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第十二話

 「この三日間、ちゃーんといい子で過ごしていたかい、イーサン、ダニエル」

 目隠しするほどの大きな紙袋を顔の正面に抱えたゴードンさんを見送ったあと、マイケルはあのあとはじめて生の声をかけた。二人は自分の名前を呼ばれたとき、襟首を掴まれたクマみたいに、ゲンコツひとつ分だけ天井に引っ張られたような怯えた顔をした。

 マイケルの「三日後に、同じ時刻に、仕事帰りのビールを飲みに来てくれ」の言いつけを守って、二人は再び店にやってきて、それぞれ別に注文したビールを丁度半分飲みあげていた。「注文したのに一口も口をつけないなんて真似はけっしてせんへんように」とも帰りがけに添えられた。

「ひとつも間違えずに言われたとおりしたよ。村が夜になったら、12時に店に再び戻って、あの子をあのまま崩さず、(みち)は通らず、12エーカー離れたあの娘の屋敷にそっと置いてきたよ。朝起きたあの娘の母親が、道沿いにぼんやりしかみえないけれど、間違いなく帰ってきたあの娘だって分かるように。それから先は、」

 マイケルの唇が動き、イーサンとダニエルは、その口真似どおりに復唱する。

 いつもどおりの時間に起きて、家族と食事をし、仕事に行って、帰ったら再び一緒に食事をし、家の誰よりも早くベッドに入る。例え、眠くなくても、すぐには眠れないとわかっていても。二日後に催しされる葬儀には参列し、前に並んだ三人が述べた弔いの挨拶の中から気に入ったものを選んで同じ挨拶を繰り返す。

墓地までの葬送のときは、大勢の喪服の男たちの塊の中に、マイケル、イーサン、ダニエルの誰かとぶつかる位に近づいても、

「目は合わさない」

「目はそらさない」

 イーサンとダニエルの二人は、学校に入りたての良い子たちのように一生懸命に復唱する。 

 マイケルには、二人はがどこに座っていたいのかがようく分かっていた。彼ら二人、それぞれ別々にこの店に来た時は、各々(おのおの)の席に座っていた。イーサンはダニエルの座ってる右側の席、ダニエルはイーサンの座っている左側の席。今も昔も変わらない席で、仕事帰りのビールを飲んでいる。

 時折、「都度事に買いにくれば、こんな目の前が隠れるくらいの大きな袋を抱えずに済むのに」と、村の人が皆んな思ってるゴードンさんの買い物に遭遇する。仕事帰りの夕方、夕食前の夕方、今日一日が更けていくときのセットになった光景だ。

 二人は、それぞれ、マイケルと一緒にゴードンさんを見送る。いつもと今日の両方をスケッチしたら、あまり変わり映えしない構図になるだろう。ダニエルの場合はイーサンが居て、イーサンの場合はダニエルが居て、それを書き加えれば、大袋に隠されたゴードンさんの顔と、もっと遠くを見つめているマイケルの顔は同じタッチで十分だ。

 ー だから、きっと、ふたりはこんな風に声を変えてもらいたいんだ。久しぶりだねイーサン、お父さんみたいに鉄と仲良くなったらかい。こんばんわダニエル、こんな寒い日は夜になる前に牛を温めてやらなくちゃダメンじゃないかい。

 そうしたら、きっと、あの夜は夢だったんだと。催眠術にかけられたみたいに3人が3人とも見せられた不思議な体験だったんだと。マイケルだってほら、いつもと変わらず、オルゴールみたいに決められたフレーズを繰り返し話してるじゃないか ー

 いつもどおりの決まり文句をかけてあげれば、一時の鎮痛剤のように、こわばって懇願している顔が少しは和むだろうか。ー あれは、すべて演技、ぼくもあの娘もアクターズスタジオに通わなくたって大したもんだろう。どんなからくりであんな大仕掛けができたかなんて、聞かないでよ。そんなこと聞かれたら、また本当のことを話さなきゃならんやないかぁ ー

 マイケルは、そんな意地悪は思いつけても慈しみの心は芽生えてはこない。それは致し方ないと、当のマイケルは分析する。今のマイケルは、己れを俯瞰し、広く客観的に洞察する能力にたけた利口者(りこうもの)だ。だから、ダニエルもイーサンもあの女と対峙する仲間だから、彼らにそうしたマイナスを持ち込んではいけないと、意地悪も鎮痛剤も与えないことにした。


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