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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
84/105

◎バール村の攻防・2

100話目までにはバアルゼブブ編を終わらせる予定です……!

 

「ギャギャギャギャ!」

「ギャヒヒヒ、ギャギャーッ!」

「ブヒャヒャ! ブキィーッ!!」


 ゴブリンやオークの大群が奇声を張り上げながらも、まるで狂った様に人間達へと襲い掛かる。

 対する人間達もゴブリンやオーク達を殺そうと死力を尽くして立ち向かう。


 しかし──


「くそっ! 何なんだよ、コイツら!? 倒しても倒しても元に戻って襲って来やがる!」

「そんな事言ってる間に斬って斬って、んで押し返せッ!!」

「分かってる! しかし──ッ!? ぐあああああっ!!」

「おい!? くっそぉーっ! この、くたばりやがれぇえええッ!!!」


 ──何人もの人間達が犠牲になっていた。


 バール村の北に面する城壁際において、神滅の森から溢れた10万程の魔物の大群と、ラディアス王国第一、第五守護軍及び冒険者の連合軍およそ一万二千人との戦いは苛烈を極めていた。

 魔物の大群との戦いが始まったのは当初の予想よりも遅れ、カミト達守護軍がバール村に到着して翌日の昼を回った頃であった。

 そして戦いが始まってから既に二時間程。バール村を護る連合軍の死者は既に千人を超える程である。

 対する魔物の大群の討伐数は未だゼロ。実際には最低でも一万体以上の魔物を屠ってはいるのだが、復活して襲って来るのだから討伐数はゼロなのである。


「くそ……たかがゴブリンなのに異様に強ぇ上に、倒しても倒しても元に戻りやがる……! いったい何だっていうんだよ!? こんな化け物が森にいたなんて聞いてねぇぞ! くっ……! うおりゃあッ!」

「ふん! はぁあッ!! それでもよぉ、初めはあっさり倒せてたんだぜ? んなもんだから楽勝だって思ってた。それが気が付きゃ、死んでも生き返って攻撃して来やがる……。ッ!! こんにゃろ! それもアンデッドじゃねぇんだぜ? ……終わったかもな、バール村もこの国も。──ッ!! ぐぇええええッ……ッ──!」

「え? くそ……ッ! ぐ!? ぎゃああああ!!」


 前線で戦い死んでいった冒険者同士の言葉でも分かる通り、初めはバール村側が守護軍の参戦もあって遥かに優勢だった。魔物を押し返して、バール村からかなりの距離を開ける事に成功していたのだ。

 だが、いつの間にか形勢は逆転、現在は再びバール村の城壁際まで魔物の大群に迫られている。

 原因は冒険者の話や先にも述べた通り、魔物の復活である。


 初めは、殺せば死んでいたのだ。血を流し、地に倒れ伏して動かなくなった。しかしいつしか殺しても復活する様になり、更に初めに殺した魔物の死体も消えていた。つまり初めに殺した魔物も復活して、再び襲って来ているという事である。


 これには初め楽観視していたガイアスやカミト、それにガードナーでさえも恐怖を覚えた。

 当然であろう。通常であれば魔物を殺して復活するとしても、それは時間が経った後にアンデッドとして復活するのであって、事後処理さえすれば復活は防げるのだから。

 しかし今回の魔物はそのプロセスを踏む事なく復活を遂げている。しかも、致命傷であった傷が再生してなのだから、ガイアス達にとっては悪夢である。


 ならば、復活しない様に強力な攻撃……例えば『禁呪』や『スクロール』を使用すればそれも可能なのだが、あまりにもバール村に近過ぎる為に使用出来ないのである。

 魔物を殲滅する為に自らの住処を破壊していては元の木阿弥というもの、とてもじゃないが、いくらアドラスが研究者気質の危ない女性であっても、その決断だけは出来なかったのである。


「このままじゃ負けるわね。何か手はあるの、カミト?」


 バール村の唯一の門の前に作られた戦陣にて、状況を危惧したガイアスはカミトにそう訊ねる。

 どう見てもバール村側が不利であり、何か特別な作戦もしくは強力な攻撃手段でもない限り、誰の目から見ても負けるのは時間の問題だと思われた。


「…………使いましょう、『スクロール』。風属性と水属性の攻撃系『スクロール』ならば、多少の被害が城壁に出ても問題ないはずです」

「よく決断したな、カミト。いつまでもガイアスのケツにぶら下がってるから意気地無しだと思ってたが、そうか、将軍の肩書きは伊達じゃねぇよな……! ──冒険者どもや守護軍の騎士どもを下がらせろ! これから『魔道部隊』の『スクロール』を連続使用する! 巻き込まれたくなかったら、死ぬ気で下がれぇええ!!」


 ガイアスの言葉に『スクロール』の使用を決断したカミト。口髭を生やした漢の表情を一層引き締め、視線は魔物の大群を鋭く見据えている。

 そのカミトを、ガードナーがニヤリとしながら褒め、その後全軍に向けて指示を出す。陽射しを浴びて、頭髪の抜け落ちたガードナーの頭はキラリと光った。

 ガードナーも現況を鑑みて、このまま何もしないでいるなら『スクロール』の使用を頼もうとしていたのだ。『スクロール』を連続で使用するならば、押し寄せる魔物を全てとは言わないが、その三分の一の数は殲滅出来るだろうと判断したのである。


「……私の出番ですね? ぐふ、ぐふふふ……! 用意は既に出来てましゅ……ます! 『スクロール隊』、前へ出よ!」


 カミト達の話を聞き、怪しい笑みを浮かべながらアドラスは指示を出す。魔道部隊にとって直接戦闘というのは、どちらかと言えば苦手である。だからこそ後方から魔法で攻撃するのだ。

 そしてそれ故に、第五守護軍に所属する騎士は騎士とは名ばかりの騎士達であり、魔道部隊という通称でも分かる通り、正式には魔道士なのである。


 ともあれ、魔道部隊の中から百名のスクロール隊が前に進み出て、十人長がローブの腰にある専用のホルダーから『スクロール』を手に取り紐を解き広げていく。広げた『スクロール』の中には複雑な魔法陣が描かれている。

 そこへ十人長を含む十名の魔道士がマナを込めていき、必要なマナを込めた所で魔法陣を魔物の大群へと向ける。後は『スクロール』に込められた魔法名を一言唱えるだけである。


「準備、整いました! 風属性の《剣陣乱舞(ソードストーム)》及び、水属性の《水龍の流撃(リヴァイアサン)》をそれぞれ五回ずつ放てます!」


 代表して、スクロール隊の百人長がアドラスへと告げる。


「各隊、状況を見定めて範囲を決めたら放ちなさい。決してバール村の城壁や人間に当ててはダメよ? 私からは以上でしゅ……です!」

「はっ!」


 そうしてガイアス達が見守る中、『スクロール』の使用が始まった。


「今だッ!! ──《剣陣乱舞(ソードストーム)》!」

「そこだッ!! ── 《水龍の流撃(リヴァイアサン)》!」


 騎士達や冒険者達が上手い具合に魔物を引き付け引き剥がし、魔物達と人間達の間に空間が広がったのを見て『スクロール』に込められた魔法が発動されていく。『禁呪』には及ばないが、それでも強力極まりない魔法である。まともに喰らえば、如何に強大な魔物とてかなりのダメージを負う事だろう。


 ともあれ、『スクロール』に込められた強大な魔法は魔物の群れに向かって次々と発動し、その絶大な威力を発揮していく。


 風を圧縮して刀身とした見えない剣が千本、魔物の群れの頭上に現れた魔法陣から次々と出現しては決められた範囲を縦横無尽に動き回り、触れた魔物を手当り次第に斬り尽くしていく。《剣陣乱舞(ソードストーム)》の魔法である。

 一瞬にしてその場の魔物を斬り尽くした後、見えない千剣は範囲内を更に乱舞し、新たな標的を見付けるや否や次々と魔物の体を切り刻み、復活出来ない程の肉片へと変えていく。その光景は、さながら地獄に響き渡る輪舞曲(ロンド)の様であった。


 一方の 《水龍の流撃(リヴァイアサン)》は、魔物達の頭上高くの空中に複雑怪奇な積層型魔法陣が現れ、その魔法陣が水色に光ると、中心部から激しくうねる水流の体を持つ巨大な水龍が召喚された。水龍の全長は10メルトはあるだろう。水龍が現れると同時に魔法陣は消えていく。

 巨大な水龍は大地を舐める様に移動すると数多くの魔物を体内に取り込み、そのまま神滅の森を目指して突き進む。水龍の体内に取り込まれた魔物は激しくうねる水流と水圧によって次々とすり潰されていく。

 そうして、かなりの距離を突き進んだ所で水龍は自然消滅していった。後に残ったのはグチャグチャにすり潰された魔物のミンチだけである。


 結果、スクロール隊が使用した全部で十回の『スクロール』によって、魔物の大群はその数を大きく減らした。正確な数字は分からないが、魔物の総数は恐らく半分以下まで減っている事は明白であった。


 その劇的な戦果に喜んだのは、もちろんガイアス達連合軍の面々である。《剣陣乱舞(ソードストーム)》で刻まれた魔物の復活も今の所確認されていないし、《水龍の流撃(リヴァイアサン)》ですり潰されながら流された魔物も、例え復活しても襲って来るには時間が掛かるし襲って来ない可能性もある。つまり、スタンピードの鎮圧に大きく前進したのであった。


 しかしその戦果を喜ばない者もいた。


「ふーむ。中々やるではないか、人間も。確か……バール村と言ったか。かなりの人間が住んでいるからこそここまで準備をしたと言うのに、このままでは喰らえないではないか。……仕方ない、俺が出向くしかあるまい」


 そう呟く男の名はバアルゼブブ。今回のスタンピードを起こした張本人であり、不死身の魔物の大群を創り上げた男でもある。

 そのバアルゼブブは自らの配下の魔物の半数が復活も出来ない程の殺され方をしたというのに、その顔には笑みを浮かべている。

 そしてバアルゼブブは歩き出す。人間達の指揮を取っているであろう人物達の下へ。


「やるじゃない、カミト! もう一度『スクロール』の連続使用か、『禁呪』を一発唱えりゃスタンピードも鎮圧ね!」

「いやぁ、まさか城壁も傷付けずにこれ程の結果を得られるとは驚きました。これもアドラスの日頃の訓練の賜物ですね」

「そんな事はねぇぞ、カミト? お前のあの決断がなけりゃあこの結果は生まれてねぇ。さすが守護軍の将軍様ってこった! がっはっはっは!」

「ぐふ、ぐふふふ、私の『禁呪』なら一発ぶっぱなせば終わったんですけど、さすがにこんな所で使えないので仕方ないでしゅね……ですね。だけどガイアスさんが言う通り、カミトさんが唱えて良いと言うなら唱えますよ? ぐふふふ」


 大きな戦果に、しばらくは危機的状況は訪れないだろうと本陣に設置された守護軍将軍用の天幕に入ったガイアス達四人。その中に入るなり、四人は口々に言葉を発した。

 ガイアスとガードナーがカミトの決断を讃え、カミトはアドラスのお陰だと謙遜する。危ない雰囲気のアドラスも自らの第五守護軍のあげた戦果にご満悦の様である。

 四人が四人とも、『スクロール』の連続使用による絶大な戦果に、さっきまでの厭戦気分を晴らしていた。


 ──パチパチパチパチパチ!


「ふははは、まずはおめでとうと言わせてもらおう。いや、大した戦果だ」


 ガイアス達四人が詰める本陣に張られた将軍用の天幕の中に突如として拍手が起こり、一人の男が声を掛けた。その言葉は祝福しているのだが、どこか威圧的な色が滲んでいる。


「……てめぇは誰だ? 見た所、冒険者の様だが……」

「と言うかガードナーさん、この中に入るのを許可したのは私たちだけで、後は誰も許可無く入らない様に周りは騎士達によって護られています……! だから冒険者が勝手に入れる訳ないんですよ! お前は誰だ!」


 将軍用天幕の中に現れた男に対し、誰何するガードナーと警戒するカミト。その二人に震える声で答える人物がいた。


「な、何でアンタがこ、ここにいるのよ!? 気を付けてみんな! コイツが……コイツがバアルゼブブよ!!」


 カミト達三人に警戒を促したのはガイアスである。

 四人の中で唯一バアルゼブブを警戒し、戦い、恐れ、そして文字通り尻尾を巻いて逃げ出したガイアスはバアルゼブブの姿を見た途端、体の芯から震え始める。手も足も出ずに逃げ出した恐怖がガイアスの心に甦っていた。


「コイツがバアルゼブブだと!? どこにでもいる冒険者じゃねぇか!」

「しかしガードナーさん……騎士達の護りを潜り抜けてこの場に現れる力の持ち主ですよ! 気を抜かないで下さい!」

「この人が件のバアルゼブブ……でしゅか、ですか。意外とイケメンでしゅね……!」


 ガイアスの警戒を促す言葉に三者三様の対応を見せるカミト達。アドラスは言葉を噛みながらも、何故かバアルゼブブの顔に注目している。


 ともあれ、背中の重剣を解き放って片手で持ち構えるカミトに、そのカミトの言葉で、同じく背中の留め金から斧槍を外して構えるガードナー。共に切っ先はバアルゼブブへと向けられている。

 アドラスはバアルゼブブに見惚れながらも、虹色の魔石が嵌った大杖を手に持ち、いつでも魔法を唱える体勢を整えている。口では何と言おうが、彼女もまた将軍の名は伊達ではないという事だろう。


 その三人には目もくれず、バアルゼブブはガイアスに向けて口を開く。


「ほう……誰かと思えば、あの時の美しき狼人間ではないか。どうした? やはり俺に喰われたいとこの戦に参加したのか? それも良いが、今一度あの美しい姿を見せてはくれまいか。美食とは見た目も重要な要素故な」


 ガイアスの正体をあっさりと口にするバアルゼブブに対し、ガイアスも反論する。緊張のこの場面でその事を追求する人間は皆無であろうが、ガイアスはとにかく話題を変える。


「な、何を言ってんのよ!? それよりもアンタがここに来た理由を言いなさい! あたし達はスタンピードを鎮圧するので忙しいのよ! それが終わったらアンタの相手をしてあげるから、それまでは大人しく震えて待ってなさい!」


 そう、結局はそこなのだ。

 ガイアスが言う様に、バアルゼブブが何故この場に現れたのかがガイアス達には謎なのである。

 バアルゼブブが魔物達を操って(けしか)けたのならば、この場には現れずに森の中で戦果を悔しがるはずだ。

 にも拘らず、バアルゼブブはこの場に現れたばかりか、拍手を以てガイアス達の戦果を讃えたのだ。ガイアス達にとっては謎でしかないだろう。


「ふむ、確かにそれを答える為に来たのであったな。いや何、お前達のお陰で俺はすんなりと人間の都市を喰らえなかったのでな、わざわざ俺が出向いたのだ。しかしそこの赤毛を見て気が変わった。本来ならば挨拶後に全てを喰らおうと思ったが、それはやめよう。とりあえずは千人程の人間を喰らう事が出来る訳だし、今日の所は一旦引き上げるとする。そして、明日も同じ時刻に戦を仕掛ける。明日は二千人程を喰らおうと思う。そう、つまりはゲームをするのだ。喰らう人数は日ごとに増えていく。お前らが全滅すればこちらの勝ち、お前らが十日間持ち堪えればお前らの勝ちだ。お前らが負ければバール村とやらは死の苦しみを味わいながら喰われる事になろう。逆にお前らが勝てば、死の苦しみを味わう間もなく一瞬で喰らってやる。ふはは、どちらにせよ喰らう事には変わりないがな。……ふむ? 頭に来たか? しかし、その怒りの表情もまた美食へと繋がるものだ。ともあれ、また明日を楽しみにしているぞ? ふはははは!」


 バアルゼブブはガイアスの言葉にこの場に訪れた理由を答えた。

 その答えを聞くに従い四人の顔には怒りが浮かび、バアルゼブブの話が終わると共に斬り掛かる。

 カミトは片手で構えていた重剣を両手に持ち替え上段斬りで、ガードナーは斧槍の特性を活かして鋭い突きを、アドラスはカミト達の体にシールド魔法を掛け、ガイアスは震える体を無理やり動かして愛用の双剣〈双月剣〉で舞い斬る。

 そのいずれの攻撃も、バアルゼブブの体へと難なく吸い込まれていく。

 重剣がバアルゼブブの頭から股間に掛けてを両断し、斧槍の鋭い突きが両断されたバアルゼブブに何度も突き刺さる。そしてトドメとばかりにガイアスの双剣が舞い、瞬く間にバアルゼブブの体は細切れと化した。


「う、嘘……でしょ……?」


 しかし、細切れになったバアルゼブブは一瞬の内に元の姿に戻ると、何事もなかったかの様に天幕から出ていく。余裕を見せ付ける様に、片手を上げて手を振りながら。


 ──ガイアスの呆気にとられた声だけが天幕の中に響いていた。

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