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第十四話

 塩辛い風に打たれているときは、いつもあっぷあっぷで、感情が口をついて出てくるなどついぞ気にしたことはなかったのに、こうして風を感じない中にいると、あの女の上げている狼煙(のろし)の中に次から次へと溢れ出るものがくべられ、空へ空へと舞い上がっているのがようく見てとれる。

 中空に、大きな石造りの土台にのったチベット密教の寺院が現れた。

 ガラガラ廻していく膨大なお経の書かれたマニ車のようにうんうんいって、右手から左へ、左手から右へ、登っていく言葉を吸い込み集めている。

 マイケル、ダニエル、イーサンの三人の男たちは、各々から、それを見てる。魔女の声というものを覚悟していたが、そうした類の声では、どうやらないらしい。

 何に一番似ているかといえば、幼い頃に誰もが一度はママに読み聞かせてもらったドラゴンの出てくるお話し。その邪悪な方のドラゴンをママが声真似してる、低いけれど(おび)えるほどでない唸り声、そんな声だった。だからといって聞き続けたくはない。段々に近づいて、トグロを巻いて締めにかかる恐怖は増してくる。イーサンとダニエルは、マイケルの言いつけがなければ、すぐにも窓を締めてベッドの潜り込みたい気持ちに変わりはない。それを必死に、窓に手を掛けたくなる両手を必死に堪えて、バルコニーに立ち尽くす。

 

 狼煙は消えて、灰ばかりになってしまうと、女は形を示しに掛かってきた。ひとすくい、ひとすくいと、灰を丸めて

て、泥団子をつくる。ピカピカの砲丸まで磨かれた三つの球を大事そうに胸元に抱えると、これからピクニックにでも出かける楽しげな足取りで、ダニエルとイーサンのここまでの足跡が見えてでもいるように、そっくりたどって、おのおのの戸口に一つずつ置いていく。

 贈り物は「食べ物」なので、レースの掛かったナプキンに包んで、そっと置く。重みに負けて、ナプキンが沈み込んでいかないか、地面にかがんで確認してから、女はやっと辿(たど)った足取りを引き返した。

 三人は各々、バルコニーから女の「一挙手一投足」と「立ち居振る舞い」を見続けなかればならない。そんな作法はマイケルもいま知ったことなので、二人に教えなかったが、窓を閉めず、バルコニーから手を離さず見続けていたことだろう。

 バルコニーから掌を離すなんて出来っこない、まして目を離すやなんて。

 女が後ろ姿になってから、それを拾いに行く。ナプキンとレースを剥がさなくても、「定められた場所にてお早めにお召し上がり下さい」なんてカードが添えられてなくても、泥団子を持てば自ずとそこに運ばれていくのを知っている。


       イーサンは、泥の深く詰まった池のほとりへ

       ダニエルは、干し草の詰まったサイロの中に

       マイケルは、あのスロットマシンの前へ


 マイケルだけは、二人の最期を見届けるまでは口にできない。曇ったガラス窓を2つ楕円に拭き取ると、そこに遠メガネでも施したように()()()()()()()()が現れた。

 もちろん、時代がトーキー前だから、音はない。モノクロや。



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