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月の華  作者: 桜華
第四章 七大罪篇其ノ壱 暴食
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ガーランド様はエルフでした!

そろそろバアルゼブブ編も終わらせなければ……!

 

「洗うのはいいけど……ガーランド様に会う時間まで乾かないよね。どうしよぉ……」


 体を拭き終わった僕は、自分が寝ているベッドの上に脱いで置いたフェンリルコートとドラゴンローブを見つめ、腕を組んで呟く。自分で言うのもアレだけど、腕を組んでも胸は小さい為まるで強調されない。ほっといて欲しい。


 …………。


 ……ガーランド様との兜越しの初顔合わせを済ました僕達は、ギルドに向かったドナルドさんとアリエスさんと途中で別れ、無人となった宿『長閑な田舎亭』へと戻ってきた。

 ガーランド様がいる軍の施設に鐘二つ後……およそ二時間後に向かう約束をした訳だけど、その前に失礼のない様に体を拭いたりする為だ。ガーランド様は将軍って偉い人なんだから、体が臭いまま会ったらやっぱり失礼になる。


 そうして宿に戻ってきた訳だけど、フェンリルコートやドラゴンローブの匂いを嗅いだら、ガルバが指摘した様に臭い事が判明した。臭い匂いが何の匂いかは恥ずかしいので言わない。……悔しい事にアリオクの匂いは消えていた。

 本来ならば、人間形態でも僕の嗅覚は犬並みに利く。しかし今回、セイル村の家畜達の糞尿やそれを使って作る肥料の匂いが強烈な為に嗅覚が麻痺して、自分の体が臭い事にさえ気付かなかったのだ。


 そんなこんなで、とりあえず体は綺麗に拭き終わったんだけど、肝心の着る物の洗濯が間に合わない。どう頑張っても乾かないのだ。


 ガーランド様に会うのが明日ならば良かったんだけど、会うのは二時間後だ。着る物が無いと、僕は会う約束をすっぽかす事になってしまう。裸のまま会う訳にもいかないし、いくら村人がいないとは言え裸で村の中を出歩くなんてどんな痴女だという話だ。


 着替えくらい持ってないのかと言われそうだけど、人間形態の僕は非常に非力な為、背嚢の中には夜営に使うテントや体を拭く布、それと薬草やアクアストーンとヒートストーン以外は何も入れていない。

 だからこそ、僕は部屋の中で体を拭いて裸のままで悩んでいるのだ。


「臭いから洗うのは確定として……わたしの着替えを貸しても良いけど、ルウちゃんじゃわたしの服は着られないもんねぇ」


 臭いって!?


「……アニーさん。うん、その気持ちだけ受け取るよ。ライムが戻ってきたら着替えを貸してくれるか聞こうと思ったけど、確かライムも着替えは一着しか持ってなかったはずだから無理だよね……はぁ〜〜〜。……臭いって言われたからこのまま着るのは嫌だし、とにかく洗っちゃおう」


 部屋に備え付けてある宿からお湯を用意してもらう為の木桶に、自前のアクアストーンで水を注ぎフェンリルコートとドラゴンローブを順に洗っていく。もちろん全裸のままである。部屋にはアニーさん以外居ないし、ライムが戻ってきても同じ女性だから見られても問題ない。

 それはともかく、何度も何度もアクアストーンで水を注いで洗っては匂いを確認し、完全に匂いが無くなるまで洗濯を続けた。

 ちなみに汚れた排水は、部屋に備え付けてあるトイレの脇に専用の排水溝が設けられているからそこに流している。決して窓から外に捨てるなんて事はないから安心して欲しい。


 まあ排水はいいとして、しかしこの宿、お風呂がないから体を拭いてくれっていうのは仕方ないとしても、バブルストーンも無いなんて信じられない!

 お陰で洗濯が終わるまで一時間も掛かっちゃったじゃないか!


 ──リィーーンゴォーーン……リーンゴーン……


 ……あ、一つ目の鐘が鳴ってる。本当に一時間が経過してた。

 セイル村で唯一時刻を告げる鐘楼から微かに鐘の音が響いている。

 本格的に拙い。着る物がないからって、濡れたままのドラゴンローブなどを身に付けると生乾きの匂いが付いてしまう恐れがあるから身に付けたくない。しかし、背に腹は変えられない。濡れたまま身に付けるしかないか……


 そう悩んでいると、僕が洗濯中どこかに行っていたアニーさんが部屋へと戻ってきた。手には白い布の様な物を持ち、そして口を開く。


「ルウちゃん! これ見て! 今回の件で亡くなった宿の人には申し訳ないけど、ルウちゃんが着られる服が見付かったからこれを着れば大丈夫よ!」

「ホントに!? ありがとう、アニーさ〜ん!!」


 僕が洗濯に集中している中、何とアニーさんは宿の女将さんの娘さんの物と思われる服を見付けてきてくれた。僕はその服がどんな服かを確認せずに受け取る。この際だ、オシャレなんてものは気にしない。着る事さえ出来れば問題ないだろう。


 そして、僕はアニーさんから受け取った服を広げて見てみる。


「こ、これって……?」

「……これしか見付からなかったのよ。ルウちゃんが着られるサイズは……」

「し、下着は? これを着るならさすがに下着は必要だと僕は思うんだけど……?」

「それがね? ルウちゃんは知らないから改めて言うけど、この宿の子供はね……男の子だったの。でも、女将さんは女の子が欲しかったらしくて頑張ってたみたいだけど、女の子が産まれる前にこんな事になっちゃったじゃない? つまり、いずれ産まれてくる女の子の為に服だけ用意してたみたいなのよ。だからルウちゃんが付ける下着は無かったの……ごめんね?」

「あ、あはは……。で、でも、この際仕方ないよね。うん、捲れなければ見えないんだし、我慢するよ僕……」


 アニーさんが見付けてきてくれた服は、初夏に着るにはもってこいなノースリーブの白いワンピースだった。それも、膝上丈で生地が薄い為に肌が薄ら透けて見える様な眩しい白のワンピースである。

 確かに何も着ないよりはマシだけど、光の加減で透けて見えるかもしれないし、水に濡れれば間違いなく見えてしまうだろう。

 それに、ドラゴンローブの様に足首まで隠れないので、ちょっとの風で捲れて大事な所が丸見えになってしまう。正直に言えば、恥ずかしくて着たくはない。

 しかし、僕の言葉の通りこの際は仕方ない。光の加減は無理だけど、風に注意して水に濡れない様に気を付ければ良いだけだ。


 ともあれ、僕はアニーさんが見付けてくれたワンピースを身に付けた。しかし全体的にフワッとしてるので幼児っぽい。

 なので、長布をいくつか使って帯として使い、腰の後ろでリボン結びにする。うん、何とか見られる様になったかな?

 ちなみにアニーさんは、さっきとは色違いの黄色のノースリーブのシャツに同じ黄色のパンツルックに着替えている。さっきまでは灰色だったから、少しだけオシャレに見えた。ズルい。

 あ、ジャッシュさんとお揃いの青の軽鎧は今回は付けないそうだ。まぁ戦いに行く訳じゃないからね、納得。


「あ、ルウ、どうしたのその服? って言うか、そんな着替えがあったんだ。それならセイル村に来る途中でいつものローブとか洗えば良かったのに。ルウ、結構匂ってたよ? ライムだって分かったんだから、たぶんアニーさんやジャッシュさん、それにガルバだって気付いてたと思うよ?」


 !?


「それに、どうしてルウもアニーさんも着替えてるの? この後何かあったっけ?」


 透けて見えそうな危ないワンピースを僕が着たタイミングで、ライムが部屋に戻ってきた。しかも部屋に入って早々、そんな事を()かしやがります。僕、どうすれば良いですか?

 え? 諦めろって? はい、分かってます……着替えが無いのも、フェンリルコートやドラゴンローブが臭いのも僕が悪かったです、ごめんなさい。


 さて、そんな冗談はさておき、僕はライムに第三守護軍のガーランド様と会った経緯を話し、そしてこの後会う約束をした事を伝えた。

 ライムも今回の件についての当事者なので、もちろんガーランド様の所に連れていくつもりだ。


「わ、分かった……! それじゃすぐに体を拭いて着替えなきゃね!」


 僕の話を聞いたライムは、正にその言葉通りにすぐに体を拭き、そして自前の着替えを身に付けた。奇しくもライムが着替えた服は、僕と同じノースリーブのワンピースだった。色は違うけどね。

 ライムが着たワンピースは、普段ライムが依頼の時に身に付けている軽鎧と同じ黒っぽいものだ。

 しかし、僕が着たワンピースが全体的にフワッとしてるのに対して、ライムの黒のワンピースは体に密着する様なタイトなワンピースだ。つまりボディコンワンピースである。腰を帯で結ぶ必要のないタイプだね。

 僕の眷属になってスリムになったライムに凄く似合っている。しかも、僕と違って大人っぽく見えるし、少しエロい。


「ライムも着替え終わったし、そろそろ行こうよルウ!」

「うん、ソウダネ……」


 再び襲い来る謎の敗北感に打ちのめされながらも、僕達は泊まっている部屋の『羊の間』から出る。


「あら? ガルバ君はシャツにパンツルックで爽やかイケメン風に着替えたけど、ジャッシュ……あんたは着替えなかったの? 臭いと失礼よ?」


 僕達が部屋を出ると既にガルバとジャッシュさんは部屋の外にいて、どうやら僕達の事を待っていたみたいだった。ガルバは白で統一した上下を着ているけど、ジャッシュさんはさっきと変わっていない。

 そんなジャッシュさんに、アニーさんは臭いと指摘している。


「あ? 俺らは冒険者だぜ? それに第三守護軍だって騎士団だ、汗臭いのなんて気にしねぇだろ」

「それはそうだけど……」

「私はジャッシュさんに着替える様に促したんですが、頑なに断られたので仕方なく……」

「うるせぇ! 誰とは言わねぇが、小便くせぇよりはマシだぜ!」


 ッ!?!?


 僕、そんなに臭かったですか。……ま、負けるもんか!


「と、とにかく行こうよ! 匂いはともかくとして、遅れるのはやっぱり拙いと思うし」

「そうね、うん、ルウちゃんの言う通りね。早く行きましょ! きっとドナルドさんとアリエスは既に向かってるだろうし」


 匂い云々はともあれ、僕の言葉をアニーさんが後押しし、僕達は宿を出てセイル村の東の外れにある軍の施設へと向かった。


「所でライム。その…………変身する時漏らさなくなったの?」


 道中、僕はそれを小声で訊ねた。人に聞かれたら恥ずかしいけど、やっぱり気になるからね。


「うん、もっちろんよ! 痛いのはまだ慣れないけど、漏らす事はなくなったよ! ライム、凄いでしょ? ルウは眷属の宗主なんだから褒めてもいいよ?」

「ッ!? そ、そうなんだ……漏らさなく……へ、へぇ、あぁそう……うん、ライムは凄いね……偉いよ……」

「えへへ♪」


 ……聞かなきゃ良かった。

 しかし、ライムも変身の弊害を克服しつつあるのか。母様もあっという間に漏らさなくなったし、ライムはそれを上回る早さで漏らさなくなった。正直凄いと思う。

 僕だって何回かはチャレンジした。したけども、無理だった。

 今回の件で初めは漏らさなかったけど、その後は何度も漏らしている。何が漏らさない為の鍵なのかを探る必要があるね。……悔しいけどライムに聞いてみるか。


「ね、ねぇライム……変身の時に漏らさないコツってあるの?」


 小声でライムに訊ねる。そんな事を聞く僕の顔は赤面してる事だろう。熱を感じる。


「そんなの決まってるじゃない! ひたすらお股に力を込めて我慢するのよ! それと、絶対に漏らさないって意思ね! ライムはそれを心掛けながら力を込めて我慢したら漏らさなくなったよ!」

「あ、あぁそうなんだ……あはは」


 …………。


 ……僕には無理そうだ。あの激痛の最中、そんな事を気にして我慢なんて出来ない。と言うか、力が抜ける程の激痛なのに、どうして我慢出来るのかが不思議だ。

 もしかして……眷属の宗主である僕と、その眷属であるライム達は痛みのレベルが違うのだろうか。

 だとしても、それを確認する術はないんだから考えても仕方ないよね。


「お前らくっちゃべってねぇで前を見ろ。着いたぞ」


 ジャッシュさんの言葉に、僕とライムは慌てて前を向く。

 すると目の前には、セイル村には似つかわしくない大きな貴族の館があった。本当に軍の施設なのかと目を疑うが、見れば広大な敷地の柵は鉄槍の様な柵であり、その敷地には第三守護軍の人数と同じくらいの軍馬の姿も見えた。

 奥の方に目を向ければ厩舎らしき建物があるので、やはり軍の施設として利用してるのだろう。


 ちなみに、鉄槍柵の土台は煉瓦となっていて、それは門構えにも使われている。その門を見れば、煉瓦で四角い支柱が二つ造られていて、その支柱の間に、竜に対峙する騎士の紋章の意匠が施された鉄門が設置されていた。


 敷地から目を離し、今度は館の方を見てみる。うん、見るまでもなく洋館だ。

 中世ヨーロッパの大貴族が住んでいた様な城にも似た洋館である。バロック建築って言うんだっけ? 前世での勉強不足で詳しくは分からないけど、とにかく豪奢な建物だ。


 施設の感想はともあれ、施設へと入る大きな鉄門の前には既にドナルドさんとアリエスさんが僕達を待っていて、更にもう一人の人物の姿もそこにはあった。


 そしてその人物は美しい女性で、耳が長い事からエルフの女性だと思われる。ハーフエルフのガルバの耳よりも長いから間違いないだろう。

 身長は170セルトとこの世界の女性としては平均的で、スタイルはエルフ特有のスレンダーな体型だ。でも、胸はそれなりにある。

 髪の毛は輝く様なプラチナブロンドをしていて、顔つきは柔和である。

 服装を見てみると、青を基調とした騎士服に身を包んでいて、左胸の所に竜に対峙する騎士の紋章が刺繍されていた。

 つまりこの女性は第三守護軍の騎士の誰かなのだろうと推測される。


 そんなエルフの女騎士が僕を見るなり声を掛けてきた。


「あ、やっと来たなルウちゃん! さっきは暑苦しい鎧だったから分からないだろうが、あたいがガーランドだ。改めてよろしくな♪」


 何と、ガーランド様は生粋のエルフ美女だった。

お読み下さり、ありがとうございます。

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