第二十五話
「マイケル、あんたにママなんて、本当にいたんだっけ」
ボールのマイケルを受け取り投げ出すほんの僅かのあいだ、女の子たちは一言づつ吹きかけてくる。寸胴なのにちゃーんとお乳の出来上がっている窪みに納まると軟やかなものにキュッと固まった高い音に混じって、醜い言葉がとんがり棒に拵えた人形のようにグサッ、ズキッと斬り込む。
「マイケル、こんないいお天気にあなたの顔みちゃったじゃないの。5セント返して」
「マイケル、あなたの溶けたロウソクみたいな両脚、それってちゃーんと歩ける脚なんでしょう。歩けるんだったら、ランチの前に早く帰ってよ」
臭ってくる、臭ってくるよマイケル。せっかく釣り上げたのに、とんでもなくらい大漁なのに、みんな口に入れたら、舌が丸まっちゃうくらいマズくて食えない魚ばっかり。籠に入れたまま放っておかれ、猫に引っかかれ、カラスに突っつかれ、それでも一片の肉さえ持っていかれず、放りっぱなしのまま見えない虫たちに溶かされ朽ち果ててく嫌な嫌な匂いがしてくるよ。
ー みんな、いじわるね。さぁーマイケル、こっちにいらしゃい。さぁーわたしの胸の中でしばらく休んでるといいわー
ママぁー、ママの声。ちゃんとママは、ママだけは、いつでも、どんな時でも・・・・・・・・・
グサッ
いやっ、そんな濁音じゃない。
スルっ スパっ クサっ
そんな尖んがった葉先の先端に皮膚を射抜かれた音。次にやってくるのは溢れるような赤、紅色のほうがふさわしいかな、ずっと身体中に漂っていて外には触れない清潔な血。それが身体を引っくり返して、ボールの芯に埋まってる頭の周りを駆け巡ってる。
誰も降りたことない深海を照らす眩しい光。鮮血はそれくらいに純粋な色を放って中を巡っている。
きれいっ、綺麗だ。だから、痛いとか怖いとか辛いとか哀しいとか、そんな感覚は起こってはこない、んだ。
ー マイケル、何で本当にことを言わないの。そんなありもしない綺麗ごとばかり集めて、そんなのは鎧にも盾にもなりはしないわ。痛いでしょう、切ないでしょう、喉が渇いてヒリヒリするくらい、ポタポタ血が滴ってるんですもの。拵えたばかりのモズの早贄みたいに全身が血だるまよ、空気を詰めたボールだったら、紙風船よりも薄くペラペラになって、先に血溜まりになって地面に打っ潰しているところだわ。




