◎決戦・1
バアルゼブブ編の終わりに向かいます!
「うぉおおお! 神狼様の眷属様達ーッ!!」
「これで神狼様が来れば負ける訳ねぇッ!」
「助かった……! 俺たちゃ死なずに済むんだぁーッ!!」
ガーランド達一行がバール村の門を抜けると、そこには守護軍の他にも数多くの冒険者達が待ち構えており、ライム達ルウファの眷属の姿を目にした冒険者達が一斉に歓喜の叫びを上げていた。
守護軍の騎士達はさすが精鋭だけあって規律が守られている為に声は上げないが、その騎士達の視線でさえ熱を帯びているものであった。
冒険者にしても、この場に集まっている冒険者はいずれも金級ランク以上の冒険者達ばかりなのだが、二日間のバアルゼブブとの戦でその強大な力に恐れを抱いており、その為、救世主とも呼べる神狼やその眷属が参戦するという話を聞いて歓喜しているのである。
そんな歓喜の中、実に居心地悪そうにガーランドを初め、シュナイデル、ジャッシュ、アニー達は軍馬に乗ったままバール村の軍の駐留施設に向かっていく。
誰もがライム達を見ており、この場の主役が誰なのかを理解した為にガーランド達はその場を離れたのである。
ルウファやガイアスにエロフと呼ばれようとも、彼女もやはり騎士達を束ねる将軍。自らが表舞台に立つ時と場合を理解しての行動であった。
ガーランド達が軍の駐留施設に向かった後も、バール村の門前広場は興奮する者達の声に溢れていた。
ともすれば会話などは不可能だろうと思うだろうが、ルウファの眷属となったライム達には関係ない。
優れた嗅覚以外にも、眷属となったライム達は優れた器官を持っている。その器官とは聴覚である。
人間の耳には聞こえない超高音や超低音も、ルウファの眷属となったライム達にはハッキリと聞こえるのである。
その並外れた聴覚を発揮し、ライム達は会話を行う。
『な、なんでライム達歓迎されてるの……!?』
『さぁ? でもぉ、神狼様とか眷属様達とか聞こえるからぁ、もしかしたらルウちゃんの正体を誰かがバラしちゃったのかもねぇ』
バール村が割れる程の歓声が響く中、ライムとアリエスは並外れた聴覚を利用してガルルとそう話す。二人がそう話す間も歓声は続いており、それどころか、より一層歓声は増すばかりであった。
『もしかしたらですが、ガイアスさんがルウの正体を明かしたのかもしれませんね。……いや、恐らくそれが正しいでしょう。現に……ほら、ガイアスさんがワーウルフの姿でこちらに歩いて来ますよ』
ライムとアリエスの話に、ガルバはグルルとそう言いながらある一点を鼻と視線で指し示す。
ガルバの示した方にライムとアリエスが視線を向けると、美しき真紅の体毛を靡かせながら、一体のワーウルフがこちらへと向かって来るのが確認出来た。ガルバの言う通り、ガイアスである。ガイアスは冒険者達が開けた道のど真ん中を歩いて向かって来ていた。
そのガイアスの姿は威風堂々としており、自らの姿がワーウルフという事にさえ誇りを持っている様にライム達の目には映って見えていた。
『あたしのこの姿の力が増したと思ったら、ライムちゃん達もルウの眷属になってたのね。匂いからして蒼い狼がライムちゃんで、白くて小さいのがガルバ君よね? …………。そ、そっちのピンクの狐もルウの眷属なの!? ま、まぁいいわ。今のあたしの言葉は分かるわよね? ピンクの狐ちゃん初めまして、あたしがルウの母親のガイアスよ。よろしくね?』
ライム達三頭の狼の下にやって来た紅きワーウルフのガイアスは、三頭の内誰がどの狼かを確認すると、見慣れぬアリエスへとガウガウと挨拶をした。
ガイアスでさえもアリエスの姿はやはり狐に見えており、匂いでアリエスもルウファの眷属である事は分かっているのだが、やはり戸惑っている様だ。
しかし、そこは軽い性格のガイアスだ。見た目が狐だろうが狼だろうが、同じルウファの眷属として認めたのだろう。
『は、初めましてぇ! 私はアリエスって言いますぅ! ルウちゃんから聞いて知ってましたがぁ、本当にガイアスさんがお母さんだったんですねぇ……!』
『ええ、そうよ? で、アリエスさんはどういった経緯でルウの眷属に?』
少し緊張しながらも挨拶を返したアリエスに、ガイアスはどうしてルウファの眷属になったかを訊ねた。
ガイアスとしては、自分の知らない者が眷属になった事が気に食わない部分もあるのだろう。それに、ルウファの眷属として相応しいかどうかを確認する為に経緯を訊ねたのかもしれない。
ワーウルフの姿の為にガイアスの表情は窺い知れないが、その視線には鋭いものがあった。
『ガイアスさん、そこからの説明は私がします。そもそも私たちは──』
アリエスが眷属となった経緯はともかく、そこからの説明はガルバがグルルと行った。アリエスの経緯はどうあれ、ガルバの説明にはそれも含まれるのでアリエスも説明を任せた。
そして、ガルバはガイアスへと説明していく。
セイル村で村人が肉のスライムと化して襲って来た事。
その肉のスライムが融合し、バアルゼブブの分体であるアリオクと名乗る化け物になった事と、そのアリオクをルウファが人狼となって倒した事。
人狼となって守ってくれたルウファを、その場にいた全員が認めて受け入れた事。
そのルウファを寂しさから守る為に、ライム、ガルバ、アリエスが眷属になった事を、ガルバは一つ一つ丁寧に説明していった。
『──という訳で私とライム、そしてアリエスさんはルウの眷属となったのです』
『……そう。アリエスはその場の勢いで眷属になったのね……。それで……どうして狐みたいな姿なの? ルウは神狼なんだから、その眷属は狼じゃないと変でしょ!?』
『そ、そんな事言われてもぉ……。でもぉ、ワーウルフになった時の快感は最高でしたぁ♡』
『…………』
ガルバの説明にとりあえずは納得したガイアスであったが、やはりアリエスの姿には納得出来なかった様である。
……ルウファでさえ不思議に思ったのだから、何故アリエスが狐の姿になったのかは誰にも分からないだろうが。
ともあれ、未だ冒険者達の歓声で沸き立つバール村の門前広場ではあるが、そろそろバアルゼブブが予告した戦の時刻である。いつまでもお喋りしている場合でもないだろう。
神狼の眷属達を讃える歓声は、一人の男の登場で静まり返る。
その男は白銀の鎧に身を包み、緑の髪を獅子の様に靡かせながら広場の中央へと進んでいく。男と言うよりも漢の文字が似合う偉丈夫、カミトである。
今年で三十歳を迎えた彼の顔には凛々しい口髭が生えており、そのせいもあって、より一層将軍としての貫禄が増している。その姿は歩くだけでも他を威圧する程であり、また、揺るがぬ自信に溢れていた。
静まり返る広場の中、カミトはその場にいる全ての者達へ向けて口を開いた。
「これより戦の時刻となる! 総員……出撃ぃ!!」
「「「「「うぉおおおおおおおっ!!!」」」」」
カミトの言葉に盛大な雄叫びで応える守護軍及び冒険者達。その咆哮はバール村を揺るがす程であった。
出撃の言葉を述べたカミトの少し後ろには冒険者ギルドのギルドマスターであるガードナーと、カミトと同じく第五守護軍の将軍であるアドラス、そしてつい先程ライム達とバール村へと到着したガーランドがいる。
その全員がそれぞれ戦闘装備をしっかりと整えており、ガーランドに至っては、フェイスガードまで付けた完全装備である。
そのカミトやガーランド達が見つめる中、守護軍の騎士達や冒険者達が次々とバール村の門から出ていく。
神狼とその眷属達が味方となって参戦してくれる事もあってか、およそ三千人の連合軍の士気は初日を超えるものとなっていた。
『それじゃ、あたし達も行くわよ! ……ガーランドが送ってきた冒険者の二人は参加しない様ね。まぁ青銅級っぽいから参加しなくて正解だけど』
カミト達将軍も全て出撃した所で、ガイアスはライム達にそう告げる。
ジャッシュとアニーが戦に参加しないのは残念だが、それも仕方ないかと納得し、ライム達はガイアスの後を付いて門を出ていく。
『ところであなた達、眷属になってからの戦闘経験はあるの? 一応言っておくけど、魔法の威力を求めるなら狼形態で、近接戦闘ならワーウルフ形態が最適よ? まぁ人によって違うと思うけど、あたしの場合はそんな感じね』
バアルゼブブが指定した戦の予定地へ向かう最中、ガイアスはガウガウとライム達にそう教える。
ガイアスは眷属となって既に五年、それぞれの形態の能力をしっかりと把握したからこそライム達にアドバイスをしたのだろう。
更にガイアスはガウガウと続ける。
『ただ……ルウの眷属が増えた事で今までになかった力を感じるから、あなた達もその時の状況を考えた上で力を試すのも良いかもね』
力を試すのも良いかもと話を締めくくったガイアスは、自らの体に感じる新たな力を確かめるかの様に手を開いたり閉じたりしている。
その度に膨れ上がるガイアスの腕の筋肉。
それと同時に、ガイアスの紅き体毛に炎の様な揺らめきが見て取れた。
『うん、分かったよガイアスさん! ライム、色々試してみるね!』
ガイアスの言葉にそう答えたライムは、やはり魔法よりも近接戦闘の方が良いと判断したのだろう。直後、狼形態から人狼形態へと変身する。
そして蒼き体毛が美しい人狼形態となったライムも、ガイアスと同様に手を開いたり閉じたりして力の感触を確かめている。ライムの蒼き体毛は仄かな湿り気を帯びて、より鮮やかさを増して見えていた。
『ならば私はこのまま……と言いたい所ですが、それぞれの形態の能力の把握は大事な事ですので、私もワーウルフ形態から試すとしましょう』
ライムがガイアスに倣って人狼形態となった後、ガルバもそう言いながら人狼形態へと変身した。
子狼といった体は瞬く間に巨大化していき、まるで白熊の様な白きワーウルフへとなった。
『な、何でそんなに大きいのよ!?』
『いや、何でと言われましても、それは私にも分かりませんし、ルウにも分からないそうですよ?』
『そ、そうなんだ……。うん、ルウは神狼だもんね、その眷属に色々いたって可笑しくないわよね……!』
巨大な白熊といったガルバを見たガイアスと、そのガルバとの会話である。
ルウファ同様、ガイアスもガルバの巨躯に驚きを隠せなかった様だ。
『私はぁ、このまま狼形態でやってみますぅ。何となくですけどぉ、私は支援系の能力の気がしますしぃ』
ガルバに驚くガイアスはさておき、アリエスはピンクの狐のまま戦に臨む様である。
元々アリエスはギルドの受付嬢である為、戦闘に関しては素人も同然であろう。
だが、ギルド職員という事は、魔物に関しての知識は豊富という事でもある。恐らくアリエスはその知識を存分に発揮し、騎士達や冒険者達をサポートしていくつもりなのだろう。
ともあれ──
『いよいよね……! バアルゼブブの奴、今日も昨日と同じ様に一人で来たわ! 昨日はコテンパンにやられちゃったけど、今日は負けないわよ! まだルウが来てないけど、ルウが来る前に目に物見せてやるんだから……!』
──昨日と同じ場所に敷く連合軍の陣に着いたガイアスは、ガウガウと叫んでいた。
そのガイアスのワーウルフとしての咆哮に、カミトを含めた連合軍の全ての者達が振り返る。
「あ、あのでかいのも眷属様なのか!?」
「ガイアスさんの隣にいるんだからきっとそうだ!」
「あの蒼い眷属様……何だか艶かしいな……♡」
ガイアスの傍に並ぶライム達を見た冒険者達は口々に感想を述べている。一部マニア的な発言が聞こえてくるが、それも士気の高揚に繋がるならば構わないだろう。
「まずはアドラス将軍の『禁呪』……《凍れる世界》を放つ! それによって動きを止めた敵を貴様らは討て! そして死を恐るな……! 我らには神狼様がついているッ!!」
魔王然とした巨大なバアルゼブブを目にして、冒険者達の喧騒を戦意の高揚へとする為にカミトはそう鼓舞した。そのカミトの表情は勝利への自信がみなぎっており、その自信は連合軍の一人一人に広がっていく。
程なくして、連合軍からは怒号が上がる。
昨日までの恐怖を払拭する様に、昨日までの絶望を恥じる様に、一人一人があらん限りの声で吼えていた。
「「「「「うぉおおおおおおおっ!!!」」」」」
それを満足そうな顔で見ていたカミトは、静かに、そして闘志溢れる声で一言呟く。
「勝つぞ……!」
決戦の幕が切って落とされた──!
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