第二話
ラシャ地の外套に覆われたひとの群れが数珠つなぎとなって歩いている。墓地へは向かうのでなく、その帰りだった。もとは紺色だった外套のひとまでが小糠雨に濡れきって、ぐっしょり黒く重たい水滴が膜を張り傴僂のように皆の背中を丸くする。カサカサとコソコソの小さな話し声が漏れ聞こえてくると、雨は、それが拡がらないようホコリを掃き集めるように、吹き消す。
そんな雨も先頭で遺影をもつ二人に近づこうとしない、特にその母親には。彼女の輪郭には静寂な空気だけがふさわしいことを知っているからだ。この隊列の哀しみは、遺影の赤毛の娘よりも、その娘の喪失を一身に引き受け飲み込もうとしている母親の喪失感から起こっている。そのがらんどうとなった空虚な身体は、小糠雨の点描でさえ弾き、家を出たときと同じ、乾いたままだった。
「もらい子とはいえ、あんなにもピッタリの母子はおらなんだ。それが、いきなり、目の前からふっつりと持っていかれ、無うなってしもうたんでは、あのように呆けてしまうより仕方ないわなぁ」
「燃えるような赤い巻毛がバァーと飛び込んでくる、そんな娘だった。いくら名前を聞かされても、赤い巻毛よりほか覚えようのない娘だった」
「ほんに、髪も目も肌も、骨組みさえも、血は繋がっとらんのに、あないに揃うた母と娘は、ふたつとおらん」
カサカサとコソコソは、鳴っては鎮まり、鳴っては鎮まりを繰り返す。鎮魂が相応しいこの母の中には、赤い巻毛よりももっと赤い炎が燃え盛っている。が、そのことに気づくものは誰もいなかった。母であるこの女でさえまだ気づいてはいないのだから。
それは彼女の中から燃え盛っているのでない。先ほど墓に埋めたばかりなのに、もう背中でおんぶの格好をし始めた娘のささやくひと言ひと言が、樹脂に包まれた針葉樹の薪のように彼女のがらんどうになった身体の中にくべられている。炎は大きく、この地方最大の「火祭り」で、生贄に供される人形が立ち昇らせる炎よりも大きく、紅蓮の熱風を立たせていく。
それを見ているのは、死んだ娘とその娘を死に追いやった三人の男たちだけだった。