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第十一話

 首を斬っていたときに予め(あらかじめ)そのことに気付いているべきだったと、マイケルは思った。このことの始まりは、あの()が「作法」と呼んでいる後戻りできないこのことの始まりは、ダニエルがイーサンにあげた、あるいはイーサンがダニエルと交換したあのカッテージチーズの山を、あの()がおいたしないよう両方の掌を後ろに組んで()きっ腹のうなぎが()肉の塊をむさぼるようにかぶりついたときから、始まったのだ。

 弔問の間、継母はずっとあの子の顔に傘をさしていた。可憐な温かさを施した顔に冷たい雨が掛からないようする態度に見せていたが、首輪回りを覆う無数の針と糸のあとが見破られないよう影を作り、それ以上ひとを近づけないようにする巧妙な配慮なのだ。それでも、その腕前をどうしても見てみたいと覗き込む(やから)が現れたら、その男こそこのことに結びつきを持つ輩だ。だから、結びつきを持つものと勘ずかれないよう視線を止めずやりすごし、あとで確かめようと網膜の残像に焼き付けた。そして、ダニエルとイーサンが、後始末を終えたあとに言い渡した指示を守り、自分と同じように振る舞っているか注視した。

「今晩のことは忘れんでいい。きっと、忘れられたりは出来んやろうけど。それでもうちら三人とこの()のためにこれだけは守らんと、いかん。この村のモンたちと行きかうとき、異なる視線を送らんこと、異なる顔を作らんこと。それと三日後に執り行われるこの娘の葬儀には必ず参列すること、そのときは特に同化するように、サメに襲われても一斉に逃げ回りけっして抜け出さないイワシの群れの一匹になったように」

 前に並んでいた二人はそのように振る舞った。マイケルは、後ろ五人を残した最後の方に並んで同じ振る舞いをした。・・・・このようなことになってしまい・・・・なんと言ってよいか・・・・それでも、おこころは気丈にもって・・・・安らかな・・・・・いずれまた、何か、別の何かがあると・・・・・前の参列から数珠つなぎの言の葉を途切らせないよう、いずれかこの場にあったものを取り出して、継母(ままはは)の視線を合わせず避けず、やりすごした。そして、後ろ二人の老人と一緒の塊になって遠ざかり、継母の関心が最後の重要な弔問客に移動したのを確認してから、ようやく網膜に反転させたあの子の残像から首の根の修復した跡を拡大し、凝視し始めた。

 女の手際の良さに、冷たい刃物で背中の薄くて長い毛を、すぅーと撫でられていく心地がしてきた。あんなに手際よく裁縫がスイスイ運んだら、あの女自身驚いたことだろう。針を入れても血糊が零れてこないのには、おぞましさを感じたかも。一滴残らず血を吸い上げられ屍体をみたら、吸血の儀式が間に横たわっている悪寒が奔る(はしる)ったか。でも、あの女は知らない、ことにあたってのあの()の作法の心根までは。ことを始めるときに己れの身体同様に周囲が汚れ散らないよう、後始末に粗相が生じないよう、血管という血管をすべて漆喰が塗り固めるように、あの娘の食べたカッテージチーズは身体の中から塗り固めていった。ウナギの群れのようにかぶり付いたあの娘の行いは、情熱でも狂乱でもなく、作法に則って行われていたんや。


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