第十六話
鈍く光る大きなダンゴは、その表面に文字を浮かび上がらせ、語りかけてくる。
「でも、いったい何を丸めて作ったっていうんだい、そのおダンゴ。あの子の買ったピーナッツバターの瓶は、いまでもレジ横のカウンターに置きっぱなしだよ。イーサンの四角い盥やダニエルのカッテージチーズみたいに、お宅に送り付けたものはひとつとしてないはずだけど」
ウーっ、フフフと女は笑う。ー マイケル、あなた、あの子の手癖の悪いの、本当に気づいていなかったの。お店のガムボール、もうほとんど残ってやしないでしょ。あの子、おつかい行くたびにニコニコ平気でくすねてきてたんだからー
ガムボール? この店にガムボールなんて置いてやしないよ。小さな子どもがあんな大きなもの頬張ったら危ないってママが置いとくの嫌がってたから。
ー なに云ってるのマイケル、ガムボールマシーンなら、昔からそこにあったやないー
おダンゴに浮かんだ「そこに」の矢印は、スロットマシーンを指さす。パパがママに相談せずに買ってきたスロットマシーン、はじめっから壊れて動かないスロットマシーン、一度も金貨を吐き出したことのないスロットマシーン。
ー それはガムボールマシーン。お腹に詰めているのは色とりどりのガムボール。どんなに待っとったって金貨なんて一枚も吐いて呉れるわけないわぁ。それに・・・・・ ー
・・・・・・まで打って、もったいつけて一呼吸入れてとる。
ー それに、それがガムボールマシーンだっていうのはパパもママもしってるのよ。しらないのはあなた、マイケルだけー
お喋りは丸文字に揺らいでいき、何か立ち眩みの起こる前触れのようにマイケルは首筋のあたりが何か冷たく吸い込まれていく感じを覚えた。
泥だんごは真ん中から亀裂を作ってひっくり返り、「こんな小さな中によくぞこれだけの仕掛けを」と驚くくらいパタパタと店の中の模様替えを進めていく。一気にではなく、それを進めている動作をマイケルに見せるスピードで。
それを進める女の手の跡の作為を感じる。
それでもマイケルは震えもせずに、模様替えの様を落ち着いて眺めている。何がどのようにと眺めていられるうちは、イーサンやダニエルが「あのようになる変わり果てる」前の己れの軸が残っている証だと、奮い立たせていた。




