◎希望の光
ストックを書き溜めしようとしてたのに、気付いたらお昼寝をしていた夏の恐怖体験(´•ω•`)
「うん、ルウに怒られそうだけど、バレちゃったんだもん仕方ないよね。あたしがワーウルフになった経緯だけど、それにはまずあたしの娘のルウ……ルウファについて話す必要があるわ。そのルウファなんだけど──」
カミトからワーウルフになった経緯を訊ねられたガイアスは、全てを語り始めた。
全ては九年前の神滅の森で遭遇した、額に炎の紋様の様な漆黒の体毛が生えている白銀色のワーウルフから始まったのだと。
そのワーウルフに全力で攻撃を仕掛けるも、傷一つ負わす事なく逃げ帰った事。
軍を退役した時にこっそり持ち帰っていた『スクロール』を持ち出し、再びワーウルフと戦おうとするも、森の入口にて裸で眠る幼い少女を保護した事。
保護した少女を自らの娘として育て始めた事。
少女の名前がルウファである事。
ルウファとの生活はとても楽しく、そして幸せで溢れていた事。
それらを順を追ってガイアスはカミト達に話していった。
もちろん、カミトと守護軍の新人騎士百名を連れてのワーウルフ捜索隊の事もガイアスは話した。まだ伏せてはいるが、その時に出会った白銀色の巨大な狼もルウファなのだから。
「……さっきからルウファちゃんとの幸せな生活ばかり話してますけど、そのルウファちゃんはいったい何者なんです?」
「……カミト、あんた昔っからそうよね。大事な所で口を挟むんだから。とにかく、それをこれから話そうとしてるんだから黙って聞いてなさいよ!」
「す、すみません……」
「えっと……どこまで話したっけ? あぁ、そうそう……ルウファとの幸せな生活を続けてたあたしだけど、転機が訪れたのは今から五年前の事。それこそがあたしがワーウルフとなった切っ掛けね。そう、あの日──」
カミトからの横槍はともかく、ガイアスの話は核心へと向かう。
五年前、愛する娘のルウファがうだつの上がらないチンピラ冒険者達に誘拐された事。
その事に動揺しながらも、身代金を用意してルウファの救助に向かった事。
指示された場所で惨殺された冒険者達を見付けた事。
そこで血に染る白銀色のワーウルフを見付けた事。
冒険者達を惨殺したのは、その冒険者達に誘拐され、酷い事をされそうになってワーウルフとなったルウファだった事をガイアスは話していく。
「──そのワーウルフがルウファだったの。そしてあたしがワーウルフとなったのもその時ね。つまり、あたしとルウが本当の母娘になった瞬間でもあるわ」
「あの時の事件の真相はそういう事だったのか!」
ついに核心へと辿り着いたガイアスの話に、ガードナーが口を挟む。その表情は、ようやく納得がいったとばかりに目を見開いている。
ルウファ誘拐事件の時、ガードナーはその報告書を読んで疑問に思っていたのだ。いくらガイアスとは言え、愛する娘のルウファが誘拐されても全員を惨殺するのは可笑しい、と。
裏では何かがあると思っていても、当時のガイアスは「ルウを誘拐するんだもん、腹が立ったから全員殺してやったわ!」としか答えなかったのだから、ガードナーも追求を諦めていたのである。
ともあれ、五年越しの真実の解明にガードナーはため息を吐きつつも、今はそれよりもガイアスの話だと思い至り、ガイアスへと先を促した。
「……悪ぃ、続けてくれ」
「……カミトに続いてガードナーまで話の腰を折って来るとは思わなかったわ。……それでその時──」
ガードナーを横目で睨みつつも、ガイアスは核心を語り始める。
血に染る白銀色のワーウルフが愛する娘のルウファへと姿を変えた事。
自らが所蔵する魔物図鑑の中に、ルウファと同じ様に人間とワーウルフの姿を自由自在に変えられる希少種が載っていたのを思い出した事。
その希少種の血を飲めば、飲んだ者も同じ存在になれると思い出した事と続き、ルウファの血を飲んで自らもワーウルフとなった事を話した。
「──そして、あたしはルウの血を飲んでワーウルフになったの。あの時の死んだ冒険者達には悪いと思うけど、あの事がなかったらあたしとルウは本当の母娘になれなかったんだから、今は感謝してるわね」
そこまでガイアスが語った所で、今度はアドラスがガイアスへと問い掛ける。
「ガイアスさんがワーウルフになった経緯は分かりましたけども、そのルウファちゃんって何なんですか? 私も魔物図鑑にワーウルフの希少種が載ってるのは知ってましゅ……ますけど、あれは昔の魔物学者が捏造した物ですよ? 実際には、人間とワーウルフの姿に自由に変身出来る希少種なんていません」
「え!? そ、そうだったの!? ……知らなかったわ、あたし……。図鑑に載ってたから、てっきりそうだとばかり思ってたのに」
「……それでよく血を飲もうだなんて決断しましたね、ガイアスさん。私なら血を飲まないでルウファちゃんと今まで通りの生活をしましゅ……ますよ。で、ルウファちゃんは何者なんですか?」
アドラスのツッコミにガイアスはあたふたするも、そのガイアスへとアドラスはルウファとは何者かと迫った。
魔物図鑑の虚偽はともかくとしても、アドラス達三人は、ルウファがいったい何者なのかについて気になっていた。
アドラスが述べた様に、実際にワーウルフの希少種がいたとしても、人間がその血を飲んでワーウルフになる事はない。これは最新版の魔物図鑑のワーウルフの項目で明らかとされている。
にも拘らず、ガイアスはルウファの血を飲みワーウルフとなっているのだ。その事に興味を引かれない者はいないだろう。
むしろ、アドラスは元々研究者気質の持ち主だ。この中で誰よりもその事に興味を引かれたからこそ、ガイアスへと訊ねたのである。
「ルウにあたしが話した事がバレたら怒られそうだけど、今更よね。それでルウが何者かについてだけど──」
アドラスのその質問にややあって答えるガイアスだが、その事実はカミト達に希望の光となる。
何せルウファは、お伽噺や伝説の中でしか存在しないと言われていた神狼なのだから。
この世界で神の名を冠する存在は、【神狼】と【神竜】の二柱しか存在しないとされている。
その二柱は全ての生き物の頂点に立つ存在であり、全てを超越した存在でもある。
その力は、天を割り、地を裂くとも言われ、かつてこの世界を襲った大いなる災厄を祓ったとお伽噺では語られている。
その神の名を冠する存在の片割れである神狼がルウファであり、そのルウファはガイアスと共に暮らしていた。
つまり、ガイアスは神狼の眷属という事であり、そうなると、神狼は人間の味方であると言えるのである。
「──ッ!!」
「やっぱり!」
「嘘……ッ!?」
ルウファの正体が神狼であると聞き知ったカミト達三人は、驚きと共に喜色を表情に浮かべる。
神の名を冠する存在が味方に、それもすぐ近くに居たのだ。例え相手が全てを喰らう魔王と言えども、絶対的な存在である神狼には勝てないだろう。
カミト達三人の心の中に希望の光が射していた。
「ガイアスさん! そのルウファちゃん、いや、ルウファ様はどこにいるのですか! ルウファ様が居れば、バアルゼブブにも必ず勝てますよ!」
心に射した希望の光にいても立っても居られずといったカミトが、興奮しながらガイアスに訊ねる。漢という字が似合うその顔も、今はまるでお伽噺に喜ぶ子供の様である。
「間違いねぇ! お前は神狼の眷属って事だろ? その眷属であるお前が危ねぇかもしれねぇんだ。その神狼様のルウファちゃんとやらを是非とも呼んでくれ!」
カミトに続き、キラリと頭を光らせながらガードナーがカミトの言葉を後押しする。その表情はカミトと同じくお伽噺に興奮する子供といったものであり、いい歳したオッサンがその表情を浮かべるのは気色悪いのでやめていただきたい所である。
「ええ! ええ! ルウファちゃんを是非とも呼んで下さい、ガイアスさん! そして隅から隅まで調べさせて下さい! 伝説の神狼でしゅ……! その神狼を調べ尽くして本にして売れば、私はより一層『禁呪』について学べるはずよ! ぐふふふ!」
……アドラスだけ別の意味で喜色を浮かべている様だが、ともあれ。
「うーん……バアルゼブブが恐ろしい力の持ち主だとは分かってたけど、まさか魔物を生み出す事が出来るなんて知らなかったからなぁ。それにバアルゼブブだけなら、守護軍とバール村の冒険者を動員すれば勝てるって思ってたし。うん、四の五の言わずにハッキリ言うわ! ルウは今居ないのよ、バール村に。依頼を受けてセイル村に手紙を届けてる最中なのよ。だから今頃はセイル村ね!」
「そ、そんな……! ですが、『禁呪』をメインに据えた作戦ではバアルゼブブに勝つのは非常に厳しいんです! な、何とかなりませんかね!?」
「そんな事あたしに言われたってどうしようもないじゃない……! さっきも言ったけど、まさかバアルゼブブが魔物を生み出せるなんて知らなかったんだから!」
ルウファは現在セイル村にいるとのガイアスの言葉に、カミトが詰め寄る。
カミトの言葉にガイアスはどうしようもないと答えるが、正にガイアスの言う通りであろう。
バアルゼブブだけであれば、守護軍と冒険者達を動員し、更に『禁呪』や『スクロール』を使えば討伐出来るとガイアスは思っていたのだ。
それなのに、魔物のスタンピードが発生し、その原因がまさかのバアルゼブブであったのだ。初めからバアルゼブブの魔物を生み出す能力を知っていればガイアスだってルウファを頼ったであろうが、それも後の祭りである。
それに、ルウファに頼らずともバアルゼブブを討伐して、母親としてルウファに自慢したかったという思いもガイアスにはあったのだろう。
ともあれ今更である。どう頑張っても、今日の戦の時間までにルウファを呼ぶ事は時間的に無理があるのだから。
「くっ……! もっと早くにルウファ様の事を知っていれば伝令にもその旨を伝えてこちらに向かってもらったのに!」
自らの膝を叩き、悔しそうにそう言うカミト。
せっかく心に射した希望の光は、いつの間にか雲に覆われて見えなくなっているかの様な重苦しさであった。
『うふふふ、あははは。相変わらずな顔ね、カミト』
その時、ギルドマスターの執務室内に澄み渡る様な声が響き渡る。その声に驚き、全員が声の方向に目を向ければ、そこには半透明な少女の姿があった。
「君は確か……ガーランドさんの【シルフィ】だったよね……?」
「……ええ、間違いなくガーランドのシルフィね。あのエロフ、ご丁寧に断りを伝えに寄越したのよ! あたしの事毛嫌いしてたからね」
ガーランドの使役する精霊の内の一人、風の精霊シルフィを見てのカミトとガイアスの言葉である。
カミトはともかく、ガイアスは何かとガーランドとぶつかった程の犬猿の仲であった為、今回カミトからの救援要請もガイアスが居るからと断りを伝えに来たとガイアスは予想したのだ。
『あはは、あなたも変わらないわねガイアス。……あれ? 若返った? うふふ、まぁいっか。ガーランド様からの伝言よ。お昼までには着くからありがたく思いなさいだって! あ、そうだ、もう一つ。バール村所属の冒険者も一緒に送ってるからだって』
シルフィの言葉にガイアスは驚いた。
ガイアスの外見はさておき、シルフィが言うには、ガーランドが救援要請を受けてこちらに向かってるというのだ。どうせ断るのだろうと思っていただけに、ガイアスも虚を突かれて間抜けとも言える表情を浮かべていた。
『それじゃシルは戻るからね。戦で会うかもだから、またその時に会いましょう? うふふふ、あははは』
ガーランドからの伝令の役割を果たしたシルフィは、半透明なその体を風に溶け込む様に消えて行こうとする。しかしそれに待ったを掛ける者がいた。
「ちょ、ちょっと待ちなさい、シルフィ!」
シルフィに待ったを掛けたのはガイアスである。
ガーランドの参戦に驚きはしたが、ガイアスはそれよりもバール村の冒険者を送っているという言葉に反応していた。
そしてガイアスはその冒険者についてシルフィへと訊ねる。
「その冒険者達の中にルウファって娘は居ないかしら?」
『ガイアスのくせに鋭いんだね。でも、ありがとうガイアス。もう一つ伝える事があったのを思い出したよ。ガーランド様曰く、ルウちゃんは尊い理由で少し遅れるけど、必ずバール村に行くから安心しろ、だってさ。それじゃ今度こそシルは行くからね、バイバイ!』
ガイアスの言葉に答えたシルフィはそのまま風に溶け込む様に消えていった。ギルドマスターの執務室には草原を吹き抜ける風の様な香りが仄かに漂っている。
しかしその事に気を取られる者はなく、心に再び射した希望の光に眩い表情を浮かべた者達しかいなかった。
「あたしが夢で見たのは本当の事だった……。ルウが──ルウファがバアルゼブブをやっつけてくれるわ!!」
そう叫ぶガイアスの声は、いつもの覇気に満ちた声であった。
お読み下さり、ありがとうございます。
もしよろしければ、↓の☆にて応援して下さい、励みになります!
また、ブクマや感想などもお気軽にお寄せ下さい!




