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冒険者食堂  作者: 朱殷
1章 マイフレンドの恋愛事情
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2話 ロドのアドバイス

遅れた+短くて申し訳ない。いそがしかったので………

「あれは十数年前、サリーが産まれるよりも前の話だ。」


 その言葉からロドの語りが始まった。単刀直入に対処法だけを聞きたかったマロンだったか面白そうなことに対するサリーの性格を理解していること。そして語る気満々な様子のロドを見て諦め、耳を傾けている。


 この国の内陸に位置する、海のないスザンテール地方にある小さな町、ロドの故郷での話だ。そこは農業に適した土地であったそうで人出は少ないながらもそれなりに裕福で活気のある町であった。


 大都市以外は個人が町や村を管轄していることが多い。貴族や富豪、人望のある者など様々だ。ロドの父親は町を管轄する立場に居た。欲しい物は何でも、とまでは行かないが比較的手に入れることができた。特に困ることもなく順風満帆に過ごしていたのだが、ある日ロドにとって大きな出来事が起こった。



 ――――――――――


 スーっと羽ペンが紙をなぞる音だけが鳴る。真剣な表情で勉学に取り組んでいるロド。ロドの自室には他の誰もいないがお目付け役としてメイドが部屋の外配属されている。以前、四六時中目があるのは疲れると抗議を申し立てたのだが却下された。念には念をと云われその時は渋々納得したのだが、今では慣れたのか気にならなくなっている。


「ふあぁぁ…」


 グググッと伸びをすると声にたらない声が漏れる。今日までにやるべき分を終わらせたので体を背もたれに預け休憩に入る。実際、疲れるほどの量もないのだがいつも精神的に疲れたような感覚があるのだ。


 僕には魔法の才能はなかったけれど、もしもあったらこんな量では済まなかっただろうなと嫌ことを考えてしまう。世間一般で魔法の才能があると云うのはどの程度であれ希少で、将来有望と期待される。そのため親や周囲の人々、国が無駄に張り切り魔法の才能をもつ子供はかなり辛いと聞く。そとため才能がなくて良かったとか思う人もいるのだとか。まぁ、僕には友達と呼べる存在がおらず、何の根拠もないけれど。


「はぁぁ。。。」


 僕も普通の家庭に産まれていれば、たくさんの友達に囲まれていたのだろうか。全てを環境のせいにする気はないが父親が畏れられていると云うのはかなりのデバフだ。それ以外の面では有利に働いていることが多いだろうから一概に云えないのが面倒だ。

 少し、リフレッシュをしよう。先程まで使っていた道具類を片付ける。


「今日の分は終わりましたか?」

「終わったよ。ちょっと庭にでも出るつもり。」


 部屋を出ると待機してあったメイドに話かけられた。サクッと要件だけ云って立ち去る。


 タッタッタッ。心地良い足音が響く。しばらく歩いていると出入り口につく。扉を潜れば細かいことは全くわからないが手入れされた庭園が目に入る。そして自分の中では定位置となっている、お気に入りの花が見られるベンチに腰かける。


 ここに座って何も考えず植物を見るのが好きだ。心が落ち着き、心地良い。稀に視界に写る虫だけが不快だ。虫ももっと美しければ良いのにとよく思う。何度虫の侵入を防ぐ魔法か道具が欲しいと思ったことか。でもこの庭園は虫に好かれているようで。たくさんの花を求め飛来してくる。あの羽の大きな虫も、遠目に見れば美しいのに。


 極力虫が視界に入らぬよう配慮しながら花々で心を癒す。やはりこの庭園の花々は美しい。


「あのぉ、この子に導かれて来たんですけど……」


 少し遠慮しているのか細く、それでも隠しきれない天性の癒し声が背後から聴こえる。聴き慣れない声に対する好奇心と、話しかけられたと云う珍しいことに対する嬉しさが混じる。監視の魔法はどうしたのかと言うまず感じるべき疑問は完全に忘れ去られ、声からして同年代だろうか。などと云う浮かれた疑問ばかりが脳内を駆け巡る。仲良くなりたいなと思いつつ全力の笑顔で振り向く。


「はい、どうしましたか?―――!?」


 スザザザザッと音を立て、体制そのまま声の主と距離をとる。期待と云う文字に溢れた事情全力の笑顔は瞬時に凍り付くこととなった。声の割に年を食っていたとか、化け物みたいな顔をしていたとか、そう云う訳ではない。年は声相応だし、顔もかわいいのだろう。ただし、それ以上に。声の主の指の上には羽の大きな遠目に見れば美しい虫が鎮座していた。


「どうしました?そんなに離れなくても……あぁ、急に話しかけてすみません。驚かせてしまいましたね。」


 なんて云いながら指の上の虫を気にかけるようにジリジリと歩み寄ってくる。だか大丈夫だ。僕は虫を少しだけだが克服したんだ。ほら、遠くから見れば美しいじゃないか。遠くから見れば。


「少し止まろうか。そう、用事があって話しかけたんだろ?」

「はい。しかし、この距離だと話に辛くありませんか?」


 ジリジリと両者ほぼ同じ速度で動くため、一切距離が縮まらない。それどころか若干離れているまである。


「止まって!その先には――」

「―――――ッ!!」


 声にならない、情けない悲鳴が轟く。あっ――と云う諦めの混じった声がかき消される。



 ――――――――――


 いつの間にか眠ってしまっていたようで、起きたのは自室のベッドの上であった。眠る前に何があったのかが全く思い出せない。虫を持った女の子がいて……。霞がかかったように思考が途切れる。窓から外を確認すると、空が赤く染まりはじめた頃だった。時間を何となく理解すると空腹を感じる。そう云えばお昼を食べていない。昼食を寝過ごしてしまった。謝らなければ。そして少し夕食を早めてくれるよう頼むことにしよう。


 タッタッタッ。無音の世界に自分の足音だけが響く。その何とも云えない心地良さを感じながらキッチンを目指して歩いていると、普段は応接間として使われている少し大きな部屋から複数の話し声が聞こえる。内容は聞きとれないが盛り上がつている様子だ。盗み聞きするのは行儀が悪い。大人の会話とやらをしている訳でも無さそうなので軽快な足音を鳴らしながら扉が開いたままの応接間に入る。


「おはようございます。すみません、虫嫌いだとは思わなくて。」

「情けない限りだ。」


 応接間には女の子とその母親と思しき人物。そして両親がいた。部屋に入った時に話題が変わってしまい何の話をしていたのかわからなかった。


 虫ごときで何をしている、ようやく目覚めたのかと父親に暗に云われる。こちらの心情も察してほしいものだ。あの瞬間は何が起こったのか皆目見当も付かなかったが今では何となくわかる。得体の知れない、不快な音を鳴らす黄色の生物に集中砲火されたのだ。まさに蜂の巣。思い出しただけでも鳥肌と身震いがとまらなくなる。この記憶が鮮明に残っていなかったのでこれで済んでいるが、もしも……は考えたくない。


 それにあの女の子も女の子だ。―――っといけない。女性には優しく接さなければ。そう、虫嫌いを知らなかっただけ。仕方がないことなのだ。


「変なタイミングになってしまいましたがまずは自己紹介をしますね。私はシスイ家のテトと申します。ロド様ですよね、初めまして。」


 シスイ家と云うのは聞いたことがないが、家名を名乗るあたりそれなりに有名な一族なのだろう。となると政治的な面が強そうだが……。なるほど。以前父親が云っていた戦略結婚か。まぁ仕方ないとは云え、自分で選でないのは悲しいものがある。まぁ、今現在好きな人がいるわけでもないのでそんなに嘆くことでもない。



 ――――――――――


「っとまぁ、これが出会いだな。」

「長い。」


 サリーに文句を云われる。語りに夢中になっていたロドは気づいていなかったが雨はもう既に止み、閉店の時間まであと半時間と云うところまできていた。サリーは途中から疲れ果て、マロンは恋愛事に興味があるのかわくわくした様子で語りを聞いていた。


 長いと云われ我に返ったのかロドは時刻を確認し、まだ語りたいことがあるけど……とブツブツ云っている。


「それで、結局どうすれば良いの?ストーカーは。」

「マロンちゃんがどんな境遇なのかはわからないけど」


 と前置きを入れいくつか提案をする。

 ひとつ、周りを頼ること。どんなことをしでかすかわからない以上、味方と云うか、守ってくれる人は作っておくべきだ。マロンは魔法が使えるとは云え肉弾戦で勝てるほど得意そうには見えない。

 ふたつ、直接叩くこと。これはボコかれて静まる可能性もあれば逆上してエスカレート、より危険になる可能性もある賭け要素が強い。

 みっつ、無視すること。これは解決はしないが悪化もしないと云うもの。何も云われないから許可されていると感じる人でなければ、そして今の状態を許せる人なら効果的。相談しに来ている時点で選ばれない可能性が高い。

 よっつ、距離を取る。暖まり易く冷め易いタイプに効果的。ストーカーの相手がマロンと同じ学園であるならば不可能だがそうでないのであれば容易に取ることができる選択肢である。時間をずらすだけでも多少効果はあるかも。

 いつつ、要望を受け入れる。元も子もないが確実。諦めるとも云う。みんながみんなを認め合うのが一番平和だよね!の思考から生まれた。が自分の考えを無下にしなければならない。


「こんなもんだろ。」

「えぇ、答えないじゃん。ってことでダメ!一から考え直し。ほら、お父さんも加わって、解決策を導き出そう。」


 せっかく長い時間語ったのにいらないもの扱いされたロドは悲しそうに頷いた。が、一度却下された人間が一人加わっただけで新しく建設的なアイデアが出る訳もなく、無情にも時は過ぎて行く。


「そろそろ、時間、だから。」


 そう云って当事者であるマロンが返ってしまった。


「結局良いアイデアは出なかったな。」

「だね。そうそう、次の休みの日マロンと一緒にストーカー探しに行く予定だから、ちゃんと買い出し、やっといてね。」


 唐突にそんなことを告げられる。いつもサリーに頼っていたから久しぶりに頑張るかと張り切るのが半分、サリーの友達の事情に片足以上突っ込んでおきながら、当然だけどアドバイス以上に関われないことを悲しむこと半分の微妙な心情になった。

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