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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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◎バール村の攻防・3

試しにお昼休憩中に更新してみます(´•ω•`)

 

 バアルゼブブが去っていった天幕の入口を、ガイアス達四人は呆然とした表情で見つめる。四人ともに胸中は信じられない気持ちでいっぱいであった。


「あ、あれが……バアルゼブブ……ですか」


 沈黙が支配する天幕の中で、その沈黙を恐れる様にカミトが呟く。その声に普段の力強さは無く、まるで怯える子羊の様である。それを表すかの様に、カミトの頬を一雫の冷や汗が滴り落ちていった。

 しかしそれも仕方あるまい。何せ、斬り刻まれても何事もなかったかの様に復元するという、バアルゼブブの恐るべき能力の一端を垣間見てしまったのだから。


「た、確かにありゃあやべぇな……! 国を挙げて討伐ってのを納得しちまった。しかしこれでハッキリしたぜ! 今回のスタンピードはアイツの仕業って事なら、あの野郎をぶちのめせばいいんだろ? なら簡単じゃねぇか! 細切れになっても死なねぇってんなら、アドラスの『禁呪』で跡形もなく蒸発させちまえばいい!」


 重苦しい雰囲気を吹き飛ばす様に、ガードナーはあっという間に対策を打ち立てた。さすがはかつての将軍、歴戦の猛者の本領発揮というものである。頭髪の抜けた頭も無駄に光ってはいないという事だ。

 ガードナーの言う通り、元はフォレストスライムのバアルゼブブである。その体内には核が存在しており、その核を破壊すれば討伐する事が出来る。

 その核の位置が分からないのであれば、ガードナーの言う通り、アドラスの『禁呪』で蒸発させてしまえば問題ないのである。

 その事実を知る由もないガードナーがそれを言い当てたのは、やはりかつての将軍としての戦闘勘のなせる(わざ)なのだろう。


「確かにそうよね……うん、ガードナーの言う通りだわ。それに、細切れになっても元通りになるのを見て、殺しても復活する魔物の大群が確かにアイツが原因だとハッキリしたわ。なら、アイツを討伐すればスタンピードも鎮圧出来るし、あたし達の目的も果たせる。正に一石二鳥ね!」


 さっきまで震えていたガイアスであるが、ガードナーに合わせて声を張り上げた。そう、バアルゼブブに対する恐怖を払拭するかの様に。

 しかし、そのガイアスの声で天幕内の雰囲気は多少は持ち直した。幾分かの緊張は未だ残ってはいるが、ガードナーが示した勝利の道筋が光明を与えたのだろう。


「失礼します! ご無事ですか、カミト様! 今しがた怪しい冒険者の男が我らの陣を悠然と歩き、カミト様の天幕へと入ろうとした為止めたのですが、言う事を聞かなかったので斬り捨てました。ですが──」


 その時、天幕の入口の垂れ幕をはね上げて護衛を務める騎士が中へと入り、ガイアス達の無事を確認してきた。そしてその理由を説明し始める。


 騎士が言うには、その男──間違いなくバアルゼブブであるが、そのバアルゼブブが陣を横切り悠然とカミトの天幕へと向かって来たそうだ。なので護衛の騎士は不審に思い、理由もなく入る事は許さないと剣を向けたが止まらず、やむなく斬り捨てたのだという。

 何も抵抗せずに死んだその男を不思議に思いながらも、護衛の騎士が僅かに目を離した隙に男の死体は消える。それに気付きゾッとした護衛の騎士ではあるが、直後、自らが護衛するカミトの天幕の中から言い争う声と剣戟の音が聞こえたので急ぎ入ろうとした所、天幕の中からはその斬り殺したはずの男が現れた為に驚き、そのまま呆然と見送ってしまったのだとか。

 少しの間その男を呆然と見送っていた護衛の騎士だが、ふと我に返り、もしやカミト達があの男に殺されたのではないかと不安に駆られ、すぐさま天幕へと入り無事を確認して安堵したとの事であった。


「……やはり恐ろしい実力の持ち主という事でしたね。騎士の説明で心から理解しました」


 騎士の説明を聞き終えたカミトはその騎士を天幕から下がらせると、改めてバアルゼブブの力についての感想を漏らした。その表情は、自ら経験したバアルゼブブの力の事もあってか、どこか疲労の色が見え隠れしている。


「しかし、ふざけた奴ではあるが律儀な奴でもあるな、バアルゼブブという男は……」


 ガードナーも疲労の滲む表情で口を開く。

 騎士の説明は天幕の護衛の騎士だけではなかった。

 その護衛の騎士が天幕から去った後、今度は前線で指揮を取っていた百人長を任せた騎士が天幕を訪れ、戦況を語ったのだ。

 その内容は改めてバアルゼブブの恐ろしさを表したものであり、そしてガードナーの言葉の通り律儀さを感じられるものでもあった。


 百人長の説明によると、天幕から出ていったバアルゼブブは人間に攻撃する事なく戦場に赴き、地面に横たわる人間の遺体を根こそぎ体内に取り込む様に吸収していったと言う。

 それだけでも恐ろしいのだが、更にバアルゼブブは『スクロール』の魔法から逃れ、未だに迫る魔物の大群をもその体内に吸収したそうなのだ。そして悠然とその場を去り、神滅の森へ向かっていったと百人長は報告していた。


 百人長の報告を聞き、バアルゼブブが何故魔物まで喰らったのかと、ガイアス達は首を傾げた。むしろ、感謝しても良いくらいの事をバアルゼブブは行ったのだ。

 確かに残った魔物を全て喰らった事については恐ろしいと認めざるを得ない。しかし、だ。その魔物の大群が押し寄せるスタンピードを鎮圧する為に当初は戦っていたのだ。

 これならばバアルゼブブだけに集中出来るので、より楽になったと言えよう。


「でも……バアルゼブブは明日も同じ時間に戦を仕掛けりゅ……仕掛けるって言ってましたよね……」


 そう、言葉を噛んだ為に締まらないが、アドラスの言う通り、バアルゼブブは翌日の同じ時間に戦を仕掛けると言っていたのだ。ガイアス達が首を傾げた理由は正にそこなのである。

 (いくさ)とは、集団対集団を大雑把に表す言葉である。

 であれば、バアルゼブブ個人と連合軍では決して戦とは呼べるものではない。それではただの虐殺行為、もしくは討伐である。

 にも拘らず、バアルゼブブは戦を仕掛けると言うのだから謎は深まるばかりであった。


「……そこは分かりませんが、とにかく明日に備えて今日は休みましょう。それに、死んでしまった冒険者や騎士の弔いもありますし。……遺体はバアルゼブブに吸収されてしまったそうですが。とにかく、やる事をやらなければバアルゼブブには勝てないでしょう。それと、セイル村に駐留してるガーランドさんに救援要請を出しておきます。伝令の早馬ならば一日もあればセイル村には着くでしょう。ガイアスさんは文句もあるでしょうが、ガーランドさんの精霊魔法はとても強力ですからね。バアルゼブブには『禁呪』を使用するにしても、もしも魔物の大群がまた現れる様ならガーランドさんの精霊魔法も必要になるはずです……『スクロール』も数に限りがありますし」


 バアルゼブブについての謎はともあれ、カミトのその言葉でこの場は解散となった。

 その後カミトとガードナーは、守護軍の騎士達やスタンピードの為に緊急依頼に強制的に駆り出された冒険者にバアルゼブブの事と翌日の戦の事を伝達し、各自休息を摂る事と死者を弔う事に従事させた。


 一方、カミトやガードナー達と別れて自らの家に戻ったガイアスは、今回のバアルゼブブとの予期せぬ遭遇を振り返り、体を休める為に入った風呂にて自らの体の震えに辟易していた。


「……ああ、もう! こんな姿、とてもルウには見せられないわね……。しかしアイツ……ホントに何なのよ! 追求されなかったからバレてないと思うけど、サラッとあたしの正体を言うし、しかも斬り刻んでも死なないし。はぁ〜〜、ホントに勝てるのかしら、あたし達」


 いくら湯に浸かり体を温めようとも体の震えは止まらず、湯船の中で自らの体を抱き締めながらも、ガイアスはそう強がってはみせる。

 ……たが、結局不安から最後には泣き言を言う始末である。ルウファと接している普段は美女のガイアスも、今は震えるか弱い少女そのものといった所であった。


「とにかく! 明日も頑張るだけよね! ガーランドが来るってのは気に食わないけど、それでもアイツには絶対に負けないんだから……!」


 いつまでも湯に浸かっていても逆に疲れる為、また、震える自分をらしくないと心で言い聞かせ、未だ震える体を叱咤する様に勢いよく立ち上がったガイアスは力強くそう宣言する。立ち上がった勢いでその大きな胸はプルンと揺れていた。

 しかし、胸の揺れが収まると同時にその体からは震えはなくなり、水分を弾く若々しい肌からは水玉と化したお湯が一気に滴り落ちていくのであった。


 そう意気込むガイアスはともあれ、時間は流れて翌日。

 再び組まれた冒険者と守護軍の連合軍は昨日と同じ場所に陣取っていた。時刻はバアルゼブブが指定していた昼まであと少しという頃である。


「……来る気配がないですね。逃げた……なんて事はないですよね?」

「……あたしに聞いても知る訳ないじゃない」

「……お前ら相変わらずなんだな。だが、来なきゃ来ねぇに越した事はねぇ! 戦を仕掛けるだなんだ言ったってよぉ、アイツは配下の魔物を吸収しちまって一人なんだろ? それでどうやって戦を仕掛けるって言うんだ!?」


 神滅の森の方角、つまり北の方角を見据え、カミト、ガイアス、ガードナーが話している。三人とも腕を組み、表情は顰めっ面である。


「ぐふ、ぐふふ。きっと私の『禁呪』に恐れをなしたんでしゅよ……ですよ! 何せ……とんでもないのを文献で見付けて使用出来る様になったんでひゅからね!」


 顰めっ面の三人に対し、腐女子の様な笑い声を上げながら話す女性はアドラスである。文献で見付けたというとんでもない『禁呪』の効果を想像してるのか、言葉を噛みながらも色欲にまみれた痴女の様な表情を浮かべている。出来れば関わりたくないと思うのは、決してガイアスだけではないだろう。


 ともあれ──


「き、来ました! し、しかし、あれは……!?」


 ──ガイアス達四人の様子はともかく、バアルゼブブは自らが示した時間通りに姿を現した。

 しかし、報告を告げる騎士の言葉で分かる通り、そのバアルゼブブの様子が可笑しい。戦を仕掛けると言うのに、バアルゼブブはやはり一人で現れたのだ。

 それを連合軍の誰もが確認すると共に、これじゃ今日は楽勝だなと気を抜き始める。バアルゼブブが恐ろしい化け物だとは言え、これでは『禁呪』を放てば一撃である。気を抜くのも仕方ないと言えよう。

 当然、それはガイアス達四人も同じであった。


 ──この時までは。


「ま、待って下さい! バアルゼブブと思われる男の様子が……い、いや、大きさが異常です! こちらまでまだかなりの距離が開いてるというのに、大き過ぎます! す、推測しますに……その大きさは恐らく10メルトはあろうかと……!」


 それは報告の騎士の目だけではなく、ガイアス達の目にも、連合軍全ての人間の目にも映っていた。

 定位置で立ち止まったバアルゼブブであるが、その位置から一歩も動いてはいないはずなのに、急激に近付いて来る様な錯覚を覚える程に姿が巨大化したのだ。

 予想ではあるが、バアルゼブブの身長は騎士の報告通り10メルトはあるだろう。

 しかも昨日までは無かった両側頭部の禍々しい角も巨大化した事でハッキリと確認出来た。その姿は、連合軍の全員にバアルゼブブが魔王であるとの認識を植え付けるのに十分な効果を発揮していた。


「あ、アイツ……お伽噺に語られる伝説の魔王なんじゃねぇか!?」

「ま、間違いねぇ……! あの大きさに、あの角……。あ、ありゃあ魔王だ、魔王に間違いねぇ!!」

「か、勝てるわけねぇ、勝てるわけねぇだろ……アイツは魔王だぞ!? 俺たち人間が束になったって勝てるわけねぇ!!」


 恐怖は瞬く間に連合軍の全ての人間に伝わっていく。そう、恐怖とは連鎖するものなのだ。

 そして、恐怖に呑まれた者は死に魅入られる。この時の連合軍は正にその状態であった。


 しかし、本当の恐怖はこれからであった。

 巨大化した魔王バアルゼブブの足元から夥しい数の魔物が湧き出してきたのだ。いや、バアルゼブブの体から生み出されたと言った方が適切か。

 生み出された魔物とは昨日戦っていた魔物達であり、その構成は、ゴブリン、オーク、スケルトン、オーガ、トロルと、ほぼ昨日と同じである。

 だが、数は昨日よりも少なく感じる。その点に関しては多少はマシであろう。──と思った矢先、昨日とは違う存在が現れた。それは人間である。

 昨日死んでしまった冒険者や騎士達が、そっくりそのままの姿でバアルゼブブの体から生み出されてきたのだ。

 それだけでも連合軍の戦意は完全に削がれているのに、極めつけは、バアルゼブブの体からは何と巨大なドラゴンまで飛び出てきたのである。


「あ、あ、あ……あ、あれは……嘘……嘘よ……! あれは、テンペストドラゴンよ!!!」


 その姿を見たガイアスの、恐怖で震える叫び声が辺りに響き渡る。その声には、絶望の色が色濃く滲んでいた。


 そう、最後にバアルゼブブの体から生み出されたのは、天災に例えられ、神をも滅すると恐れられた伝説のドラゴン──テンペストドラゴンのゲイルであった。

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