第二十話
あの三人は、もうそんなボールゲームの行方など見てやしない。しぼめた傘の先を突んがらせ、本気のチャンバラを始めてる。此処からだと好き勝手にじゃれあってるようにしか見えないが、近づくと、弱みを見せた相手に二人がかりでいたぶる戦法を延々繰り返しながら、手傷の多くなってる相手の品定めに余念がない。
はじめは、パパとキャサリン先生で組んでママをいたぶっていたが、二人がかりだから勝てる組み合わせでないと分かると、ママとキャサリン先生でパパをいたぶり始めた。
今度は、真剣を使ったお遊戯じみた真似事なぞでなく、ブスブス剣先がパパの黒いフロックコートに刺さる。傘の剣先なので小っちゃいのだが、刺さるたびに細い血しぶきが孤を上げる。
「パパ、何もこんな暑い日に大仰なフロックコートなんか着てこなくてもよかったのに」
パパなのに、血しぶきなのに、どうしてもそっちのほうに、あたまが向いてしまう。
「パパは、たくさんの企みを持ってた。だからあーして女二人に刺されて死ぬんだ」と花向けた。
ママがふたりの逢引きのジャマだと、パパがキャサリン先生に仕向けるのをママはしっかり予感してた。まずは三人一緒のピクニックなんて変だったし、パパがお揃いの傘まで用意していたのを見て、したたかなママはピーンときたんだ。それで、ふたりが結託して自分を構い始める前に、ママにこう耳打ちしたんだ。
ー 先生、三人の中であなただけが知らないことをひとつ教えてあげる。あの人、あなたのことが大好き・・・・ううん、照れたりしなくていいの、それは本当のことだから。でもね、あの人があんたを好きなのは、あんたがあの人の理想のハンサムガイだからよ。あのひとの中の乙女が、あんなにもあんたの中の男の魅力に恋焦がれているんやもの。
だから、うちが「知らんでいる」と思ってるあのひとのあんたへの慈しみは、本当の男の優しさから出ているものやないの。ただただ恋焦がれて「お前様に可愛がってもらいたい」、そのいやらしい下心だけや ー
ママは並べていく、キャサリン先生がパパから貰った贈り物の数々を。
ブーケの花束、レースの手袋、花びらの形まで見えてきそうなキツめのコロンと、仲良くなった順に並べていく。
「こんな処で、突然に、こんな真似を」と、妻の嫉妬、妄想、つくり話のカードをそれぞれ横に切り返して、俯瞰した顔で受け止める。ー キャサリンは、先生だもの。子どもたちを導く先生だもの。その子らの母親だからって、此方から登った階段を降りる必要なんてないわ、迷える子羊でなんかないのだからー
けれども、ママの手札は多くて分厚い。次々にカードを切っていく。レジ打ちするときの商いものを流していくときのよう。
ほらっ、このペーパーナイフ、柄が水牛の黒革で拵えているお揃いのお土産、長い方を君にあげるよ。手紙を開ける数は君の方が多くなるだろうから。
指輪をあげるよ、プラチナのカットが三十六面のシャープな奴。ぼくはいつも嵌めておけないけど、あなたにはいつも嵌めたいてもらいたいんだ。その白いアスパラガスの指の真ん中に、一インチ角のまばゆい結晶の三十六面ずべてに、わたしの顔を思い出し浮かべてほしい、の・・・・・・ふぅー、文字で見ても恥ずかしいパパのラブコールはまだまだ続く。




