿勢から鷹見家を正義の味方と言う人間もいる。じじいは国のお偉いさんの命も助けたことがあるくらいだ。
「まぁ、一方では『冷血の鷹』なんて呼ばれてるがな」
「そんな事ありませんよ。あなた達鷹見家が居てくれたからこそ救われた命は多く存在しますから」
そう言ってくれる人がいるのは素直に嬉しいな。
「だから、俺は俺が悪だと判断した者に対しては容赦なく刃を振るう」
殺気を放ちそう言うと、陰口ばかり言っていた男達がビクッと身体を震わせた。陰口叩いた位で斬らねぇよ。
200年続く鷹見家の歴史で戦の時代を除けば殺しをした人物はいない。現代医療では綺麗に切り落とせばまたくっつくし、せめてもの情けなのだ。
「質問は以上です!ありがとうございました!」
四条はお辞儀をすると教室から出ていった。
俺の脅しが効いたのか俺のことをヒソヒソ言う奴はいなくなった。これで静かに過ごせそうだ。
◇◇◇
「やった!やった!鷹見ハイセさんから話を聞けました……!!」
四条はルンルン気分で廊下を歩く。
「私は最近運がいいですね。まさか新入生に剣術の継承者と弓術の継承者がいらっしゃるなんて!それに……」
四条は胸ポケットからスマホを取り出した。そして、とあるアプリを開ける。WSOのアプリだ。
「うちの"アデルさん"も槍術の継承者なんですから……武術オタクの私にはリアルもゲームも天国です……!!」
【プレイヤー名:カスミ ギルド【オーディン】副ギルドマスター】
◇◇◇
「それで?インタビュー受けたってこと?」
「ああ、面倒この上なかったな」
昼食はいつも通り屋上でスミレと食べている。
「なんか距離感近かったし、あれは武術オタクだな」
「ち、近かったって、どのくらい……?」
「このくらい」
俺はずいっとスミレの顔に自分の顔を寄せる。
「ん゛っ…」
「なんだよ」
「な、なんでもなーい」
スミレは顔を赤くしニヤニヤしている。そして、何かに気付いたのかハッとする。スミレの頭には吾郎から言われた言葉が過ぎる。
『悪態ばっかついてないで、素直にならないと誰かに取られるぞ』
真っ赤だった顔は蒼白になり、冷や汗が滴り落ちる。
「ハ、ハ、ハイセ!?!?」
「うわぁ!?は、はい!?」
急にどうしたんだ…?
「その!四条先輩に……」
「おう……?」
「こここここここ告白とかされたの!?!?」
何を言い出すかと思えば。
「されてねぇよ。される訳ないだろ。嫌味か?」
「え、いや。まぁ、されてないならいいわ」
安心したのかパクパクとおかずを口に運んでいる。
「あー、そうだ。アデル達と合流する前にスミレの弓作っとくか?」
魔氷を手に入れ、その他の素材も揃っている。アリシアに届ければ30分くらいで作ってくれるはずだ。
「いや、いいわ。せっかくならサラと一緒に作ってもらうから」
「そうか」
あんだけお互い突っかかってたのに随分仲良しになったな。
サラも俺にフレンドリーファイアしてからは素直になった。俺の力も認めてくれているようで、オーディンに入ってとしつこく勧誘してくるくらいだ。懐かれたみたいで少し嬉しい。
「何ニヤけてんのよ」
「いやー、サラって小動物みたいで可愛いよなって」
「あ、あんた!サラが好きなの!?!?」
「そんな話してないだろ。お前今日どした?おかしいぞ?」
「な、なんでもないわ。そういう事じゃないなら問題ないから……」
俺はスミレの挙動不審に首を傾げた。
ご閲覧いただきありがとうございます!
次回をお楽しみに!