第二十三話
貯まっていた、或いはつっかえていたガムボールが一斉に下に爆ぜる音がした。歓声をあげる男の子の声。二人、三人、いやもっと多くだ。ドッジボールに参加してた男の子たち、みんなだ。みんなそれぞれ自分のガムボールを見つけて、口に頬張り帰っていく。帰っていくって、何処から。
お店から。マイケルのパパとママのやっているこの村唯一の雑貨店から、帰ってく。ガムボールマシーンの中は、あとひとつだけ。マイケルのガムボールだけ。ニキビも吹き出ものも、ない。ましてや、ケロイドもイザリも付いてない綺麗な泥団子のガムボール。
ー こんな綺麗なかたち、マイケルじゃないよなー
そうだよ。マイケルだったらブツブツや毛むくじゃらが食っ付いて、口ん中に放りこめばミントや砂糖の代わりに、カメムシソウやアオムシを煮出した汁が出てくるに違いない。
マイケル、マイケル、ブツブツまいける
マイケル、マイケル、ケロイドまいける
マイケル、マイケル、ゾウムシまいける
ゾウムシ。忘れかけていた虫の名前だ。「ゾウムシ まいける」も久しぶりに聞こえてきた。
ぞうむし まいける ぞうむし まいける ぞうむし まいける って・・・・あし、・・・・・・そう、象みたいに太くてずっくりしてて、かけっこも、すきっぷもてんでバラバラの象みたいな脚。小さなぼくの記憶は、二本の象の足ばかり見つめているものしか、残っていない。グッとしゃがんで、破れてグルグル巻きになった靴の廻りを生乾きの薪みたいな脚が二本。そう、それを見ている丸ぁるい楕円の中にはゾウムシがいる。二匹以上が必ず入っている。世の中には六万種類もいるのに、みんな小さな硬い害虫としか扱ってくれない。それも、小麦の中で見つけたときだけ。粉にする前の小麦の中や、脱穀する前の小麦の中、実をつける前の小麦の蓋の中。
そのときだけだけでなく、外に出ればいつだって、皆んなの足元にちゃんといるよ。ちっちゃくて小さな鼻をモゾモゾさせて、可愛いダンボがそこにいるよ。
小麦の中でばかりみつけるから、イケナイんだ。ヒヤシンスの先端の、そこから零れ落ちる水滴をユラユラ揺らす正体はオジロアシナガゾウムシ。シーソーみないに水滴とじゃれあっている姿はとても可愛い。見つけたら見つめて、見つけようとしてあげれば可愛いところなんて、生き物なら必ず持っているのに。
ー ゾウムシは可愛いさ。けどマイケル、お前様は醜いだけやないか ー




