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冒険者食堂  作者: 朱殷
1章 マイフレンドの恋愛事情
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1話 マイフレンドがやって来た

 今日は朝から天の機嫌がかなり悪い。ザァザァと大粒の水玉が天から振り注ぐ。窓から外を眺めても見えるのは目の前の道くらいでほとんどが白に支配されている。本物を見たことはないけれど、ホワイトアウトのようだなと、少し畏敬に思う。


 いつも天の機嫌が悪い時はお客さんが少ないのだがこれだけ酷いと来客は見込めないだろうと推測する。今より少しマシな日のランチの時間帯でも良くてガラガラになってしまう。


 ちなみに自慢だけれど天がご機嫌な日はお店の座席が全て埋まり、行列とまでは行かなくとも二、三人の列が出来る日もある。お客さんが多い時の忙しさはなんだか嬉しさがあって、自分のお店じゃないのに嬉しくて仕事が楽しいと思える。お客さんが少ない日は少ない日で常連さんとゆっくりお話をしたり、新しいお客さんを新しい常連さんにしようと奮闘したり、一人一人とのんびり会話できて楽しい。だから晴れていても雨が振っていても良いのだが個人的には雨の日の方が好みだ。でもこうも誰一人として居ないと寂しいものがある。


 天の機嫌が悪すぎると私の気分も下がってしまう。チラッと時間を確認すると既にお昼ご飯の時間をすぎていた。今日はお客さんゼロ人かぁと思う。万が一、お客さんが来ると申し訳ないと云うことで一応お店は閉めないルールになっているけれど。


「はぁぁ。」


 壁に寄りかかりボーっとする。暇だ。することがない。私はお客さんと厨房にいるお父さんとの仲介役と会計を任されている。厨房にいるお父さんはお客さんがいなくても新しいレシピを考えて時間を潰しているだろうが私には時間を潰す方法がない。もうピークの時間帯は過ぎている。待っていてもどうせお客さんは来こないんだ。お父さんの新作でも食べて時間を潰すとしよう。半日頑張ったのだし。


「お父さん、何してるの?」

「ああ、サリーか。新作スイーツを考えてたんだがあまり上手くいかなくてな。今日は諦めようと考えていたところだ。あと店をやっている時はコックと呼びなさい。」


 お父さんは片付けをしていた。よく見るとクリームや果物を使った後が所々にあった。ちぇ、面白くないの。もう少し早く来てればあの果物をつまみ食いできたのに。


「ねぇお父さん。何か面白いことしてよ。」

「はぁぁ??」


 突然おかしな声を上げるお父さん。虫料理が食卓に並んだ時の主婦のような声だ。キョロキョロと首を振ると『いや、お前だよ』とでも云いたそうなみてくれで鎮座する果物の残骸たちが居た。『いやおかしいだろう。何時ものことじゃん!』と同意を求めるも残念。果物だった物たちは新入りなのだ。彼らが知っている何時もは天のご機嫌探りの遣り方くらいだろう。ほら、何時も居る君!と援軍を頼みたいが厨房に何時も居る食材君などあってはならないのだ。


「うーん、そうだなぁ。じゃぁこうしよう。サリーがお父さんのことをコックって呼んだらやってあげても良いぞ。」

「えっ、なんで?」

「………」


 ………どうやら云うまで無視を貫くらしい。でもチラチラとこちらを見てくるあたりご機嫌なご様子。


「……お父さん」

「………」

「……(おじ)コック。」


 ボソリと捻り出すとニパァと笑顔になる。何て分かり易い。そして何て面倒臭い。すこし考えるような素振りを見せた後、云う。


「そうかそうか。そんなにやって欲しいか。そんなに云うなら天の機嫌を良くする歌を歌ってやろう。♪―――♪♪――」


 そうしてお父さんはこの国に生きる者ならほぼ皆が知っているであろう歌を嬉々と歌い始めた。本人としては心地良く、完璧に歌っているつもりなのだろうけど側から聴けば所々歌詞は間違い、音程が外れている。外の音で自分の声が聴こえないのか少し、少しと声量がアップして行く。私もおかしなテンションで音頭を取り盛り上げるのに徹っする。そして歌が盛り上がりに差し掛かった時、


「あのぉ、どなたかいらっしゃいませんかぁ」

「あっ」

「あっ」

「あっ」


 お客さんが来た。上から私、お父さん、お客さんである。私の『あっ』は来ないと思ってしまってお客さんに手数をかけさせたことと、おかしな姿を見られたこと。お父さんの『あっ』は多分完璧だと思っている歌を聴かれたことによる恥ずかしさ。お客さんの『あっ』はおかしな者を見てしまったことへの後悔か。っと妙な冷静さで分析する。きっとお店に入ったはいいものの定員が居らず、音の聞こえるほうへ足を進めると大声で歌う男性と、ハイテンションで音頭をとる女性の頭のおかしな親子。声が出てしまっても仕方がない。


「い、いらっしゃいませ。じゃない。違う。そう違うんだよ。サリー、、娘が暇だから歌えと云ったんだ。お客さんが来るかもだし、止めたほうがっ云ったんだけど、、」

「違う、騙されないで。お父さん、、コックが勝手に歌い始めただけ。私は何も関与していない。そう、関与していないの。私は無罪よ。」


 そうだ、二人が犠牲になる必要はない。誰か一人が身代わりになればあと一人は安全なのだ。そして犠牲になるのはお父さんよ。娘に譲りなさい。


 っといった具合で責任逃れをする親子。両者同じようなことを考えているのだがそれは両者気がつかない。そして現行犯はそう易々と無罪にはならないのだと云うこともまだ両者気付かない。


 歌よりも大きな声で云われ、ぐっと耳を抑えるお客さん。下を向き、極力見聞きしたくない情報を入れまいと奮闘する。が、耳を抑えたくらいではその大声を閉ざせない。下を向いたくらいではその迫力を無視できない。


「あの、お二人とも、同じくらい、だと、思い、ます、、。」


 言葉に詰まるたびに小さくなる声は他二人の声量によってかきけされ、、、ない。ズンッと重く二人の耳に届き、静寂が訪れる。


「あと、私、最近耳が悪くて、あまり聞こえてません!」


 その誰でも嘘だと分かる苦しく、優しすぎるフォローはより両者の心を抉る。二人の犠牲によりお客さんの耳は軽傷で済んだ。



 ――――――――――


「こんな日に誰かと思ったらマロンじゃん。元気してた?」


 混沌から数分後。全員が落ち着いた頃にお客さんを席に座らせ、対面する。焦っていて気づいていなかったがお客さんは昔仲が良くてたびたび遊んでいたマロンだった。お引っ越しと云ってここから離れてしまったけれど年に一度か二度、このお店に顔を出してくれている。


「うん、久しぶり。元気だつたよ、ほら、この通り。」


 手を大きく広げ元気だとアピールするマロン。ボソッと微かに声が聞こえる。前会った時は言葉に詰まれどこんなに声は小さくなかった。あの混沌が未だ尾を引いているのか、それとも別の要因があるのかはわからないがそんなのはどうだっていい。今は久しぶりの再開を喜ぶべきだろう。幸い人も居ないんだ。十分に会話できる。


「それは良かった。それで、何でまたこんな日に?濡れなかった?」

「それは、大丈夫。乾かすくらいの魔法は、使えるから。こんな日に来たのは、誰もお客さん居ないと、思って。相談、しに来た。」


 乾かすくらいと簡単に云うが魔法自体使える人が少ない上に小さな事であれそうそう多発できない。首都魔法学園生なだけある。



「ふぅん。まぁ良いや。先に何か頼む?今日はサービスするよ。」


 あの混沌を見せ、フォローをさせてしまったお詫びと云う言葉は隠しておく。きっと察してくれただろう。いくら友達とてお客さん。依怙贔屓みたいなことは基本しないのだ。


 マロンはメニューの書かれた魔道具の端末をポチポチとさわる。思わずその仕草に見惚れそうになる。ゆっくりと動く細くて長い指。肌の色が真っ白だが以前よりは少し健康的な色になっている気がする。抱き締めれば潰れてしまいそうなくらい小さな身体。これでも私と同い年、、15なのだと云うから驚きだ。今年成人を迎えた人とは思えない。顔もかなり可愛い方だと思うのだが何故か男女共に人気がない。それはマロンが可愛さを押し出すような性格でないからなのだがそれはそれで良い。独り占めしている気分になる。


「それじゃ、この柑橘パフェ下さい。お昼はもう、食べたから。」

「はいはい了解。コックー、パフェ27号!」


 一応メニュー端末には品目が書かれているのだがお父さん曰く『名前つけたらボツになった試作品の被ってゴチャゴチャになるだろう?ほら、自分の中ではボツになっても立派な完成品だから。』だそう。それ故品目とそれに合う番号を覚えさせられた。


「それで相談って?」

「あのね、最近、視線を感じる気がするの。学園とか、登下校時によく。たまに買い物の途中でも。まだ家の中で感じたことは、ないけど。ほ、ほら、サリーちゃんって、よく男の子にモテてたから。参考になるかなって。」


 むーんと考える素振りを見せる。なるほどなるほど。マロンのストーカーとな?それはけしからん実にけしからん。マロンのむふふな所を視ようだなんて。っと、それが目的だろうとなかろうとどちらでも良いのだ。


「勘違いだったりしない?」

「それはない、と思う。」


 一応聴いているが実際勘違いについては全く疑っていない。疑う必要がない。それも女の勘は当たるとか、マロンは視線に敏感だとかそういう訳ではない。勘違いなら面白かったねあははで終わらせれば良い。


「気にしないってのもひとつだとは思うんだけど……それは無理だよね。怖いし。」


 とは云っても私はストーキングされたことがなく、良く分からないのだ。視線を感じたことはあれど珍しくななかったから別に取り上げて考えたことなかったし。


 それにこの食堂で働いているおかげで情報には自信のある私でもストーカー被害の話は聴いたことがない。まぁその怖さは想像できるものがある。何とか対策するしかないだろう。


「うーんどうするか……」

「はいはいお待たせー。27号ね。ちなみに一番人気はこのパフェ1号だね。初期から残ってる力作だよ。………そんな暗い顔して、幸せが逃げるぞー。」


 そう言葉とパフェを残して去って行った。マロンがいただきます。と云ってパクパクと小さな口へとパフェを運んで行く。


「んー、美味し。」

「どうも。そりゃ良かつたよ。」


 黙々とスプーンを進めるマロンを眺めながら考える。一旦ストーカー野郎をぶっ叩いてやればその場は治まるし、一番速いだろうがマロンは武力行使を嫌がるしなぁ。それに良いとこの坊っちゃん(お貴族様)とか、怪力野郎とかだったら困る。


 そうこうしているとマロンが食べ終わったようでごちそうさまでした。と手を合わせている所だった。はい、お粗末様でしたと云いパフェの器をお父さんのもとへ届けに行く。


「サリー。」


 お父さんが小声で喋りながらこっちへ来いと手招きしている。


「何で二人してあんなに暗い顔してたんだ?ま、まさかあんなアホな所見たせいで飽きれられた?それともパフェが……いや、それはないか。」

「違う。あとパフェはまだ届いてなかった。その味に対する絶対の自信なんなの………」


 あたふたしているお父さんにひとつづつツッコミを入れる。何だか面白い。


「なんかマロンが学園とかでストーキングされてるんだって。お父さんは何が知ってさりしない?対処法。」


「…………」


 目が嘘みたいにキョロキョロしてあたふたがあたあたふたふたするようになった。これは何かあるなと確信した私は尋問を開始する。


「お父さん?」

「い、いやぁ。わからないなぁ。無理矢理叩けばいいんじゃないかぁ?」

「お父さん?」

「はいすみませんでした。知ってますしっかりとご存知いたしておりますえぇもちろん。原因から対処法までばっちりと。そりゃ当たり前ですよねえぇ私当事者ですものえぇ。すみませんでした。」


 尋問したらお父さんが早口でそんなことを云い始めた。わざわざサリーが見逃してあげる訳がない。『ちょっとオハナシしようか。ほらほら、こっちでさぁ。』っとされるがままで連行されて行くロド。状況だけ見れば悪戯がバレた子供とそれを叱るお母さんに見えなくもない。



「オハナシをしよう。」

「………はぃ。」

「………はい?」



イカれたメンバーを紹介しよう。

一人目!この食堂の看板娘、サリー。今メンバーの中で一番心が混沌としている人物。私がなんとかしようと奮い立っている。と云うのが半分。もう半分は面白い話が聴けそうだとテンション上昇中。顔がその嬉々とした感情を物語っている。


二人目!この食堂のコック、ロド。今メンバーの中で一番心が死んでいる人物。娘に隠れて写真を眺め、思い出に耽っていたことを最高に後悔している。なぜあのタイミングで!と。悲しまずにはいられない。それでも後悔や悔やみよりも諦めの色がよく見えるのは娘の『面白そうな事』に対する執念深さをよく知っているから。


三人目!サリーのフレンドマロン。今メンバーの中で一番困惑している人物。パフェの器を友達が片付けに行ったと思ったら友達のお父様を連れて来こられた。お父様は顔が死んでいるし、友達の表情は真逆で楽しそう。よくわからなすぎて脳死で返事してしまっているが一番冷静な人物でもある。


「でもその前に。語ってもらおうか。ね、お父さん?」

「はぃ………」

最後のはマロンのストーカーがと云う意味ではないです。お間違えなきよう。

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