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第10話 一致団結…?

 

 ◆BA【ゼナルド山脈:中腹】


「まさかこんなとこでオリジン武器の所持者と出会うとは思わなかった」


「そうか?」


「それがグングニルか?」


 アデルが手に持つ槍を見る。アデルの背丈よりも長く柄の部分は朱色、刃の部分は銀色に輝く三叉になっているいわゆる三叉槍だ。


「まあな!俺が1年かけて手に入れた、世界にひとつだけの武器だ!」


 そう言うとアデルは槍のボディを頬でスリスリし始めた。


「ふん!ビギナーのあんた達を私達が※キャリーしてあげるんだから感謝しなさいよ!」(※上手いプレイヤーが劣るメンバーのプレイをカバーする事)


「ビギナーでも強いかも知れないだろ?」


「どうだか!あんたは刀とマントは上物だけど、その他は初期装備じゃない。それに、あの人もそれらしい格好してるけど初期の和弓でしょ。たかが知れてるわ」


「いちいちトゲがあるわね。装備が弱い分、技術でカバーするわよ」


「どうせ少し弓道やってるくらいでしょ」


「「はぁ……」」


 俺とスミレは同時にため息をついた。俺達が実践用の技術があるって言ったって信じないだろうし、言ってしまったら身バレの危機もあるからあまり強気にでれない。


「強いかどうかなんて戦ってみりゃわかる!おあつらえ向きのモンスターがいるじゃねぇか」


 俺達の前には真っ白の3m程の背丈があるモンスターが2体彷徨いていた。


【名称:スノートロル 弱点:?? 討伐P獲得条件:会心攻撃でトドメを刺す】


「ハイセ、スミレ。お前らで倒せるか?」


「「余裕」」


 ちょうど2体か、1人1体だな。


「右のやつは私が貰うわね」


「ああ」


 俺は左のスノートロルを引き付け少し離れた。


「弓使いがソロで戦って勝てるわけないでしょ!」


「は?何言ってるのかしら、このおチビちゃんは……」


「チビって言うな!!」


 確かに弓は後方支援が主だが、スミレの実力だとソロで戦っても余裕だ。寧ろそっちの方が力を発揮するかもしれない。


「かっこつけちゃって、無理しないで2人で戦えばいいのに」


「サラ、黙って見てろ」


「は、はい……」


 サラもアデルには強気に出れないみたいだな。まぁ、リーダーってそういうものか。


「さて、このモンスターはどういう動きをするのかな」


 スミレは弓を引き、放つ。


 〔パーン!!〕


 会心の一撃がスノートロルの額に直撃した。


「へー、会心」


「たまたまでしょ」


 〔ウガァァァァアア!!!!〕


 スノートロルはスミレの存在に気付きものすごい勢いで突進する。それを、ヒラリと難なく躱す。そして、スノートロルは岩を持ち上げスミレに投げた。


「ふーん。そういう感じ」


 スミレは冷静にスノートロルの動きを観察し、分析する。


「4本ね」


「何言ってるのあの人」


「4本で十分って言ってるの」


 スノートロルのHPは多くない。初撃でのHPの減少具合、スノートロルの動きを鑑みてスミレは4本で十分だと判断したのだ。


「それは全て会心だった場合でしょ!?」


「私は出来ないことは言わない主義なの。黙って見てて」


 スミレは息を整え矢を番える。狙うは上空、向きはスノートロルのやや右側に1本放つ。そして、間髪入れずに、自分の背後にもう1発上空に打ち上げた。


「何してるの…?」


 その奇行をサラは理解できなかった。


「よし」


 スミレは再度、矢を番える。指に挟む本数は1本、番えた本数は1本、さっき打ち上げた矢数を合わせると丁度4本だ。

 そして、スノートロルの額目掛けて再び矢を放つ。


 〔パーン!!〕


 会心だ。スノートロルは先程と同様、雄叫びを上げスミレに突進する。すると、スミレはやや右側に逸れる。スノートロルの突進はホーミングするように逸れたスミレを狙う。


 〔パーン!!〕


 会心の音とエフェクトが現れる。


「え?ちょ、どういう事……」


 スノートロルの脳天には矢が突き刺さっていた。しかし、その一撃を受けてもお構いなく突進する。それをギリギリまで引き付け、躱した。

 スミレの横を通り過ぎたスノートロルは立ち止まりスミレに向き直る。そして、岩を持ち上げ大きく振りかぶった瞬間……


 〔パーン!!〕


 再び会心の音とエフェクトが現れた。


「これで…」


 スミレは弓を引き、スノートロルを狙う。しかし、


 〔グガァァァア…〕


 粒子になり消えてしまった。スノートロルのHPは無くなっていたようだ。


「どうやら、脳天が弱点だったみたいね」


 スミレは1つ息を吐き、弓を背にしまった。


「すげぇ、予想以上だ」


 スミレの圧倒的な弓術にアデルは感心しているようだ。


「え、え?ちょ、あれ狙ったの……?会心も曲射も」


「当たり前じゃない。じゃないと4本なんて言わないわ。予想外な弱点で1本間違えたけど」


「そんな事、有り得るの……?」


「有り得るもなにも今やって見せたじゃない」


 スミレが放った曲射は「鶴矢流『五月雨』」

 敵の動きを冷静に分析し、次の一手を予測する。そして、予測した先に正確に曲射を落とす超高等弓術だ。この技術は本来10年かけて会得する技だが、スミレは僅か1年で会得してみせた。

 俺も神童なんて呼ばれちゃいるが、スミレも正真正銘の"化け物"。天才の類だ。


「敵が人間ならまだしも、システムで一定に設定されたモンスターよ?あのくらい序の口よ」


「なにそれ……。じゃあ私の弓はなんだって言うの……?」


「知らないわよ」


 スミレは辛辣だなぁ。

 さて、次は俺の番か。幸いスミレの戦いを見てスノートロルの動きはわかった。HPの多さも。


「武器スキル使っていいのか?」


「もちろん。てか、使わずに今まで戦ってたのか?」


「まあな。この刀もつい最近手に入れて、やっとスキルを解放できたんだ」


 これが初めてのスキルだ。全く……SRのスキル解放するのに討伐P30必要ってきつくないか?おかげで時間がかかってしまった。URやオリジンになったらどんだけいるんだろ……。考えたくないな……。


「よし、ちゃちゃっと終わらすぞー」


 抜刀し、スノートロルの方を向く。まずは、


『神速』


【スキル:神速 R 説明:自身のスピードを飛躍的に向上させる。継続時間は15秒】


 MPが下がった。パッシブスキルにはクールタイムがあるが、アクティブスキルにはない。その代わり自身のMPを消費する必要がある。消費量はスキルによるが強力なスキルは乱発ができないよう、大量に消費する事が多い。


 目で追えないほどのスピードでスノートロルに肉薄した。

 サラは俺とスノートロルの戦闘を黙って見ている。


「よっと」


 スノートロルの足目掛けて数回の斬撃を繰り出す。


「ふん、あれで耐久値30は減ったわね。どうせ壊れたらすぐ違うの出しての繰り返しでしょ?くだらない」


「あなた黙って見れないの?それに、ハイセは1度も刀を壊したことはないわ」


「スライム1体狩るのに40も消費するのに?あなた騙されてるんじゃない?」


「はぁ、見てればわかるわ。……おチビちゃん」


「チビって言うな!!」


 一方アデルはハイセとスノートロルの戦いを黙って見ていた。剣術、立ち回り、駆け引き、それらを食い入るように見る。そして、1つの結論に辿り着いた。


 《コイツは次元が違う》


 その顔には薄ら笑みが零れ、冷や汗が滴り落ちる。


「もういいか。大体スキルは把握出来たし」


 最後はこのスキルでフィニッシュだ。


『陽炎の刃』


【スキル:陽炎の刃 SR 説明:自身の武器に火属性を付与する。特殊効果として、攻撃範囲の拡張、STR+3、AGI+4が追加される。継続時間は30秒】


 加州清光は炎を纏い猛々しく燃え上がる。雪が積もるこのフィールドもその熱に晒され、ジワジワと雪が溶けていく。


『神速』


 一瞬でスノートロルに肉薄する。


『二ノ太刀』


【スキル:ニノ太刀 SR 説明:攻撃が命中した場合、追加で同等のダメージを与える。継続時間15秒】


「オラァ!!」


火神(ひのかみ)一文字』

 〔パーン!!〕


 燃え上がる横薙ぎの一閃はスノートロルの身体を捉え、焼き付く斬撃は大ダメージを与える。そして、『ニノ太刀』の効果により追加で同等のダメージが入る。会心の一撃がトドメとなり、スノートロルは粒子となって消えた。


『火神一文字』なんて言ったが、『鳴神一文字』を文字っただけの技だ。まぁ、実際刀が燃えてんだしいいだろ。


「はぁ!?嘘でしょ……ちょっと!耐久値見せて!」


「え?はい」


 俺はサラに加州清光の耐久値を見せる。


【耐久値:50】


「なんで減ってないのよ!!」


「いや、なんでって言われても」


「おかしいじゃない!チートよ!」


 チ、チート……?何言ってんだこの子……。


「馬鹿なこと言うな」


「痛っ……」


 サラはアデルにチョップされた。


「最近のゲームでチートなんてものはないだろ。耐久値が減ってないのもハイセの実力だ。一流の侍は刃毀れせずに使い続ける事も可能だと聞く。つまりハイセはすげぇって事だ!いい加減認めろ、サラ」


「この人達は恐ろしく強いですね」


「「え?」」


 アデルの隣にいるハンマーを背負った男が口を開いた。


「どうしました?」


「「あ、いえ、なんでもないです」」


 常にアデルの横に居たハンマーを背に持つ小太りの男、パーティーを組んでも一言も喋らなかったから"そういうキャラ"なんだと思っていた。名前は確か"エイハム"だっけか。この人が耐寒魔法を掛けてくれた人だ。


「スミレの弓も半端ないなぁ。あんなこと出来るやつスミレくらいじゃないか?」


「どうかしらね」


 スミレは忽然とした態度を取っているが顔がにやけている。褒められるのは嬉しいんだろうな。


「あ、あなた達の実力はわかったわ……中々やるのね」


「お褒めに預かり光栄でございます」


 こういう子には下手に出てればなんとかなる。


「うざい」


 ならなかった。

 別にいいけど、嫌われてたって。どうせ素材が集まれば解散だ。いいもん。


「んで、アデル。SR弓を作るためのモンスターはどこにいるんだ?」


「ゼナルド山脈の頂上にいる。フィールドボス『フロストギガンテス』が稀にドロップする【魔氷(まひょう)】ってアイテムだな」


「ドロップの確率は?」


「詳しくは記されていないが、噂では1.5%くらいだって言われている」


 まじかよ。ドロップ率低すぎないか?まぁ、SRの武器素材なんだ、その位が普通……なのか?

 これは長い戦いになりそうだ。


 ◇◇◇


 ◆BA【ゼナルド山脈:頂上】


 頂上に着いた。頂上は平坦になっていてその中央にはデカいモンスターが鎮座している。襲ってくる様子はない。あいつがフィールドボス『フロストギガンテス』か。


「でっけーなぁ。5mくらいか、強いのか?」


「そうだな。こいつは5人ガチ装備のパーティーか複数パーティーでのレイドが推奨されている。冒険者ランクで言えばAの中位くらいだ。そこそこ強い」


 ギリギリ推奨条件を満たしてる訳だ。


「戦闘中の指揮は俺が取るが、急造のパーティーだ、連携は期待するなよ」


「ああ、迷惑かけない程度に俺達で動くよ」


「よし。前衛は俺とハイセだ、スミレとサラは後方から攻撃支援、エイハムはいつも通り"サラのお守り"だ」

「お守りって言うな!」


「お守り?」


「見てればわかるさ!始めるぞ!!」


 俺達はSBAに足を踏み入れた。


 ◆SBA【フィールドボス:フロストギガンテス】


「アデル、こいつとどのくらい戦ったことあるんだ?」


 アデルは古参プレイヤーだ。俺達よりも知ってることは山ほどあるだろう。


「初めてだが?」


「え?古参なのに?」


「寒いの苦手でな。ずっと避けてて、今回はサラの為だって勇気を振り絞ったんだよ」


「ああ、そう……」


 あてにならないやつだ。これはしっかり立ち回らないとな。


 フロストギガンテスはその巨躯をゆっくりと起き上がらせた。


 〔グオオオオオオオオオ!!!!!〕


 俺達に向かって咆哮を放つ。凄い覇気だ。


「先制の1発だ!!!」


 アデルは自身の槍をフロストギガンテスに向けて投げた。槍ってそういう使い方もあるのね。

 しかし、フロストギガンテスは難なく躱す。アデルが投げ飛ばしたグングニルは遥か彼方へ……。


「おい!武器無くなっちまったじゃねぇか!!」


「心配すんな!見てろ!」


 すると、槍はフロストギガンテスの後方からこちらに向かって飛んでくる。


「グングニルのスキルの1つ【必中】だ」


【スキル:必中 SR 説明:自身の武器を投擲した場合、必ずモンスターに命中する。投擲した武器は自動で手元に戻ってくる】


 グングニルはフロストギガンテスの後頭部に突き刺さった。そして後頭部から抜け、グルグルとアデルの手元に戻ってきた。


「便利なスキルだな」


「まぁ、オリジンだからって無敵って訳でもないがな」


「そうなのか?」


「ああ、そりゃ使い勝手の良いスキル付いてるし普通に強いけど、オリジンの性能を活かせるかどうかは使い手次第って感じだな」


 チート級って訳じゃないのか。ゲームバランスを考えての性能だろうか。だが、1年かけて手に入れたんだからチート級でも良さそうな気もするが、リアルを追求するこのゲームではそういう訳にもいかないのだろう。


「ぼーっとしないで!!」


 サラの声にハッとする。

 フロストギガンテスの持つ氷の斧が、いつの間にか俺とアデルに迫っていた。


「おっと」

「よっ」


 氷の斧が直撃した地面は大きく凹み、周囲に氷の棘を生成する。


「あたー、食らっちまった。ノーダメージ目指してたのに」


「氷の棘は予想外だったな」


 俺は【転身】の効果でノーダメージだが、アデルは少し食らったみたいだ。

 フロストギガンテスの顔面に矢が放たれる。会心のエフェクト……スミレの攻撃か。その後も続けて矢を放ち、全て会心でダメージを与える。


「な、なぁ、スミレも【必中】持ってんじゃ……」


「みたいなもんだが、アレはスキルじゃなくて単純なスミレの技術だぞ」


「まじかよ……」


 さて、おたくの弓使いは如何程か?サラに目を向ける。


「ふぅ……」


 サラは息を吐き、和弓を左手に矢を右手に持ち、腰に当てる。


「足踏み…胴造り…弓構え……」


 え?射法八節?ゲームの中でも丁寧にやってるのかよ。


「あれでいいのか?」


「ああ、サラはあれでいい」


「隙だらけだが」


「その為の"お守り"だよ」


 なるほど。だが、わざわざ人員を割いてまで射法八節する必要あるのか?弓道の大会じゃあるまいし。これにはスミレも首を傾げている。


「会………離れ……!!」


 サラは矢を放つ。矢はフロストギガンテスの額一直線に放たれ、直撃した。


 〔ドガァァン!!!〕


「残心……」


「えぇ……なんか爆発したぞ……?」


 とてつもない威力の一撃がフロストギガンテスを襲う。爆裂矢でも使ったのか?あまりの威力にドン引きだ。


「あれがサラのパッシブスキル【ルーティーン】だ」


【スキル:ルーティーン 説明:5秒以上の決まった動作を行い、攻撃することでその威力を3倍する。命中した場合『爆裂』が攻撃に付与される。クールタイム180秒】


「3分のクールタイムはあるが、それでも余りあるほどの威力だ」


「なるほど、いわばサラは"固定砲台"ってことか」


「ははっ!言い得て妙だな!!」


 大ダメージを受けたフロストギガンテスはよろめくが体勢を立て直し、口を大きく開け、無数の氷柱を放ってきた。


「うおっ!魔法みたいな攻撃してくるんだな!」


「モンスターは普通に攻撃魔法使うぞ!」


 俺達は使えないのに…。

 無数の氷柱をなんとか躱しきる。しかし、最後の1本を躱すと同時に、フロストギガンテスの氷の斧が迫ってきた。怒涛の攻撃だ…。


「ハイセ!!」


「大丈夫だ!!」


 ここで日本刀で斧を"受けて"しまったら耐久値が大きく下がるだろう。故に日本刀は強力な攻撃を"受けない"。"流す"のだ。

 迫る斧を受け流す。刃先で軌道を逸らし、身体を捻る。相手が人間ならここでカウンターを決めていた所だが相手は5mを超えるモンスターだ。ここは踏み留まろう。


 斧の衝撃は完全には殺せず、加州清光の耐久値が2減ってしまった。


「凄い身のこなしだな」


「アデルもな」


 斧の追撃は俺に来たが、アデルもあの無数の氷柱を全て躱していた。凄い身体能力だ。


 さて、攻撃力が高くHPもそこそこ多い。次のサラの一撃で終わるようにHPを減らしたいな。あと2分ほどか?


「「パーティークリティカルだな」」


 アデルも同じことを考えていたようだ。だが、ついさっき知り合った仲だ、上手いこといくとは限らない。限界まで削っておこう。

 すると、後方から矢が数発フロストギガンテスに直撃する。スミレだ。


「私はスキルないんだからね!!」


 スミレはひたすら矢を放ち続けている。剛射、曲射、速射、あらゆる技術を駆使してフロストギガンテスのHPを削っていく。


「まずい、ヘイトがスミレに向くぞ」


 アデルはヘイトを心配しているようだ。


「大丈夫だ」


 俺はアデルにそう答える。案の定ヘイトはスミレに向いた。フロストギガンテスは大きく口を開ける。無数の氷柱が放たれるかと思ったが、1本の巨大な氷柱が生成された。そして、それをスミレに向けて放つ。


「中々すごいのが来たわね……よし」


 向かって飛んでくる氷柱を確認し、なぜかスミレは氷柱に向かって走り始めた。


「なにしてんだ!?」


 その様子にアデルは動揺を隠せない。

 氷柱はスミレの眼前に迫る。すると、スミレは走り高跳びをするかのように氷柱を背面で飛び越える。そして、身体を反り氷柱に手を着く。


「よっ」


 勢いよく手を突き出し、大きく跳ねた。その勢いでグルっと身体を正面に向け、矢を番える。


「弱点はここね」


 スミレは開いた口の中に矢を放った。ダメージが1.25倍加算される。


「フロストギガンテスの弱点は口内よ。氷柱攻撃来る時に狙いましょう」


「お、おう……」


 スミレの動きにアデルは若干引き気味だ。現実なら有り得ない動きだが、ゲームのステータス強化、元々のスミレの身体能力の高さと相まってあんな動きも可能になるって訳だ。


「ショートボウであの動きなら分かるが……和弓だぜ?」


「まぁ、サラが"固定砲台"ならスミレは"移動式速射バリスタ"だな」


 サラほどの単発火力はでないが、スミレは平均的に高いダメージを動きながら常に出し続けることができるDPSは高いはずだ。


「な、なんなのよアイツ……」


「サラさん、もうすぐバフが切れます」


「あんな動きしながら……」


 エイハムの声はサラの耳には入っていなかった。


「サラ!ルーティーンはまだ使うなよ!バフがもう1回かかってからだ!」


「私は……日本一なのよ……」


 アデルの声もサラの耳には入らない。


(私は、あの"鶴矢流"の継承者にも勝ったのよ!?正真正銘の中学弓道の日本一……。なのに、なんで私が1番弱い立ち位置なの……?どうして……)


 ギリッと歯を噛み締める。


「私だって……!!」


 フロストギガンテスのHP残量を確認する。この残量ならルーティーンを使えば一撃で仕留められる。サラはそう考え、射法八節を始めた。


「サラ!?」


「サラさん!?まだバフが!」


 周囲の声はもうサラには入ってこない。ただ、負けたくない、そんな思いが頭を支配する。

 サラの計算は間違っていない。ルーティーンを使えば残りを一撃で削れる。しかし、それは"バフが乗った"状態での計算だった。

 誤算はそれだけではなかった、バフなしでのSTR、DEXの低下、それにすらサラは気付いていなかったのだ。


「ここ!!!」


 サラは矢を放つ。しかし、その矢は自分が思った位置とは逸れた場所に飛んでいく。


「あ……」


「ハイセ!!!!避けろ!!!!」


「え……」


 逸れた矢は、運悪く前衛でフロストギガンテスの攻撃を凌いでいるハイセに直撃したのだった。


ご閲覧いただきありがとうございます!


次回をお楽しみに!

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