第二十八話
いいわよ、開けなくたって。わたしはそれほど意地悪じゃないわ。でも、もし、かりに、わたしが意地悪だとしても、他の仔にだけして、あなたにはしない。どうしても全員しなきゃいけないときは、最後まで、マイケル、あなたを残しておく。だって、わたし、この世で一番好きなもの、大切なもの、それはマイケル、あなたなんだもの。
知ってるよ、キャサリン先生。先生が初めてこの店にやってきたときから。そして、真面目だったパパをたぶらかせて、あんな変態に仕立て上げて、優しかったママをあんな残虐に仕向けて、パパと楽しんだあとは、ママと二人がかりで続きを楽しんで。小さな子には目に毒ね、といって。店の床にぼくを打ち付けたら、ことを始めるんだ。店と家を隔てるカンヌキ付きの重たい扉をわざと開けっ放しにして、紅蓮はパチパチ、悲鳴はダダ漏れ、ぼくに目隠しもヘッドホンも被せないまま、作法を始めていく。
そう、始めから作法を極めるためにあなたは存在しえてるの、マイケル。あなたの出来ることといったら、この店の店番だけ、あとはすべてが役たたず。相手の身になって友だちをつくることも、気の利いたお調子で女の子のご機嫌をとることも出来ないわ。
・・・・・・・あれから、ずっと、繋がってる、の。
そう、ずっと繋がっている、わ。
初めて店の外へ出て、学校へ行った日。先生は「なんて可愛いの、マイケル。食べちゃいたいくらい」と云って、ぼくを高い高いして、顔中が先生の口紅で真っ赤に染まるくらいキスされたあの日から、ずっと繋がっているのんやとしたら、そこから始まっとるうちの記憶が、作法を極めるためにずっと繋がっているんやとしたら、うちと先生を区切るものなんぞあったりはせぇへん。先生が店に戻ったのは、それを告げるためや。わかってる、言わんでも。うちが思うこと、うちが意識することは全ての先生と繋がっているんやから。それでも、もし、うちが、立ち止まってしまい、そんなこんなんを辞めようと思ったら・・・・・心配せんで、そんな哀しそうな顔せんで、先生。そんなことは足の指一本も外に漏らしたりはせぇへんから。そんなことをしたら、ガムボールマシーンに最後に残ってるピンクのガムボールがガチャンと落とされてしまう。うちに成りすますために裏返しにしたスルタンのサーベルで丸ぁるく仕立てたマイケルが無なってしまう。キャサリン先生もパパもママも、ダニエルもイーサンも、ゴードンもナタリーもアンソニーもシャーロットもベンジャミンもサマンサもケヴィンもホセも、ジョゼッペさんもジョゼッペさんのリヤカーも、この店も。そしてママの成りすましだと先生が決めつけた赤毛の女の子も、赤毛とソバカスの女が好きなマイケルの欲情も、みんなみんな無なってしまう。
そんなことは、せん。けっしてするわけない。作法を繋ごうと意識しておる限り、お店は瓦解せんし、キャサリン先生はなりたいもんに何でも成りすませるんやから、安心していつまでもお店の瓶を眺めておって、ええ。




