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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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◎森を行くガーランド達一行

もう少し……あと少しでバアルゼブブ編は終わるはずです……!

 

 セイル村を出発したガーランド達一行は、最も早くバール村に辿り着けるルートである神滅の森経由のルートを進んでいた。

 獣道の様な道無き道を進み、それでも軍馬の速度は落ちていない。その事からも、ガーランドとシュナイデルの卓越した操馬技術が窺えるだろう。


 その後を三頭の狼達が追従していく。ライム、ガルバ、アリエスの、ルウファの眷属となった狼達である。

 狼達の先頭を走るのは、蒼き体毛が美しいライムだ。その後を白い子狼といったガルバが続き、最後尾にはピンクの狐といったアリエスが軽やかに走っている。


「止まれぇ! そろそろ休憩にする!」


 しばらくして、先頭を走るガーランドは自らが駆る軍馬の速度を徐々に緩め、そして歩く速度に落とした所で休憩の指示を出す。

 その指示に従い、シュナイデルも軍馬の手綱を引いて止まる。狼形態のライム、ガルバ、アリエスも順に止まっていく。

 辺りには軍馬の荒い呼吸音と、ハッハッハという狼特有の息遣いが響いていた。軍馬はともかく、狼形態のライム達にはまだ余裕が感じられる。

 それもまたルウファの……神狼の眷属となった事の恩恵であろう。


 普通の狼であれば、全力疾走に近い状態で一時間も走る事など出来ない。必ず途中で走る速度を緩めたりするものだ。

 しかしライム達は、難なく軍馬の走る速度に付いてきていた。そう考えると、まだまだ狼形態に慣れていないのに、その能力を十全に発揮しているライム達を褒めるべきなのかもしれない。


 それはさておき、


「……ジャッシュ、顔色悪いけど大丈夫? 酔ったんじゃない?」


 ガーランドの後ろに乗るアニーがジャッシュの顔色の悪さに気付き、調子を訊ねる。

 確かにジャッシュの顔色は悪く、今にも胃の中の物を戻しそうである。

 ジャッシュはハムスターの獣人であるが、獣人とは自らの元となった獣の特性を色濃く受け継ぐ種族である。

 つまり、他の動物に騎乗する事に基本的に慣れていないのだ。本能でそれを嫌っている節もあるが、自らの体で走りたい欲求があるのだろう。

 だからこそ脳筋種族と言われたりするのだが、当の獣人にそんな事を言えば後が怖いので誰も言わないのである。


「あ、ああ……だいじょうっぷ!? あ、危ねぇ……! 出る所だったぜ……」

「ジャッシュどのには少々きつかった様ですな。これくらい、守護軍では飯を食いながらでも出来ますがね」


 アニーの言葉に吐きそうになりながらも大丈夫と答えるジャッシュと、だらしないと暗に言っているシュナイデル。初対面の時、ジャッシュにおっさん呼ばわりされた事をシュナイデルは根に持っているのかもしれない。


「だらしないぞ、ジャッシュ! 乗馬が得意なあたいの後ろなら酔わないと思うが、残念ながら男は乗せんと決めているから諦めてくれ」

「……結構酷いですよね、ガーランド様もシュナイデルさんも。でも……頑張って、ジャッシュ! 私も酔うのはごめんだし、何より私が違う男の後ろに乗るのはジャッシュだって嫌でしょ? そういう事だから、吐き気は我慢してね」


 ……ガーランドとアニーも大概な物言いである。


 ともあれ、ガーランド達四人は軍馬から降り、近くの地上に張り出している木の根へと腰をかける。

 ガーランドにした所で、長時間の騎乗というのは堪えるものがある。それに、元々は体力に自信の無いエルフなのだ。守護軍の将軍とは言え、一時間も軍馬を走らせ続けたのだから驚くべき体力である。


「この調子で進めば、恐らく昼前にはバール村に着くだろう。いきなり訪ねて脅かすのも楽しいが、事が事だけに報せといた方がいいだろうね。……《シルフィ》!」

「ガーランド様、シルフィって誰ですか?」

「アニーどの、シルフィとはガーランド様が使役する風の精霊ですな。戦闘には弱くて使えないらしいのですが、離れた地にいる顔見知りに言伝を頼むにはもってこいだそうです」

「……何故お前が答えるんだ、シュナイデル? まぁいい。という訳で、シルフィ……バール村にいるはずのカミトに昼前に着く事と、バール村所属の冒険者を送っている事を告げてきてくれ。……ガイアスもいるだろうから、その間抜け顔を拝んでくるのも忘れるなよ? あっと、忘れる所だった。ルウちゃんは尊い理由で遅れるけど必ずバール村に行くという事も忘れずに伝えろよ? それじゃ、行ってこい!」

『はーい、ガーランド様! このシルにお任せあれ〜!』


 休憩がてら、ガーランドはカミトの下へ風の精霊であるシルフィを送った。

 言伝を頼まれたシルフィは、その半透明な体を風の中へと溶け込ませていく。

 こうしてガーランドは風の精霊シルフィに言伝を頼んだ訳だが、風の精霊にとってこんな事は朝飯前である。

 この世界に限らず、生き物が生きる為には空気が必要である。そしてその空気があるならば、風は生まれる。風とは空気の流れであるからだ。

 その空気の流れ、風に溶け込む……いや、シルフィは風そのものの精霊なのだから、余程遠い地でなければ瞬時にどんな場所にも姿を現せるのだ。

 まぁ、言伝を伝えると言っても、シルフィ自体が相手の顔を知り、その者のマナを知らなければ無理ではあるが。


 ともあれ、ガーランドが言伝を頼んだ風の精霊シルフィはカミト達に希望の光を与えるのであった。


「そろそろ吐き気は治まったか、ジャッシュ? うむ、まだの様だが、これ以上の休憩は時間の無駄だから行くぞ。ライム達は……問題なさそうだな」


 シルフィをカミト達の所に送ってから、時間にして10分程経ってからガーランドは出発を告げた。

 見れば軍馬の息も既に整い、森に生える柔らかな草を食んでいる。鍛えられた軍馬だけに、僅かな休憩の時間でも十分な休息は得られたのだろう。


「……ジャッシュどの、これを持っていて下され」

「これは……?」

「……袋、ですぞジャッシュどの。胃の中の物を戻す時はその袋にどうぞ」

「……ああ、ご丁寧にありがとうよ」


 シュナイデルとジャッシュのやり取りはともかく、ガーランド達一行は再び軍馬に跨り、バール村へと走らせる。

 それを見たライム達も後を追い始めるが、その時ライムがガルバとアリエスに向けてガルルと話し掛けた。


『ねぇ、ガルバにアリエスさん。ルウ……ちょっと遅くない? セイル村を出てから、そろそろ鐘一つくらいの時間が経つけど全く追い付いて来ないよ? ライム、何だか心配……』


 ライムが話し掛けた内容とは、ルウファの事であった。

 セイル村を出発する時、ルウファはすぐに追い付くから先に行ってて、と言っていた。

 それなのに、一時間が経っても一向にルウファは追い付いて来ず、更に休憩中にも現れなかった。

 ライム達はルウファの眷属となり、匂いで相手の大体の力量を知る事が出来る様になっていた。これはルウファ程ではないが、かなり正確な強さを把握する能力である。

 その嗅覚により、ライム達はルウファの力がどれ程の物かを把握していたのだが、それによると、ルウファの力を測り知る事は出来なかった。つまり、ルウファがどれだけ遅くセイル村を出発したとしても、一時間も経たない内に追い付くだろう事は分かっていたのだ。

 にも拘らず、ルウファは未だに追い付いて来ないのである。


『ルウちゃん、道に迷ったのかもぉ。ほら、神滅の森ってぇ、どこも似たり寄ったりの景色でしょ? 私なら迷う自信があるなぁ』


 ガーランド達の後を追いながらも、ライムの言葉にアリエスはガルルと答える。いや、狼と言うよりは狐と言った方が正解なアリエスだけに、コォーンと答えると言った方が正確かもしれない。

 それはともかく、アリエスは自分に当てはめての考えを述べた。


 アリエスは人間だった時まで、それはもう見事な方向音痴であった。セイル村のギルドの寮から、ギルド支部までの道を未だに間違える程なのだ。

 そんなアリエスからすれば、神滅の森の中の景色はどこを見ても同じにしか見えず、だからこそルウファも迷ったのではないかと考えたのだ。


『いえ、ルウに限って迷うなんて事はないでしょう。むしろ、ルウにとっては恐らく森は庭……勝手知ったる何とやらのはずですよ、アリエスさん』


 人狼形態の巨躯から、まだ子供といった小さな狼形態となったガルバがアリエスの言葉をグルルと否定する。そう言うガルバも、小さな四足を一生懸命に動かしながら疾走している。

 ガルバは、新たな眷属となった三人の中でも、とりわけ知識が豊富なハーフエルフであった。その知力は、一度でも耳にした事があるならば忘れる事は無いと豪語する程である。

 そのガルバがルウファから聞いた話によれば、神滅の森とは正にルウファの庭であったと言う。

 どういう事かと言えば、ルウファの神狼形態の嗅覚はとても鋭く、一度でも訪れた事がある場所ならばその場所の匂いを記憶し、その匂いによって景色さえも詳細に覚えているという事であるらしい。

 つまり、嗅覚によってどこまでも匂いを追える為、ルウファは決して迷う事はないという事だ。

 その事をガルバは、眷属になった後の魔法の使い方の説明の時に余談として聞いていたのである。


『じゃあ、ルウは何で追い付いて来ないのよ? ガルバの話だと、ルウは既に追い付いてないと可笑しいじゃない……』


 ハッハッハと狼特有の息遣いを上げながら走るライムは、ガルバの話に疑問を投げ掛ける。

 神滅の森が庭と言うならば、ライム達がどこを通っているのかは簡単に分かるはずだ。しかも、ルウファの神狼としての身体能力であれば、とっくに追い付いていても可笑しくはないとライムは言う。


『……案外、ルウはお腹を壊してトイレに篭ってるかもしれませんね。神狼とは言えルウだって女の子です、恥ずかしがってそういう事を私たちに言えなかったのかもしれません。ですから、私たちはルウを信じて、とにかく先にバール村に着いて待つ事にしましょう。それに……もしもルウがバール村に着いた時、私たちがバアルゼブブを倒していたらルウは驚きますよ? バアルゼブブの実力がどれ程かは分かりませんが、今の私たちはルウの眷属となった事で相当な力があります。私たちにだって倒せるかもしれませんよ……!』


 ライムの疑問にトイレに篭ってると答えたガルバだが、まさか的中していたとは夢にも思うまい。

 ……トイレに篭っている所までは合っているが、実際はトイレの中で漏らしているとまでは知らないだろうが。

 ともあれ、ガルバの言葉でライムはそれもそうかと頷き、アリエスに至っては別の理由を考えていたのだが、言葉にするのも憚られるのであえて伏せさせていただく。


 そうして進む事数時間。途中で何度か休憩を挟み、ジャッシュ以外は順調にバール村へと進んだ。

 ジャッシュ以外は順調だと言ったのは、ジャッシュが軍馬の揺れに耐えられずに胃の中の物を戻してしまったからだ。

 幸いな事に、シュナイデルが用意してくれた袋のお陰で余計な被害がなく済んだのだが、バール村に着いた後に役に立つ事は出来ないのは仕方ないだろう。


 ちなみに、神滅の森を経由するルートでバール村へと向かっていたガーランド達一行だが、途中で魔物に遭遇する事はなかった。

 それと言うのも、ガーランドが精霊に働き掛け、魔物を近寄らせなくしていたのだ。ガーランド達の気配を消していたというのが正解だが、どちらにせよ魔物に遭遇しなかったのだから同じ事であろう。


「止まれぇ! ライム達はどうするんだ? そのままの姿でバール村に入るのか、それとも人間の姿に戻るのか。そのままの姿で行くならバアルゼブブとの戦が始まる前にバール村に着くが、人間の姿に戻るならば戦の真っ只中を突っ切る事になる。……どうする?」


 遂に神滅の森から出たガーランド達一行だが、バール村の城壁を遠目に確認出来る所で進むのを止め、ガーランドはライム達にそう告げた。

 時間に間に合わせる為にはこのまま進んだ方が良いが、狼形態のままバール村に入れば正体がバレてしまう恐れがある。

 かと言って人間の姿に戻ってバール村に向かえば、恐らく戦の真っ只中に突入する事になるだろう。

 それを慮ってのガーランドの言葉である。


『どうするの、ガルバ? ライムは人間の姿に戻った方が良いと思うけど……』


 人間の姿に戻ればライム達の正体がバレる事は限りなく無くなる為、後々の事を考えればその方が良いだろう。

 ライムはそう考え、ガルバとアリエスにガルルと訊ねた。


『私はどっちでもいいですよぉ。人間に戻らなければバレないですしぃ』


 ライムの言葉を聞き、アリエスはそうキャンキャン答えた。

 実際の所、アリエスにとってはバレようがバレまいが構わないのだろう。バレたとしても逃げれば良いだけだし、バレなければ今まで通りの生活を送ればいい。

 アリエスは眷属となった事で、今まで溜まっていた鬱憤が晴れたのだろう。より獣らしさが増したとも言える。


『……このまま狼形態でバール村に入りましょう。その方がバアルゼブブとは戦いやすいですし、私たちの事をジャッシュさんかアニーさんがテイムした事にすれば問題ないはずです』


 二人の意見を聞きながら何かを考えていたガルバは、そう結論を出した。

 ガルバ達がバアルゼブブと戦う為には、狼形態もしくは人狼形態が必須条件だ。人間の姿だと力不足が否めないからだ。

 つまり、人間の姿でバール村に入れば、戦う為には変身する必要があり、その場合確実にワーウルフだとバレる事になる。

 そうなると、守るべき人間に逆に討伐されかねない事態となってしまうのだ。

 それを回避するには、初めから誰かにテイムされた事にすればいい。それをガルバは考えていたのである。


『ガルバがそう言うならライムもそれでいいけど、どうやってガーランド様達に伝えるの? 人間に戻って伝えるにも、裸になっちゃうからライムは嫌だよ?』

『いえ、地面に爪で文字を書きましょう。ルウが人狼の時に紙に書いた様に』

『あったま良いねぇ、ガルバ君! 私もそれで良いよぅ』


 ガルバの考えにアリエスが賛同し、ライムも頷く。

 三人の意見が決まった所で、ガルバは前足の爪で地面に「私たちテイム、誰か」と書いて伝え、それを見たガーランドもそれを了承する。


「なら、アニーがテイムした事にしてこのまま進むぞ。しかし、お前たちもやはり冒険者なんだな。ルウちゃんだけが尊いと思っていたあたいだけど、お前たちもまた尊いんだな……!」


 何故か頬を赤らめながら尊いと言うガーランドはともあれ、こうしてガーランド達一行はバール村に入り、カミト達に歓迎されるのであった。

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