第四話
牛には乳が四つあって、胃も四つある。上からも横からも四角に固めて作った身体だから、四の数がようく似合っとる。
第一胃はルーメンって名で、成牛なら500ガロン、小さなバスタブひとつの空洞が袋となってぶら下がってる。
第二胃はハチの巣。文字通りハチの巣のヒダがビタビタ生え廻ってるから付いた名で、小さなバスタブくぐった次の部屋の扉を開けたら、内臓筋を塗りたくったような顔つきが見えてくるのは、それはそれで似つかわしいろ。
三番胃は葉状胃って名がついとるけど、前のハチの巣と第四の人間も持っとるほんまもんの胃に挟まれたところが葉っぱにしか例えられん格好なんでそないな名前もろうたんやけど、何のために部屋あてがわれたんかは分かっとらん。何が何のためかなんて、この牛さんに聞いたかて、一度としてそない面倒くさいこと考えて草はんでるわけやなし。「神さんのことまでいって、聞いとくれ」と、じりじりにじり寄る。3,000ポンドの牛が近づいてくる。
ー そない熱心に講釈しとったら、どんどん牛さん近づいて、乗っ取られるで ー
ガンジー牛の明るい赤茶けた立ちすがた浮かんできて、あの仔に絵本の読み聞かせするみたいにひとつひとつ指差ししていたら、口まで憑依されてしもうた。それにしても、あの仔、仏語の声で話してきよる。ほんまもんの口は使うてはおらんのやから、もっといろいろ移りこまれたのやもしれない。ここの辺境よりもここの先達よりももっと昔の内陸のたよやかに歌うような調子が沁み出て、かんじがらめされてしもうた。
ー バスタブのお風呂、熱かったぁ。ほんまもんの胃の中に浸っておったときより熱かったぁ ー
ー 溶接で出てきたスチールの半端もん、ツギハギしてあないなもんにして ー
ー 四角くて真っ黒のバスタブ、500ガロンのバスタブ、5フィートの赤毛の娘しか嵌れないバスタブ ー
ー あれ見せられたら、三人ともあの伽藍堂の中に、これから詰め込む肉の収まった形を、同じ顔して同じもんの形を、しれーっと見とった ー
ー 手脚さかさまに付け換えたあとの薄っぺらなおなか、そのへそに軸とおして、先にもぎ取っておいた赤毛のあたま設える、のん ー
ー 羽根、くるくる回らせて、橙色した風車みたいにキレイやろ。鋼鉄のフネの中、赤い巻毛は解けてツインテールになって、その赤いキラキラした鱗粉がお湯ん中に映えて・・・・・もう、得もいわれん心地しよる ・・・・・ それで、ことは塊った。あとは、ただ、それを実とするようことを成すだけだった。
三人には躊躇も迷いもなかった、伽藍堂から呼び込むものの身を任せていれば、綱に引かれるようにそこに連れて行って呉れるから。